《2》座談会/条例の施行から3年を経過して 出石 稔 関東学院大学学長補佐・法学部教授横浜市建築物等における不良な生活環境の解消及び発生の防止に関する審議会会長 田中 博章 健康福祉局長 福山 一男 資源循環局長 寺岡 洋志 西区長 進行 飛田 千絵 健康福祉局福祉保健課人材育成担当課長 齊藤 信久 資源循環局業務課計画係長 ■3年間を振り返って ─ 本日はいわゆるごみ屋敷条例の制定から3年間を振り返りながら、今後の課題などについてもお話をいただきたいと思っています。まずこれまでを振り返っての所感をお願いします。 【田中】私は一昨年3月まではこども青少年局におりまして、児童虐待等を担当していました。子どもの分野でもこういうごみ屋敷の状態は起こり得ることではありましたが、やはり顕著な問題をそれほど多く扱っていたわけではありませんので、条例制定当時は少し傍観者的な感じでいました。そして、そのときの直感としては、この問題は縦割りの中ですごく大変だろうなと思っていました。私も区のサービス課を経験していますが、このような課題をなかなか手をつないでやろうという話になりにくいところがあります。しかし、条例の制定は前任の鯉渕局長をはじめ、区(旭区)と資源循環局と健康福祉局のトップの合意から始まっています。どうしても所管のはっきりしないことを始めていくときは、横のつなぎを誰がやるのかといったことが問題になりますが、トップが手を組んで始めたという部分が非常に大きかったのだろうと引き継いだ後もそう感じています。  また、区においても、一つの課のみに限定するのではなく、区長の下で、区全体の課題として取り組んでいくという位置付けにしたことも大きかったと思います。3年が経って、全体のごみ屋敷の件数も減ってきていますが、その中で、区によって取組の特色が出てきていると思いますし、横の連携をとって課題意識もしっかり共有し、工夫をしながらバージョンアップを図っている区もあります。区長のリーダーシップと言うのは簡単ですが、数字としてなかなか見えにくい、非常に大変な取組であって、その業務を担っている職員に目を向けるということが大切だと感じています。引き継いでからの2年で、いろいろと話を聞く中でそういう感想を持っています。 【福山】条例の施行に向けた準備は主に政策調整部が担当していましたが、当時、私は収集事務所を所管する家庭系対策部長という立場でしたので、議論の内容はつぶさに聞いていました。  これまでの実績としては、昨年の9月までに127件のごみ屋敷が解消されましたが、そのうちの約半数の61件が、資源循環局が主体的な役割を果たしている排出支援によるものでした。当初は、外観上だけですが、既にいくつかの区の堆積事例を知っていたため、漠然とそういう物を片付けるのだろうと思っていましたが、各区の収集事務所で排出支援が実際に行われると、外から見えない室内にも多くの堆積物があることに驚いたことを覚えています。宅内に入ってみたら古紙が山積みで床が抜けてしまっているとか、水道管が破裂したままであったりとか、お子さんがその中で一緒に住んでいるとか、大変な事例がいろいろとあるなと思いました。排出支援を行う際に、堆積者の方から近隣に知られたくないので、収集車は見えないところに停めてくださいと言われたこともあります。また、ある収集事務所では、搬出したものを車に積んでいると、堆積者の方が来て、「これは私のだ!」と言って、収集車の荷台に乗って抵抗され、そのままその日の作業が終わってしまったということもありました。いわゆるごみ屋敷を解決する大変さとは、こういうことなのかと、私たちにとってはすごく印象的な出来事でした。  こうした事例を見ていく中で、排出支援の処理に伴う費用について、減免の取扱いがないと堆積者に対する排出支援の調整が進まないと条例検討当時に言われていたことが、今になって分かってきたように思います。  いわゆるごみ屋敷条例は、堆積されてしまった方に寄り添うことがポイントになっていますが、その具体的な取組について苦労されているのが区役所の方ですので、堆積物の排出の機会が訪れたときにすぐに対応ができるように、区としっかり連携をしていきたいと考えています。  先ほど田中局長から区の取組の話もありましたが、区によっては収集事務所の職員を呼んでくれて研修をしてくれるというようなところもありますし、排出支援を実施するに当たって、堆積者が安心するために、事前に収集を担当する職員を堆積者に引き合わせてくれるようなこともあります。いろいろと収集事務所長から聞いていますが、この3年間で区と局の連携、区と事務所の連携も相当深まってきたなと思っています。 ─ 出石先生は、自治体における政策法務などを研究され、ごみ屋敷条例のある複数の自治体において委員も務めていらっしゃいますが、所感といったところはいかがでしょうか。 【出石】私は今、横浜をはじめ4つの自治体のごみ屋敷の審議会で、会長や副会長を歴任しています。  まず、ごみ屋敷条例ができ始めたことについて、政策法務の観点から少しお話をしますと、ごみ屋敷問題は昔からあったことかもしれませんが、空き家と少し似ていて、これが顕在化してきたのは、やはり近隣関係の喪失という面が影響しているのではないでしょうか。昔は近隣関係が成り立っていたので、ごみ屋敷はなかなかできないし、なりそうになったら協力し合っていたところもあると思うのですが、それができなくなってきて、周りは苦情を言ってくるし、本人はいろいろな事情があってごみが溜まっていく。結局は共助では解決できない問題になってきてしまったので、行政が手を出さざるを得なくなってきたという背景があるのだろうと思います。では、どうするかということで政策法務での対応ということになってくるのですが、横浜市をはじめ多くの自治体の条例には、行政処分という強制力の部分と支援という寄り添いの部分、その両面が組み込まれています。その経緯は横浜市よりも前に制定している京都市などが特に支援を強化してきたということがあって、おそらく強制力を発揮するだけでは解決しないということがあったと思います。  それから、福山局長からも話があったように、横浜市では数字上も明らかにごみ屋敷が解消してきている点は、大変評価が高いと思います。私も非常にすばらしいと思っています。なぜこうした成果を上げられたのだろうと考えたときには、田中局長が言われた、局横断でなおかつ区が前面に立って取り組んでいるということがポイントではないでしょうか。まさに支援による解消、排出支援が形になっているのだと思います。他方、では条例ができたらどこの自治体でも多くのことが解決しているのかというと実はそうではない。これも政策法務の話になりますが、条例はつくったら終わりではなく、制定した後にいかにそれをしっかりと運用して成果を出していくかということだと思います。そこが横浜市は非常に取組が進んでいるということです。しかし、某自治体では、あまり現場に行かないのです。それではごみ屋敷問題は解決していきません。職員は大変かもしれませんが、現場に行って原因者と話をし、指導していかなければいけないのだろうと思います。何回行ってもなかなか解消しないことももちろんありますが、その辺りは自治体によってかなり差があるようです。条例の所管、担当課も関係していると思いますが、例えばごみ処理を担当する環境分野の部署が所管で、その部署だけがやればいいではないかということになると、福祉分野の部署が手を引いてしまって逆効果になってしまう。横浜市のように福祉部局と環境部局、さらには現場の区が一緒になって取り組んでいるというのは、他にはなかなかない良い例だと思います。条例は実効性を伴わなければいけませんが、そのためにはしっかりとした運用が必要であり、横浜市では成果が上がっていると考えています。 ■区の取組から ─ 西区でも条例ができたときから大変な事例を積み重ねてきています。また、ごみ屋敷に関する研修会を開催されたりしていますが、これまでの取組の感想などはいかがでしょうか。 【寺岡】事務局の役割を担っている区の福祉保健課は、区民の皆様からの相談や各課との調整など苦労していますが、よくやってくれていると思います。そういった中で、何とかみんなができることを持ち寄ってやっていこうという空気は段々と出てきていると感じています。やはり責任職のこの問題に対する向き合い方というか、先ほど田中局長からもありましたが、課題意識を共有できるかといったところがポイントだと考えています。そこで最近、私も含めて課長以上の責任職を対象に局の方に来ていただいて研修会を開催しました。この事業の意義から今一度考えていこうと、ごみ屋敷対策の考え方をおさらいし、集中的にレクチャーをしていただきました。さらに、頑張っている職員をしっかりと見ていこうということも共有しました。また、西区の場合、資源循環局の西事務所にも大変協力をいただいており、条例上の支援だけでなく、ふれあい収集(※1)をしていただいたり、今年度中には事務所の中で職員向けの研修を行うとのことで、本当に心強く思っています。  それから、事例を一つご紹介すると、50代でまだ仕事をされていた方でしたが、室内はごみがかなり溜まっていて、お風呂も使えない状態で、近隣からはかなり厳しい苦情が寄せられるということがありました。ご本人は多少の罪悪感はあっても、「困っていない」、「これでも何とかやっていける」と言って、様々なアプローチをしても「自分でやるから」と、片付けについてなかなか同意をいただけない状況がずっと続いていました。それでも総務部の職員が訪問し名刺を渡しご本人とのつながりをつくり、担当の専門職が手紙に名刺をつけて投函したりと、粘り強く面談やメールでの連絡を続け、少しずつ関係ができ、ご本人から「ちょっと自転車の処分に困っていて」というお話が出て、「こちらでご協力できますよ」というやりとりをきっかけに一定量の排出ができました。ご本人の健康状態もかなり悪かったのですが、医療につながることもできました。担当した職員も、そうしたことで命を救うことができたという気持ちはかなり大きかったようです。条例がなかったら多分ここまではアプローチができなかっただろうと感じています。 ─ なかなかうまく区の中で連携してサポートしていくというのは難しいところだと思うのですが、いかがでしょうか。 【寺岡】高齢、障害、生活保護といった公的サービスの対象でない方で、担当課が特定されないケースの場合は、輪番制で当番を決めて担当してもらっています。会うことが難しい人もかなりいらっしゃると思いますし、その人がどういう人で、どういう状況であるのか、情報を集め、アプローチ方法を検討します。会えない方には手紙を投函するなど心配していることをメッセージとして伝えていくなど、本人に寄り添い、関係をつくり、支援を続けていると思います。  まずは最初のアセスメントが難しいのではないかと思っています。ご本人とお会いできて、これは放っておけない状態だということが分かると、様々なサービスに結びつけるような動きもしやすくなります。 【田中】こういった問題は、サービスを利用するかしないかというところが本来のとば口ではないと思うんですね。地域のニーズからサービスが必要であろうというのは後から出来上がってくるものですから、それまでの間をどうつないでいくのか、救っていくのかが私たちのやることです。出石先生がおっしゃったように、地域も崩壊していく中で、制度の狭間に落ちてしまう人に関わって救っていく。まさに条例は、そこの部分の隙間を埋めるということを制度として後押ししたところが、非常に大きい成果、意義なのだと私は思っています。  また、最初のアセスメントに誰がどう関わって入っていくのかということは非常に大きいと思います。 ■新たに認識したことや現状の課題 ─ 続いて、条例を運用していく中で、当初は想定していなかったことや新たに認識したこと、現状の課題等についてお話をいただきたいと思います。 【田中】資源循環局とは実際に事例を積み重ねることによって、お互いにどう連携していくのかなど、割と認識の共通化はできてきているように思います。実績を積み上げてきた成果、制度をより重層的にすることができてきているように思います。  課題というところでは、なかなか解決に結びつかないというケースがどうしてもあります。そういったときに、「ごみがあふれて困っている」、「何とかしてくれ」、「とにかくここを片付けなければいけない」ということだけが注目されて、それにすぐ対応しようとしても難しいというような状況がこれから増えてくるように思います。ごみを何とかしようという目標だけでは、ご本人も苦しいし、支援も行き詰ってしまいます。ご本人の思いをしっかり聞き出す、生活の様子を把握する、改善の提案をするなど、それぞれのレベルに応じた対応を目標化し、共有化してアプローチを検証することが必要であると思います。アセスメントのところとその目標化のところを専門職がきちんと協力して現場の方と共有していくことが必要ではないかと感じています。  先ほどの出石先生の様々なことが共助でできなくなってきているというところでは、ごみ屋敷に限らず、地域のいろいろな関わりがない中で、対象の方が孤立化し、深刻化していくことで問題が大きくなっていく。そのため、孤立化を防ぐということが、今の社会状況の中で非常に大きい鍵だろうと考えています。孤立してそれでよし≠ニ思っている人に関わっていくためには、相当なアプローチをしていかなければいけないと思いますし、これからどんどん難しくなっていくのかなと思います。 ─ 特に資源循環局では、せっかく片付けたのに再発してしまったというようなこともあったと思うのですが、ご苦労や何か議論したことなどはあったのでしょうか。 【福山】害虫のことや感染症のこと、エレベーターのない高層階や狭あい道路近くでの搬出などもあって、現場の職員は結構大変な作業だと話しています。そのほかにも、ごみをとるのに邪魔になってしまう樹木の剪定や屋根に上がるための工夫など、様々な事例を事務所間で共有して取り組んでいるのが実情です。片付けをしても繰り返してしまうこともあると聞いています。何度も説得している区の職員の方の苦労の方が大きいとは思いますが、事務所職員のモチベーションの維持も課題です。  先ほども区の研修のことに触れましたが、区の担当部署と収集事務所で綿密に打合せをして効率的に収集するための工夫もしていますので、経験を重ねる中で更により良いものにしていければと思っています。 ─ 解決に結びつきにくい方たちもいらっしゃるわけですが、出石先生、その点はいかがでしょうか。 【出石】先ほど、横浜市はかなりごみ屋敷が解消していてすばらしいという話をしたのですが、一方で、かなり難しいごみ屋敷も存在し、問題は継続ないしは再発しています。私はごみ屋敷条例の審議会の委員になった当初は、高齢の方が物理的にごみを出すことができない、分別ができないというパターンが多いのかなと考えていたのですが、それは横浜市でまさに取り組んでいる排出支援などであらかた対応ができていると思います。他の自治体でもそうです。ところが、当初想定していなかったかどうかは分かりませんが、実は解決の難しいごみ屋敷がどこの自治体でもいくつかあります。そして、それはどういうことかと立ち戻ってみると、条例は何を目指しているのだろうかということだと思います。それはまさに条例に書いてあるとおりなのですが、「不良な生活環境の解消」です。端的に言うと、目的は原因者、堆積者の改善ではなくごみ屋敷状態の改善です。そこは住民の目線に立つと、隣近所がごみ屋敷になっていることで多大な迷惑を被っており、何とか解消してほしいと、条例ができたので大きな期待をするわけです。それに対して福祉の視点からの対応は大変すばらしいことだけれども、当然時間もかかるし、なかなか問題が解消しないということになってくると、住民の期待に応えられているか、あるいは条例の目的がどれだけ実現できているのかについて、やはり疑問が生じてきます。そこで、今後の課題として、支援だけで解決できないようなものに対してどうしていくのか。条例には代執行の規定があるわけで、そういう強行手段をうまく使い分けていくのかということになりますが、一方で、代執行を行った自治体を見ると、代執行後に解決したかというと全く解決していません。むしろひどくなっている場合が多いのではないでしょうか。ではどうするのかは、実は私にもまだ答えはないのですが、現状の一番の課題は、多くの解消できるごみ屋敷よりも解消できないごみ屋敷、あるいは繰り返し再発するごみ屋敷で、どうしたら解決できるのか。それを今ある条例の仕組みの中で、できることはフル動員してやる。一方で、何か新たな手立てを講じていかないといけないかと、結論のほうにもつながってしまうのですが、そのような気がしています。  もう一つ気になることが職員のことです。区の職員は疲弊していないでしょうか。 【寺岡】もちろんほかの仕事もありますので、そういった事例があると結構大変だと思います。溜め込むタイプの方の場合などはなかなか解消が難しいことが多いようですし、近隣の方たちにも一般論でいいので分かりやすく説明できるとよいのですが、そのような状態になるメカニズムの説明もなかなか難しいようです。堆積状態のみに着目をしてその改善ということを言われると辛いですし、行政区別の件数の報告なども、数字だけで評価されてしまっては実はなかなか辛いものがありますね。 【出石】職員は頑張って成果が出るとやりがいになって、成功した事例は本人も非常に高揚するだろうし、周りにも喜ばれます。ただ、解決しないというのはある意味で徒労なわけで、地域からはむしろ責められるわけです。職員に対して、こういうことをしっかりやれているということをみんなに認識してもらうことも大事なことだと思います。 【田中】横浜市は社会福祉職も採用していますし、モチベーションのベースはあると思いますが、やはりどの業務においても困難ケースはあります。ごみ屋敷に限らず、例えば生活保護でも精神障害などでも対応の非常に難しい方たちがいます。そういう意味では、基本的な力量のベースは蓄えられているとは思いますが、どうしても制度適用に何も結びつかず、解決に結びつかないということになってくると、どうしようもない無力感だけではなく、追い詰められていくと「じゃあ、何をやればいいんですか」といったことになりかねない。そこは、チームとして進めていく上で、そういったところをどう共有しながらアプローチの仕方を考えていくのか、次のステップを共有して行えるようにしていくことが非常に大きい課題だろうと思います。 ─ 大きい目標があるとしても、小さい目標を少しずつクリアしていく。それを共有化しながら一つずつステップを上がっていくというところをみんなが認識しながら、「少しは進んでいるよね」というところを支え合っていくというような形が、モチベーションを保つことにつながっていくということでしょうか。  それから、地域から孤立しているという中で、地域福祉というところでは、実際のところ、そうした方たちを支えていくのは行政だけではできないと考えられますが、地域への働きかけみたいなところではどのようなことが考えられるでしょうか。 【寺岡】地域の資源としては地域ケアプラザなどの存在は大きいと思いますが、地域の様々なネットワークの中で必要な情報の収集や共有ができて、早めに探知ができるともう少し穏やかな方法がとれるのかもしれないなといったところはあります。 【出石】おそらくそこがポイントのような気がします。例えば親が亡くなったなど溜め込みを始める何らかのきっかけがあるように思います。そのきっかけを見つけるのは大変難しいと思いますが、早期に探知するということであれば、やはり地域の方ということになるのではないでしょうか。 【福山】資源循環局の収集事務所では、500台くらいの車が収集で市内を回っていますので、室内を見ることはもちろんできませんが、条例を契機として早期に対応していこうという姿勢で現場の職員も臨んでくれています。堆積物などで気になることがあれば区にも話をつなげることを行っています。資源循環局では、一人暮らしの高齢者や障害者の方など、集積場所までのごみ出しが困難な場合に、ご家庭の玄関先からごみを回収するという「ふれあい収集」を行っています。排出支援により解消された方に「ふれあい収集」を活用いただき、ごみ出し支援をしていくような再発防止の取組も進めていければと考えています。 【田中】早期発見の話は、これから先の福祉の共通の課題になるのではないかと思っています。声を上げて相談できる人に対する相談体制は、おおむね地域ケアプラザ、区役所を含めてできているので、声を上げられない人に対してのアプローチとして、アウトリーチが最低限の要件になってくるだろうと思います。見つけたからといって家の中に入れるわけではありませんが、「何かひっかかるね」というところから関わりを持っていかないと、おそらく無理なのだろうと思います。先ほどのごみ収集の際に気づいたことをつなげてもらうということも、アウトリーチの一つだと思います。 ■今後に向けて ─ 最後に、繰り返しになる部分もあると思いますが、今後の方向性や期待することについて、コメントをいただきたいと思います。出石先生からお願いします。 【出石】私は、周辺住民の方の環境を守っていくことが大事だという主張を先ほどもしているのですが、お話を伺っていて、そうは言ってもなるほどと改めて思ったのは、孤立化の問題について排除の論になってはいけないということです。これは大事なことで、近年で言うとヘイトスピーチみたいな話と近いところがあるのかもしれませんが、そこはすごく気になります。近隣住民の方の環境を守っていくとともに、こうした原因者、堆積者、それぞれに様々な状況がある中で対応していく困難はありますが、そこにどう対応していくかということが次のポイントになると思います。  別の視点で感じているのは、法制化という考え方はないのだろうかということです。国での話になりますが、先ほどから出ているような、例えば室内への堆積の問題があります。私は、室内への立入調査は条例に基づきできると思っているのですが、実務的には法制化されないと難しいと考えられている問題と言えます。また、溜め込み症などのように明確に病気として位置付けられるならば、また異なった対応があると思うのですが、むしろ自治体で条例を運用していって、そういう考え方を国に働きかけるという方向性はないのだろうかと考えたりもします。空き家問題も結果的には自治体が条例の制定を進める流れの中で議員立法で法律化されました。代執行まで行っているところはまだ少ないですが、取組は全国で進んでいます。ごみ屋敷は都市部の自治体ではかなり顕著になっている問題ですから、法制化の働きかけをしてみるというのもあると思います。それを一つ提起した上で、そうは言っても実際には条例で運用していかなければなりませんので、住民の福祉という観点と原因者への丁寧な対応を使い分けて、うまく取り組んでいただきたいところです。 【寺岡】区にいると自分の区の事例しか詳しくは分からないのですが、今日様々なことを伺っていると、職員にとって大変な状況がこれからも想定されるなと思いました。そういった中で、冒頭、田中局長から話のあった、動いている人、担当している人にどう眼差しを向けるかといったところについては、やはり励ましていかなければいけない部分があるのだろうなと思いました。  それから、人への支援が大事な事業ですので、18区ごとの実績とか、そういう数字にはあまり囚われなくていいよということを職員には常々言っています。また、先ほどの地域のお話、生活上の不安定な状態をどうやって察知していくのかということですが、仕組みというと言葉は簡単なのですが、地域の中で実現していくということは区役所にとっても大きな課題なのだろうと思います。その辺りは職員とも話をしてみたいと思います。 【福山】区でも相当片付けていただいているので、廃棄物処理チームとしてのノウハウをお伝えできればと思いますし、研修等で区からいろいろと教えていただくことによって、職員の日々の見守りの意識も更に高まります。今後も区と連携していきたいと思います。また、先ほども申し上げましたが、再発防止の取組として、ふれあい収集の活用も進めていきたいと思います。 【田中】ここまで区と局、資源循環局との体制ができてきて取り組んでいる中で、出石先生もおっしゃったように、条例の運用をどう続けていくかということは、常に私たちが課題意識を持って、課題を見つけて解決していくということを続けていかないといけないと思っています。今日のお話を含めて、これからどのようにブラッシュアップしていくのかを考えていかなければいけないと思っています。先ほども少しお話ししましたが、福祉のアプローチとしては本来的なアプローチなのですが、どうしても制度がないと「何をすればいいんですか」ということになってしまいがちです。区役所の現状で言うと、制度適用と事務的作業が圧倒的に多くなっています。こういった手のかかることに取り組んでいかなくてはいけない状況にあることを私たちもよく認識し、その上で、職員、福祉職、専門職としての質を上げていくということにもアプローチをしていきたいと思います。事例を積み重ねていくことによって、全体としてどういう傾向があるのか、しっかり積み上げていくことで、先ほど寺岡区長が言われたような発生のメカニズムみたいなものであるとかを探究していく。なかなか難しいところはありますが、代執行をしても、排出支援をしても元に戻ってしまう人がいる。元に戻らないためのアプローチというのは一体何を必要としているのかというところは、まだまだ事例を積み重ねていくことで追究しないと答えが出てこないところだと思います。何回も排出支援なり代執行を繰り返すということでは、条例の本来の意味での解決には結びついていかないでしょうから、そういった視点を持ち続けていかなければいけないと思います。それはおそらく法整備がされたとしても、そこに人がいるということでいくと、そのことはやはり避けて通れない課題なのだろうと思います。 ─ 本日はありがとうございました。 ※1 ふれあい収集  ご家族や身近な人の協力が困難で自ら家庭ごみを集積場所まで持ち出すことができない一人暮らしの高齢者や障害のある方などを対象に、自宅の敷地内や玄関先から直接ごみの収集を行う資源循環局の取組