≪4≫他都市にみるデータ活用の取組事例 <1>神戸市におけるデータ活用の取組 中川 雅也 神戸市企画調整局創造都市推進部ICT創造・事業調整担当 1 神戸市のデータ活用の取組 (1)概要  平成28年12月、情報の円滑な流通の確保、行政と民間双方のデータ活用により得られた情報を根拠とする施策の企画立案等、官民連携したデータ活用を理念とした「官民データ活用推進基本法」が施行されました。神戸市でも「神戸創生戦略」「神戸2020ビジョン」に基づき、オープンデータの蓄積・公開を推進し、GIS(地理情報システム)やICTを活用した市民・事業者との協働と参画により、地域課題を解決するオープンガバメント社会の構築に取組んでいます。オープンガバメント社会では、市民と行政がデータをもとに対話し、施策を決定し、協働して市民サービスを作り上げることを理想とし、その実現のために「IT活用人材の育成」「データを活用する環境」「市民・産学官との連携」の3つを柱に取組を進めています。 (2)データ活用のステップ  理想的な「データ活用」を実現するためのステップとして以下の3つを設定しました。  STEP1では、データ活用の意義を職員に理解させ、個別業務レベルで必要な情報をいつでも容易に活用できる状態を目指します。「データアカデミー」などのデータ活用研修を通したデータリテラシーの向上が必要です。STEP2では、個別業務で作成したデータを全庁横断的に活用できる状態を目指します。全庁共用型GIS等のデータ共有のための仕組みづくりが必要です。STEP3では、データの作成、共有、活用、分析を一貫した業務フローに落とし込み、他部署や民間企業のデータを複合的に活用した多角的な分析を行うことを目指します。神戸市においても、民間企業との連携や業務フロー分析が必要になりつつあります。 2データアカデミー・GISアカデミーによる人材育成  平成28年度より、データを活用して市民サービスや業務効率の向上、地域課題の解決に取り組む研修「神戸市データアカデミー」を開催しています。  まず、全課長級職員約700名を対象に、データ活用に関する重要性やオープンデータ活用のポイントについてのセミナーを実施しました。次に現場の実務担当者である係長級や担当者向けのワークショップ・セミナーでは、データ分析に必要となる具体的なアプローチや手法に加えて、実践する上での注意点や工夫点などを習得できる講義の実施やPC初級者でも取り組める内容も盛り込むなど、幅広いITリテラシーに対応できるレベル別の内容としています。また、地理情報をメインとしたデータ利活用方法の習得やGISを活用した業務改善の検討を行うGISアカデミーを3か月に1回程度行っています。データを可視化するなどのGISの基礎知識の習得だけでなく、地図で伝えるべき主題の設定方法やGISを用いた業務フローの改善なども盛り込んでいます。これらのアカデミーを通じて、データやGISを業務で活用したいという相談も増えています。 (1)ワークショップ事例(学童保育)放課後児童クラブの所管部署では、学童保育の利用状況を実際の利用申請に基づいて把握していたため、利用者の増加への対応が後手に回りがちでした。そこで、オープンデータとして公開している住民基本台帳登録人口の情報を利用し、小学校区ごとの年齢別人口データを地図上に可視化することで翌年度に利用者が増えそうな地域の特定を行いました。また、これまで地図に手書きで色を塗って利用者の多い地域を可視化していましたが、併せてGISに移行することで、更新や課内での共有が容易になりました。 (2)相談事例(保育施設)「保育所に空きがあるか」「何時から何時まで開いているか」「自宅からの距離はどのくらいか」など、保育所を探す際に必要な情報を誰にでも分かりやすく提供するためGISを活用したいという、区役所からの要望に応じて「保育施設検索マップ」を作成しました。導入済みの市民公開型G I S(ArcgisOnline)の標準機能を活用したため、追加費用なしで構築できました。(図1) 3 データ活用の環境づくり (1)オープンデータポータル  平成28年4月よりCKAN(オープンソースのデータポータルソフト)をベースとしたオープンデータポータルを公開し、市が保有する阪神・淡路大震災の記録写真、マラソン走行データなど147データセット、811ファイル(平成29年12月末時点)を掲載しています。サイトでは、「子育て・教育」「交通」など分野別やキーワード別に検索できるほか、オープンデータを活用した参考事例も掲載しており、活用推進を図っています。  また、オープンデータの公開状況やアクセス数等は、グラフ化してダッシュボードとして公開しており、各局の進捗状況を一覧化し、取組の推進を図っています。(図2) (2)GIS  神戸市では、平成27年度より、庁内で各部局が保有する地理情報を部局横断的に共有し政策検討に活用するための庁内共用型GISと、地理情報を分かりやすく市民・事業者等に提供する市民公開型GISの二つを運用しています。単なる地図上での視覚化ツールとしてではなく、データ作成、「位置」に基づいた情報の整理統合及び検索・分析、情報の共有と視覚的な伝達など、データに基づいた意思決定を支援するための基盤として活用を推進しています。 (3)データ基盤システム  平成29年4月、本市は、イベント集約サイト「KOBEToday」(図3(左))を公開し、市が開催するイベント情報の提供を開始した。従来の神戸市ホームページのイベントページや広報紙に比べ、写真や開催場所の地図、詳細な内容など多くの情報を提供し、閲覧数も約6、000ページ/月から約4万7、000ページ /月(平成29年12月)へと増加しました。情報の管理・入力、KOBE Today への情報連携のためにデータ基盤システムを構築し、イベントを開催する所属職員がウェブ上で直接入力することができるようにしました。イベント情報は、自動的に集約されほぼリアルタイムに更新が行われるため、常にニーズの高い情報を提供できます。また、掲載情報はAPI(Application ProgramingInterface)を通じて、スマホアプリやウェブサイトなどの開発者向けに自動的に取得しやすい方式でオープンデータとして提供しています。今後、イベント情報だけでなく、施設情報などの提供を検討しています。  また、このAPIを通して市民公開型GISと連携し、イベント情報マップ(図3(右))も併せて提供しています。データ基盤では、取得したい情報の条件をURLで送ることでデータを取得できる仕組み(SPARQL エンドポイント)を実装しているため、市民公開型GIS(Arcgis Online)のWEB上のデータを自動的に読み込んで地図上に表示する機能を利用し、マップが自動的に更新されるようにしています。このように、データの出力と入力の標準化により、開発コストや工数を抑えてサービス提供を行っています。 (4)ウェブサイトの利用規約  データを活用する環境づくりにおいては、システム面だけではなくルール面での対応も必要となります。  神戸市のウェブサイト利用規約は政府標準利用規約をベースに、「掲載されている情報は原則すべてオープンデータとする」としています。オープンデータとして提供する際のリスクは、行政がこれまでのようにウェブサイトでデータを公開する場合と大差がなく、むしろ責任範囲を明確化することでリスクを下げる部分もあることを法律の専門家やデータ利活用の専門家などの有識者による「神戸市オープンデータ推進会議」での議論を踏まえて規約改定に踏み切りました。このように、リスク判断など、オープンデータ化する際に検討すべき項目を減らすことで、職員への負荷の低減を図っています。 4 産学官の連携 (1)先進企業との連携  企業と連携したデータ活用の取組も進めています。  平成28年4月、NTTドコモと「ICT及びデータ活用に関する事業連携協定」を締結し、BLEタグ(発信器)からの情報を市民や協力事業者のスマホアプリで検知し、家族が子どもの位置情報をスマートフォンで確認する「神戸市ドコモ見守りサービスの実証事業」を行い、それを踏またサービスをNTTドコモが開始しました。  また、平成30年4月にはヤフー株式会社と「データドリブンな市政課題解決に関する事業連携協定」を締結し、都心・三宮の再整備の効果の可視化や救急車稼働状況の現状分析など、神戸市が持つオープンデータや統計データと、ヤフー株式会社が持つ検索データなどのマルチビッグデータを掛け合わせ、新たな市政課題の発見・分析を協働して行う予定です。 (2)震災ワークショップ  兵庫県立大学の協力のもと、GISを活用した「震災伝承マップ」(図4(右))を作成する取組を開始しました。平成30年1 月には、震災経験者が保有する震災に関する映像・画像・当時の資料等に関するエピソードを同大学生が聞き、テキストにまとめて本市のGIS上にマッピングして公開するなど、ヒアリングやデータ入力を通して阪神・淡路大震災の神戸の被害・復興状況の過程や教訓を学ぶとともに、後世の人が自ら学べる仕組みを作るワークショップを行いました。(図4(左))また、本市の持つ仮設住宅の資料をマップ化する作業も同大学院生が並行して行いました。学生や大学と行政が協働し、市民(震災経験者)の持つデータと行政の持つデータを活用し、同じGISプラットフォーム上にともに作り上げていく新しい形の協働の事例となりました。 (3)総務省実証  総務省の「地域におけるビッグデータ利活用の推進に関する実証事業」に協力し、高齢者福祉の分野において、GIS及びデータ利活用に係るスキル向上のためのワークショップを実施しています。  具体的には、高齢者の孤立防止のために地域や社会とのつながりづくりができる「居場所づくり」の取組において、社会福祉協議会の職員やあんしんすこやかセンター(高齢者の介護や見守りなどに関する総合相談窓口)の職員など、業務に関係する民間の方と市職員を交えて、個人情報にも配慮しつつ、データ活用を前提とした業務フローの改善を行います。 5 今後の展望  データ活用のためには、職員だけではなく民間企業や市民を含めた「人」との連携、データを共有し活用するための「情報システム」、そして何よりそれらを適切に管理運営する「仕組み」を考えることが重要です。前述の震災ワークショップでは、震災経験者や学生などの「人」とGISという「情報システム」を結び付け、震災伝承マップを市民と行政がともに作り上げる事例ができましたが、こういった取組を「仕組み」化して、継続・横展開していくことで、行政に市民が参画して課題解決することが当然な社会、オープンガバメント社会の実現につながるのではないでしょうか。