≪3≫横浜市の取組 <5>港北区におけるデータ活用の取組 大屋 正信 港北区区政推進課企画調整係長 亀田 裕佑 港北区区政推進課  港北区では、区の運営方針の中で「行政情報のオープンデータ化による協働の推進」を掲げ、その取組を進めている。また、昨年3月に「横浜市官民データ活用推進基本条例」が制定されたことを踏まえ、オープンデータ化の推進に加え、大学と連携したスポーツデータの活用に関する取組を進めている。本稿では、これらの取組を紹介する。   1 大学と連携したスポーツデータ活用の取組  区内の慶應義塾大学日吉キャンパスには、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(以下、「慶應SDM」という。)があり、「システム思考」や「デザイン思考」、「マネジメント」の考え方や方法論、手法を活用した課題解決のための取組を行っている。(注1)  港北区と慶應SDMは、相互のさらなる発展に寄与することを目的として、昨年6月に連携協定を締結した。また、区内の横浜国際総合競技場では、2019年にラグビーワールドカップ、その翌年には東京2020オリンピックのサッカー競技の開催が予定されているほか、日吉キャンパスはオリンピック英国チームの事前キャンプ地となっている。  このような背景を踏まえ港北区では、慶應SDMと連携して「スポーツ×データ活用」として、スポーツをテーマとしたデータ活用の普及啓発及びラグビーワールドカップやオリンピック・パラリンピックの開催機運の醸成に取り組んでいる。    (1)区内小学校でのデータサイエンス教室の開催  区内の日吉台小学校5年生を対象に、スポーツに関するデータ(スポーツデータ)を収集・分析・考察する力を養うとともに、データを活用することの有用性を知ってもらうことを目的に、データサイエンス教室を開催した。開催にあたっては、慶應義塾大学体育会蹴球(ラグビー)部に全面的なご協力をいただいた。  教室の冒頭、慶應義塾大学蹴球部兼日本代表コーチから、屈強な外国人選手と戦うために、ラグビー日本代表がどのようにデータを駆使しているのかについて説明いただいた。その中で、ラグビー日本代表や慶應義塾大学蹴球部が、選手間の位置関係、初速、走行距離、倒れてから起き上がるまでの速さ等のデータを収集し、戦術や選手ごとの練習量・練習メニュー、ケガの予防対策等に活かしているといった、スポーツデータの重要性について触れた。  スポーツデータを活用することで、今まで気が付くことのできなかった能力や改善点に気が付き、パフォーマンスが向上するという話を聞いて、小学生も、データ活用の意義について理解を深めることができていた。  その後、試合中の自分の動きをデータ化するという体験をしてもらった。これは背中に位置情報を取得するGPS受信機を装着してタッチラグビーの試合を行い、それをドローンで上空から撮影するというものだ。  試合後、慶應SDMと蹴球部により、収集したデータを解析するとともに、データとドローンで撮影した動画を時刻で同期を取り、試合中の動きを可視化しフィードバックした。参加した小学生は、データや映像を基に、気付いた点・反省点を話し合う中で、同じ場所にとどまってパスを待っていたり、チーム全体がボールに集まっていること等の気付きを得ていた。  また、光電管を使用して30m走の計測も行った。30m走の速度と試合中の速度を比較すると、試合中の速度が落ちているという差が現れる。ラグビーというルールの下では、走る際ボールを持っていたり相手がいるため、当人は全速力が出せている感覚を持っていても、実際は全速力を出せていないことに気が付く。小学生は、自分の速度や位置を客観的にデータで見ることは初めての経験だっただろう。ルールがある中で自分のパフォーマンスを最大限に発揮するためにはどこを改善すればいいか、データを通して学ぶことができていた。  開催にあたり、小学生には事前にタッチラグビーに向けて目標を立ててもらっていた。たくさん走る、パスを多くする等の目標が多かったが、授業後に立てた目標は、チームの位置関係を意識しディフェンスをする、パスをもらってから走り出すまでの初速を速くする等、データや映像から得た気付きに基づいた目標を立てることができていた。これは、日本代表や慶應義塾大学蹴球部が行っているスポーツデータ活用を小学生も行うことができたという結果だろう。スポーツという身近なことを通じて、データを活用することの有用性を小学生に実感してもらうことができた。    (2)スポーツデータ活用セミナーの開催  GPS受信機やドローンによって収集したスポーツデータがどのように利活用できるのかについて「見る」「する」「支える」という三つの視点で考える市民向けセミナーを開催した。専門家や企業の方を招き、最先端の事例を提供していただくとともに、スポーツデータを誰もが利活用できる未来について、慶應SDMが得意とするデザイン思考を用い、参加者全員で考えた。  まず、「見る」視点では、データを活用したプロ野球の新しい観戦として、投手のボール回転数や投げるコースの割合、走者の盗塁データの統計等を見せることで、データを通して野球を楽しむ文化・トレンドが生まれている事例などを民間企業の方から紹介していただいた。  「する」視点では、収集したスポーツデータの分析・可視化手法や、データの扱い方等、より実践的な利活用の方法について専門家から講義いただいた。  また、「支える」視点では、スポーツデータによる選手の怪我予防やチーム力向上などラグビー界で取り組んでいる最先端のデータ活用について専門家から講義いただいた。  講義後、「見る」「する」「支える」のグループに分かれ、スポーツデータを誰もが利活用できる未来についてディスカッションを行った。「選手の緊張感や観客の盛り上がりをデータで可視化する」、「筋力等を手軽に可視化することで、一般の人にも健康づくりや怪我予防に取り組んでもらう」などデータ利活用の新しい提案や、「個人情報の取得の是非やデータの取得・分析方法の簡易化が必要」といった利活用に向けた課題等、様々な話題があがった。このセミナーを通して、スポーツデータ活用を取り巻く現状について学んでもらうとともに、データ活用の有用性を参加者に知ってもらうことができた。    2 オープンデータの取組  港北区役所では、区で保有している情報のオープンデータ化を昨年度から進めている。「広報よこはま」の港北区版は、オープンデータ化した結果、早速、民間事業者に活用され、現在はスマートフォンのアプリから閲覧できるようになっている。  また、港北区ホームページでは戸籍課と保険年金課の窓口の混雑情報を公開しているが、この情報を区内の民間企業の協力を得て、オープンデータ化する取組を行った。具体的には、少し専門的になるが、API(注2)の利用ガイドとリファレンスを公開している。  このことにより、窓口の混雑情報をほぼリアルタイムでオープンデータ化することができた。区役所窓口混雑情報を任意のアプリに取り込むことが可能となったため、本データが企業・団体に活用されることを期待したい。 3 更なる活用へ  更なる活用に向けては、データ活用に係る知識や能力の開発も重要だが、まずは、職員の意識を変え、積極的にデータを活用していく・オープンにしていくことの重要性を各自に認識してもらうことが必要であろう。港北区では、そのための研修会も実施しており、今後も、そのような研修を実施し、区役所一丸となって、オープンデータ化を含むデータ活用の取組を進めていきたい。  地域の資源としての大学と連携すること、こどもや市民の暮らしの中でデータ活用することの意味を感じてもらうような普及啓発を行い、行政だけではなく、市民や地域の主体と一緒になってデータ活用の機運を高めていくことも大事だと思う。      注1 「システム思考」や「デザイン思考」の考え方については、慶應SDMのホームページ等を参照されたい。   注2 API?Application ProgrammingInterface?とは、??のソフトウェアの?部を公開して、他のソフトウェアと機能を共有できるようにしたもの。