≪3≫横浜市の取組 <3>地域課題解決に向けた保土ケ谷区版GISプラットフォームの取組 鈴木 達也 保土ケ谷区区政推進課 1 保土ケ谷区GIS導入の背景・経緯  保土ケ谷区では、平成27年度から「保土ケ谷区GIS活用推進事業」を実施している。 GISとは、地理情報システム(Geographic InformationSystem)の略称で、地理空間情報を持つ様々なデータを重ね合わせ、地図等のデータ上に可視化するシステムの総称である。横浜市では1980年代からGISを導入し、「よこはまっぷ」等のWeb GISや、各種情報システム等を活用してきた。  保土ケ谷区でもこれらを活用し、統計データの可視化や、図・グラフ等を用いた資料作成を行ってきた。その後、地域ごとの特性に基づいたきめ細かな施策・支援の必要性が高まり、平成27年には区役所の全パソコンでGISソフトを利用できるようライセンス契約し、各課で活用してきた。また、職員に対するGISの普及・人材育成を目的とした区独自の研修を企画し、基本的な操作方法の取得を促すとともに、「庁内事例発表会」を開催して課題解決に繋げた事例を職員間で共有し、データ活用を通じた課題解決の可能性を周知してきた。   2 保土ケ谷区版GISプラットフォーム  GISを導入するにあたり、各部署で必要なデータを収集、更新していくことは非効率であることから、基礎的なデータを共用することでGISを利用しやすい環境とするために、「保土ケ谷区版GISプラットフォーム」として、区各課・各局が保有する様々な関連データをGISデータとして集約した。プラットフォーム内に一元管理することで、職員のデータ整備の煩雑さを解消させた。  プラットフォームには、地形図、各種統計調査データのほか、まちづくり、防災、子育て、福祉などの全課共通で需要の高いデータを選別して統合・整理し、また、基本的な情報は定期的に更新し、最新のデータを整備することで、職員が使いやすい環境の整備に努めた。  データ整備にあたっては、基本的に区政推進課が一括して政策局や道路局等の各局に調査・統計データ等の利用申請を行い、特定の課が個別に必要とするデータについては、各部署がデータ作成しプラットフォームに搭載している。(図1)   3 保土ケ谷区GIS活用例   (1)認可保育所の入所決定者及び入所保留者の分布  こども家庭支援課では、認可保育所の入所決定者と入所保留者の分布を保土ケ谷区の地図上に表示し、保育施設が必要なエリアを検討するために、GISを用いている。  保育施設が必要なエリアを検討する上では、保育所等の入所決定者や保留者が区内のどこに、どれだけいるのかを把握する必要がある。しかし、これまでは、紙のリストしかなかったため、施設所在地など複数と照合する際に、一目では理解しづらく基礎的な情報を把握するのにかなりの時間を要していた。  そこで、情報整理を目的としてGISを活用し、入所決定者及び入所保留者、保育施設等を地図上に一括して視覚的に表示することで、情報を複合的に把握することが可能となった。また、申請者を年齢別にプロットすることにより、年齢別の入所保留者等の詳細なニーズの分布状況などをエリア別に確認することができるようになり、保育施設のより効果的な配置の検討資料として活用している。   (2)保土ケ谷区初期消火箱等設置状況と予想焼失棟数  保土ケ谷消防署では、保土ケ谷区内に配置されている初期消火箱等の設置状況と、予想焼失棟数(元禄型地震発生時を想定)を地図上で重ね合わせて表示することで、重点的に消火器具を設置すべき地域や訓練を強化すべき地域の抽出を行った。分析結果を受けて、初期消火器具等整備費補助事業の設置地域を選定する際に活用した。(図2)   (3)地域情報の可視化   保土ケ谷区では地域防災拠点の地区割り当てエリアが連合町内会のエリアと異なっており、かねてから分かりにくいという声が区民等から挙がっていた。そこで、総務課では、区内の連合町内会のエリアと地域防災拠点の地区割り当てエリアを地図上で重ね合わせ、それぞれエリアの位置関係を可視化させた。   また、福祉保健課では地区毎に子育て関連施設や区民利用施設、高齢者向け地域活動拠点の所在地等を地図上に示した「地区データシート」を作成した。これらの可視化した情報は、各地区担当者が基礎資料として地域との情報共有や対話にも活用している。    (4)ルート解析   GISは、指定したある地点を起点とし、複数の場所を効率的に移動するルートを解析することにも有用である。例として、区内4地区センターに区主催行事のチラシを配架する場合、保土ケ谷区役所を起点に、出発の日時、交通手段、経由地等を指定して効率の良いルートが検索できる。さらに、過去の交通量データを活用して最適ルートを検索することで、紙の地図やインターネット等で調べる手間や時間を減らすことにもつながっている。(図3)    4 今後の展望  本事業は3年を迎え、各種統計情報や業務データを可視化するツールとしてGISが有用であるという認識が浸透してきており、前述の事例の他にも「地域福祉保健計画」等、計画を策定する際の資料作成にも活用されている。   一方で、全庁的にGISを活用していく上での課題も見えてきた。まず、利用している職員が偏っており、幅広く普及していないことが課題の一つとして挙げられる。職員がGISに触れ、その有用性を認識するために、基本的な操作手順と、業務での活用方法を広く職員に周知するための研修を開催するほか、GISソフトのインストールの手順書等の整備も大切である。  また、別の課題として、必要なデータが無いために、求める地図を作成できないことがある。このような場合、改めてデータを作成することとなり業務が非効率になってしまうばかりか、場合によっては地図の作成自体を断念することにもなりかねない。職員が日ごろから業務の中で「GISを用いて作成したいもの」を想定して、データ収集していくことも必要である。さらに、テーマによって求められるデータやその精度が異なるため、GISがその価値を十分に発揮できる場合と、そうでない場合があることを認識しながら活用することが大切となってくる。  まず、業務の目的を明確にした上で、課題解決のために必要なデータを効率的に収集し、GISをツールの一つとして、柔軟に活用していくことが、地域課題の理解と地域の特性に応じた施策・支援に繋がってくるだろう。