≪2≫「データ活用」を取り巻く環境の現在 A横浜市を取り巻く状況とデータ活用の現在 編集部 昨年閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」においては、我が国が置かれた状況として、高齢化や生産年齢人口の減少によって人口構造が急速に変化していること、その一方でデータを利活用し様々なニーズにきめ細かく対応することが可能となる環境が形成されているということが示されている。このような状況は横浜においても同様に起きていると考えられるが、データ活用を推進する意義と目的を再確認するため、改めて横浜の現状について見てみることとしたい。   1 横浜市を取り巻く状況  本市の人口は依然として増加しているが、本市の将来人口推計においては、平成31年、つまり来年をピークに減少に転じると見込まれている。年齢別にみると、平成41(2029)年には65歳以上の人口が100万人を超え、うち75歳以上の人口も60万人を以上となる一方、生産年齢人口(15〜64歳)はすでに減少しており、将来においても続いていくという推計結果となっている。(図1)これまでの人口増減について要因別にみると、東日本大震災のあった平成23年は転入数より転出数が多い転出超過となったものの、翌年以降は転入超過に転じ平成29年においても社会増となっている。しかし、生産年齢人口のうち、35〜64歳の年齢層は平成22年以降転出超過が続いており、人口構成の変化による社会の担い手の減少は既に現実の課題となっているといえる。(参考:図2)  自然動態では、合計特殊出生率は平成17年の1・16から平成28年には1・35となり増加傾向がみられるものの、出生数自体は減少傾向にある。一方で死亡数は増えており、平成28年には戦後初めて、出生数が死亡数を下回る自然減となり、人口減少社会の到来とそれによる影響への対応は喫緊の課題となっている。  また、社会の変化とともに、市民の意識も大きく変化している。  横浜市民意識調査によれば、生活の上で「心配ごとや困ったことはない」と回答した人は平成8年には50%を超えていたが、以降急激に減少し平成29年には約16%と、8割以上の人が何かしらの心配を抱えて日々を過ごしていることが窺われる。人や社会とのつながり方にも変化が見られ、約6割の人がインターネットやスマートフォンは生活に必要不可欠だと回答(平成28年度調査)、また、隣近所との付き合い方では、困ったときに助け合うような親密な付き合いが減り、互いに干渉せずさばさばした関係を暮らしやすいと感じている人が74%と多数を占めている(平成29年度調査)。  今後、公共施設の老朽化への対応や社会保障費の増加などにより、財政を含め横浜市を取り巻く状況は厳しさを増していく恐れがあり、効率的、効果的な行政運営と施策の選択と集中がこれまで以上に必要となってくるであろう。    2 地域によって異なる課題  人口減少や高齢化の進展による影響は、市全体で一様に起きているわけでなく、まちの成り立ちや地形、交通機関や商業施設の立地など、地域により特性が異なり、課題の表れ方は地域により様々である。例えば人口についても、増加している区もあれば既に減少期に入っている区もあり、また、減少している区の中にも、社会動態、自然動態いずれも減少している区もあれば、社会増だが自然減により人口減少となっている区もある。さらにより小さな地域単位で捉えれば、まとまったエリアでの増減ではなく、マンション開発などで急増しているすぐ隣で減少している、といった局地的な増減が市域全体でみられるようになっている。(図3)  このような地域による状況の違いにより、買い物や交通の便の確保、保育や福祉施設の必要性など、地域によって課題の種類や優先度などが大きく異なっている。また、これまで課題やその原因として認識されていなかったことが、新たな課題やニーズとなって表面化したり、深刻度が増してくることも考えられる。それらの課題に対応するため、さらに言えば今後発生する可能性のある地域に対して事前の対策をとるためにも、地域に関するより詳細な実情の把握、分析が不可欠になっている。    3民間のデータ活用促進に向けた環境整備と共創の推進  オープンデータはデータ活用の一つの大きな柱であり、横浜市においても平成26年3月に推進のための指針を策定し、その指針に基づき統計情報や施設情報などのオープンデータ化を進めている。今後は、現在の横浜市オープンデータカタログを市ウェブサイトと連動するよう改善を図り、データ検索のしやすさの向上やAPI(注1)利用によるデータ取得を可能とするなど、利用者にとってより活用しやすい環境を提供すると同時に、市職員にとっても作業負担が少なくデータを公開できるようにすることで、保有情報のオープンデータ化を促進していく予定である。  活用の促進という面では、市内保育施設情報を掲載したサイト「働くママ応援し隊」など、「共創フロント」(注2)がオープンデータに関する企業等からの連携の提案や相談の窓口(オープンデータデスク)として利用者側のニーズを把握し、企業との連携プロジェクトを進めるなど民間によるデータ活用を推進している。また、経済に関する統計情報などのオープンデータ化を進めると共に、平成27、28年度には、ビッグデータ、オープンデータ等の活用と新規事業の創出に向けたビジネス化支援や企業向けセミナーの開催など市内企業によるデータ活用への支援やきっかけづくりを行った。  さらに、市内の高等学校、専門学校、大学などの学生の視点と発想で本市の地域課題や魅力向上などについてデータを基に対話する「Yokohama Youth Ups!」や、小学生を対象にスポーツをテーマにしたデータサイエンス体験教室を開催するなど、データ活用への興味と関心を広げる普及啓発も行っている。  オープンデータ以外にも、本市ではNPO法人、企業、大学・研究機関等との協働により、行政課題の解決などに取り組んできた。最近では、独自の技術を持つ企業と連携した高齢者の交通事故抑制事業や横浜市立大学と共同研究を行った救急出場件数の将来予測など、行政が抱える課題解決に民間企業や大学が持つデータ活用の技術や知見を生かす事例が増えてきている。また、NPO法人と企業が連携して運営する地域課題解決指向型ICTプラットフォーム「LOCAL GOODYOKOHAMA」への支援など、民間が主体となってデータ活用により地域課題の解決や市内経済の活性化を目指す取組を後押ししている。  このように民間と行政が協働によって互いの資源を生かしていくことで、社会全体でのデータ活用が進み、結果として地域課題の解決や効果的・効率的な施策の推進にも繋がるのではないだろうか。     4データ活用の新たな取組と留意点  ICTの進展や様々な情報のデジタルデータ化などによって、これまでより効果的なデータの分析・活用ができる環境が整ってきていることを受け、本市においても、現状把握や課題分析などのためのデータ整備や活用の試みがなされている。本号で紹介する区役所における地域課題解決に向けた全庁的地理空間情報プラットフォームや、データ分析を介した地域との課題共有などはその一例である。  また、チャットボットを活用した「イーオのごみ分別案内」の開発、横浜市立大学との共同研究である医療ビッグデータの解析などは、企業や大学等と連携し、先端技術を取り入れながら、データ活用により地域の課題解決に取り組んだ新たな試みである。本市は、横浜オープンデータソリューション発展委員会など、データ活用に関心の高い市民等による活動が盛んであり、また、今年で10年を迎える公民連携の取組による素地もあることから、このような民間との協働によるデータ活用の取組は今後も大いに期待できるところである。さらに、データ活用への期待の高まりを捉え、平成29年4月に「オープンイノベーション推進本部」を立ち上げ、官民データ活用推進計画の策定や先進的な公民連携の取組などについて庁内横断的な推進を行っている。経済分野においては、IoT、AIなど先端技術を活用したビジネスの創出に向けたプラットフォーム「I?TOP横浜」を立ち上げ、企業間の交流・連携、人材育成などイノベーションの環境づくりなどを進めている。一方で、民間企業や市民の中には、データ活用への期待と同時に、課題や不安を感じる人も少なくない。  市内企業向けの調査(注3)では、IoTを業務や製品サービスに「活用している」「活用予定がある」のは合わせて21・5%、「関心はあるが、活用予定はない」を含めると75・7%で、多くの市内企業が関心を持っている反面、活用にあたっては「人材の確保又は育成」や「活用するノウハウを得ること」などが課題だとしている。  また、平成26年度横浜市民意識調査では、情報化の進展による影響について、過半数が「生活が便利で豊かになる」(75%)、「経済が活性化する」(56%)と回答している一方で、「機械などが苦手な人が取り残される」(66%)、「犯罪やトラブルに巻き込まれる」(56%)と回答した人も同様に半数を超えており、( 図4) 今後、行政としてデータ活用を進めるにあたっては、市民生活の利便性向上や経済の活性化に向けた取組と同時に、人材の育成やセキュリティの確保など、市民や企業が感じる課題や不安を解消していくことも必要であろう。    注1 API Application Programming Interfaceの略。データのやり取りを通じて、他のシステムの情報や機能等を利用するための仕組み。  注2 共創フロント 民間事業者から公民連携に関する相談・提案を受ける窓口。 (http://www.city.yokohama.lg.jp/seisaku/kyoso/front.html)  注3 「市内企業のIoTに関する技術・サービスの導入に関する実態調査(第98回横浜市景況・経営動向調査(平成28年9月実施)(特別調査))」