《12》ウィルチェアーラグビー(車いすラグビー)チーム『横濱義塾』〜更なる盛り上がりに向けて 月村 安孝 横濱義塾 ゼネラルマネージャー 山内 翔太 横濱義塾 プレイヤー 聞き手 藤井 美佑紀 横濱義塾 サポーター(横浜市職員)  『横濱義塾には金メダリストが15人います』 そう笑顔で話すのは横濱義塾ゼネラルマネージャーの月村安孝さん。ウィルチェアーラグビーは車いす同士の激しいぶつかり合いが印象的な競技である。2016年リオパラリンピックでは日本代表が銅メダルを獲得。注目度は増しており、東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて更なる盛り上がりが期待される。  横浜を拠点に活動する「横濱義塾」のゼネラルマネージャーである月村さんとプレイヤーの山内翔太さんに、活動の現状と今後の展開について聞いてみた。 ◆応援したくなるスポーツとしての盛り上がり 【藤井】先日、横浜ラポール(横浜市港北区)でウィルチェアーラグビー日本選手権予選が開催されました。結果は残念でしたが、応援が盛り上がり、ファンとしてとても楽しかったです。 【山内】多くの観客の方々に応援していただきましたが、今まで応援される≠ニいう発想が無かったので、特に代表でない選手は、応援の力でこんなに会場が変わるのかということを実感したと思います。大勢の人からの応援がないことが普通だったから驚きました。今回、応援してくれる人の大切さをみんなが実感したと思います。日本選手権予選では、試合結果よりもまず、応援がすごかったと言われました。 【月村】今回、横濱義塾には応援団がいて、みんなで応援してもらったことで、試合会場の色≠ェ例年と大きく変わりました。誰かが応援すれば、色が変わることを実感できました。 【藤井】これまでの応援はどのような感じでしたか? 【月村】選手の家族や仲間が来て応援することはありましたが、組織的応援というのはなく、みんながずっと黙って見ていて、一体的に応援することがなかったです。最近、日本代表の試合では、会場でバルーンスティックが配布されますが、みんなで一体となって応援するということがなく、バラバラになってしまいます・・・・。 【藤井】初めて試合を観戦したとき、正直、何で応援しないのだろうと感じたくらいです。 【月村】誰もしていないから、「やってはいけない」、「騒いではいけない」と思われてしまうのかもしれません。 【山内】団体で来てくれる人は少ないから、友だちと来ても少人数では応援も難しいですよね。 【藤井】選手の皆さんが試合後に、こちらを向いて挨拶してくれるところがうれしかったです。試合でも1点取るのがうれしいし、1点取られると悔しいし、選手が少し落ち込んでいれば、ファンの立場で何かできないかなと思う。そういう積み重ねで競技への気持ちも高まりますね。 【月村】継続していきたいですね。この間の応援をベースに、少しずつ色をつけていき、他のチームもやり出せば面白いですね。応援で勝利を掴んだ!なんて面白いですよね。 【藤井】どうしたらよいでしょう? 【月村】興味を持ってくれた人たちがスタッフとしてチームに入るだけでなく、応援する・される立場としての線が引かれていけば、応援する側も応援しやすくなると考えています。横濱義塾が応援の形をつくり、他のチームが対抗して応援の形を作るようになれば面白いですね。 【藤井】企業からは、具体的にはどのような話が来ますか? 【月村】応援してくれる企業は多いです。横濱義塾としては、企業からの受け皿を作り体制を整えており、企業応援に対する考えもまとめ、あれもこれも受けるのではなく、競技を通じて何かを感じてくれた人がいたり、誰かが応援してくれたり、横のつながりが広がるような地元密着型を考えています。 【藤井】企業からの具体的な支援にはどのようなものがありますか? 【月村】最近では、障害児施設からの応援をいただいています。イベントや体験などをしていただいて、競技を通じ、横濱義塾の選手の生活なども知っていただき、その子のみならず、親御さんにも将来を描いてもらえるような活動をしています。そのほかには、車いすの座面に敷くマットの会社から声をかけていただきました。選手たちにクッションを提供していただき、モニター利用として一部選手も利用させていただいています。 【藤井】応援に来るのはどのような人が多いですか? 【月村】以前は、リハビリテーションの医師、PT(理学療法士)やOT(作業療法士)や学生が、自分の勉強のために見に来ることが多かったです。マスコミからの取材もありますが、やはり「がんばれ障害者」と書かれてしまうことが多いです。最近は、スポーツとして、アスリートとして見てくれるところも出てきましたが・・・・マスコミの方々に取材に来てほしいです。障害関係の番組は多いけれど、日本選手権予選等をもっとスポーツ番組で取り上げてほしいですね。スポーツではなく、障害者スポーツと見られることが多いので、この競技に興味を持つ人たちは、チームにスタッフとして入る例が多いです。それが問題ではないのですが、興味を持ってくれるのが学生さんだと、卒業等を契機に1〜2年でいなくなってしまうことが多く、また「純粋に応援します」と言ってくれる人や、仕事の絡みで来る人もいますが、2〜3年でいなくなってしまうことが多いですね。 ◆ウィルチェアーラグビーの競技環境 【藤井】スタッフについて伺いたいと思います。スタッフの日頃の関わりはどういうものがありますか? 【山内】私たちはスタッフありきなので、スタッフはとても大切です。仕事内容は、試合と変わらず、パンクしたタイヤの修理や各選手のケア等です。最近はスタッフも増えました。以前は、月村さんがずっと一人でやっていました。 【藤井】スタッフはどういった方たちですか? 【山内】私たちが普及活動を行った高校の授業で見てくれた人とその友だちが来てくれています。 【月村】若い人たちは、大体2年ぐらいの周期でいなくなってしまうことが多いですね。 【山内】学生さんなので、卒業すると難しいですね。 【月村】就職すると、仕事が忙しいようで・・・・私も仕事をしながらで、忙しいのですが。(笑) 【山内】藤井さんは応援ではなく、スタッフの仕事に興味がありますか? 【藤井】私は応援を盛り上げたいです。純粋に楽しみたいし、楽しいから仲間も増やしたいです。 【山内】支援ではなく、応援なんですね。 【月村】本来は、応援する人が8〜9割いるのが当たり前なのに、今はスタッフの方が多く、割合が逆転しています。チームの活動に参加したら、スタッフとか競技をサポートしなければならないみたいな雰囲気があるのかな・・・・。 【藤井】チームのサポートや支援も面白いのかもしれないですが、私は、本当に試合を見たいし、試合を楽しみたいと思いますね。ちなみに、山内さんは、この競技を始めて何年になりますか? その間、競技を取り巻く環境も変わったと思いますが。 【月村】環境的には変わらないと思います。良くなることもないし・・・・。ただ、ラグ車(ウィルチェアーラグビー用車いすの略称)は進化していますね。 【山内】競技を始めて8年になります。ずっと同じラグ車に乗っているので分からないです。今のラグ車は競技を始めてすぐに買ったので約7年です。長く乗っていて、大分ガタガタですが、みんなほど乗ってないので、まだきれいです。でも、私が買った頃はラグ車は50〜60万円ぐらいでしたが、ラグ車の価格はかなり上がりました。 【月村】チタン製の車いすになって価格が上がり、150万円くらいですね。 【山内】気軽に買い替えるというのは難しいですね。古くなったとしても、買い替えるには勇気が必要です。 【月村】代表選手クラスになれば、企業が買ってくれることもあります。うちの若山は沼津市在住ですが、地元の支援者様がラグ車を提供してくれています。今後、チームで資金を貯めて、これからウィルチェアーラグビーを始める選手に対して、ラグ車の購入費用を補助できるような仕組みづくりも考えています。 【藤井】以前、山口選手から「代表選手は環境が恵まれている」と伺いました。代表以外の選手たちの環境はいかがでしょうか? 【月村】趣味とするか、仕事とするかで差が大きいですね。横濱義塾では選手たちに無理して練習に来いとはスタッフも言えず、代表であるローポインター(※)二人(山口選手・若山選手)とそれ以外の選手とは少し意識の面で差があるかもしれません。今は、おかげさまで、代表クラスの人たちはこの競技でご飯を食べられる時代になっていて、活躍していれば家族を養える選手も出てきました。でも、日中は普通に仕事をして夕方から練習に来るという環境も大事であると思います。 【藤井】山内さんはラポールでの練習以外に自主練習はしているのですか? 【山内】体育館でやることはなく、練習のない日に外で走るなど、家でできることがあればやるくらいです。 【藤井】選手の立場として、理想的な活動環境はどのようなものですか? 【山内】休日に長時間練習できるのがベストです。横濱義塾は横浜ラポールがあるので、天候に左右されずに定期的に練習ができ、国内のチームの中でも環境的には大分恵まれています。月1回しか練習ができないチームもあります。 【月村】試合数が少ないことも課題です。 【山内】以前は、日本選手権も予選が2回ありましたが、去年はパラリンピックがあって1回で、今年も1回なので、代表の活動が忙しくなり、2回やるのが難しくなったのかと思います。 【月村】自分たちで大会を開催して、選手たちがもっと試合ができる環境をつくり、見たい人は見られる、やりたい人はやれるようにしていきたいと考えています。現状では、年間の試合時間はトータルで1時間程度という選手が多いです。選手たちも試合数をこなさなければ、うまくはなれないので、試合環境をつくることは大切です。 【山内】私も試合が足りないと思っています。試合数が少ないと熱が冷めてしまうのも正直なところです。日本選手権予選が終わったらそれで終わりになってしまうので、日本選手権とは別の大会があってもいいと思います。車いすバスケは頻繁に大会をやっていて、大学チームや健常者チームもあります。 【月村】ウィルチェアーラグビーも健常者チームがあってもよいと思います。みんなができる競技にしていけば、チーム数は増えますし、注目も浴びます。選手も増えていかなければならないです。 【藤井】山内さんはどのようなきっかけで、この競技を始められたのですか? 【山内】入院していた病院の理学療法士がラグビーに関わっていて、四肢麻痺でできるスポーツがあるからと言われ、日本選手権を見に行ったのがきっかけです。 【月村】特別支援学校出身の選手であれば、卒業生としての太いパイプがあるから、後輩の若い選手がやってみようという感じで増えていきます。将来的に、横濱義塾としても、特別支援学校に積極的に話しに行きたいと思っていますし、是非、横浜市も一緒に考えてほしいと思っています。特別支援学校の生徒たちや親御さんにも、ウィルチェアーラグビー選手になって頑張れば、ご飯を食べていけるということも知ってもらい、「ああ!こういう道もある、こんなふうに生きていけるのだ」ということをイメージしてほしいですね。 【藤井】他のチームはいかがですか? 【山内】一部の病院では、ウィルチェアーラグビー部があり、入院中の人たちが集まるので、若い選手が入りますが、それ以外はあまり聞かないですね。 【藤井】山内さんのプレイヤーとしての目標を教えてください。 【山内】目標は今まであまり考えたことがなくて・・・・。チームで強くなりたいというのが一番で、あとは私のようなハイポインター(※)が変わらなければと思っています。今回の日本選手権予選を通して実感し、更にやる気が出ました。最初は、体力づくりや、かっこいいという単純な気持ち、仲間も増えるかなという気持ちで始めたので、パラリンピック競技であることは知っていましたが、出場したいと思って始めたわけではありません。それは今も変わらなくて、生活の一部みたいな感じですね。 【月村】障害があるゆえに、状態や環境の差で、結果が右往左往してしまうけれど、結果が全てではなく、みんなが来てくれるのが、横濱義塾っていうチームだから。 【藤井】周りにも興味を持つ人はいるので、一緒に見て楽しめるといいと思っています。 【月村】全国優勝だけを目指すよりも、みんなで競技を楽しみたい、そんなことばかり考えてしまいます。もちろん日本選手権で勝ちたいけれど、盛り上がりを広げることでこの競技の世界も広がります。 【山内】みんなで楽しむことに力を入れたから、こうして応援してくれる人もいるんですかね。 【月村】試合が3か月に1回くらい開催できたら、選手はかなりレベルアップするし、応援する人も含めて、みんなで面白くできたらいいなと考えています。練習のときも応援の練習をして、みんなが友だちになって、楽しめればよいですね! ◆更なる盛り上がりに向けて 【藤井】横濱義塾は普及活動にとても力を入れていますね。 【山内】競技の体験会とか普及活動は、テレビ等でオリンピック・パラリンピック関連番組が放送されてから回数が増えましたね。 【月村】体験会や普及活動はここ1〜2年で増えていて、現在、月1回くらい実施しています。同じ所から、また来てくださいと言っていただくこともあるので、普及活動はいろいろな所でできると良いと思っています。 【山内】SNSの存在も大きかったですね。横濱義塾では、数年前から開設していますが、当時は他チームのホームページはほとんどなく、現在も、お金はかかるし、更新等も面倒なので、誰かがやろうとしなければ難しいようですね。 【藤井】地元の横浜でも普及活動をどんどんやってほしいです。 【山内】普及活動で遊びに来てくれた人が、試合を見に来てくれているのを知ったとき、とてもうれしいですね。イベントにもよりますが、基本的には楽しいです。 【月村】遊びに行っているような感じですね。 【藤井】横浜でラグビーワールドカップ決勝が開催されますが、選手の立場からこういうイベントはやりたいとか、逆にこういう普及活動は行きたくないってありますか? 【月村】ウィルチェアーラグビーへの愛情と知識があることが大事ですね。 【山内】普及活動の相談に来てくれる方々の中に、全然私たちのことを知らないで来る人もいます。「この間も○○で普及活動していましたよね」という感じで、前から私たちのことを気にかけてくれている方には是非協力したいです。 【月村】地元の横浜市や神奈川県からの依頼は断らないようにしています。でも、「(日本代表の)山口選手や若山選手をメインで」というものは断っています。横濱義塾として普及活動を行いたいので、山口や若山だけに注目するとか、メダルを見せてくださいというのはね・・・・。仕方ないのかもしれないけれど、あくまでも、横濱義塾があって彼らがいるのだから。チームのみんなで普及活動の内容をアレンジしているので、山口や若山が所属するチームではあるけれども、彼らだけのチームではない。他のチームは、代表選手しかマスコミに出ていかないけれど、横濱義塾はいろいろな選手が登場しています。 【山内】横濱義塾は特に強いわけではなく、むしろ弱いのに、注目はされているようです。期待に結果で応えられないのが・・・・。 【月村】今は弱くても、そこから這い上がるところが面白いと思っています。誰か強い選手が一人入れば、優勝できるかもしれないけれど、それでは、強くなるのは当たり前で面白くないですよね。 【藤井】応援している方からすると、勝ち負けよりも、ここ一つ乗り切ったとか、頑張ったなっていう面が大切だと思います。先日の日本選手権予選でも山内さんの顔が変わった瞬間の試合があったのがとても印象的で、結果以上にうれしいし、その積み重ねで勝つことができれば、なおうれしいです。 【山内】それは他の選手にも言われました。目が変わった瞬間があったって。自分ではよく分からないけど。 【藤井】ちなみに、山内さんは代表を目指さないのですか? 【山内】私は全然です。やはり犠牲にしなくちゃいけないものが多く、プライベートとか家族とか。なかなかできないですね。 【藤井】横濱義塾のファンとしては、選手の皆さんには代表を目指してほしいです。ドイツの車いすバスケでは、プロ選手として活動している選手もいると聞いています。この競技でも、そういう選手がいたり、目指したりしてもいいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。 【月村】最近になって、そうなってきたかなと思います。代表がまず、ほとんどの選手がアスリート雇用となっており、アスリート雇用を支援する会社もあります。 【山内】選手としては、強くなりたいという気持ちはありますが、「イコール日本代表」かと言えばそうではなくて、チーム内で活躍できるようには頑張りたいと思っています。うちの選手の中で代表を目指している人っているのかなあ? ラグビーの話はしますけど。やはりチームの話が多く、代表を目指すみたいな話はあまりしないですね。 【月村】横濱義塾は、それでいいのかなと思います。試合の中の組織力とかで言うと、結構、レベルは高いです。プレイミスは多々あるけれど、試合を作る上でのタイムアウトの取り方とか、パンク修理、ボディケアなど、組織的な動きはきちんとできています。だから、試合は負けても勝負では常に勝っています!そこが大事なのです。 【藤井】東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて、パラリンピック代表選手が注目を浴びるだけではなく、日々の活動を充実させ広げていくこと、盛り上げていくことが大切ですね。 【月村】横濱義塾には人生の金メダリストが15人いますって、伝えてください(笑)。 ※ ウィルチェアーラグビーの選手には障害の程度によりそれぞれ持ち点が付けられ、障害の重い方0.5点から軽い方3.5点まで0.5点刻みの7段階に分けられる。持ち点が高い選手をハイポインターといい、持ち点が低い選手をローポインターという。1チーム4人の持ち点の合計が8点以下で構成されなければならない。