《10》職場における障害のある職員への配慮 @知的障害者嘱託雇用の受入れ職場を訪ねて 石川 葉月 港北区こども家庭支援課こども家庭係(嘱託職員) 浜田 晶子 港北区こども家庭支援課こども家庭係(トレーナー) 渡辺 悠司 港北区こども家庭支援課こども家庭係長 協力 高木 静男 横浜市障害者就労支援相談員(総務局人事課所属) 聞き手 岩間 梓 総務局人事課人事第二係 江原 顕 健康福祉局課長補佐(障害企画課就労支援係長) 編 集 部  知的障害者嘱託雇用(※1)の受入れ職場である港北区福祉保健センターこども家庭支援課を訪ね、嘱託員の石川葉月さん、トレーナーの浜田晶子さん、渡辺係長から、石川さんの働きぶりや受入れに伴う職場での配慮等についてお話を伺いました。 1 業務マニュアルのこと ―― 事前に見させていただきましたが、この「業務マニュアル」(資料1)は、石川さんが作ったのですか? 【石川】はい。 ―― すごいですね。この職場に来た4年前から作り始めたのですか? 【石川】入ってちょっと経った頃に、人事課の高木さん(横浜市障害者就労支援相談員※2)の勧めがあって、私自身も業務マニュアルを作ってみたいと思って作成に至りました。業務を知らない人が見ても理解しやすいというコンセプトの下、空いた時間を使って少しずつ作成していきました。 ―― こういうふうに作りましょうというのは、周りの人が教えてくれたのですか? 【石川】それもちょっとありました。トレーナーさんに教わったことや業務のメモなどを参考に文章を書いて、分かりにくい箇所には撮った写真や図を入れたり、自分なりに工夫を凝らして。気がついたら半年以上もかかっていました。 ―― 段々と仕事の量も増えてきたんではないですか? 業務マニュアルの目次を見ても、業務は25項目もあります。 【石川】はい、増えたりしています。新しい業務ができたり、既存の業務で付け加えることがあったときには、業務マニュアルをその都度更新しています。 ―― 業務マニュアルで、私が一番面白いなと思ったのは、「三毛 音子(みけねこ)」って書いてあるところです。名刺作成のページの例のところに、名前が「三毛 音子(みけねこ)」って書いてあります。他のところにも「三毛 音子(みけねこ)」が出てきますね。これはどうしてですか。 【石川】これは、ほかの方の名前を使うのはちょっとよろしくないかなと思いまして、空想の人の名前を考えました。 ―― 猫が好きなんですね。 【石川】はい。(笑) ―― 4年目ということで、職場には慣れたと思いますが、役所というのは毎年4月に異動があるじゃないですか。慣れたとしても、人が代わったりしますよね。戸惑ったりはしませんか? 【石川】確かにします。 ―― そういうときは、どういうふうに自分を落ち着かせるのですか? 【石川】落ち着かせるというよりは、新しい座席表とかがありまして、それをいただいて、それで必死に覚えたりします。 【浜田】座席表のマーキング、アルバイトさんと嘱託さんと正規職員とに座席表を分けるのは石川さんの仕事なんです。それを手元に置いて配布物をみんなに分けたりします。4月は覚えながら、仕事をするという感じですね。 ―― 今、浜田さんがちょっと助けてくれましたが、浜田さんはどういう役割ですか? 【石川】相談しやすいトレーナーさんです。(笑) 【浜田】私の前任が石川さんを育て上げていたので、全然私はやることがなかったんです。もう業務マニュアルもできていて。 ―― 業務マニュアルを更新するときは、浜田さんが事前に確認するのですか? 【浜田】それはしないです。文言を一つ変えるということでも更新ということになりますが、更新することが彼女のモチベーションにもなっています。写真もあった方が分かりやすいよと誰かが伝えたりしますが、あとは彼女が全部自分で入れてという感じです。 2 これまでを振り返って ―― あまり覚えていないかもしれませんが、一番最初にこの職場に来た頃はどうでしたか? 【石川】一番最初の頃は失敗ばかりで、今ではあり得ないミスを犯していたなと思います。 ―― 高木さんの方から、石川さんのこの3年の変化など、何かありますか? 【高木】最初に会ったときの印象が、非常に素直。とにかく素直なのでよく言うことを聞いてくれました。それから、石川さんは、毎日の「業務スケジュール」(資料2)を作るようになってから、ぐっと伸びたように思います。終わった仕事をチェックする欄があって、失敗したところは赤字で書くんですが、赤字が段々減ってきていますね。とにかく人柄が良い人だったので、職場の中で絶対に受け入れてもらえるなと思っていました。嘘をつかない。でも正直過ぎる。ここまで言わなくてもいいところまで言っちゃうんですよ。倉庫の物品の整理なんかはもう嫌で嫌でしょうがないみたいです。(笑) ―― そうなんですか? 【石川】すみません。 【高木】そういう仕事の好き嫌いを言えたので、周りの人は分かりやすかったですね。 【浜田】1日のうち、苦手なお掃除系が最初にくるようにしたりとか、昼休み後もお掃除が最初に来るようにとか、そういう工夫をしています。(笑) ―― 反対に、これは好きとか、得意という仕事はどんなことですか? 【石川】得意なのはやっぱりパソコンを使った起案や児童手当の入力作業だと思っています。 【浜田】名刺を作ってと頼むとすぐに作ってくれますし、テプラも大好きで、すぐやってくれます。宛名印刷なども大丈夫です。 ―― 1日のスケジュールがあっても、急に「何かこれもやってね」みたいなこともありますよね? そのときに戸惑ったりはしませんか? 【石川】いいえ、そうしたら優先順位の高い業務を。 ―― 優先順位って、結構難しいですよね。 【石川】分からない場合はもうトレーナーさんに。 【浜田】テプラとかは大好きですので、すぐにやってくれます。お掃除って言うと、後にもっていっちゃったりとかという好みはあるかな。(笑) 3 職場の対応・配慮 ―― 定期的に面談を行ったりはしているのですか? 【渡辺】他の職員と同じですね。毎年度の目標共有シートをつくるタイミングで3人で行っています。 【浜田】最初に高木さんに言われたのですが、石川さんの場合は、注意するときは、すぐに注意した方が本人には分かりやすいというのを聞いていましたので、すぐに注意するようにはしています。 ―― 石川さんは、仕事で困ったときは浜田さんに聞くのですか? 【石川】係の方、全員、という感じです。職場の環境がいいことで、働きやすい環境をつくってくれてるのは、とてもありがたいなと思っています。 ―― 渡辺係長や浜田さんから、他の職員に対して、こういうところに気をつけてくださいとか、そういうことを伝えたりすることはありますか? 【渡辺】それが不思議なんですが、あんまり言ったことはないですね。うちの係の中では石川さんに対して他の職員と変わりなく同じという感じですね。はじめて職場に来た人には、こういう形で今就労してもらっているということは伝えています。よく行くフロア、3階とか4階の新しく来た係長にも、必要に応じて伝えたりはしています。 【浜田】福祉保健センターですので、ワーカーの人や保健師の人が多いですが、私たち事務職以上にちゃんと知っているというか、私たちよりもすごく丁寧に接していますが、気を遣うというよりも自然な感じです。 ―― 最初に石川さんが配属になったとき、受け入れる職場側としては、何か話し合ったこととかはあったのですか? 【渡辺】私も後から聞いた話が多いんですが、私が2年前に来たとき、石川さんに関して特別にどうこうという引継は受けていないです。実際に2年間一緒に働いてきて、すごく困ったとか、配慮したという記憶はほとんどないという感じですね。よくやっていただいているということかもしれませんね。 【浜田】私は育児休業が終わって職場に出てくるときに、どうしようかなって思って結構ドキドキだったんですけれども、会ってみたら全然いいじゃんと思った記憶があります。 ―― これまでのお話を伺っていると、業務スケジュールを作成したりということはありますが、職場の対応としては、同じ一人の職員として、自然に、特別のことをせずにということかなと思いましたが。 【渡辺】そうですね。あまり意識したことがないですね。もちろん多少のミスはありますが、仕事を的確にこなしてくれていますし、ずっと見守っていなくてはいけないという感覚は全くないですね。 ―― 石川さんと一緒に働いてくる中で、障害や障害のある人へのイメージなどが、何か自分の側で変わったということはありますか? 【浜田】私は、街なかで障害のある人を見ても、より自然な感じになったかもしれないです。公務員になる時点である程度障害のある人がいるということの理解ができて、更に福祉系の職場に来てもう一つ理解が深まり、理解が深まったところでここの職場だったので、ベースがあったのかなとは思いますが。 4 最後に 〜これからのこと〜 ―― 最後に石川さんに。石川さん自身が将来、仕事でこういうことをやってみたいということはありますか? 【石川】将来的に、やっぱり電話の応対とか、もっと職員さんがやっているような難しい入力の作業とか、できたら本当にやってみたいなって思います。どんな小さな仕事でも次の就労のステップになると思いますし、何より自分のためにもなるので、本当にいろいろチャレンジしたいなと思います。 ―― すぐできることじゃなくても、高い理想を持つことは大事だと思いますね。 【石川】いつか、本当にいつか、叶わないかもしれないですが、大学にもちょっと通ってみたい。挑戦したいなと思います。特に歴史のことが好きなので、歴史の大学に通ってみたいなと。まだまだ課題はたくさんありますが。 ―― いいですね。土日に行けるところもあるしね。できる範囲でやれるといいですよね。夢はいろいろ持ってください。頑張ってください。 【石川】ありがとうございます。 ―― それではこれで終わります。ありがとうございました。 ***  「職場における障害のある職員への配慮」をテーマにお話を伺いました。決して配慮を全くしていないということではありませんが、それはとても自然なもの、当たり前なもののように感じられました。また、同じように、石川さんも職場や他の職員に対して気遣いをしていることもあるのだろう。そんなことを考えながら、港北区役所をあとにしました。(編集部) ※1 横浜市における知的障害者雇用事業について  障害者の雇用促進に向けた社会的要請に対し全市的に雇用を推進していくため、健康福祉局で平成19年度から雇用を開始。平成23年度からは全市的な雇用促進のため所管を総務局に移し、「知的障害のある人を対象とした非常勤嘱託員採用選考」を毎年実施。延べ49名の知的障害嘱託員を雇用。 ※2 横浜市障害者就労支援相談員  主に障害のある嘱託員の職場定着指導・相談、訪問や、民間就労に向けた支援など、嘱託員本人及び配属先への支援を行う。