D 障害者施設と連携した街区表示板点検・補修の取組 〜試行から本格実施へ〜 執筆 関 弥生子 市民局窓口サービス課担当係長 1 事業をはじめたきっかけ  「昨日の嵐、すごかったね」  そんな会話で始まる朝は、「街区表示板が壊れているので撤去して」、「風に吹かれて、街区表示板が落ちていた。預かっているから、取りに来て」という市民の方からの通報の電話が多くなります。この街区表示板は、市民局窓口サービス課が管理をしており、通報をいただくたびに、職員が現地に赴いて回収し、その後、必要な場所へ設置するための業務を民間事業者へ委託していました。「通報をいただいてから対応する」というのは、後手に回った管理方法であり、計画的に街区表示板を管理していくことが課題となっていました。 2 街区表示板とは  街区表示板は、電柱や塀などに設置している青いアルミ製の板で、市内に約69,000枚あります。区名や町名、街区番号などが書かれており、住居表示や区画整理などの事業実施後、住所を分かりやすくするために設置しています。現在は、GPS機能を使えば、見知らぬ土地でも目的地へ到着することができるようになりました。しかし、災害時などにライフラインが途絶え、インターネットでの検索ができなくなってしまうような状況の場合、街区表示板は現在地を特定するための案内を果たしてくれます。住所が分かりやすいのは、誰にでも分かりやすい街になります。街区表示板は、災害にも強い街づくりのためのツールの一つです。 3 取組の試行に向けて  計画的な管理手法を検討していたところ、「健康福祉局がまとめた障害者施設からの優先調達の実績」の中に解決のヒントがありました。交通局がバスターミナル駅での清掃を障害者施設と契約して実施している事例を参考に、平成27年度から街区表示板の点検・補修の事業検討を始めました。  業務内容としては、まず街区表示板が「適切な場所か」、「破損しているか」、「文字が見えるか」ということを確認します。そして、状況に応じて、街区表示板の「位置が低ければ、付け替え」、「破損していれば、撤去」、「文字が見えない場合はペン型の白ペンキで文字を塗る」といった作業を行うことになります。  障害者施設からの優先調達の担当課へ事業イメージを相談したところ、「興味を持ってくれる障害者施設がありそう。試行で実施を請け負ってくれる施設を探してみる」とのことでした。調整の結果、平成27年度は港北福祉授産所で試行的に事業を始めることになりました。  港北福祉授産所の施設長によると、「この取組は、屋外での簡易な作業なので気分転換と良い運動になるし、自分にもできたという充実感もあり、施設で働く方々が口々に楽しいと話してくれている。また、他の仕事が入って忙しくても、履行期限にゆとりがあるので、業務調整がしやすい」とのことでした。  そこで、この業務の特性として、「楽しみながら、仕事をしてもらえる」という点があり、また、市内には数多くの街区表示板の点検・補修の場所があることから、事業を拡大できる可能性があると考えました。また、この事業を通して、多くの方に障害者施設の存在を知ってもらい、地域の中で温かく見守ってほしいと思いました。そのため、作業場所のある町の町内会長へ事業説明に行き、町内会の掲示板にもチラシを貼り、点検・補修作業の実施の周知に御協力をいただきました。  二年目の平成28年度には、港北福祉授産所へ作業を委託するとともに、南区にある障害者施設「あいの木 きょうしん」で、試行を行いました。 4 二年目の大きな変化  平成28年度、障害者施設「あいの木 きょうしん」にとって、「街区表示板点検・補修」の作業は一年目。施設長の関根氏のリーダーシップのもと、作業場所へ施設の方々を引率し、点検・補修をしていました。慣れない作業でも、一生懸命に仕事をしていましたが、作業に従事した方々からは、「作業が大変」、「難しい」との感想を聞きました。  平成29年度、二年目の様子は、一年目と違い、施設で働く方々に大きな変化がありました。例えば、一年目は、施設長の関根氏が作業場所へ連れて行っていましたが、二年目は施設で働く方々自身が地図を見ながら目的地を探し、作業の種類(文字の白塗りや撤去、付け替え)を判断しながら、作業中の声かけなどを率先して行っていました。つまり、一人ひとりの得意な分野を分担して行うようになっていました。また、関根氏に伺ったところ、当日の作業内容をまとめる報告書も施設で働く方がパソコンで作成しているとのことでした。  このような状況になるまでには、施設側の支援や見守りがあってのことですが、障害者施設の方々自らが考えて作業する自主性が育ち始めました。そして、二年目は「仕事が楽しい」と笑顔で話してくれました。 5 全区展開に向けて  次の課題は、試行の結果を踏まえて、「広く事業を展開していくこと」でした。事業拡大に向けて、各障害分野の関係者会議に参加し、関心を持ってもらうために事業説明を行いました。その後、街区表示板点検・補修事業について、横浜市内全域で受託先となる障害者施設の募集をしました。そのときに、大変お世話になったのが、よこはま障害者共同受注総合センターです。同センターは施設の募集を一元的に行い、本事業と施設をコーディネートしてくれました。  また、市民局窓口サービス課では、障害者施設へ作業説明会を開催し、理解を深めてもらいました。併せて、各障害者施設が従事するエリアの町内会の会長へ事業を周知するチラシを掲示板へ貼っていただくように御協力をお願いしました。多くの方々の御協力をいただき、平成29年度は、市内で全区展開(18区19施設)することができました。 6 障害者施設へ発注するときは、事業を再構築してみる  今回の取組では、障害者施設への発注という手法を取り入れましたが、今後、障害者施設の受注を増やしていくには、業務内容の工夫(詳細は表1を参照)とともに、「試行による実施」がポイントになると思います。試行を行う理由としては、障害者施設に業務内容が適しているかどうかを検証することで、事業がスムーズに展開できるからです。  また、反復的な作業だけでなく、障害者施設の方々の判断を伴うものを業務として織り交ぜることが、仕事の領域を広げていくことになり、障害者施設の一層の受注実績の向上にもつながると思います。本業務も、「この街区表示板は撤去するか、しないのか」、「設置位置は、ここで適切か、不適切か」といった判断を当初は施設長が行っていましたが、業務に慣れていくにつれて、障害者施設の方々自らが行えるようになってくるケースが出てきました。 7 最後に〜地域の担い手として、皆が支え合っている  市内には、街区表示板を設置している町が約1,000。街区表示板の耐用年数は15年から20年であり、一年間に50町の点検・補修作業をしたとしても、約20年を要します。この事業は、横浜市にとっては、街区表示板を計画的に点検・補修し、適切に管理することができるようになります。障害者施設にとっては、履行期限にゆとりがあるので、他の業務との調整がしやすく、更なる効果として、チーム力や自主性が育つ可能性があります。また、地域にとっては、街区表示板の文字が見えやすくなることで、初めて来た方でも分かりやすい街になります。  最後になりますが、街の中で、作業している様子を見かけましたら、同じ地域で暮らす一人として、是非、「ありがとう」、「おつかれさま」とお声かけをお願いします。地域は、多種多様な人々で構成され、皆が地域の担い手の一人ひとりとして支え合っています。街区表示板の点検・補修も、住所の分かりやすい街づくりの一環として、障害のある方々に支えられています。この業務を通して、一緒に仕事ができることに感謝の気持ちでいっぱいです。