C障害者との協働による災害時要援護者支援啓発活動について 執筆 大木 桂子 港南区課長補佐(高齢・障害支援課高齢・障害係長) 嶋 美穗子 港南区課長補佐(福祉保健課運営企画係長) 粟竹 史明 泉区こども家庭支援課学校連携・こども担当課長(前 港南区高齢・障害支援課福祉保健相談係長) 1 はじめに  近年発生した東日本大震災や熊本地震などでは、災害時における高齢者や障害者といった、いわゆる要援護者への支援が課題となっています。  本市でも、災害時要援護者支援の取組として、要援護者名簿を地域の支援者と共有しながら、日頃からの声かけや見守りを行い、いざというとき「向こう三軒両隣」の精神で助け合うという施策が展開されてきました。  港南区では、要援護者の中でも特に「障害者への支援」を中心テーマに設定し、平成26年度から支援策を検討する「港南区プロジェクトR(レスキュー)」を立ち上げました。本稿では、発足の経緯からこれまでの取組、今後の方向性について述べたいと思います。 2 プロジェクトR発足まで  平成25年度の「区づくり自主企画事業」(※1)で「災害弱者への見守り向上」をテーマとして、@高齢者、障害者向けの情報提供対策、A地域・行政・専門的施設の連携策、B災害弱者対応マニュアルの作成を検討しましたが、具体的な取組には至りませんでした。そのような中、港南区防災対策連絡協議会において、メンバーである聴覚障害者協会代表から聴覚障害者に対する災害情報伝達の仕組みづくりや、当事者及び手話サークル等を交えたワーキングの開催の要請がありました。  そこで、平成26年度に関係課で協議し、当事者やそのご家族、障害者支援施設等の関係者を交えた、聴覚、視覚、知的、肢体、精神などの障害特性に応じた支援策を検討するプロジェクトを立ち上げることにしました。  港南区障害者団体連絡会に趣旨をご説明し、当事者及びご家族から参加メンバーを選出いただき、11月には第1回港南区プロジェクトRを開催しました。会議では、行政への要望を出す場ということではなく、それぞれができることを考え、行動していく場であることを確認しました。 3 プロジェクトRの取組  本プロジェクトは、港南区の障害者団体、特別避難場所に指定されている施設(障害者地域活動ホーム、障害者支援施設、地域ケアプラザ)、港南区社会福祉協議会、区役所により構成されています。  平成26年度の立ち上げ以降、多くの区民に障害への理解を広げ、災害時だけでなく日頃からの交流のきっかけとなるよう、災害時の要援護者支援啓発パンフレットの作成・配布や、地域防災拠点での障害者支援訓練実施を呼びかけ、毎年、いくつかの拠点で実施していただいています。 (1) 平成26年度  まずは、プロジェクトのメンバーで現状の防災施策(@区防災計画における要援護者の避難の仕組み、A区災害対策本部援護班の活動、B特別避難場所の状況)を共有し、平成27年度に@災害時要援護者支援の啓発ガイドブックの作成、A要援護者も参加する地域防災拠点での訓練の実施に取り組むことを確認しました。 (2) 平成27 年度  障害者自身やそのご家族を対象とした「港南区災害時要援護者支援パンフレット障がい者編『地震に備えて私たちができること』」を作成しました。地震に対して日頃から備えておくことや、いざ発災したときに取るべき行動などについて、当事者やご家族の声が反映されており、共通事項と障害特性に応じた対応が具体的に記載されていることが特徴です。  また、6月の港南区地域防災拠点運営委員会連絡協議会では、当事者から各地域防災拠点運営委員長宛に障害者の参加可能な訓練メニューを検討いただくよう呼びかけをしました。このときは、芹が谷中学校の地域防災拠点運営委員会から手が挙がり、区役所が港南区障害者団体連絡会等の関係者をつなぎ、訓練内容をコーディネートしました。この拠点は、防災訓練に参加した聴覚障害の方から意見が出たことをきっかけに、運営委員として加わっていただいた経過があり、地域にお住まいの障害者の意見も踏まえた防災訓練にしようという思いのあるところでした。「障害者のことを知ってもらいたい港南区障害者団体連絡会」と「地域の障害者のことを知りたい地域防災拠点」とが協力し、単なる障害者支援訓練ではなく、お互いのことを知る、一方的に話を聞くだけではない、身近に感じられる体験型訓練にすることにしました。  具体的には、参加者を3グループに分け、20分ずつ、@視覚障害について、誘導する際の注意事項、A聴覚障害、知的障害について、コミュニケーションボードの使い方など、B身体障害について、車いす介助の注意事項など、の内容をローテーションをしながら説明しました。また、受付で支援を必要とする人は黄色のガムテープ、支援者は緑のガムテープを自身に貼り、それぞれの役割が分かるようにしました。当日は、芹が谷中学校と合同で訓練を実施し、生徒・地域住民と合わせて569人の参加となりました。「障害当事者・家族と地域住民や中学生が近い距離で向い合い話ができ、お互いに知り合うきっかけとなった」との感想が寄せられました(写真1)。  この取組は、東日本大震災災害シンポジウム「障害者支援をとおして被災地の現状と課題を知る〜災害時に備えた地域での取り組み〜」で事例の一つとして発表されるなどしました。 (3) 平成28年度  平成27年度と同様、港南区地域防災拠点運営委員会連絡協議会で障害者の参加可能な訓練を検討いただくよう、具体的なメニュー案(@要援護者の安否確認、受入、誘導、A特別避難場所への誘導、Bコミュニケーションボード等を用いた拠点内での情報発信、CHUG(避難所運営ゲーム)訓練の実施)を例示し呼びかけました。その結果、11か所の拠点で訓練を実施していただきました。  また、より多くの区民の方に災害時の要援護者支援の理解をしていただくために、啓発パンフレットの第2弾として「支援者編」を作成しました。「障がい者編」と同様、当事者とご家族の声が生かされており、障害の定義や種類について分かりやすく説明され、障害の特性と災害時に支援いただきたいことが障害ごとに記載されています。表記は障害者となっていますが、支援の内容は要援護高齢者にも参考になるものとなっています。そして、日頃から隣近所との関係づくりが大切なことにも触れています(写真2)。  さらに、平成27年度に作成した啓発パンフレット「障がい者編」の音訳CDを作成し、区内在住の視覚障害者約400人に郵送しました。 (4) 平成29年度  啓発パンフレット「支援者編」を地域防災拠点運営委員会連絡協議会で説明し、各地域防災拠点に配布しました。また、区連合町内会会長連絡協議会、民生委員児童委員協議会等でも説明、配布しました。その内容が大変分かりやすいと好評で、地域のボランティア講習会のテキストとしても活用されています。問合せも多く、増刷をしています。  地域防災拠点訓練の取組も広がり、更に4か所の拠点で障害者が参加しやすい訓練が実施又は予定されています。また、各障害者団体の代表者が参加するだけでなく、各拠点エリア内にお住まいの障害者が訓練に参加できるきっかけにもなってほしいと、港南区障害者団体連絡会から個々に声かけをしています。一人では敷居が高く、なかなか訓練に参加できない障害者の背中を押すことにも取り組んでいます。 4 今後に向けて  以上、防災という多くの区民に発信できる機会を活用し、障害者についての理解を広げる「港南区プロジェクトR 」の取組を紹介しました。この取組がきっかけとなり、災害時だけでなく普段からの見守り支え合いにつながっていくことを願っています。  今後も同じ地域に暮らす住民としてお互いに知り合い、支え合う関係づくりの一歩として、パンフレットや防災訓練を通し、より多くの方々に働きかけていきます。  地域防災拠点のある運営委員が、「目指す姿は、障害のある方が普通の訓練に普通に参加して、皆が一緒に災害時に備える地域」とおっしゃっていました。障害のある方が特別にアピールしなくても当たり前に参加できる地域になるために、地域の方々と協力しながらできることから地道に進めていきたいと考えています。 ※1 区づくり自主企画事業   身近な課題やニーズに、迅速かつきめ細かく対応するため、区役所が独自に企画し、自ら実施する事業。