B 障害者差別解消法に関する職員研修の取組 執筆 清水 晋 消防局人事課人事係 1 消防局の研修体系  横浜市消防局は、政令指定都市で最大の約3,600人の職員が在籍している。職員数が多く、職員の約8割が現場活動に従事する24時間交代勤務者であることを踏まえ、研修内容の浸透が十分に図られるよう、当局では、人権啓発研修の推進体制をより強固なものとするため、「消防局人権啓発研修推進要領」を定めている。そして、この要領に基づき、全責任職が「責任者補佐」や「指導者補助」等の役割を担う体制を構築するとともに、人権啓発研修推進委員会を設置し、当局の研修推進計画を策定している。  平成28年度の研修推進計画では、障害者差別解消法の施行を受け、同法に基づく職員対応要領の理解などを目的として、「障害児・者の人権」研修をテーマに掲げた。 2 平成28年度の実施状況  研修推進計画では、責任職によるグループ研修を主体とした「責任職研修」、消防署等の各所属単位で実施する全職員を対象とした「所属研修」を行うこととしている。「所属研修」は、各職員が人権問題を自分の問題としてとらえることができるように討議を行う研修を中心としている。  人権研修は全職員の受講を目標としているが、対象者に24時間の交代勤務者が多く、全員が同時に受講することが難しい中、研修を繰り返し行うことで、平成28年度は延べ157回約2,500名の職員が研修に参加した。  また、研修の内容については、業務の特殊性を考慮することが大切である。消防は災害や救急現場など、危険が切迫した状況下で障害のある方と接する可能性がある。そのため、災害現場や救急現場における障害者の方の行動特性等を考慮した消防活動のあり方、過去の災害現場での諸課題について検討を行うなど、職員がイメージしやすい内容とし、研修効果の拡大を狙った「所属研修」を実施した消防署もあった。  例としては、@「知的障害者の救助・救急事案」をテーマに外部講師を招き、知的障害の基礎的知識及び緊急時にどのような影響があるかを学び、障害のある方から症状を聴取する際など、災害現場においてご本人やご家族が不安を感じることのない対応について研修を実施したもの、A東日本大震災における障害のある人への避難情報や避難場所の状況を基に、本市の特別避難場所の役割等を確認し、障害のある人たちにとっての災害を考えたもの、などである。  障害に関する一般的な知識の習得のみでなく、自らの業務に照らした研修は大切であると考えている。研修内容の共有等も図っていきたい。 3 研修に関する情報の共有化  研修効果を高める方策として、消防局の職員共有ツールのイントラネット「AINET」も活用している。イントラネット内に人権啓発コースを開設し(図1)、関係通知や研修で使用した資料等を共有することで、研修に参加できなかった職員を含め、各職員が職場のパソコンで人権研修をいつでも受講することができる環境を整備し、効果拡大を図っている。 4 その他の取組  当局の災害現場等における聴覚障害者等への支援事業についても紹介しておきたい。  まず、聴覚障害者等からの119番通報に対して「eメール・Web119通報システム」を運用している。聴覚障害者等が事前に登録することで、携帯電話やインターネット端末からeメールやWebを利用して緊急通報が行えるシステムである。  また、災害現場では、現場に駆け付けた救急隊員等が聴覚障害者等から症状を聞き取る際に、円滑にコミュニケーションを図る方法として、コミュニケーションボード(図2)を活用している。  その他、平成22年からは健康福祉局が所掌する「横浜市救急手話通訳者派遣事業」を運用している。119番通報時や救急現場等において手話通訳者の派遣要請を受けた場合に、搬送先医療機関に手話通訳者を派遣し、聴覚障害者等の意思疎通を支援する制度で、119番通報→現場→搬送→医療機関の一連の流れにおいて切れ目のない支援を展開するものである。 5 おわりに  障害者差別解消法の目的は、障害の有無による分け隔てのない、共生社会の実現である。近年、全国各地で自然災害が多く発生しており、災害の規模が大きいほど、障害のある方を含む多くの方が被災する。このとき、被災した方の救助、支援活動には市民による共助が大切であり重要となる。したがって、消防局が所掌する事業における合理的配慮のほか、市民への啓発活動が必要であると考える。  緊迫した災害、救急現場においても、市民の皆様に「最高水準の消防サービス」を提供するため、消防のプロとしてどのように行動すべきか、今回の研修を通じて改めて考え直すきっかけとなり、人材育成の視点からも意義のあるものとなった。