コラム 障害者差別解消法の制定経過について 健康福祉局障害企画課企画調整係  宍戸 太郎 1 概要  障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。)は、2016年(平成28年)4月1日に施行された。  障害者差別解消法は、2011年(平成23年)に改正された障害者基本法第4条に規定された「差別の禁止」を具体化したもので、それが遵守されるための行政機関や事業者による具体的な措置等を定めることによって、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的としている。(引用:内閣府政策統括官通知「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の公布について」)  この法律の制定の経過は次のとおりである。 2 制定の背景と経緯 ◆障害者の権利に関する条約  「障害者の権利に関する条約」(以下「障害者権利条約」という。)は2006年(平成18年)12月の国連総会本会議で採択され、2008年(平成20年)5月に発効した。この条約は、障害に基づくあらゆる差別の禁止や障害者の尊厳と権利を保障することを定めている。  ここでいう差別とは、直接的な差別だけではなく、過度な負担ではないにもかかわらず、障害者の権利確保のために必要な適切な変更や調整である「合理的配慮の提供」を行わないことも含まれている。  障害者権利条約の締結に向けては、条約に関する諸提案について検討するため、全ての国連加盟国及びオブザーバーに開かれた特別委員会(アドホック委員会)が設置された。  条約の起草に関する交渉は、政府のみで行うのが通例であるが、このアドホック委員会では、障害者団体も同席し、発言する機会が設けられた。それは、障害当事者の間で使われているスローガン「“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」にも表れているとおり、障害者自身が主体的に関与しようとの意向を反映し、名実ともに障害者のための条約を起草しようとする、国際社会の総意でもあった。(引用:外務省ウェブサイト  http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol109/index.html) ◆障がい者制度改革推進本部・障がい者制度改革推進会議  日本では、政府が2007年(平成19年)9月に障害者権利条約に署名を行ったが、障害者権利条約では、締結国に対して効果的な施策を実施するために、国内法の制定や改正を行うことなどを求めていたため、締結に必要な国内法制度の整備などを集中的に行うこととし、内閣に「障がい者制度改革推進本部」が設置された。更にその下で、障害者施策の推進に関する事項について、障害当事者、学識経験者等からなる「障がい者制度改革推進会議」が開催され、2010年(平成22年)1月から計14回にわたり議論が行われた。  政府は、その内容を踏まえて、同年6月29日に「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」を閣議決定した。閣議決定された基本的な方向において、障害を理由とする差別の禁止等について検討し、新たな法律の制定を目指すことになったことを受け、その検討を効率的に行うため、2010年(平成22年)11月からは推進会議の下で「差別禁止部会」が開催された。 ◆差別禁止部会・障害者政策委員会  差別禁止部会では、「障害を理由とする差別を禁止する法制」の成立に向けての検討が行われた。諸外国の法制度についての確認や、法の必要性、差別のとらえ方やその類型といった大枠の議論を踏まえ、雇用・就労、司法手続、選挙、公共的施設及び交通施設の利用、情報、教育、日常生活(商品、役務、不動産)、医療の各分野について検討され、2012年(平成24年)3月には論点の中間整理が行われ、その後、ハラスメント、欠格事由、障害女性等の課題や差別を受けた場合の紛争解決の仕組みのあり方について検討がなされた。さらに、「障害者基本法」が改正されたことに伴い、推進会議の機能を発展的に引き継ぐものとして、同年7月に障害者政策委員会が発足したことから、法のあり方の検討の場も推進会議から政策委員会へと移された。  新たに障害者政策委員会の下に設置された差別禁止部会では、これまでの部会での議論も踏まえて4回の議論が行われ、同年9月14日に差別禁止部会としての意見が取りまとめられた。 ◆障害者差別解消法の成立  障害者政策委員会の意見を踏まえ、政府は法律案を作成し、同法案は2013年(平成25年)4月26日に閣議決定され、第183回通常国会に提出された。その後、5月29日に衆議院内閣委員会で、同31日に衆議院本会議でそれぞれ可決された。続いて6月18日に参議院内閣委員会で、翌19日に参議院本会議でそれぞれ可決され、原案のまま障害者差別解消法が成立し、同26日に公布された。  その後、周知期間を経て2016年(平成28年)4月1日に施行され、現在に至っている。  なお、法案の成立を受けて、日本では障害者権利条約を2014年(平成26年)1月に批准、2月に発効した。同条約は2017年(平成29年) 4 月現在、173か国が批准している。