鶴見川流域ネットワーキング 鶴見川流域ネットワーキング(以下、「TRネット」)は、バクの姿の鶴見川流域地図を共有しながら《安全・安らぎ・自然環境・福祉重視の川づくり・まちづくり》を目標に、1991(平成3)年から市民団体としての連携を始めました。2003(平成15)年には持続可能な活動を目指し、連携鶴見川流域ネットワーキング(略称:連携TRネット)と特定非営利活動法人鶴見川流域ネットワーキング(略称:npoTRネット)を再構築し、二つの組織の協働で活動を推進しています。現在、鶴見川流域で活動する連携TRネットの参加団体は40団体、そのうち、横浜市内では23団体が参加しています。 流域視野の交流・学習・実践コミュニティの日常活動を通じて、河川環境の整備・保全、流域の健全な水循環の回復、水と緑のネットワークの保全・再生等に貢献し、水と緑・歴史・文化を軸としたまちづくり及び水辺等を利用した環境教育、市民・行政・企業間の多彩なパートナーシップ(協働)を工夫・促進しています。環境活動が地域で継続して行われることを目指した環境防災学習講座「港北水と緑の学校」は、20年以上にわたりnpoTRネットと港北区との協働により実施されています。2026(令和8)年1月には、流域の治水や生物多様性に貢献する活動が評価され、国土交通省より「グリーンインフラ大賞『GREEN×EXPO賞』」を受賞しました(鶴見川源流ネットワーク・町田市との共同受賞)。 ●鶴見川流域ネットワーキングからのひとこと 未来を開く新しい流域文化の育成を推進し、流域市民団体の交流・連携活動(ネットワーク活動)を持続可能としてきました。 この連携はTRネット内だけに留まらず、地域団体、学校、行政や企業へと連携を広げ、新しい活動や事業も創出してきました。例えば、港北区区政70周年記念事業として作成した学習冊子は、TRネットのサポートでより充実した学習資料に仕上がり、水と緑の学校事業に提供したり、公共施設での配布へと有効に発展させました。さらに、応援企業を探し増刷の支援を受け、持続可能な活動へと道を開きました。 市民団体との連携の30年以上の歳月は、多様な主体との連携を有効に発展させ、持続可能な活動へと育て、社会に貢献する流域文化を創出してきたと実感します。 事業予算(収入)の減少・労務環境の変化などは、TRネットの事業継承を難しくもしています。この大きな分岐点を乗り越える知恵は、多様な主体との率直な意見交換と未来への柔軟な視点から見出されると信じます。これからも時代をけん引できる、主体でありたいと願っています。 ●interview 鶴見川流域ネットワーキング 亀田佳子 理事 (事務局) 阿部裕治 さん ―最初に、鶴見川流域ネットワーキング(以下、「TRネット」)の団体の概要や活動内容についてお聞かせください。 亀田:TRネットは1991年に鶴見川の流域でつながる市民団体が連携した任意団体としてスタートしたのちに、2003(平成15)年に事務局がNPO法人格を取得して独立し、npoTRネットと連携TRネットの協働活動として現在に至ります。 私たちの活動場所である鶴見川は、東京都町田市北部に源流を持ち、多摩丘陵や下末吉台地を流れ下り、横浜市の鶴見区生麦から東京湾に注ぐ一級河川です。長さはフルマラソンの長さとほぼ同じの42.5キロメートルあり、流域は市街地率90%、200万人の市民が暮らしています。降った雨が鶴見川に流れ込む大地の広がり「流域」の形が、動物のバクの形に似ていることから「鶴見川流域を象徴するのにバクのキャラクターを用い、イベントや活動の際にも「鶴見川流域はバクの形!」と伝えています。 主な活動内容は、国土交通省京浜河川事務所との協働により鶴見川流域の水辺や緑地の多自然川づくり、市民参加のクリーンアップ、企業と連携した工場ビオトープの整備活用、鶴見川流域センターの管理運営、鶴見川の自然や環境の基礎調査、鶴見川流域の各施設と連携したスタンプラリー、学校やこどもの環境・防災学習支援など多岐にわたります。   ―鶴見川が持つ自然環境、生きものの多様性の魅力を伝えることに加え、TRネットでは、河川対策や下水道対策、流域対策で構成される鶴見川流域総合治水についても広く市民に伝えています。市民向けの広報活動を展開する際に重視している視点についてお聞かせください。 亀田:団体としての活動を始めた当初は、大人をターゲットにした広報活動を手掛けていました。ところが、洪水や汚染など、鶴見川にしみついてきたイメージを払拭することは簡単ではなかったのです。そんなタイミングで、港北区役所から「港北水と緑の学校」への協力要請が私たちにあり、太尾小学校をモデル校に指定。まずは年4回の講座を鶴見川探検クラブを対象に実施しました。 港北水と緑の学校では、鶴見川や早淵川、矢上川に児童たちが入って生きものを採取。採取した生きものの解説を聞く、といった講座を行っています。こどもたちのリアクションや感動の声は言うまでもありません。この頃から、私たちの広報ターゲットはこどもたちへ変わりました。 こどもたちをターゲットにした活動は、直接、自然環境の魅力や感動をこどもたちが感じるだけでなく、こどもを介してその感動が親御さんや祖父母の皆さんにも伝わり、結果として大人の意識を変えていきます。こどもひとりから、2人の親、4人の祖父母へと広がり、とても効果が高いのです。 この際に注意しなければならないのは、安全性の確保です。河川管理者である行政が水辺に安全に近づける親水スペースを整え、そこに私たち市民団体による自然資源の管理やサポートが加わることで、こどもたちが鶴見川の生きものと触れ合える環境が整備されます。私たちはこれを「水辺・緑の感動の三角錐の考え方」と呼んでいます。 ―港北区が区の事業として「港北水と緑の学校」を開始したのは2004(平成16)年度。npoTRネットとは、2015(平成27)年度まで委託契約、2016(平成28)年度から協働契約になり、以後20年近くにわたり、継続して事業を行っています。この間、水と緑の学校に参加した生徒は約26000人にのぼります。開催された講座は306回、参加した小学校は累計で266校となり、多くの小学生が水と緑の学校に参加したことがよくわかります。この積み重ねた実績をどのように捉えていますか。 亀田:正直なところ、水と緑の学校を始めた当初は、これほど長い期間にわたり続けられる事業になるとは思っていませんでした。参加したこどもたちや小学校からの高い評価ももちろんありがたいのですが、何より、港北区区政推進課の職員のみなさんが、水と緑の学校の狙いや意義をよく理解し、賛同してくれたのです。 担当職員の中には、事業に立ち会うだけでなく、こどもたちと一緒に鶴見川に入り、魚とりや生きもの観察に参加してくれる方もいました。区役所職員が、私たちと目線を合わせ、事業を体感し、その感覚を区役所に持ち帰ってくれたことが大きいのではないでしょうか。 阿部:2006(平成18)年度から事業に関わっていますが、当初のアンケートでは鶴見川のイメージを訊ねると、「生きものが少ない、汚い、ごみが多い」といった意見が圧倒的に多かったです。最近のアンケートでは、「魚がいっぱいいる、綺麗な川」といった回答が多くを占めるようになっています。港北区で暮らす市民の皆さんの鶴見川の印象は、この20年で相当変わりました。 毎年水と緑の学校に参加する小学生は1000~2000名ほどいて、昔参加した小学生が中学生になり、鶴見川の活動に参加してくれることもあります。鶴見川への愛着は地域に着実に広まっています。 こどもに自然体験をさせるためには、遠くの自然度の高い森や透き通るような川まで連れていかなければと大人は思いがちですが、足元の自然も十分豊かであり、そこから感動も得られる。このような視点も大事だと思います。 亀田:親水広場や整備された護岸など、港北区には、こどもたちが鶴見川に入りやすい条件が揃っていて、新横浜には多目的遊水地も整備されています。私たちは、この環境を生かした環境学習を続けています。 ―「ふるさとサポート事業」や「地域のチカラ応援事業」など、行政の支援を上手に活用しながら事業を続けている印象です。行政、特に港北区役所からの支援についてはどのように捉えていますか。 亀田:補助金自体が団体の活動に大きなプラスであることは間違いありませんが、行政の支援には金額以上の効果、価値があると捉えています。 市民団体は、自分たちの活動に取り組むことに注力しすぎて、他団体とのつながりや関係づくりにまで意識が回らないのですが、補助金審査に絡めて開催される交流会や報告会に参加すれば、他の団体とも知り合い、つながることができる。TRネットは環境学習や環境保全に取り組んでいる団体ですが、他の分野、例えば、地域の居場所を提供している団体や映像編集に取り組んでいる団体とつながり、協働や連携に結びついた事例もあります。行政からの30万円の補助金から、新しい活動の芽を育て、多様なネットワークの構築につながりました。補助金の価値を10倍、100倍にできたと思っています。 そのほか、補助金の申請書類の書き方やコツを職員の方が丁寧に教えてくれたため、企業補助金への応募書類がスラスラと書けるようにもなりました。 ―鶴見川で暮らす魚やカニ、鳥などを紹介している冊子「生きもの図鑑」は、企業と連携しながら発行し続けています。 この図鑑の発行に港北区役所が一役買っているそうですね。 亀田:生きもの図鑑の発刊は、2009(平成21)年の港北区制70周年事業としてnpoTRネットが港北区役所から受託したことがきっかけとなりました。私たちが初めて鶴見川の生きものを紹介した図鑑です。この図鑑は、配布した小学校や児童たちにも大変好評でした。 初版を行政からの受託事業として発行できたので、図鑑そのものへの信頼度が高まりました。NPOが独自に図鑑を作成しても、小学生への配布にまで協力を得ることは難しいのですが、区役所と協働の環境教育の取組としてなら配ってもらえます。 企業協賛をお願いしに回ったときも、港北区役所の信頼度の高さを感じました。鶴見川といっても42キロあるので、エリアによって暮らす生きものは変わります。協賛いただく企業の所在地に応じて掲載する生きものを変える、企業紹介の仕方にも工夫を加える、そんなことを繰り返しながら発行を続けています。最初からここまでを意図していたわけではなく、事業を進める中で、私たちの思いに共感してくれる、様々な団体や企業とつながることができたと思います。 ―2010年代には、国際技術協力として、フィリピンのイロイロ市を対象にしたコミュニティ防災事業、スリランカのコロンボ市・ゴール市を対象にした生物多様性の環境学習プログラムの提供に参加されています。国際協力で得られた経験や財産についてお聞かせください。 阿部:イロイロ市には、コミュニティ防災の技術協力で活動に参加しました。横浜を流れる鶴見川と洪水に悩まされているイロイロ市の河川と、河川つながりから参加した技術協力でしたが、現地の川には衛生環境や感染症のリスクがあることがわかり、取組内容を変更。水害の痕跡をマップにまとめるワークショップを開催しました。スリランカのコロンボ市、ゴール市も同様で、河川に入っての活動は難しいことがわかりプログラムの内容を見直しました。現地校からは、地球温暖化や環境汚染に関する学習プログラムを展開してほしいと言われましたが、そういった内容では、こどもたちの地球環境への危惧や恐怖心を煽るだけになってしまう。そこで、テーマを生物多様性に変更し、小学校の校庭や近隣にいる生きものをこどもたちが自分で探し、特徴や社会的な効用を調べ、生きもの図鑑にまとめることになりました。スリランカでも、コロンボやゴールのような都市部に暮らすこどもたちは座学中心の知識を詰めこむ学習に忙しく、自分たちの身近にある自然環境に目を向ける機会が少なかった。この機会の提供をTRネットが担わせてもらったのです。 我々は、スリランカにいる昆虫や生きもののことは教えられませんが、環境学習への取り組み方は伝えられる。こどもたちはもちろん、身近な自然環境から環境問題のことを考える方法をスリランカの学校に紹介できたことは大きな成果だと思っています。水と緑の学校が大事にしている足元の自然環境の豊かさをこどもたちに伝えるという活動の意義を海外の諸都市にも示せたことで、鶴見川をフィールドにした私たちの日頃の活動の価値の再認識につながりました。 ―着実な活動、数十年にわたる活動、行政や企業との連携や協働が積み上がったことが、現在の鶴見川のイメージにつながっていると思います。かつては洪水や浸水が発生していた鶴見川も、総合治水(現在の流域治水)の成果から、1982(昭和57)年の大水害以降、大きな水害に見舞われていません。水質も良くなり、現在ではアユやウナギも生息しています。今後の展望についてお聞かせください。 阿部:環境学習ではこどもの年齢や成長段階に応じて、伝える内容を変えていく必要があります。例えば、水と緑の学校の対象となっている小学校4年生であれば、テキストや資料を通じて地球温暖化による影響や自然環境保全の必要性を覚えてもらうよりも、地元に流れている鶴見川には魚やカニが暮らしている、そのことを体感で覚えていることのほうが重要です。 鶴見川で楽しい体験をしたこどもたちが大人になったときに、河川を流域で捉えられる人になっている、風水害のことも考えて備え、行動できる人になっている、生きものが暮らしている環境の大切さをこどもに伝えられる、そんな文化を作りたいと思っています。そのためにも、水と緑の学校のような取組を地道に続けていくことはとても大事なことだと思います。 亀田:これまで30年以上にわたり団体を続けてこられたのは、連携している団体とNPOが地道な活動を続けてきたことと、TRネットのミッションを共有した役員がいたおかげです。TRネットの役員も年齢が高くなってきているので、ミッションに共感し、一緒に取り組んでくれるような方を見つけたいです。 私たちは「足元の自然の素晴らしさをこどもたちに伝える」「こどもを地球とつなげる」といった理念を大切にしながら活動を続けてきました。自分たちの活動や行政や企業と連携した取組を続けてきたことで、鶴見川のイメージを変えたいと思っていた私たちの目標はおおむね達成できています。自分たちでも出来過ぎなぐらいだと思っています。 日々、目の前の活動に集中していると気づきませんが、今回のインタビューをお受けしたことで、改めて、私たちの活動が成果として形になっていることがよく理解できました。流域治水の優れた成功事例が全国に、更には世界へと広まってくれたら嬉しいですね。 (インタビュー実施:2025(令和7)年7月31日) 【関連する事業・取組】 ■港北区「港北水と緑の学校事業」■ 港北区内の市立小学校を対象に、授業の中で、鶴見川流域の自然環境と防災等について学習する体験型の環境防災学習講座で、おおむね5月から10月に実施しています。講座では鶴見川での魚とりや生きもの観察等を行うことで、自然環境を大切にする心を養います。また、かつて暴れ川と呼ばれた鶴見川の流域における治水対策も学び、児童が地球温暖化対策について考える機会となっています。毎年1000人ほどの児童が参加する環境学習プログラムで、多くのこどもたちに、身近な自然環境の素晴らしさや価値を伝えています。 ■港北区「港北ふるさとサポート事業」■ 港北区では、このまちに住んで良かったと思えるふるさと港北づくりのために、地域の課題解決や魅力づくりを行う活動グループをサポートする仕組み「港北ふるさとサポート事業」を実施していました。 連携TRネットに参加している綱島バリケン島プロジェクトは、当該事業の支援を受け、実施していました(当該事業は、既に終了しています)。 ■港北区「地域のチカラ応援事業」■ 港北区では、地域の課題解決や港北区の魅力を高めるために「地域のチカラ応援事業」を実施しています。市民活動団体が自治会町内会と連携して実施する事業に補助金を交付する「連携コース」、港北区役所の後援名義の使用ができる「パートナーシップコース」があります。 綱島バリケン島プロジェクトはnpoTRネットのサポートを受けつつ、当該事業により持続可能な地域活動に発展させることができました。 ■国際局「イロイロ市におけるコミュニティ防災推進事業」■ 国際局がフィリピン国イロイロ市において取り組んできた防災分野での国際協力事業。実施期間は、2012~2016(平成24~28)年度。 複数の河川が流れ、頻発する台風や洪水に悩まされてきたイロイロ市への国際技術協力に、鶴見川の氾濫対策や住民と協働した災害対策に豊富な知見を持つ横浜市とシティネット横浜プロジェクトオフィスが協働して取り組みました。JICA草の根技術協力事業のもと、行政のみならずNPO法人や企業も連携した国際技術協力に、npoTRネットも参加しました。日本での受入研修に協力したほか、イロイロ市へ渡航し、河川についての環境学習ワークショップを実施しました。 ■市民局「市民協働推進センター事業」■ 市民局では、市域における市民公益活動・市民協働の推進のため、総合相談窓口のほか、連携・協働に向けたコーディネートや伴走支援、交流連携の場づくりや事例発信、各区市民活動支援センターとの連携等を行う市民協働推進センターを運営しています。 npoTRネットは、同センターが実施するセミナーやフォーラムに登壇し、行政や企業と協働しながら事業を進める際の考え方や留意点などを広く、市民活動団体に紹介しています。