【コラム】 データを市民の皆さんと共有し、よりよい生活につなげよう 横浜市立大学データサイエンス学部 学部長 岩崎 学 ◆市民生活白書の意義 市民生活白書は、横浜市の持つ様々な統計データを分かりやすい形にまとめることにより、横浜市の現在を目に見える形にして市民の皆さんにご覧いただくものです。もっとも、データを単に見るのが目的ではなく、それを活用して市民の皆さん一人ひとりが自分たちの街について考えたり、行政と市民が協働・対話したりする際の基盤となって、よりよい生活につなげることがその役割です。 今回の白書では、人口や世帯などの基礎的なデータに加え、横浜市の特徴ともいえる観光をはじめとする各種産業に関すること、および子育てや健康に関する事柄などの市民生活における様々な側面が分かりやすく解説されています。特に、年代ごとの「活躍」に焦点を当てての記載は、読んでいて自分自身とても励みにもなるものでした。横浜市民の皆さんの意識の高さと各種活動への積極性を感じます。 ◆よいデータとその有効な利活用 私の専門は統計学です。統計学で最も大事なものは当然よいデータですが、ではよいデータとはどういうものなのでしょうか。データは現実を映す鏡であると言われたりします。現実を映す以上、それが歪んでいたり偏りや抜けがあったりしてはなりません。そうならないようデータを取る側の担当者は、自らの責任を自覚して最大限の努力をする必要があります。それと同時に、データの収集に対する市民の皆さんの協力も大切です。 昨今、各種調査への協力がなかなか得られないという話も聞きます。自分がある調査の調査対象となった場合、その調査に協力しないということは、その人のデータが得られないだけではありません。たとえばある人が[二十代の男性で勤続三年目」で調査に協力しなかったとしますと、その人個人だけではなく「二十代の男性で勤続三年目」である多くの人達のデータが得られないことになります。 最近、データに基づく政策決定の重要性が叫ばれています。その際、政策決定の基礎となる統計データに「二十代の男性で勤続三年目」が含まれないと、その人たちの不利益につながらないとは限りません。もちろんそうならないように為政者はさまざまな工夫をすることになりますが、限界もあります。 ところで、データがよければそれでよしとするものではありません。それを日々の生活に生かしてこそ「データが活きる」といえるでしょう。その際、データがすべてではないことも念頭に置く必要があります。私は大学の教員ですので、学生の成績評価の際に、試験やレポートの点数などのデータを用います。しかし、日々学生に接していると、試験の点数などの客観的な数字としてのデータでは表現しきれない積極性といった学生個人個人の特徴が分かります。学生の成績はなるべく客観的なデータに基づいて行っていますが、学生指導に当たっては、データとしては現れない部分も考慮して事に当たることが多くあります。データがすべてではなく、その限界を知ることもデータを活かす手立てです。 ◆横浜市と横浜市立大学との連携 横浜市立大学は、2018年4月に、データの重要性にいち早く着目して全国に先駆けて首都圏初となるデータサイエンス学部を発足させました。その後も全国のいくつかの大学で同じような動きがありますが、まさにデータの重要性とともに、有効に活用していくための人材が必要とされているということなのです。データの活用が社会の中で生かされるためには、高度な教育による専門性だけでなく、データを分析した結果や事業による効果や予測などをわかりやすく伝え、一緒に考えていくことのできることが大切だと思います。 横浜市立大学は、公立大学として地域連携をその活動の柱の一つに置いています。その一環として横浜市との間で2018年5月に「データ活用に関する包括連携協定」を締結しました。今後様々な形で協力しデータの利活用を進めていく体制作りが始まっています。 ◆これからの横浜市 私が横浜市でこれまで統計家の一人として活動してきて感じたことは、市民の皆さんの意識の高さです。市の職員の方々に加え、市民の皆さんの取組を実際に目の当たりにしてきました。これからも、産官学民が協働してより良い社会を作っていきましょう。