広報よこはま3ページ OPEN YOKOHAMA 2019(令和元)年12月号 No.850 ○人権特集 −12月4日〜10日は「人権週間」です−  誰もがいきいきと暮らせるよこはまを目指して  法務省が毎年度実施する「全国中学生人権作文コンテスト」の横浜市大会に、今年度は55,000作品を超える人権作文の応募がありました。  その中から、「横浜市長賞」を受賞した作品を紹介します。 令和元年度人権啓発ポスターの写真  デザイン:横浜デジタルアーツ専門学校 蝦名竜太郎(えびな りゅうたろう)さん ◆最優秀賞「横浜市長賞」  病気と人権  横浜市立東山田中学校3年 野田 千尋(のだ ちひろ)さん  「ずっとこのままなのかな。周りからどう思われるのだろう。」  一年前、私は幼いころから患っている脱毛症が再発しました。脱毛症とはその名の通り体の毛が抜けることです。症状が進むと髪の毛だけではなく、体全体から抜けるようになります。私の場合は二年に一回ぐらいの周期で症状が出るのですが、去年の夏は特に症状が強く、頭全体から髪の毛が抜け落ち、誰が見ても抜けていることが分かる状態になっていました。思春期に入った私にとって、日が経つごとに自分の見た目に変化が起こることはとても苦しいものでした。会話中に人の目線が私の頭に行くこと。写真を撮りたくても強い抵抗を感じること。誰かが言った冗談すら、自分が言われているかのように傷つくこともありました。また、前に立つことが嫌でも、委員会の活動でどうしても前に立たなければいけないことが多かったり、今までは当たり前に参加していた体育の授業でも、なかなか積極的になれなくなったりして、辛くて学校に行きたくないと思う日が続きました。  それでも私が学校を休むことなく乗り越えられたのは、周りの人の何気ない言葉のおかげでした。「委員会頑張ってくれてありがとう。」という感謝の言葉。「いつもお疲れ様。」という励ましの言葉。「無理してない?大丈夫?」という気遣いの言葉。この一言一言にこめられた思いやりが私に寄り添い「明日もきっと頑張れる。」という希望を与えてくれました。そして何よりも、私には、私が時々自虐的なことを言っても「そんなことないよ、大丈夫。」と言ってくれる、小さなことにも気づいて「治ってきたね!よかったじゃん!」と声をかけてくれる友達や先生方、あまり話したことがなくても私を批判的に見ずに、むしろ私に症状がないかのように自然と接してくれる人がたくさんいました。そして、私がなるべくイヤな想いをしないようにと座席を後ろにしてくれた担任の先生のさりげない優しさや、私を心の底から思ってくれる家族の支えがありました。  私と同じ病気を患っている人は世の中にたくさんいます。きっともっと深刻だったり、病気が原因でいじめられ、学校に行けなかったり、周りの人に恵まれず誰にも相談できないまま苦しみを抱えている人もいると思います。他の病気だって同じです。私はこの脱毛症の経験を通して、そのような境遇にいる人の心境を少しでも身近に感じることができました。そしてそういった苦しみを抱えている人たちを少しでも救うことができるのは、私がたくさんの人からもらったものと同じ、思いやりだと思います。性別や年、知り合いかどうかは関係なく、その人の優しさや気遣いから成っていて、誰でも持つことができるのが思いやりです。  このような体験から、皆さんにお願いしたいことがあります。それは病気をもつ人に寄り添ってほしいということです。寄り添うというのも、側にいることだけではありません。病気について知ろうとすること。困っていたら手を貸すこと。話しかけてみること。様々なかたちがあります。これらのことは単純なことでもあり、同時に難しいことでもあると思います。傷つけたくないと思うから、どう接すれば良いか分からないから、そういった理由で避けてしまう人も多いと思います。しかし、避けてばかりでは何も生み出しません。勇気をもって一歩を踏み出し、その病気を知ることによって、やっとその人の内面にたどり着くことだってあります。人は病気によって差別されるべきではない。このことを多くの人が認識し、隔たりを少しずつでも縮めることができたら、よりたくさんの人の未来を明るくすることができるのではないでしょうか。  人権とは、人間が人間らしく生きる権利のことです。自分の思いや考えを自由に発信すること。不合理な差別を受けないこと。幸せや生きがいを追求すること。これらは全て人権に当てはまります。言ってしまえば私たちにとって当たり前のことです。でも本当にそれは「みんなにとって」当たり前ですか。忙しい毎日に流されて、他人は他人、自分は自分、と考えていませんか。私は脱毛症の経験を通して周りの人の思いやりがどれだけ支えになるのかを直に感じることができました。私自身もその支えになれるように忙しい日々の中でも少しずつ思いやりをもてる人になりたいと思います。あなたの少しの思いやりが誰かの大きな救いになります。そうして一人一人の思いやりが集まれば、お互いの人権が守られる、隔たりのない世の中になるのではないでしょうか。