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うどん屋に化けたきつね

最終更新日 2018年12月27日

民話「うどん屋に化けたきつね」の絵
うどん屋に化けたきつね

鶴ケ峰の町がまだ田や畑だった頃、この辺一帯の人々は、養蚕を現金収入の仕事としていました。

鶴ケ峰本町に住む青木徳八さんの三代前の市五郎さんは、まだ養蚕の仕事のめずらしかったころ、群馬の方から養蚕の技術を習ってきて、鶴ケ峰はもとより、隣の新治村(緑区)の方まで、養蚕の方法を教えに歩いていきました。

あるとき、いつものように、新治村へ教えに出かけた帰り道のことでした。村の人から土産にもらった魚をふところに入れて、中山をぬけ都岡村のはずれの割余まし(わりあまし)の山(白根町)へとさしかかりました。

この割余ましの山には、山いっぱいナワシロの花(浜大根の花)が植わっていました。当時村々では、ナワシロの花を畑に植えて田の肥料として使っていたのでした。日暮れ近くになって、市五郎さんは、ナワシロの花が人間の丈ほど高く咲きほこるあぜ道をかきわけて歩いていきました。薄やみの中にぽっかりと月の光が白い花々をてらして、それは不思議な雰囲気がただよい始めていました。

市五郎さんは、いままで暗くなってから、この道を通ったことはありませんでした。ですので、用心して歩いたつもりでしたが、どうやら、道に迷ってしまったようでした。わが家へ帰る道をさがして、ナワシロの中を夢中になって歩き回りました。そのうちに、腹はへってくるし、疲れるしで、何やら、深い川ん中を歩いているような気分になって、「オー、深え、オー深え!」と、ひとりごとをブツブツつぶやきながら、あたりをさまよい歩いていました。

それでも、やっとのことで、峠の坂道を上りつめ、「この坂道を下ってしまえば、じきに鶴ケ峰に出るに違えねえ。」と思いひと安心。道ばたの石の上に腰かけて、ちょいと一休みしているうちに、つい、ウトウトといねむりを始めてしまいました。

すると、何やらあたりがポーッと明るくなる気配がして、ふと、目が覚めました。びっくりしたことに、目の前に茶店があって、そのお店の明かりだったのです。

「アレ?こんなところに茶店がぁ…?それに、あったかそうな湯気とうまそうなにおいがただよってるぞ。こりゃあ、天の助けだ。何か食べ物にありつけるかもしれねえだ。」市五郎さんは喜び勇んで、「うどん」と書いてあるのれんをくぐりました。

すると、店の奥から美しい若い娘さんが出てきました。市五郎さんは、茶屋の娘さんに、「うどん、いっちょ!舌がやけどするようなやつを!」と、思わず声を掛けました。その娘は、ただ、黙って、湯気のたったうどんをたっぷりとどんぶりに入れてさしだしました。

市五郎さんは、「うめえ!うめえ!」と何杯もおかわりをして、うどんを平らげてしまいました。腹一杯になった市五郎さんは、いままでの疲れもすっかりとれて、元気いっぱいになりました。

そして、峠の茶屋の娘さんに何べんもお礼をいって、山道を下りました。そして、鶴ケ峰の家に着いたときには、もう朝になっていました。

家に帰って、家の者に、道に迷ってしまった話をして、新治村からもらってきたみやげの魚を取りだそうとしました。すると、ふところから出てきたものは、魚とは似ても似つかぬ、ミミズだったのです。

びっくりした市五郎さんは「ハテ?魚がミミズになってしまった!そうだ。やっぱり、あんなところに茶店があるはずがねえ!あんまり腹がへってたんでえ、きつねに化かされちまっただ。うどんだと思ってたらふく平らげたのあ、ミミズだったのか!」と、たいそうくやしがりました。

このようにして、市五郎さんという人は、その後も何べんもきつねに化かされることがあったそうです。

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