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夫婦(めおと)稲荷様の話

最終更新日 2018年12月27日

民話「夫婦(めおと)稲荷様の話」の絵
民話「夫婦(めおと)稲荷様の話」

鶴ケ峰本町に赤い小さな祠(ほこら)のお稲荷様があります。その昔、松五郎さんと呼ばれる人がここに住んでいました。

その松五郎さんの若者のころのお話です。当時の若者たちは、今のようにテレビもありませんし、車もありませんでした。昼、畑仕事を終えてから、夜になるのを待って、指笛を合図に仲間を集め、近郷近在を遊び歩くのが、唯一の楽しみでもあったのです。

松五郎さんはある日、いつものように夜遊びに出かけました。そして、仲間と別れた帰り道のことでした。

家の近くまで来ると、「ボチャーン!」という物音が聞こえました。どうやら、その昔は、「六つ塚」という屋号で呼ばれる家の井戸に何かが落ちたような音でもありました。けれども、遊びつかれてもいましたし、面倒くさいし、その晩はそのまま眠ってしまいました。

朝起きてみると、やはり昨夜の物音が気になって、井戸の中をのぞいてみました。すると、井戸の中に何やら白い物が浮かんでいるように見えました。長い棒でさぐりすくいあげてみると、それは白い狐の死体でした。松五郎さんは、「ナアーンだ。きつねだったのか。」と、大して気にもせず、そのままこのことは忘れてしまっていました。

それからというもの、この村には次々と不思議な出来事が起こるようになったのでした。それというのは、この近くの人々が若い奥さんを亡くすようになったのでした。だから、次から次へと男やもめが増えていったのです。

そこで村の人々は、「こりゃあ、きっと何かのたたりに違えねえ。」といって大さわぎになりました。村の人々はみんなで相談の結果、祈祷師に頼んで見てもらおうということになりました。

祈祷師が祈祷を始めると、そこに、霊がたちました。その霊は悲しそうに、「わたくしは鶴ケ峰のお稲荷様の守りぎつねです。いままで、この村のために一生懸命につくしてまいりましたが、あるときのことでした。わたくしたち夫婦は月がとってもきれいな晩でしたので、月に浮かれて遊んでおりました。そこへ、とつぜん、人間の男がとび込んできたのです。びっくりぎょうてんしたわたくしは誤って井戸の中へ落ちて死んでしまったのです。愛する夫を残してさびしく死んでいったわたくしのことを、だれひとりとして気づいてはくれませんでした。だから、わたくしのこの悲しみを村の人々にうったえるため、いろいろな悪さをしたのです。この村の若い女を次々と奪ったことは本当に悪いことでした。それでもまだ、村の人々はわたくしの心をわかってくれません。わたくしは、わたくしは…この村の人たちをうらみに思っています…。」と泣きながら、胸の思いを語ったのでした。

これを聞いた松五郎さんは、ハタと気がつきました。「そうだ、あのときの白きつねがそうだったのか。かわいそうなことをしてしまった。」と、つくづく自分の心なさを嘆き、女狐の霊を手厚く葬って、成仏を祈りました。

それからというもの、この村の不吉な出来事はパッタリとやんでしまったということです。

さて、この鶴ケ峰の山をはさんで帷子川があります。その向かいのこんもりとした森の中に、下今宿という村がありました。現在では、今川町と呼ばれているところです。

この二俣川村下今宿にも、やはり小さなお稲荷様がまつってあります。このお稲荷様の守り狐は妻を亡くした夫狐だそうです。

そのむかし、夜になると、鶴ケ峰の女狐と下今宿の男狐は、帷子川をはさんで「コーン、コーン。」とさびしく呼び合うなき声が聞こえたそうです。区役所わきの橋の上に立って、よく耳をすませてごらんなさい。あっちの山とこっちの山とで、お互いをしたいあって鳴く狐達の悲しいなき声が聞こえてくるかもしれませんね。

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