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下男に化けたきつね
最終更新日 2018年12月27日
民話「下男に化けたきつね」
これは明治の終わりのころのお話です。
白根の村には代々大高橋というたいそう古い大名主の家がありました。
あるとき、榎下(えのした)の圓光寺(えんこうじ)(緑区)というお寺で村の寄合いがあって、そこからの帰り道のことでした。夕方からの寄合いが終わったころですから、もう、あたりはまっくらやみになっていました。
大高橋の大旦那様は、山の中の道をお供も連れず、ただひとり、わが家へと向かって歩いていましたところ、前の方から、何やらあかりらしいものが近づいてきます。よおーく見ると、どうやら、自分の家の家紋の入ったちょうちんらしいのです。
「アッ、だれぞ、心配して出迎えに来てくれたのか?」そう思って、またよく見ると、ちょうちんを持った下男風の男の顔に見覚えはありません。
大旦那は、「おかしいなあ?たしかにあの紋は家の紋だが…。そうだ!このあたりは、よくきつねがでるっていわれとるところだ。もしかしたら…。用心!用心!」と、心の中でつぶやきました。
そして、大且那はその男が自分の前へ近づくのを見て、「オー、よく迎えに来てくれたな。ご苦労だった。わしは、ここらでちょっと一服してから帰るから、お前は、わしにかまわず先に帰っておくれ。」といってその男を帰してしまいました。
大旦那は、男が立ち去ったのを見とどけてから、ふところからタバコを取り出して、火をつけました。
すると、今まで、山の中だと思っていたところが、夜のとばりを透かしてキラキラと大池の水面が現われ出てきました。
「あっ、ここは、大池の池っ渕だったのか!あぶない、あぶない。すんでのところで、水ん中へ引っぱりこまれるところだった。やっぱり、昔の人がいうとおりだ。きつねに化かされたときにぁ、タバコの火ィつけると、きつねが逃げるってえ話は本当だったんだなあ…。」
こうして、とっさの場にも冷静沈着だった大高橋の大旦那は、無事に我が家にたどりつくことができました。
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