(1)近年の地価動向について
◇いざなぎ越え
地価は平成3年をピークとして15年も連続して下がり続け、ようやく都市部を中心に上昇に転じたのは、平成19年地価公示でのことでした。「いざなぎ越え」(※1) と言われた長期の好景気を背景に、東京、大阪、名古屋の三大都市圏の一部では 平成16(2004)年あたりから地価の上昇傾向が現れ始めていましたが、ここに来てその傾向が明確化したとされたのです。続く9月発表(平成19年7月1日時点)の神奈川県地価調査、翌年3月発表(平成20年1月1日時点)の地価公示でも、基本的に上昇傾向は続きました。(※2)しかしその上昇傾向も長くは続かず、翌々年の平成21年地価公示では、全用途で再び下落に転じました。
◇アメリカ発世界金融危機
平成19年後半のサブプライムローン問題に端を発する金融資本市場の混乱は日本経済に直接間接に広く影響を及ぼし、年度末には景気回復が足踏み状態となり、地価の持ち直し傾向に早くも陰りが見られるようになりました。(※3)日本の不動産投資市場から欧米の外国資金が撤退し資金調達環境が悪化、さらに、米国経済の景気後退、為替相場における円高、株価下落といった経済不安材料に、原油価格の高騰、建築資材コストの上昇も加わり、企業や個人の土地需要に大きな影を落とすことになったのです。
また、耐震偽装事件の再発防止を目的とする建築基準法の改正(平成19年6月施行)が行われ、建築確認申請手続きが厳格化されたことによる現場の混乱が同じ時期に重なったことが、建設投資に対する懸念材料とみなされ、一時的に建築着工数が激減、地価の減速傾向に少なからず影響があったと言われています。
◇東日本大震災
平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響により、不動産市場は一時的に停滞し、平成23年7月1日時点の都道府県地価調査では、被災地である岩手県、宮城県及び福島県では全体的に地価が下落し、津波により甚大な被害を受けた地域や原子力災害対策特別措置法により設定された警戒区域等に存する基準地については、調査地点の変更(選定替)あるいは調査を休止しました。また、液状化被害の大きかった千葉県湾岸部でも地価が大幅に下落しました。 平成24年1月1日時点の地価公示でも、被災地の下落傾向は続きましたが、一部被災地における土地への需要は被災の程度により差が見られるようになり、特に宮城県では浸水を免れた高台の住宅地等に対する移転需要が高まり地価の上昇地点も見られました。(2)最新の地価情報について(平成24年地価公示及び平成23年神奈川県地価調査結果)
最近の地価の動きの特徴として、かつてのように地価が一律に上がったり下がったりするのではなく、利便性や収益性が高い地点では地価が上がっているのに対し、利便性や収益性が劣る地点では引き続き下がっている、という「地価の個別化」の傾向が伺えます。
こうした構造変化の中で、最新の地価公示・県地価調査では以下のような動向が見受けられました。
◇平成24年1月時点 地価公示
最新の平成24年3月発表(1月1日時点)の地価公示では、「平成23年の一年間の地価は、リーマンショック後における4年連続の下落となったが、下落率は縮小傾向を示した。半年毎の地価動向を都道府県地価調査(7月1日の地価を調査)との共通の調査地点でみると、東日本大震災のあった23年前半(1〜6月)に下落率が拡大し、23年後半(7〜12月)に下落率が縮小した。大震災の影響により、不動産市場は一時的に停滞したが、被災地を除き、比較的早期に回復傾向を示している。一方、円高、欧州債務危機等の先行き不透明感による地価への影響も見られる。」と報告されました。
全国的には、
- 住宅地に関しては、低金利や住宅ローン減税等の施策による住宅需要の下支えもあって下落率は縮小した。人口の増加した地域で下落率の小さい傾向が見られ、また、住環境良好あるいは交通利便性の高い地点で地価の回復が目立った。圏域別にみると、東京圏は、年前半は他の圏域に比べ下落率が拡大したが、年後半は他の圏域を上回る回復を示した。大阪圏は、年前半、後半を通じて下落率が縮小しており、上昇地点も兵庫県を中心として増加した。名古屋圏は、年前半に下落率が拡大したが、年後半は圏域として横ばいとなった。地方圏は、前年より下落率が縮小し、上昇地点が増加した。特徴的な地域をみると、宮城県が愛知県に次ぐ下落率の低さを示し、福岡県・福岡市で上昇地点が増加した。
- 商業地に関しては、前年より下落率が縮小したが、オフィス系は高い空室率・賃料下落、店舗系は商況の不振から、商業地への需要は弱いものとなっている。その中にあって、主要都市の中心部において、賃料調整(値下げ)が進んだこともあって、BCP(事業継続計画)やコスト削減等の目的で耐震性に優れる新築・大規模オフィスへ業務機能を集約させる動きが見られ、これら地点の年後半の地価は下げ止まっている。また、三大都市圏と一部の地方圏においては、J-REITによる積極的な不動産取得が見られた。その他、堅調な住宅需要を背景に商業地をマンション用地として利用する動きが全国的に見られた。圏域別にみると、東京圏は、年後半に他の圏域に比べ下落率が拡大したが、年後半は他の圏域を上回る回復を示した。大阪圏は、年前半、後半を通じて下落率が縮小した。名古屋圏は、年前半に下落率が僅かに拡大したが、年後半は圏域としてほぼ横ばいとなった。地方圏は、前年より下落率が縮小した。特徴的な地域をみると、滋賀県草津市において、マンション用地等の需要により市全体で0.1%上昇となり、福岡県・福岡市において、九州新幹線の全線開通(23年3月)等により博多区全体として横ばいとなった。
- 東日本大震災の被災地に関しては、地価公示は、多数の土地取引が行われる地域において価格の指標を与えること等を目的として実施されるものであるので、津波により甚大な被害を受けた地域や原子力災害対策特別措置法により設定された警戒区域等に存する標準地については、調査地点の変更(選定替)あるいは調査を休止した(休止は警戒区域内の17地点)。被災地における土地への需要は被災の程度により差が見られ、特に宮城県では浸水を免れた高台の住宅地等に対する移転需要が高まり地価の上昇地点が見られた。岩手県は前年と同程度の下落率を示し、福島県は前年より大きな下落率を示している。
と報告されています。横浜では、
- 平均変動率は全ての用途で下落となったが、下落幅は縮小している。個別の地点を見ると、上昇地点が、住宅地6地点、商業地1地点、横ばい地点が、住宅地15地点、商業地8地点、準工業地2地点となっている。下落率の縮小幅は商業地の方が大きく、住宅地との差が縮小している。また半年ごとに地価を把握できる都道府県地価調査との共通地点で見ると、昨年前半よりも後半の方が下落率が小さくなっている地点が多く、地価下落の沈静化が見られる。
- 住宅地の平均変動率は、全18区の平均変動率は▲1.1%(前年▲1.2%)となり、下落率がやや縮小した。 区別に見ると全18区中12区で下落率が縮小しており、戸塚区で▲0.4%(前年▲0.5%)と小幅な下落となる一方、青葉区で▲1.5%(前年▲1.1%)となり、下落をやや拡大させた。また半年ごとに地価を把握できる都道府県地価調査との共通地点で見ると、昨年後半の変動率が概ね▲0.5%となっており、地価下落の沈静化が見られる。戸塚駅や東戸塚駅周辺で6地点が前年に続いて上昇となっており、中でも「戸塚-住37」で最も高い上昇率(+2.4%)を示しているほか、「戸塚-住16」(+1.4%)、「戸塚-住29」(+1.3%)等で上昇となっている。価格順では、中区山手町の高台の閑静な高級住宅地にある「中-住6」が最高価格(456,000円)となっており、港北区日吉1丁目の「港北-住15」(430,000円)、青葉区美しが丘5丁目の「青葉-住3」(403,000円)がそれに続いている。
- 商業地の平均変動率は、全18区の平均変動率は▲1.3%(前年▲2.2%)となり、下落率が縮小した。 区別に見ると全18区中15区で下落率が縮小しており、特に、瀬谷区(0.0%)、戸塚区(▲0.2%)、旭区(▲0.5%)、都筑区(▲0.6%)、泉区(▲0.7%)、保土ケ谷区(▲0.8%)で▲1%を切る下落率を示しており、横浜市全体に商業地の下落の沈静化が見られる。 戸塚駅西口の「戸塚-商1」が+2.0%(前年0.0%)と上昇に転じた一方で、中区、鶴見区の2地点では▲3%台の下落となっている。価格順では、横浜駅前の銀行、百貨店等が建ち並ぶ繁華性の高い商業地域内にある、西区北幸一丁目の「西商−1」が最高価格(5,300,000円)となっている。
という概要となりました。
◇平成23年7月時点 県地価調査
最新の平成23年9月発表(7月1日時点)の県地価調査では、「平成22年7月以降の一年間の地価は、全国的に依然として下落を示したが、下落率は縮小し、上昇・横ばいの地点も増加した。地価公示との共通地点で半年毎の推移を見ると、東日本大震災のあった平成23年1月から6月までは、全国で下落率がやや拡大した。東京圏及び名古屋圏は下落率が拡大し、大阪圏は縮小した。」と報告されました。
全国的には、
- 住宅地に関しては、東日本大震災以前の住宅地の地価動向は、低金利や住宅ローン減税等の施策等により住宅需要が堅調で、下落率の縮小傾向を示す地域が多かった。震災後、東京圏は弱い動きを見せており、名古屋圏もやや弱い動きとなっている。一方、大阪圏では、住環境が良好で交通利便性の高い住宅地において需要が底堅く、下落率が縮小した。地方圏では、人口減少等の構造的な要因により全体としては下落が継続している。
- 商業地に関しては、オフィス系の商業地は、空室率の高止まり・賃料下落等により下落を示し、店舗系の商業地は、震災後の売上げ減少等もあって下落を示した。東京都心部では、オフィスの賃料調整(値下げ)が進んだこともあって、コスト削減目的の事務所再編のための移転や災害時の対応性の高いビルへの移転等の動きにより空室率が改善したエリアが見られ、これらエリアにおいては下落率が縮小した。また、大阪圏、名古屋圏等において、利便性が高く高度利用が可能な商業地でマンション用地を取得する動きが見られた。地方圏では、人口減少等に伴う需要減、中心市街地の衰退等により全体としては下落が継続しているが、九州新幹線の全線開業等の効果が見られる地域において地価上昇の動きが現れた。
- 東日本大震災の被災地に関しては、岩手県、宮城県及び福島県においては、86地点(全国の調査地点の0.4%)で調査を休止した。岩手県、宮城県及び福島県では全体的に地価が下落した。福島県では住宅地、商業地とも下落率がやや拡大している。
と報告されています。横浜では、
- 用途別の平均価格は、全ての用途で3年連続の下落となったが、全18区の平均変動率は前年よりも下落率が縮小している。個別の基準地の変動率を見ると、住宅地で6地点、商業地で4地点が横ばいとなった以外は下落している。また、半年ごとに地価を把握できる地価公示との共通地点で見ると、今年の前半(H23.1からH23.7)は住宅地7地点、商業地1地点で横ばいとなっているが、昨年の後半よりも今年の前半の方が下落率は大きくなっている。
- 住宅地の平均変動率は、▲1.3%(前年▲2.3%)となり、特に青葉区では▲0.9%(前年▲2.2%)と▲1%未満の下落率となった。その他の各区でも▲2%未満の下落となり、下落幅が前年よりも縮小している。個別の基準地では、前年はすべての基準地で下落となっていたが、本年は、港北区1地点(日吉駅周辺)、戸塚区4地点(戸塚駅、東戸塚駅周辺)、青葉区1地点(たまプラーザ駅周辺)の計6地点が横ばいとなった。
- 商業地の平均変動率は、▲1.8%(前年▲3.3%)となり、特に旭区、青葉区、都筑区、戸塚区では▲1%未満の下落率となった。個別の基準地でも、前年、戸塚駅西口の1地点だった横ばい地点は、この地点のほか、青葉区で2地点(たまプラーザ駅周辺及びあざみ野駅周辺)、都筑区で1地点(センター北駅周辺)の計4地点となった。前年、区平均で▲4%台の下落率となっていた中心部の西区、中区では、本年はともに▲2.8%の下落と前年より下落率は縮小したが、一部の基準地では本年も▲4から▲5%台の下落率となっている。
という概要となりました。
(詳しくは「地価のあらまし」をご覧ください。)
なお、地価動向の先行きについては、景気・金利の動向、需給バランスの動向、内外投資家の動向の影響などに留意が必要であり、専門家でも正確に予測するのは極めて難しいと言われています。
- ※ 1 2002年2月から2007年10月までの69か月(5年9か月)に及んだ景気回復。戦後最長の「いざなぎ景気」(1965年11月〜70年7月、57か月)よりも長期であったことからこう呼ばれました。ただし、実質成長率は年平均2%弱で、いざなぎの10%超、バブル景気の5%程度などと比べ、低水準にとどまりました。
- ※ 2 この時の地価上昇では、バブル期に見られたような投機的な動きはあまり目立たず、日本全国が一律に上昇した訳ではありませんでした。ブランド力のある商業地や、便利で快適な居住環境の住宅地に対しては需要が集中し、上昇率も高い数値を示したものの、そのほかの土地ではそれほど活発な動きが出た訳ではありませんでした。これは、「地価は上昇し続ける」といういわゆる土地神話が崩壊し、土地の利用価値を重視する意識への変化が定着していることを背景に、需要動向についても地域の条件に応じて個別化している傾向が強まっているためと考えられ、20年前と比べて我が国の土地市場が構造的に変化していることを窺わせます。
- ※ 3 2007年のサブプライムローン問題(アメリカの低所得者層向けローンの焦げ付きにより、金融市場が信用不安から機能不全に陥るとともに、これらを組み込んだ証券化商品が国際的に出回っていたことから、世界的に信用不安が拡大したこと)が発端。資金繰りに困ったアメリカ大手証券会社が相次いで経営危機に陥り、特に2008年9月のリーマンブラザーズの破綻(「リーマン・ショック」)による衝撃は、世界規模での信用収縮を引き起こし、世界金融危機とそれによる同時不況をもたらしました。