図書館員のオススメ本2014-2015



この1年の間に瀬谷図書館の職員が読んで印象に残った本をご紹介します。

913.6/モ 虹の岬の喫茶店 森沢明夫/著 幻冬舎 2011

 その小さな岬は千葉県の東京湾側にある。晴れた日の夕暮時に富士山のシルエットが美しく見える。多くの観光客は岬の手前にある国道のトンネルを、そこに岬があることも知らずに通過してしまう。その岬に、時折、迷い込んだかのように人が訪れ、喫茶店を発見する。
 その喫茶店では、美味しいコーヒーとともに訪れた客の人生に寄りそう音楽を選曲してくれる。物語は訪れた客ごとに章立てされており、春は「アメイジング・グレイス」、夏は「ガールズ・オン・ザ・ビーチ」など、往年の名曲が章名としてつけられている。読み進むうちに、その音楽が聞こえてくるような気がする。
 喫茶店を訪れる人々は、それぞれ心に傷を抱えているが、店との出逢いと女主人の言葉で、彼らの人生は大きく変化しはじめる。店内には、オレンジに染まった夕空と海とそこに架かる虹が描かれた一枚の絵が掛けられている。女主人は、亡くなった夫の描いたその絵と同じ情景を見ることを唯一の生きがいとしているが、やさしく見守る甥はその情景が絶対に現れないことを知っている。
 疲れた心にやさしさが染み入り、温かな感動に満たされる物語。
 吉永小百合の企画・主演で映画化され、「ふしぎな岬の喫茶店」のタイトルで、2014年10月に公開されている。(職員A)

 

913.6/モ

つきのふね

森絵都/著 角川書店 2005

 舞台は「ノストラダムスの大予言」がよく話題にされていた1999年。世界が滅亡するなんてありえないと誰もが思いながらも、テレビなどではよく特集が組まれ、それに関連した小説や映画などもあった影響で、「どうせ2000年なんて来ないから」となげやりになる人までいた。
 そんな風に予言を恐れていた一人が、全人類を乗せる宇宙船の設計図を描く不思議な青年。主人公の中学生さくらは、ある事件を境にしてこの青年と知り合い、彼の家に入り浸るようになる。その事件で親友の梨利を裏切ってしまったことで悩むさくらにとって、この優しい青年だけが心の拠り所だった。やがて、さくらと梨利の和解を望んでいつも見守っているクラスメイトの勝田くんも宇宙船に興味を持ち、この青年の家に入り浸るようになる。
 しかし、「予言の日」が近づくにつれて焦って精神を病んでいく彼の宇宙船のデッサンはどんどん荒くなって行き、ノートは真っ黒になっていた。
 一方、さくらを避けるようになった梨利も不良グループにどんどんのめり込んで犯罪をさせられたり、巷では何者かによる連続放火事件の話題で持ちきりだったりと、さくらの周りでたくさんの事件が起きる。
 こんな状況を解決できるただ一つのものがタイトルでもある「月の船」。勝田くんが青年やさくらたちを想ってねつ造した「古文書」に書かれていた、地球を救ってくれる船である。この本を読めば、友達を救うために一生懸命考えて行動するさくらや勝田くんを応援したくなるだろう。
 中学生の時、親友と喧嘩して、お互い半年くらい口を聞かない時期があった。この本を読み返してみて、当時の寂しい心境や、やっと素直な言葉をかけられた喜びがよみがえってきた。友達との何気ない会話が愛おしく思えたり、友達に笑顔を向けてもらえる普通のことが嬉しいと思えたり…、この本はそんな気持ちを思い出させてくれる。
 色々な悩みを抱えるティーンズにはもちろん、大人の方にも読んでほしい小説だ。(職員B)

 

児童93/ヤ ムーミン童話全集8
ムーミン谷の十一月
トーベ・ヤンソン/作/絵 講談社 1990

 日本でも有名な「ムーミン」シリーズですが、今年は作者のトーベ・ヤンソンが生誕100周年を迎えたということで「ムーミン谷の十一月」を読んでみました。実は、私、これまで「ムーミン」を読んだことがなかったのですが、「今が十一月だから」という理由で手に取ったこのお話(最終巻)は・・・なんとムーミン一家が不在!! かわりに登場するのはムーミン一家に会いに来た友人や知人たち。それぞれが自分勝手な思い込みをしているので、あまり噛み合っていないのですが、共同生活を送ることで気持ちの変化が見えてきます。
 「ムーミン」の世界を純粋に楽しみたい方はもちろん、気分の晴れないちょっとお疲れ気味の方におすすめの1冊です。(職員C)

 

児童93/ト わたしの心のなか シャロン・M.ドレイパー/作
横山和江/訳
鈴木出版 2014

 メロディは生まれつきの脳性麻痺で言葉を発することができない。しかし、彼女は並外れた記憶力と知性、豊かな感性を持っていた。表現手段がないため、その能力を理解するのは家族など身近な人のみで、学校や社会では一括りに障碍児として扱われていた。
 10歳の時、コミュニケーションソフトの入ったPCを操作するようになり、彼女の心は世界に開かれた。健常者のクラスに通い、博学を行使して全米小学生クイズの学校代表メンバーに選ばれる。地区大会で優勝し、ワシントンでの決勝に進む。
 表現力を手に入れてからの彼女の弾けんばかりの喜び、飛躍は読者の気持ちもドキドキ、ワクワクさせる。また、障碍を除けばメロディは11歳の少女で、彼女の悩みや思い、前向きに奮闘する姿は、思春期の子ども全てへの応援メッセージにもなっている。(職員D)

 

489 パンダ ネコをかぶった珍獣 倉持浩/著 岩波書店 2014

 パンダといえば、誰もが知っている人気者。けれども私たちはパンダについて、どれくらいのことを知っているでしょうか。例えば、体毛の色はといえば白と黒、では一体どこが白くてどこが黒いでしょう? 答えは簡単と思いきや、実は、上野動物園でボランティアが来園者に対して行っているクイズでは、意外にも正答率が低いのだとか。この本では、その上野動物園でパンダの飼育担当をしている著者が、最近の研究やこれまでの経験をとりまぜながら、パンダについて食べ物やからだのつくり、くらしぶりや繁殖についてなど、様々な知識を教えてくれます。(職員E)


493.7 「もの忘れ外来」100問100答 奥村歩/著 阪急コミュニケーションズ 2012

 「もの忘れ外来」って、どんな病院?と思われる方も多いだろう。実は認知症、うつ病、脳卒中の早期発見・鑑別診断(どんな疾患が由来か)をする医療機関のことで、認知症が疑われる場合に受診する病院なのだ。著者はその専門医で、毎日100人以上の患者、家族が訪れるそうだ。実際の診断の中でよく聞かれる項目に懇切丁寧に回答したのがこの本だ。大丈夫なもの忘れと心配なもの忘れやうつ病との違いなど、私たちが知りたいことについて細かく書いてあり、大変参考になった。また、介護する側の心構えも書いてあり、患者だけでなく、家族も役立つ内容になっている。
 認知症の疑いがある家族を持たれている方は、一読してはいかがだろう?(職員F)


79.8 ままごと 日本玩具博物館/監修 尾崎織女/文 文渓堂 2014

 今も昔も子どもたちが大好きな遊び「ままごと」。この本はままごと遊びを彩る素敵なままごと道具を美しい写真で紹介しています。世界各地の道具には各国のお国柄が表れています。日本のままごと道具の変遷は各時代を映しだし、人々の生活史となっています。いずれも、細やかな作りに子どもたちへの愛情と人のぬくもりを感じます。児童書ですが、かつてままごと遊びを楽しんだ「元子ども」の皆さんにも是非手に取っていただきたい一冊です。(職員G)

 

郷土資料コーナー682 横浜開港と交通の近代化 西川武臣/著 日本経済評論社 2004

 幕末、わずか100戸ほどの家しかない寒村だった横浜村が、開港にむけて、それまで日本に例のない西洋風の港湾都市に変わり、その後も拡張をつづけ、全国から人々や貿易のための品々が集まり、また、各地に交易品や新しい時代の文化を身に着けた人々を送り出していきました。
 しかし、港が作られていく過程で、どのような人々が働いていたのでしょう?港ができたときに、横浜村に移り住んだのは、どんな人が多かったのでしょう?交易で売られた品々は、どんな船や車で、どこから運ばれてきたのでしょう?
 著者は、古文書や統計の資料から、こうした、歴史の表には表れない、市井の人々の生業を丁寧に読み解き、そこから垣間見える暮らしぶりや時代の変化を、私たちに伝えてくれます。
 和船がゆきかう東京湾に蒸気船が登場し、馬車や人力車が走り、そのために道が作られ、汽車が多くの人の行き来や物流を可能にし・・・。ダイナミックな時代と交通の変化とそれを可能にした人々の生き生きとした営みが、今に至る私たちの暮らしを支えていることを考えさせる好著です。
 著者は、横浜開港資料館の副館長をされています(2014年12月現在)。(職員H)


913.6/ホ リライト 法条遥/著 早川書房 2012

 中学生の美雪は未来人の保彦が持っていた5秒だけ時を越えられる薬を使って10年後の自分の部屋から携帯電話を持ち帰り、校舎崩壊事故から彼を救う。やがて、大人になった美雪は彼と過ごした青春の日々を小説にし、作家になる。そして10年前の自分が来たその日になり、美雪は「彼女」のために携帯電話を部屋に置いて待つが、いくら待っても自分が現れない。不安に思って調べるうち、当時のクラスメイトが何人も死んでいたり、事故後に未来に帰ったはずの保彦が卒業アルバムに写っていたりと、彼女が記憶していたことと違う事実が次々に明らかになる。
 この小説では、現在と10年前の保彦との思い出が交互に描かれるが、読んでいるうちに、繰り返し語られる10年前の思い出に少しずつ矛盾が出てくることに気づくはずだ。そして、いつのまにか少女の名前が変わっていたり、だんだん主人公が誰なのかわからなくなったりなど、読者を混乱させる仕掛けがたくさんあるのが面白い。
 とても読みやすく、先が気になってどんどん読んでしまうと思うので、普段小説をあまり読まれない方にもおすすめの一冊。(職員B)


児童93/シ 呪われた首環の物語 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/作
野口絵美/訳
徳間書店 2004

 ジョーンズはイギリスを代表するファンタジー作家。スタジオジブリ『ハウルの動く城』の原作『魔法使いハウルと火の悪魔』の作者と言えば、日本では直ぐに伝わるかもしれません。
 彼女の作品世界は精巧かつ壮大。物語はどれもとても丁寧に紡がれます。幾重にも張られ絡まった伏線が、終盤で一気に解きほぐされ、圧倒的なスピード感、高揚感と共に謎が解明されたり、問題が解決されます。読後感が良くオススメです。
 この作品は3姉弟の真ん中の子が活躍する物語で、中間子の私は主人公に気持ちを添わせて読んだ作品です。いつか誰かに紹介したいと思い読み直しました。
 主人公のゲイアは姉や弟のような〈能〉に恵まれず、自分をつまらない存在だと思っていました。湿原の塚(地中)に住む彼らと、水中に住むドリグ、地上に住む巨人は長い間お互いを知らず、反目し合っていました。ある事件を契機にした首輪の呪いの為、湿原に住む全種族に危機が迫ります。ゲイアを中心とした子ども達が、種族を超えた友情を結び、危機を回避しようと奮闘します。(職員D)


936 ウェクスラー家の選択
遺伝子診断と向きあった家族
アリス・ウェクスラー/著 新潮社 2003

 「ハンチントン病」という病名を聞いたことがあるだろうか。手足や顔が本人の意志とは無関係に痙攣などの不随意運動を起こし、進行すると性格変化や行動変化などの精神症状や認知症を発症、最終的には死に至るという病気である。そしてこの病気は、特定の遺伝子に異常が起きることを原因とする、遺伝病である。それも優性遺伝であり、父母どちらかから変異遺伝子を受け継ぐと、必ず発症してしまうという。本書の出版から10年以上を経た現在でもまだ原因療法はなく、日本では難病指定されている。
 本書の著者は、母と祖父、三人の伯父全員がこの病気を発症した、患者の家族であり発病リスクを抱えた当事者であり、研究者である。家族としての立場からの闘病記、自らの人生との関わりの記述であると共に、著者の一家が関わった研究団体の発展についての一種の記録でもある。DNAマーカーの発見は、発症前の診断を可能にしたが、著者の父は、著者と妹、二人の娘が検査を受けることに関して反対をする。日が経ってから著者は気づく。検査を受けるということは、ロシアン・ルーレットのようなものなのだと。
 最終章の中で著者は、診断を受けることは本人だけでなく周囲にとっても深刻な人生の転換となる、ということを述べている。結局著者は、本書執筆時点では診断を受けていない。遺伝子診断というものについて、考えさせられる1冊である。(職員E)


913.6/シ 奇跡の人 真保裕一/著 新潮社 2000

 真保裕一というと推理小説のイメージが強いが、最近は商業小説みたいなものから時代小説までさまざまな内容の本を書いている。これは初期の作品だが、殺人事件の謎解きという類の本ではなく、毛色が変わった作品だ。主人公は31歳の男性。8年前の交通事故で脳死判定をされながら、命をとりとめた。そのため、他の入院患者から「奇跡の人」と呼ばれている。だが、事故前の記憶は一切失った。現在の知能は中学生程度。ようやく退院することになり、そこから物語が展開してゆく。自分はどんな人間だったのか? 母も亡くなっていて、少ない手がかりから辿っていくと、思いもかけない過去が露わになっていく。過去を変えることはできないが、これから先の人生はゼロから始められるものなのだろうか? そんなことを考えさせてくれる、自分を見つめ直すことができる作品だ。(職員F)


388 働くお父さんの昔話入門 小澤俊夫/著 日本経済新聞社 2002

 長い時をかけて、先達から語り継がれてきた「民族の記憶」、昔話。昔話の魅力やメッセージを昔話研究の第一人者である著者が、具体的な昔話を取り上げながらわかりやすく解説しています。本書の副題は「生きることの真実を語る」。昔話には人が生きる上で大切な真実が込められており、現代社会を生きる私たちが学ぶべきことがたくさん詰まっています。本書は、特に子どもに関わる大人たちに子どもと接するときの大きなヒントが昔話にあることを私たちに教えてくれます。昔話の魅力を再発見して、声に出して語ってみませんか。(職員G)


933/マ 灰色の輝ける贈り物 アリステア・マクラウド/著
中野恵津子/訳
新潮社 2002

 カナダ大西洋岸、「赤毛のアン」の島として有名なプリンス・エドワード島のすぐ西に、ケープ・ブレトン島という島があります。緑豊かで牧歌的なプリンス・エドワード島とは打って変わって、岩礁と炭坑の灰色の荒々しい島。ここには、スコットランド高地からの移民が住み、坑夫や漁師として代々暮らしてきました。寡黙で文字を知らず、その地にしがみつきながら、しかし、がっしりと生きてきた人々。島を出て教育を受け、都会生活者となった若者の視点から、祖父母や父母の生き方への反発、畏敬、そして意図せずに脈々と自分へと受け継がれるものなどを織り込んで語られる短編集です。感傷を排した、しかし詩情ある文章から、厳しくも温かい人々の生き方が立ち上ってくるようです。
 作者は、カナダの作家・文学者で、物語の舞台となったケープ・ブレトン島で育ちました。寡作ながらも短編の名手として有名ですが、唯一の長編『彼方なる歌に耳を澄ませよ』(新潮社)は、スコットランド移民の歴史をテーマにカナダでベストセラーになった作品です。歴史の荒波の陰に力強く生き抜く一族の歴史を描き、こちらもおすすめの1冊です。(職員H)