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A群溶血性連鎖球菌感染症について

流行は?

 A群β溶血性連鎖球菌(Group A Streptococcus : GAS : A群溶連菌)は、しばしば、のどや皮膚に見られる細菌です。のどや皮膚にこの細菌を持っていても何の症状もない場合もあります。症状をよく起こす場合としては、咽頭炎(のどの炎症)や膿皮症(皮膚の炎症:伝染性膿痂疹(とびひ)とも呼ばれ、黄色ブドウ球菌による場合もあります)があります。アメリカ合衆国では、この咽頭炎と膿皮症については、毎年、数百万件発生していると考えられています。

 日本においては、A群β溶血性連鎖球菌咽頭炎は、感染症法での5類の小児科定点把握疾患であり、全国約3000の小児科定点医療機関で患者発生が把握されています。届出基準はこちら(PDF版:A群溶血性レンサ球菌咽頭炎) [pdf:185KB]  です。2000-2006年の全国の小児科定点医療機関あたりA群β溶血性連鎖球菌咽頭炎患者年間年齢別発生報告数は、下のグラフのとおりです。年齢別では5歳が最も多いです。0歳から発生は見られます。0歳では生後6か月以降の発生が多いです。0歳以降5歳まで、小児では年齢を重ねるとともに発生は増加します。6歳以降、小児では年齢を重ねるとともに発生は減少します。一方、少ないですが20歳以上の発生報告もあります。

グラフ(2000-2006年の全国の小児科定点医療機関あたりA群β溶血性連鎖球菌咽頭炎患者年間年齢別発生報告数)

 横浜市では、A群β溶血性連鎖球菌咽頭炎の発生は、季節変動があり、6月と12月に発生が多いです。伝染性膿痂疹(とびひ)は夏に多いとされています。
 A群β溶血性連鎖球菌が、通常存在しないところ、例えば、血液や筋肉や肺といった場所にまで、この細菌が入り込み、重症のA群β溶血性連鎖球菌感染症を引き起こすことがあります。その場合、侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症と呼ばれます。このうち、頻度は少ないですが、最も重症で命にかかわる場合もある、二つの型が、壊死性筋膜炎(Necrotizing fasciitis : NF)とA群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群(Streptococcal toxic shock syndrome : STSS)です。壊死性筋膜炎では、俗に言う「ヒト食いバクテリア(the flesh-eating bacteria)」が、筋肉、脂肪組織、皮膚組織を破壊します(なお、A群β溶血性連鎖球菌以外にも「ヒト食いバクテリア(the flesh-eating bacteria)」と呼ばれている細菌があります)。A群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群では、急激な血圧低下、および腎臓・肝臓・肺等の機能低下を起こします。壊死性筋膜炎の患者の約20%とA群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群の患者の半数以上が亡くなります。侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症の他の型(敗血症や肺炎など)では、約10-15%が亡くなります。1998年に、アメリカ合衆国では、約1万件の侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症が発生しました。この内、約600件がA群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群で、約800件が壊死性筋膜炎でした。日本では、感染症予防法により劇症型A群β溶血性連鎖球菌感染症(toxic shock-like syndrome : TSLS)が全数把握の5類感染症とされていて、劇症型A群β溶血性連鎖球菌感染症を診断した医師は、保健所に届出をしなければなりません。届出基準はこちら(PDF版:劇症型溶血性レンサ球菌感染症) [pdf:193KB]  です。劇症型A群β溶血性連鎖球菌感染症の報告基準では、ショック症状は必須ですが、壊死性筋膜炎は必須ではありません。報告基準からすると、主としてA群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群が日本では把握されることになるかと思われます。横浜市でも、劇症型A群β溶血性連鎖球菌感染症の発生が見られています。国立感染症研究所のIASR(病原微生物検出情報), The Topic of This Month Vol.21No.11(No.249)p240-241「溶血性レンサ球菌感染症 1996-2000」によれば、1999年4月の感染症予防法の施行後、2000年10月16日までに国に届け出られた劇症型A群β溶血性連鎖球菌感染症は、59件で、届け出時点で死亡していたのは、その内、25件でした。42.4%以上が死亡したということになります。劇症型A群β溶血性連鎖球菌感染症の患者は、50-60歳台に多く、平均年齢は55.7歳であったとのことです。
 世界的に見ると、侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症、壊死性筋膜炎、A群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群の発生は、1980年台中ごろから1990年代はじめまで増加しました。発生率と重症度の上昇は、血清型のM-1,M-3の増加と関係があるとされています。
 A群β溶血性連鎖球菌が、家庭内で広がる場合については、まず、学齢期のこどもが家庭内に持ち込む場合が多いと考えられています。続いて、父親よりは母親が、こどもからA群β溶血性連鎖球菌を受け取る場合が多いと考えられています。そして、こどもや母親から、その他の家族へとA群β溶血性連鎖球菌が広がっていくことがあります。
 Stephanie H. Factorらが、アトランタ、ボルチモア、トロントで大人の侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症の危険因子の研究をしています(参考文献1)。18-44歳の人たちでは、「過去2週間の間に家庭で1人以上の咽頭炎のこどもがいたこと」、「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)が陽性であること」及び「麻薬注射歴があること」について侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症との間に関連が見られました。45歳以上の人たちでは、「家庭に3人以上で住んでいること」、「糖尿病であること」、「心臓病であること」及び「ガンであること」について侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症との間に関連が見られました。
 侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症について、1992-1993年に、カナダのオンタリオ州で行われた調査(参考文献2)では、住民10万人に対して年間1.5人の患者発生でした。罹患率は、小さなこどもと老人とで高かったです。但し、30歳台でも患者の発生が比較的多く、これは、女性については産褥敗血症、男性については関節炎によるものです。年齢層が高いほど、A群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群(Streptococcal toxic shock syndrome : STSS)患者が侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症患者に占める割合が高かったです。A群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群(Streptococcal toxic shock syndrome : STSS)患者の年齢の中央値(メジアン)は61歳でした。侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症患者の56%は、慢性疾患を持っていました。侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症となる危険因子としては、HIV感染症、ガン、糖尿病、アルコール依存、水痘でした。水痘については、水痘の皮膚病変が出現している間で危険が高いです。10歳未満のこどもの水痘患者10万人あたり4.4人の患者発生です。侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症の症状としては、皮膚あるいは軟部組織の感染が48%で、病巣部が不明な菌血症が14%で、肺炎が11%で見られました。壊死性筋膜炎が6%で、毒素性ショックが13%で見られました。侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症患者全体での致死率は15%でしたが、65歳以上の患者では、29%と高く、また、毒素性ショックを起こした患者では81%の高い致死率でした。侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症で死亡する場合には、発病から7日以内の死亡が多いです。患者の14%は院内感染であり、4%は老人介護ホームの住人であり、また、患者の集団発生も見られました。44例の院内感染の内訳は、産後の女性が16例(経膣分娩後の子宮内膜炎が14例、帝王切開後の手術部位の感染が2例)、手術部位の感染が15例、1次的な菌血症が8例(内6例については静脈内への処置あり。)、軟部組織の感染が4例、肺炎が1例でした。侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症患者の80%から得られた258のA群β溶血性連鎖球菌の分離株について、血清型で多いのは、M1(24%)、M12(7.4%)、M4(6.5%)、M28(6.2%)、M3(5.8%)でした。また、1995年6月30日までのデータでは、侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症患者の家庭内での接触者について、接触者1000人あたり2.9人の侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症患者の発生がありました。これは、一般の人たちと比較すると約200倍の危険です。侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症患者の家庭内での濃厚な接触者については、有効な抗生物質の服用による発病予防も考慮されます。
 1992-1996年にカナダのオンタリオ州で行われた調査(参考文献3)では、侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症となったこども(0-17歳)の15%は、水痘にかかった直後のこどもでした。水痘の予防接種を定期予防接種とすることで、この15%の大部分を予防できると期待されました。水痘の発疹が出現してから4-12日後に侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症が診断されました。水痘にかかった直後に侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症となったこどもは、31例で、全て10歳未満でした。この31例の内、蜂窩織炎が13例、壊死性筋膜炎が5例(内2例で肺炎を合併)、関節炎が4例、病巣部がない菌血症が3例、咽頭炎、耳下腺炎、腋窩リンパ節炎、腹膜炎、骨髄炎、心内膜炎が1例ずつでした。10歳未満のこどもの水痘患者10万人あたり5.2人の患者発生でした。
 A群β溶血性連鎖球菌による咽頭炎や伝染性膿痂疹(とびひ)は、こどもたちにとって、ありふれた病気です。しかし、侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症については、こどもたちの集団生活の場である学校や保育園での集団発生の報告は少ないです。1997年2月に米国ボストンの保育園で起きた侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症の集団発生の報告(参考文献4)があります。14人のクラスで2月2日発病の4歳児、2月6日発病の3歳児が1人ずつで計2人の侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症患者が発生しました。血清型はM1T1でした。クラス内では、他に、侵襲性でないA群β溶血性連鎖球菌感染症の患者(:検査で菌を確認。咽頭炎。)が3人、可能性例(:検査せず。)が2人発生しています。このクラスでは、1月29日から2月1日にかけて10人が水痘を発病し、それに続いてA群β溶血性連鎖球菌感染症の流行が起こったものです。このクラスの環境中のふき取り調査では、食物の形をしたオモチャからA群β溶血性連鎖球菌が検出されました。同一のオモチャをこどもたちがしゃぶることで菌が伝播した可能性もあります。他のクラスでも流行が起こらないように、園児と関係者に水痘ワクチンが無料で提供されました。同じクラスの園児や他クラスでも菌が検出された園児等には、有効な抗生物質の投与により発病予防がなされました。入園前に水痘の予防接種を皆が受けていれば、予防できたと考えられるケースです。

どんな病気?

 A群β溶血性連鎖球菌咽頭炎は、潜伏期は一般に2〜4日で、突然の発熱・のどの痛みで始まります。のどは赤く腫れ、扁桃腺は膿を持っているように見えます。発熱、咽頭炎、扁桃炎、苺舌と菌が産出する外毒素による赤い発疹を認めるものを猩紅熱(しょうこうねつ)と言います。咽頭部の細菌検査でA群β溶血性連鎖球菌が確認された場合、有効な抗生物質を菌が消失するまで投与します。このことによって続発して起こる可能性のあるリウマチ熱や糸球体腎炎をさけることができます。
 伝染性膿痂疹(とびひ)は、湿疹や引っかき傷などの小さな傷に菌が付着・侵入して感染します。始めは、水疱・膿疱を形成し、次に破れて痂皮(かさぶた)となります。かゆみがある場合があり、かきこわしていると患部は急速に広がります。水疱の内容にもA群β溶血性連鎖球菌は存在するので、それが付着する恐れがある、タオルや下着は別にしたほうが良いです。痂皮(かさぶた)にもA群β溶血性連鎖球菌は存在するので、扱いに注意してください。治療には有効な抗生物質を用い、痂皮(かさぶた)がなくなるまで治療します。
 侵襲性A群β溶血性連鎖球菌感染症では、ショックや肝臓・腎臓等の臓器の働きが悪くなる臓器不全を起こしてしまうと、致命率が高くなります。早期診断・早期治療が治癒率を高めます。A群β溶血性連鎖球菌が体の組織内に入り込むきっかけとなる、A群β溶血性連鎖球菌咽頭炎や創傷のA群β溶血性連鎖球菌による感染に対しては早めにきちんと医療機関で治療を受けましょう。特に、抵抗力が少ない癌患者・糖尿病患者・腎臓透析患者・ステロイド使用の患者等は、特に注意が必要です。

病原体は?

 連鎖球菌を羊血液寒天培地で培養すると、増殖した連鎖球菌コロニーの周りに溶血を起こし溶血環が観察されるものがある。完全な溶血を起こし透明な溶血環が観察されるものをβ(ベーター)溶血性連鎖球菌と言います。不完全な溶血を起こし暗い緑色の変色でコロニーが囲まれるものをα(アルファー)溶血性連鎖球菌(緑色レンサ球菌)と言います。溶血を起こさないものをγ(ガンマー)溶血性連鎖球菌と言います。また、細胞壁を構成する糖質に基づいた別の分類法によって、連鎖球菌はランスフィールドLancefieldの分類のA〜H群およびK〜T群に分類されます。A群β溶血性連鎖球菌は、羊血液寒天培地で培養すると、完全な溶血を起こし透明な溶血環が観察されるβ溶血性であり、ランスフィールドLancefieldの分類のA群となるものです。A群β溶血性連鎖球菌は、化膿連鎖球菌Streptococcus pyogenesとも呼ばれ、化膿を起こすことがある私たちに身近な病原菌ですが、溶血性連鎖球菌では、このほかに、新生児への感染等が問題視されているB群β溶血性連鎖球菌等があります。
 A群β溶血性連鎖球菌毒素性ショック症候群は、黄色ブドウ球菌によって起こされる毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome)によく似ています。発熱性の外毒素を持つA群β溶血性連鎖球菌によるとわかったのは、近頃のことです。その実態を明らかにするために、国立感染症研究所では、劇症型A群β溶血性連鎖球菌感染症の菌株を収集しています。収集の際は各地の衛生研究所が窓口になっています。横浜市内では、横浜市衛生研究所が窓口になっていますので、御協力を宜しくお願いいたします。

予防のために・・・

 A群β溶血性連鎖球菌に感染した人の、鼻やのどから出て来る菌が、周囲の人の鼻やのどなどの粘膜に付くことによって感染します。あるいは皮膚の感染部から菌が出て来ることもあります。これらの菌を手によって自分の口や鼻に運んでしまって感染することが考えられます。また患者に咳症状があれば、咳によって生じた飛沫によって感染する可能性もあります。予防のためには、菌を手によって自分の口や鼻に運ぶことを避けるため、良く手を洗うことが大切です。また、有効な抗生物質による治療を始めてから、周囲の人を感染させる力がなくなるまで24時間かかるとされているので、A群β溶血性連鎖球菌咽頭炎については抗生物質による治療を始めてから少なくとも24時間経過するまでは、仕事や学校を休み外出を控えた方がよいでしょう。
 伝染性膿痂疹(とびひ)については、予防のためには、手と皮膚の清潔が大事です。こどもでは、虫刺されやカゼがきっかけとなることがあり、引っかき傷をつくらないように注意しましょう。また、患者は、学校などの集団生活の場では、患部を包帯などでしっかりと覆った方が良いでしょう。
 劇症型A群β溶血性連鎖球菌感染症については、1-7日のA群β溶血性連鎖球菌咽頭炎あるいは創傷のA群β溶血性連鎖球菌感染に続発することがあるとされています。予防のためには、A群β溶血性連鎖球菌咽頭炎あるいは創傷については、放置せず、医療機関で適切な治療を受けましょう。
 A群β溶血性連鎖球菌の予防接種(ワクチン)は研究開発中です。

参考文献

  1. Stephanie H. Factor, Orin S. Levine, Benjamin Schwartz, et al. ; Invasive Group A Streptococcal Disease: Risk Factors for Adults ; Emerging Infectious Diseases , Vol.9, No.8, August 2003. p.970-977.
  2. H. Dele Davies, Alison McGeer, Benjamin Schwartz, et al. (The Ontario Group A Streptococcal Study Group) ; Invasive Group A Streptococcal Infections in Ontario, Canada. ; the New England Journal of Medicine. Vol.335, No.8, Aug. 22, 1996, p.547-554.
  3. Kevin B. Laupland, H. Dele Davies, Alison McGeer, Benjamin Schwartz, et al. (the Ontario Group A Streptococcal Study Group) ; Invasive Group A Streptococcal Disease in Children and Association With Varicella-Zoster Virus Infection. ; PEDIATRICS Vol.105, No.5, May 2000, p.e60. p.1-7.
    URL: http://pediatrics.aappublications.org/content/105/5/e60.full.pdf [pdf:374KB] 
  4. Outbreak of Invasive Group A Streptococcus Associated with Varicella in a Childcare Center -- Boston, Massachusetts, 1997. ; MMWR Vol.46/No.40, October 10,1997. p.944-948.

2000年11月28日初掲載
2003年10月7日増補
2008年8月7日増補

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成
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