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RSウイルスによる気道感染症およびパリビズマブ(シナジス)について

流行は?

 RSウイルスは、乳児の細気管支炎・肺炎の原因としてよく見られるウイルスです。RSウイルスは、通常、晩秋、冬、早春と、しばしば4-6か月続く流行を起こします。年によって、その流行の時期と程度とは、違います。RSウイルスによる気道の感染症は、こどもたちの間では、急速に流行し、2歳までには、大部分のこどもがかかります。

 横浜市では冬を中心に流行が見られます。

 日本においては、RSウイルス感染症は、感染症法での5類の小児科定点把握疾患であり、全国約3000の小児科定点医療機関で患者発生が把握されています。届出基準はこちら(PDF版) [pdf:189KB]  です。2006年の全国の小児科定点医療機関あたりRSウイルス感染症患者年間年齢別発生報告数は、下のグラフのとおりです。年齢別では0歳の赤ちゃんが最も多いです。0歳の赤ちゃんでは、生後6か月未満の発生と生後6か月以降の発生がだいたい等しいです。1歳以降、小児では年齢を重ねるとともに発生は減少します。一方、少ないですが20歳以上の発生報告もあります。

グラフ(2006年の全国の小児科定点医療機関あたりRSウイルス感染症患者年間年齢別発生報告数)

どんな病気?

 小さなこどもでは、まず、鼻水から始まります。そして、38-39度の発熱と咳が続きます。初めてかかった場合には、25-40%の乳幼児で細気管支炎・肺炎の徴候が見られ、呼吸困難等のために0.5-2%で入院が必要となります。大部分のこどもたちは、8-15日で軽快します。RSウイルスによる気道の感染症のために入院を要するこどもの大部分は、6か月以下の赤ちゃんです。少ないですが、死亡例もあります。RSウイルスによる気道の感染症には、生涯の間に何度もかかりますが、普通のカゼあるいは、ひどいカゼのような症状の場合が多いです。しかしながら、ひどい下気道炎となることもあり、老人や心臓・肺の病気を持っている人、免疫力が弱まっている人では、より注意が必要です。少ないですが、死亡例もあります。

 なお、冬季においてはインフルエンザと並んでRSウイルスによる気道感染症も脅威です。アメリカ合衆国において、1990-1991年冬季から1998-1999年冬季について、インフルエンザ関連の年間死亡率は、19.6(人口10万人あたり)との推計があります(参考文献5)。年齢別のインフルエンザ関連の年間死亡率は、1歳未満2.2、1-4歳1.1、5-49歳1.5、50-64歳12.5、65歳以上132.5と推計されていて、65歳以上で高いです。アメリカ合衆国において、1990-1991年冬季から1998-1999年冬季について、RSウイルス感染症関連の年間死亡率は、6.6(人口10万人あたり)と推計されています(参考文献5)。年齢別のRSウイルス感染症関連の年間死亡率は、1歳未満5.4、1-4歳0.9、5-49歳2.6、50-64歳7.8、65歳以上29.6と推計されていて、65歳以上で高いです。1歳未満では、RSウイルス感染症関連の年間死亡率がインフルエンザ関連の年間死亡率よりも高いです。

病原体は?

 RSウイルス(RS-virus)は、Respiratory Syncytial Virusを略したものです。Respiratory は「呼吸の」と言う意味で、呼吸器系のウイルスであることを示します。Syncytial は、「syncytiumの」と言う意味です。RSウイルスが、ヒト培養細胞でsyncytiumを形成することがあることから、この名が付きました。syncytium(合胞体)は、顕微鏡下で、一つの細胞の核の数が多く、細胞核と細胞質との面積比は等しいため、あたかも、いくつかの細胞が合わさってできたかのように見える状態を言います。

 RSウイルス(RS-virus)抗原を患者の鼻水などから免疫クロマト法で15分ほどで検出する簡易キットがあります。保険適用は入院患者でRSウイルス感染症が疑われる場合だけだったのですが、平成23年10月17日付け保医発1017 第1 号 厚生労働省保険局医療課長通知「『診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について』等の一部改正について」により、保険適用の範囲が拡大しました。乳児あるいはパリビズマブ製剤の適用となる患者でRSウイルス感染症が疑われる場合にも保険適用することになりました。

 RSウイルスはパラミクソウイルス科(the Paramyxoviridae family)ニューモウイルス属(the Pneumovirus genus)に属します。ウイルス表面にG蛋白とF蛋白という糖蛋白質(Glycoproteins)があります。G蛋白が、ウイルスを宿主細胞に結合させ、F蛋白が、ウイルス外被を宿主細胞の原形質膜に融合(Fusion)させることで、ウイルスが宿主細胞に侵入します。F蛋白は、感染細胞の原形質膜の融合(Fusion)も促進し、特徴的なヒト培養細胞でのsyncytium(合胞体)形成を起こします。後述の抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体のパリビズマブ(遺伝子組み換え)は、F蛋白に対する抗体です。G蛋白の構造の違いにより、RSウイルスは、A亜型とB亜型とに大きく分類されます。年によって流行する亜型は違いますが、どちらの亜型でも重症度は変わりません。

予防のためには・・・

 RSウイルス(RS-virus)は、感染者との密接な接触により、気道分泌物から咳で生じた飛沫を吸い込んだり、気道分泌物が付着したおもちゃをしゃぶることなどによって、ウイルスが眼・のど・鼻の粘膜に付着して感染します。手がウイルスを粘膜に運んでいる場合があるので、手を良く洗うことは予防のために良いです。自分が感染しないためにも、他人を感染させないためにも、手を良く洗うことは有効です。調理や食事の前、鼻をかんだ後等は、水と石けんで手を洗い流しましょう。
 RSウイルスによる気道の感染症の潜伏期は5日程度(2-8日)です。しばしば、感染したこどもは、症状が現れる前にも、周囲の人たちを感染させる力があります。また、感染した小さなこどもは、症状が消えてからも、1-3週間は周囲の人たちを感染させる力があります。
 生後6ヶ月以下の赤ちゃんの血液中にある、誕生前に母親からもらった抗体は、残念ながら感染を防ぐ役には立ちません。生後6ヶ月以下の赤ちゃんの感染は、重症となりやすいので、生後6ヶ月以下の赤ちゃんの感染を防ぐことは重要です。生後6ヶ月以下の赤ちゃんは、カゼをひいている人から隔離してあげましょう。RSウイルスによる気道の感染症が流行する冬は、特に注意が必要です。また、赤ちゃんが未熟児であったり、心臓疾患を持っているような場合にも、特に注意が必要です。
 予防接種(ワクチン)は、現在、研究開発の途上にあります。サルを含む動物や、成人の志願者を対象にして、試験的に用いられている弱毒の生ワクチン候補の株もありますが、まだ、実用化されていません。
 なお、予防接種(ワクチン)ではありませんが、抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体のパリビズマブ(遺伝子組み換え)という注射薬が、アメリカ合衆国では1998年から、日本では2002年から、承認・市販されています(商品名:シナジス[Synagis])。在胎期間28週以下の早産で12ヶ月齢以下の新生児・乳児、在胎期間29-35週の早産で6ヶ月齢以下の新生児・乳児、および、過去6ヶ月以内に気管支肺異形成症(BPD:broncho-pulmonary dysplasia)の治療を受けた24ヶ月齢以下の新生児・乳児・幼児に対して、RSウイルス感染による重篤な下気道疾患の発症抑制のために用いられることがあります。用法としては、RSウイルス流行期を通して月1回のペースで筋肉注射します。なお、2005年10月に効能・効果が追加され、24ヶ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患(CHD)の新生児・乳児・幼児に対しても、RSウイルス感染による重篤な下気道疾患の発症抑制のために用いられるようになりました。
 約千五百人の乳幼児においての'IMpact-RSV'スタディと呼ばれる研究では、RSウイルス感染による入院が、プラセボ(偽薬)投与群で10.6%だったのに対し、パリビズマブ投与群では4.8%と低かったです(p<0.001、参考文献1)。なお、パリビズマブはRSウイルスに対してのみの抗体であるため、RSウイルスに対してではない通常の予防接種ワクチンによる免疫の獲得をパリビズマブは妨げないと考えられます。
 パリビズマブ(Palivizumab:商品名シナジス)の開発については、Mab 1129と呼ばれる、ネズミの抗RSウイルスモノクローナル抗体がまず開発されました。ネズミの抗体は、ヒトにとって異種の蛋白質です。そのままヒトに用いると抗ネズミ抗体を産生させアレルギーを生じる恐れがあります。それを避けるため、ヒトのIgG抗体の抗原との結合部分に、ネズミの抗RSウイルスモノクローナル抗体のRSウイルスとの結合部分を置き換えることにより、抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体のパリビズマブ(Palivizumab:商品名シナジス)が出来上がりました。パリビズマブ(Palivizumab:商品名シナジス)の開発は、遺伝子組み換え技術の進歩により可能となったことです。
 また、タバコの煙を吸うことは、RSウイルスによる気道の感染症の危険因子の一つと考えられています。こどものRSウイルスによる気道の感染症を防ぐためには、こどもの受動喫煙を防ぐことも大切です(当・横浜市衛生研究所ホームページ「こどもの受動喫煙について」参照。下線部をクリックしてください)。

参考文献

  1. The IMpact-RSV Study Group. ; Palivizumab, a humanized respiratory syncytial virus monoclonal antibody, reduces hospitalization from respiratory syncytial virus infection in high-risk infants. ; Pediatrics, September 1998;102:p.531-7.
  2. Committee on Infectious Diseases and Committee on Fetus and Newborn, AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS. ; Prevention of Respiratory Syncytial Virus Infections: Indications for the Use of Palivizumab and Update on the Use of RSV-IGIV.;  Pediatrics, November 1998;102:p.1211-6.
  3. Committee on Infectious Diseases and Committee on Fetus and Newborn, AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS. ; Policy Statement: Revised Indications for the Use of Palivizumab and RSV-IGIV for the Prevention of Respiratory Syncytial Virus Infections.;  Pediatrics, December 2003;112:p.1442-1446.
  4. H. Cody Meissner, MD; Sarah S. Long, MD; and the Committee on Infectious Diseases and Committee on Fetus and Newborn, AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS. ; Technical Report: Revised Indications for the Use of Palivizumab and RSV-IGIV for the Prevention of Respiratory Syncytial Virus Infections; Pediatrics, December 2003;112:p.1447-1452.
  5. William W. Thompson; David K. Shay; Eric Weintraub; Lynnette Brammer; Nancy Cox; Larry J. Anderson; Keiji Fukuda. : Mortality Associated With Influenza and Respiratory Syncytial Virus in the United States. : JAMA. January 8, 2003;Vol.289(No.2):p.179-186.
  6. Department of Health(英国); Immunisation against infectious disease (Green book)2006 updated edition:
    http://www.dh.gov.uk/en/Publichealth/Immunisation/Greenbook/index.htm

2000年12月28日初掲載
2002年12月6日増補
2004年9月6日増補
2006年1月6日増補
2008年8月7日増補
2008年11月4日増補
2012年1月11日増補
2012年2月1日改訂

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成
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