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ペストについて

流行は?

 ペストは、Yersinia pestis という細菌によって起こされる、動物とヒトの感染症です。 Yersinia pestis という細菌は、一般には単にペスト菌と呼ばれることが多いです。ペスト菌は、主にある種のネズミとネズミノミの間を循環しています。下の図1を参照して下さい。このペスト菌を持っているネズミノミにかまれてペストとなるヒトがいます。あるいは、ペスト菌に感染しているヒトや動物に接していてペストとなるヒトがいます(ネコやイヌから感染した例あり)。ペスト菌を持っているノミがネコやイヌなどのペットにつくこともあります。ペストの流行地でペットと一緒にベッドで寝ることは危険です。近年、心配されているのは、生物テロ(バイオテロ)として、テロリストがペスト菌を噴霧してそのペスト菌を吸い込んだ多くのヒトがペストを発病してしまうような事態です。

図1 ペスト菌の流れ

 西暦541年、記録に残っているペストの最初の世界的大流行がエジプトに始まりました。この流行は、北アフリカ、ヨーロッパ、中央および南アジアで人口の50-60%の損失を起こしたと推測されています。西暦1346年、記録に残っているペストの2回目の世界的大流行が始まりました。この世界的大流行は、130年以上にわたって続きました。黒死病( the black death)として恐れられ、ヨーロッパの人口の3分の1にあたる2000-3000万人が亡くなりました。西暦1855年、記録に残っているペストの3回目の世界的大流行が中国に始まりました。インドと中国だけで1200万人が亡くなりました。

 中世においては、ヨーロッパにおいて流行が起こると何百万人というヒトがペストによって亡くなりました。当時は、人々の住まいや働く場所にノミがたかったネズミが住んでいました。20世紀初めのペストの流行時には、マスクの着用の徹底が感染の広がりを防ぐのに役立ちました。今日では、ペストに対して有効な抗生物質が存在します。しかし、感染者が早めに治療を受けないと亡くなる可能性もある感染症です。

 世界においては、特定の地域の野ネズミたちがペストに感染しています。その野ネズミたちの近くで、今日でもヒトのペストの流行が起こっています。そのような地域では、通常、感染したネズミとネズミノミがヒトの家周辺に住んでいます。このペスト菌を持っているネズミノミにかまれて感染するのが通常です。アメリカ合衆国では、都市部で起こったペストの流行は、1924-1925年のサンフランシスコでの流行が最後でした。それ以降、アメリカ合衆国でのヒトのペストの発生は、農村部で散発的に見られています。アメリカ合衆国では、毎年、平均で10-15人の患者の発生がみられています。アメリカ合衆国では、1988-2002年の統計では、全部で112人の患者が西部の11州から報告されています。その内、ニューメキシコ州(48人)、コロラド州(22人)、アリゾナ州(16人)、カリフォルニア州(11人)の4州で、87%(97人)と大部分を占めます。また、ネズミノミがたかるネズミに豊富な食糧と隠れ場所を提供するような家周辺の環境においてペスト菌に感染する者がこの患者の80%を占めます。日本においては、近年においてペストの発生は見られていません。世界においては、毎年、約1000-3000人の患者の発生を国際保健機関(WHO:World Health Organization)が報告しています。

 21世紀初めの10年間(2000-2009年)においては、全世界では、21,725人(100%)の患者発生報告がありました(参考文献7)。死亡は1,612人で致死率は7.4%でした。コンゴ民主共和国(10,581人、48.7%)、マダガスカル(7,182人、33.1%)、ザンビア(1,309人、6.0%)、ウガンダ(972人、4.5%)、モザンビーク(600人、2.8%)、タンザニア(230人、1.1%)、中国(227人、1.0%)、ペルー(185人、0.9%)、マラウイ(170人、0.8%)、インドネシア(100人、0.5%)、アメリカ合衆国(57人、0.3%)、ベトナム(43人、0.2%)など、16か国から患者発生報告がありました。アフリカからの患者発生報告が97%を超えて多かったです。
 コンゴ民主共和国では、2005年と2006年に肺ペストの大きな集団発生が起こっています。2005年には、Oriental県のZobiaのダイヤモンド鉱山の従事者130人が感染し57人が死亡しました。2006年には、Zobiaから約200km離れたBolebole近くの金鉱山で、162人が感染し45人が死亡しました。

 2013年には、全世界で783人の患者発生報告があり、その内、126人が死亡しています(致死率16.1%)。マダガスカル、コンゴ民主共和国、ペルーからの患者発生報告が多いです。

 2014年には、アメリカ合衆国では、10人の患者発生報告がありました(参考文献9)。いずれも山間部のコロラド州で8人、ニューメキシコ州で2人の患者発生報告がありました。

 生物兵器としてのペスト菌の使用については、第2次世界大戦において、日本軍の秘密部隊であった731部隊がペストの流行を起こす目的で中国で住宅街にペスト菌を持ったノミを投下したという報告があります。その後、アメリカ合衆国と旧ソビエト連邦は、ノミに頼ることなく直接にペスト菌を噴霧する技術を開発しました。

どんな病気?

 ペストは最初にペスト菌が体内で感染を広げる部位によって、リンパ節(腺)に広がる腺ペスト、血液中に広がる敗血症ペスト、肺に広がる肺ペストの三つに分類されます。生物テロ(バイオテロ)に関係が深いのは、肺ペストです。

 肺ペストは、ペスト菌が肺を侵すことによっておこります。肺ペストの最初の症状は、発熱、頭痛、元気の無さ、そして血痰あるいは水っぽい痰を伴った咳です。嘔気・嘔吐・腹痛・下痢といった胃腸の症状が見られることもあります。肺炎が2-4日間で悪化しショックを起こします。早期からの治療がないと死亡の可能性があります。

 ペスト菌を含んだ気道の分泌物を介して、肺ペストはヒトからヒトへの感染を起こします。肺ペスト患者の呼吸器からの飛沫を吸い込むようなことで、患者と身近に接触するヒトがペストに感染することになります。患者から2メートル以内の接触が危険とされています。また、アメリカ合衆国では、ペスト菌に感染したネコの呼吸器からの飛沫を吸い込むようなことで肺ペストになったと考えられる患者の例が知られています(参考文献4)。さらに、アメリカ合衆国コロラド州(参考文献5)や中華人民共和国青海省(参考文献6)では、ペスト菌に感染したイヌの呼吸器からの飛沫を吸い込むようなことで肺ペストになったと考えられる患者の例が知られています。

 肺ペストは、早期に治療することが大切です。ストレプトマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコールを含む何種類かの抗生物質が有効です。発病の時点から24時間以上遅れて治療が開始された場合には、致死率が大変高くなります。早期に治療することができ、耐性の問題などもなく、有効な抗生物質が投与され経過も順調な場合には、抗生物質の投与開始から、48-72時間経過すると、患者の感染力は消失するとされています。

 ノミによって感染した場合には、主に腺ペストとなりますが、腺ペストの潜伏期は通常、2-8日です。バイオテロでペスト菌の噴霧を吸いこんだような場合には、肺ペストとなり、潜伏期は、それより短くて、2-4日(あるいは1-6日のこともあります。)とされています。腺ペストの初発症状は、突然の発熱、悪寒、元気の無さです。そして急速にリンパ節が腫れてきます。そけい部のリンパ節が腫れる場合が多いです。腺ペストで治療がされない場合には、患者の致死率は50%以上とされています。

 通常のペストの流行では、ヒトのペストの流行に先行して、しばしばペスト菌に感染したネズミの大量死があります。とりつくネズミを失ってペスト菌を持ったノミがヒトにとりつき、ノミからペスト菌に感染したヒトが腺ペストあるいは一次性の敗血症ペストとなります。通常、腺ペストあるいは一次性の敗血症ペストはヒトからヒトへとは直接は感染しません。但し、腺ペストで化膿した部位から浸出物等がある場合、その浸出物等の中のペスト菌が感染を起こす可能性もあるので、病巣部には注意が必要です。腺ペストあるいは一次性の敗血症ペストとなったヒトの少数が、二次的に肺ペストとなり、気道の分泌物中にペスト菌が出てきます。この気道の分泌物中のペスト菌によって肺ペストがヒトからヒトへと感染していきます。

 1947-1996年にアメリカ合衆国では、390人のペスト患者の発生が報告されています。そのうち、84%が腺ペスト、13%が敗血症ペスト、2%が肺ペストです。致死率は、腺ペストが14%、敗血症ペストが22%、肺ペストが57%でした。ペストが散発の状況では、肺ペストは少ないですが、ペストの流行時には、肺ペストの割合が高いです。

病原体は?

 ペストの病原体は、 Yersinia pestis (ペスト菌)という細菌です。ペスト菌は、日光や熱に弱く、体外では長期間にわたっては生存できません。ペスト菌が空中に噴霧された場合には、1時間は感染性がありえるとされています。

 一般的な場所でペスト菌に汚染された可能性のあるモノの表面の消毒には、次亜塩素酸ナトリウム溶液が使われることがあります。

予防のためには・・・

 肺ペストの予防接種(ワクチン)は、ありません。腺ペストの予防のためにホルマリンで不活化したワクチンが使われていましたが、肺ペストの予防に対する有効性は証明されていません。また、ペスト菌に接触してからのワクチン接種は発病予防のためには役立ちません。研究開発中のワクチンもありますが、実地に使用されるようになるまでには、まだまだ時間がかかるようです。

 ペスト菌に接触した可能性のあるヒトには、抗生物質の予防的投与が勧められています。アメリカ合衆国では、抗生物質の予防的投与としては、Doxycyclineあるいは、Ciprofloxacinで、7日間の投与が勧められています。

参考文献

  1. Thomas V. Inglesby , et al. ; Plague as a Biological Weapon. : JAMA ,May 3, 2000, Vol 283, No.17,p. 2281-2290.
  2. Judith F. English , Michael Bell , et al. ( APIC Bioterrorism Task Force & CDC Hospital Infections Program Bioterrorism Working Group ) ; Bioterrorism Readiness Plan : A Template for Healthcare Facilities. ;  4/13/99
  3. Imported Plague -- New York City, 2002 ; Morbidity and Mortality Weekly Report ; August 8, 2003/Vol.52/No.31, p. 725-728.
  4. Pneumonic plague -- Arizona, 1992 ; Morbidity and Mortality Weekly Report ; 1992/Vol.41, p. 737-739.
  5. Janine K. Runfola, MS, Jennifer House, DVM, Lisa Miller, MD, Leah Colton, PhD, Donna Hite, Alex Hawley, Paul Mead, MD, Martin Schriefer, PhD, Jeannine Petersen, PhD, Colleen Casaceli, MPH, Kristine M. Erlandson, MD, Clayton Foster, MD, Kristy L. Pabilonia, DVM, PhD, Gary Mason, DVM, PhD, John M. Douglas, Jr., MD; Outbreak of Human Pneumonic Plague with Dog-to-Human and Possible Human-to-Human Transmission - Colorado, June-July 2014; Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR); May 1, 2015 /Vol. 64(No. 16);p. 429-434.
  6. Hu Wang, Yujun Cui, Zuyun Wang, Xiaoyi Wang, Zhaobiao Guo, Yanfeng Yan, Chao Li, Baizhong Cui, Xiao Xiao, Yonghai Yang, Zhizhen Qi, Guojun Wang, Baiqing Wei, Shouhong Yu, Duolong He, Hongjian Chen, Gang Chen, Yajun Song, and Ruifu Yang; A Dog-Associated Primary Pneumonic Plague in Qinghai Province, China; Clinical Infectious Diseases, 15 January, 2011;Volume 52(Issue 2):p. 185-190.
  7. Thomas Butler; Review Article: Plague Gives Surprises in the First Decade of the 21st Century in the United States and Worldwide; Am. J. Trop. Med. Hyg., Vol. 89(No. 4), 2013, p. 788-793.
  8. WHO; Plague; Fact sheet No. 267, updated November 2014.
  9. CDC; Notice to Readers: Final 2014 Reports of Nationally Notifiable Infectious Diseases; Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR); September 18, 2015 /Vol. 64(No. 36); p. 1019-1033.

2001年10月22日初掲載
2003年8月13日増補
2015年9月18日増補

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成 - 2015年9月18日更新
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