横浜市トップページ > 健康福祉局 > 横浜市衛生研究所 > 横浜市感染症情報センター > 疾患別情報 > ウエルシュ菌による食中毒について
ウエルシュ菌による食中毒は、アメリカ合衆国ではよく見られる食中毒の一つです。特に、牛肉を使った料理が感染源となっている場合でよく見られます。ウエルシュ菌による食中毒では、多数の患者が発生する場合があります。1985年の11月、コネティカットの工場の従業員でウエルシュ菌による胃腸炎の大量発生がありました。1362人の工場従業員の内、44%が発病しました。工場従業員の大宴会で出された料理が原因として疑われ、原因食品は肉汁( gravy )と判明しました。肉汁は大宴会の12-24時間前に準備され、不適切な温度で保管され、給仕前の再加熱も短時間でした。肉汁の再加熱の時間が長ければ、肉汁による患者の発生数は少なくなったかもしれません。
同じ給食施設でウエルシュ菌による食中毒が繰り返されることもあります。1984年の3月19日、アメリカ合衆国の刑務所で77人の食中毒の集団発生がありました。昼食で食べたローストビーフが原因食品のウエルシュ菌による食中毒と判明しました。大部分の患者は食後8-16時間で発病していました。2回目のウエルシュ菌による食中毒は、1回目の食中毒の8日後の3月27日でした。1回目に食中毒になった者の大部分が再び食中毒になりました。原因食品はハムでした。1回目の食中毒も2回目の食中毒も、ウエルシュ菌で汚染された食物の不適切な温度での保管と、食前の不十分な再加熱が原因と考えられました。このようなウエルシュ菌による食中毒は、病院・介護施設などの給食施設や、大学などのカフェテリア(セルフサービスの食堂)などで起こりやすいため、ウエルシュ菌には、給食菌( food service germ )やカフェテリア菌( cafeteria germ )の別名もあります。
平成11年の日本全国でのウエルシュ菌による食中毒事件は、22件(全体の0.8%)で1517人(全体の4.3%)の患者が発生しました。1事件あたりの患者数は、原因物質別では1位の69.0人でした。ウエルシュ菌による食中毒では多人数の患者が発生する場合が多いです。仕出し弁当のインゲンとちりめんの煮付けが原因食品となった事件では、256人の患者が発生しました。この事件では、調理後急速冷却する時に冷却が不足していたこと、温度管理が不充分なまま冷蔵庫で長い時間保管したこと、配膳前の再加熱を実施していないことなどが原因と考えられました。
ウエルシュ菌は、土の中によく見られます。ウエルシュ菌は、芽胞を形成すると環境中で長期の生存が可能です。ウエルシュ菌は、ウシ・ブタ・ニワトリ・サカナなどの動物や人の腸の中にも見られることがあります。生の肉や生の野菜などに少数のウエルシュ菌が付いていることがありえます。また、ウエルシュ菌は、加熱にも強く、100度で1時間以上加熱してもウエルシュ菌の芽胞が生き残る場合があります。ですから、加熱調理後の食物にも、ウエルシュ菌が存在する可能性があります。ウエルシュ菌は、嫌気性菌で酸素が少ない環境を好みます。加熱調理後の食物では、含まれる酸素は少なくなっていて加熱により競争相手の細菌も死滅している可能性があります。加熱調理後の食物中のそのような環境下では、ウエルシュ菌はどんどん増殖してしまう可能性があります。
ウエルシュ菌による食中毒は、生きているウエルシュ菌を1千万-1億個より多く摂取しないと発病しないと考えられています。消化管内における毒素の産生が、ウエルシュ菌の芽胞の形成に伴って起こります。ウエルシュ菌による食中毒は、生きている多くのウエルシュ菌を摂取することによる感染型の食中毒であると考えられていて、食品中にウェルシュ菌が産生した毒素の摂取による毒素型の食中毒の場合はあるとしても少ないと考えられています。
ウエルシュ菌による食中毒では原因食品の食後8-15時間(:6-24時間のこともあります。)で症状が出現します。症状としては、水のような下痢・腹痛・ガスです。吐き気や嘔吐、発熱は少ないです。症状は24時間程度続くことがあります。小さいこどもや老人では症状が強いことがあります。脱水に対して点滴が行われることがありますが、治療なしでも症状は自然に消えるのが通常です。人から人へと直接に感染することはありません。
ウエルシュ菌は、壊死性腸炎またはピグベル(pigbel)というしばしば致命的な重症の病気を起こすことがあります。ピグベル(pigbel)は、ニューギニアでの壊死性腸炎の呼称です。パプアニューギニアの高地において、長期の低タンパク食の後、ウエルシュ菌に汚染された豚肉のごちそうを食べることによってなる壊死性腸炎です。軽い下痢で済む場合もありますが、腸の感染と壊死を起こし、敗血症となり、亡くなることもあります。壊死性腸炎またはピグベル(pigbel)は、ニューギニア以外では珍しい病気ですが、アフリカ・中南米・アジアなどでも見られます。壊死性腸炎またはピグベル(pigbel)は、ウエルシュ菌のC型によって起こると考えられています。ウエルシュ菌にはA型からE型までありますが、通常の食中毒を起こすウエルシュ菌はA型です。A型は傷への感染も起こします。
ウエルシュ菌は、ガス壊疽を起こす病原菌でもあります。ひどいケガをすることなどをきっかけにウエルシュ菌が皮下に入り込みガスを発生しながら筋肉などの壊疽を起こします。ウエルシュ菌は、嫌気性菌で酸素を嫌うので高圧酸素療法が補助的な治療法として使われることがあります。
ウエルシュ菌は、少なくとも12種類の毒素を作ります。アルファー毒素は、ガス壊疽のときに見られる毒素で組織破壊作用があります。ベータ毒素は、壊死性腸炎のときに見られる毒素で組織破壊作用があります。イプシロン毒素は、動物実験では神経毒性が見られます。
アルファー毒素については、テロリストなどにより精製され生物兵器として噴霧されるようなことが心配されています。アルファー毒素を吸入すると致命的な肺の障害などを起こす可能性があります。アルファー毒素が単独で用いられるとは限らず例えばイプシロン毒素も一緒に用いられるようなことも考えられます。
病原体のウエルシュ菌(あるいは、ウェルシュ菌とも。英語では、Clostridium welchii、あるいは Clostridium perfringens )の名前は、発見者の一人であるアメリカ合衆国の病理学者 William H. Welch(1850年4月8日アメリカ合衆国コネチカット州ノーフォークの生まれ。1934年4月30日死亡。)に因んだものです。1882年に、George H.F. Nuttallと共同の研究でWilliam H. Welchは、ガス壊疽の原因となるウエルシュ菌を発見しました。William H. Welchはアメリカ合衆国における病理検査室の創設者です。また、アメリカ合衆国の医学界の大物となったWilliam H. Welchは、ドイツからは「the Order of the Royal Crown」、日本からは「the Order of the Rising Sun」という勲章をもらったとのことです。アメリカ合衆国のJohns Hopkins 医科大学の医学図書館には、William H. Welchの名前が付けられています。
病原体のウエルシュ菌が増殖してしまうような温度で食品を放置するようなことが好ましくありません。ウエルシュ菌による食中毒の予防のためには、食品の温度管理をしっかりすることが大切です。以下のことに気をつけましょう。
1. 加熱調理した食品を低温で保管しようとするときは、速やかに5度より低い温度に下げましょう。
2. 加熱調理した食品を高温で保管しようとするときは、60度以上の温度で保ちましょう。
3. 低温で保管した食品は給仕する前に内部の温度が75度以上になるように再加熱しましょう。
4. 室温の中で食品を長時間放置するのは止めましょう。
5. 生の食品から調理済みの食品に細菌などが移らないようにしましょう。生の食品に使う包丁・まな板・皿等と調理済みの食品に使う包丁・まな板・皿等とは別のものにしましょう。同じものを使う場合には、よく洗って消毒してからにしましょう。
6. 食品を扱う場所は、汚れやごみのない清潔な場所にしましょう。
7. 肉をスライスしたりカットする器具など食品と接触するものについては、使用後よく洗い消毒しましょう。
8. 食品を扱うときには、何度も手をよく洗いましょう。特に生の食品を扱った後と調理済みの食品を扱う前とには注意して洗いましょう。
9. トイレの後、料理の前、食事の前などには手をよく洗いましょう。
2002年1月22日掲載