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トリコテセン-マイコトキシン(T-2マイコトキシンなど)について

流行は?

 トリコテセン-マイコトキシン ( trichothecene mycotoxins : トリコテセン系マイコトキシンとも言います。) の一種であるT−2マイコトキシンは、穀物に発生することのあるありふれたカビである Fusarium 属のカビによって作られる毒素です。1942-47年、ロシアでは、 Fusarium 属のカビで汚染された穀物で作られたパンが市民の食卓にのるという事件が起こりました。この Fusarium 属のカビの毒素のため、死に至ることもある重症の白血球減少症となった人たちが出現しました。まず、腹痛、下痢、嘔吐、脱力で始まります。数日で発熱、悪寒、筋肉痛、及び、顆粒球減少症を伴った骨髄抑制が起こり、二次性の敗血症となります。咽頭・喉頭の潰瘍や、皮下の点状出血・斑状出血、黒色便、血性の下痢、血尿、血便、鼻出血、性器出血を起こすこともあります。1944年のロシアのOrenburgでは、冬季に雪の下になっていた畑に残されていたカビの生えた穀物でつくったパンを食べて、食中毒性の白血球減少症となり農民が多数死亡したとされています。

 T−2マイコトキシンなどのトリコテセン-マイコトキシンが噴霧されるなどして生物兵器として使用されないかと危惧されています。

どんな病気?

 たんぱく質の合成や核酸の合成を阻害する作用を、トリコテセン-マイコトキシンは持っています。そこで骨髄、胃腸管の粘膜上皮、皮膚、生殖細胞などの、細胞の分裂が盛んな組織では、細胞への毒性を強く発揮します。また、トリコテセン-マイコトキシンは、他にも、細胞膜の構造や機能に影響を与えたり、細胞内のミトコンドリアの呼吸を阻害したり、ある種の酵素を不活化したりといった種種の作用を持っています。細胞の分裂が盛んな組織では、細胞への毒性を強く発揮することから、トリコテセン-マイコトキシンを抗がん剤として活用する研究も進められました。しかし、人の生命にも関わるような毒性の強さから、抗がん剤としての活用は困難です。また、トリコテセン-マイコトキシンの毒性は、ヒトに対してだけでなく、他の哺乳動物、鳥、魚、無脊椎動物、植物などにも発揮されます。

 トリコテセン-マイコトキシンは、体への侵入経路としては、目などの粘膜や皮膚に粘着して浸潤する経路、吸入されて呼吸器からの経路、および飲食されて消化器からの経路の三経路があります。曝露して数分以内に始まる症状は、痛みを伴う皮膚の発赤・腫脹・水ぶくれなどで、皮膚は壊死を起こし黒くなったり、かさぶたを形成したりします。目の曝露は、発赤、痛み、涙、異物感、角膜の障害、目のかすみなどを起こすことがあります。皮膚の症状は、数分から数時間経過してから出現しますが、目の症状は数分で出現します。鼻などの上気道の曝露は、鼻のかゆみ、痛み、鼻水、鼻血などを起こします。肺や気管などの曝露は、咳、息苦しさ、喘鳴などを起こすことがあります。口やのどの曝露は、痛みや血液の唾液や痰への混入を起こします。胃腸管の曝露は、食欲不振、吐き気、嘔吐、水様あるいは血性の下痢、腹痛などを起こすことがあります。どの経路の曝露でも、吸収されたトリコテセン-マイコトキシンは、全身症状として、脱力、ふらつき、運動失調、めまいなどを起こすことがあります。致命的な場合には、頻脈、低体温、低血圧、ショックを起こすことがあります。血球減少や出血、敗血症を起こすこともあります。死亡は、曝露から数分後のこともあれば、何日もたってから起こることもあります。経口摂取の場合、体重70kgの男性のT−2マイコトキシンの致死量は、約35mgとされています。

 治療に関しては、このT−2マイコトキシンなどのトリコテセン-マイコトキシンを特に解毒するような特効薬はありません。治療は、症状に応じた対症的な治療が中心となります。石鹸と水とによる洗浄が、このT−2マイコトキシンという毒素の皮膚への毒性を、曝露後4-6時間経過した時点でも、減ずることができます。曝露後1時間以内の洗浄であれば、毒素の皮膚への毒性の大部分を除去できるとされています。曝露時の着衣は脱がせ、暴露時にむきだしになっていた皮膚はとくに念入りに石鹸と水とによる洗浄を行う必要があります。但し、曝露時の着衣や暴露時にむきだしになっていた皮膚などには毒素が付着しているものと考えて、医療関係者等は、毒素による汚染の除去が完了するまでは取り扱いに特に注意が必要です。毒素による目の汚染に対しては、生理的食塩水による洗浄が行われます。皮膚については、ヤケドの治療が行われることがあります。飲み込んだ毒素を吸着させるための活性炭を服用させることがあります。人工呼吸器による呼吸の補助が必要になることがあります。

 曝露から数分から数時間以内での発症は、細菌やウイルスよりは、化学剤や毒素による曝露の可能性を考えさせます。化学剤のマスタード類による曝露でも、数時間してから発症することもあり、鑑別診断として注意が必要です。毒素であるブドウ球菌腸毒素Bリシン毒素も、吸入によって発熱、咳、息苦しさ、喘鳴などを起こすことがありますが、ブドウ球菌腸毒素Bリシン毒素は直接に皮膚を侵すことはありません。

病原体は?

 T−2マイコトキシンなどのトリコテセン-マイコトキシンは、感染症を起こす病原体ではありません。中毒を起こす毒素です。トリコテセン-マイコトキシンは、250-500 という低分子量の非揮発性の化合物です。 Fusarium 、Myrotecium 、Trichoderma 、Cephalosporium 、Verticimonosporium 、Stachybotrys といった属のカビによって作られます。文献では、約百五十のトリコテセン-マイコトキシンの誘導体が記述されています。トリコテセン-マイコトキシンは水に比較的溶けにくく、エタノール・メタノール・プロピレングリコール・アセトン・エチルアセテート・クロロホルムによく溶けます。黄色・赤・緑・白・茶色などの色のことがあり、油っぽいですが石鹸と水を使って体表面から洗い流すことができます。

 トリコテセン-マイコトキシンの吸収は、肺や腸の粘膜からの吸収は速やかですが、皮膚からの吸収は有機溶剤などに溶かされた状態でない限り遅いと考えられています。体内に吸収されたトリコテセン-マイコトキシンとその代謝物は、尿と便の中に排出されます。50-75%が24時間以内に排出されます。代謝物は、曝露後28日後まで検出できます。

 マイコトキシン( mycotoxin )の myco は、ギリシア語でキノコ ( mushroom ) を意味する mykes に由来し、カビを意味します。toxin は毒素を意味し、マイコトキシン( mycotoxin )では、カビの作る毒素(カビ毒)を意味します。マイコトキシン( mycotoxin )としては、トリコテセン-マイコトキシン以外では、アフラトキシンが有名です。アフラトキシンは、主にピーナッツにつくカビである Aspergillus flavus によって作られる毒素で、肝硬変や肝臓ガンの原因になるとされます。アフラトキシン ( aflatoxin ) の afla は、Aspergillus のAと flavus fla に由来します。1960年にイギリスでブラジルから輸入したピーナッツのエサを食べた七面鳥のヒナたちが大量死した事件( turkey X disease 事件:七面鳥X病事件)の原因物質として分離されました。トリコテセン-マイコトキシンとしは、T−2マイコトキシンや deoxynivalenol ( DON ) 、nivalenol( NIV ) 、4,15-diacetoxyscripenol ( DAS あるいは anguidine とも )などがあります。アフラトキシンもT−2マイコトキシンや deoxynivalenol ( DON ) なども、家畜の飼料に混入すると、大きな損害をもたらします。

 日本では、小麦や大麦で赤カビ病( red mold disease )が見られることがあります。カビの生えた穀粒から Fusarium nivale による nivalenol、deoxynivalenol ( DON ) や monoacetyl-nivalenol ( fusarenon-X ) といったトリコテセン-マイコトキシンが検出されることがあります。

 Fusarium 属のカビには、トリコテセン-マイコトキシン以外にも、フモニシン( fumonisin )やゼアラレノン ( zearalenone )といったマイコトキシンを産生するものがあります。フモニシンは Fusarium verticilloides Fusarium proliferatum が産生するマイコトキシンです。フモニシンに汚染されたトウモロコシを食べることなどで、ブタの肺水腫などを起こすことがあります。ゼアラレノンはエストロジェン活性を持ちます。ゼアラレノンに汚染されたトウモロコシを食べることなどで、ブタの外陰部の肥大や死産・流産などを起こすことがあります。

 また、日本では、第二次世界大戦後の食糧難に際して東南アジアなどからコメの緊急輸入がなされました。この輸入米がカビ汚染により黄色に変色し、肝臓や腎臓に毒性のあるマイコトキシンを含んでいるとされました。十数万トンに及ぶ汚染米が食用として配給されずに廃棄されることとなりました。この黄変米事件の原因については、 Penicillium 属のカビが作るシトリニン、ルテオスカイリン、ルグロシン等のマイコトキシンとされています。

予防のためには・・・

 トリコテセン-マイコトキシンは紫外線や熱に安定です。482度で10分あるいは260度で30分の加熱で不活化することができます。環境中のモノの表面の消毒においては、アルカリ性の中での次亜塩素酸の使用が有効です。5%の次亜塩素酸ナトリウム溶液だけで6時間以上の接触時間で消毒されることがあります。一方、1%の次亜塩素酸ナトリウム溶液に0.1Mの水酸化ナトリウム溶液を加えて1時間の接触時間で消毒されることがあります。

参考文献

  1. USAMRIID`s medical management of biological casualties handbook ( Blue Book : 6th edition , April 2005) : U.S.Army Medical Research Institute of Infectious Diseases ; Fort Detrick Frederick , Maryland , U.S.A.
  2. Medical aspects of chemical and biological warfare ; Borden Institute, Walter Reed Army Medical Center, Washington, D.C., U.S.A. ; May 1997.
    ROBERT W.WANNEMACHER,JR.,PH.D. AND STANLEY L.WIENER,M.D. ; Chapter 34 "TRICHOTHECENE MYCOTOXINS" ; p. 655-676.
  3. Jonathan B. Tucker ; The "Yellow Rain" Controversy: Lessons for Arms Control Compliance. ; The Nonproliferation Review/Spring 2001 ; p. 25-42.

2001年12月17日掲載
2007年1月26日改訂増補
2008年2月12日改訂増補

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成
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