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流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)について

流行は?

 世界中で年間を通してムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)の発生がみられますが、ムンプスの発生のピークは晩冬から早春にかけて見られることが多いです。ムンプスワクチンが国民の定期予防接種になっている国では発生が少ないです。ムンプスワクチンが使用されていない国では2-5年毎に大きな流行があります。
 アメリカ合衆国の場合、ムンプスは、1964年には年間212,000人の患者発生と推計され、1968年から国への報告疾患となりました。1968年には年間152,209人のムンプスの患者発生報告がありました。アメリカ合衆国では、1967年のムンプスワクチンの認可、1977年の定期予防接種(1回)の勧告等によりムンプスワクチンを受ける人が増加して、ムンプスの患者発生報告数は年々低下し、1983-1985年には年間約3000人の報告となりました。ところが、1986年と1987年に再びムンプスの流行があり、ピークは1987年の12,848人でした。この流行は、当時の10歳台つまりムンプスワクチンが定期予防接種になる前の世代で見られたものでした。このムンプスの流行がおさまってからも、高率(>95%)にムンプスワクチンの接種をうけていてムンプスの集団発生は起こらないだろうと考えられていた生徒たちの中でのムンプスの集団発生の報告がいくらか見られました。ムンプスワクチンの1回の接種では学校でのムンプスの集団発生を防ぐためには免疫効果が不十分であると考えられました。現在では、アメリカ合衆国では、ムンプスワクチンは、MMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)として、1歳のお誕生日以後の生後12-15か月に1回と、就学前の4-6歳に1回の、計2回受けることになっています。当・横浜市衛生研究所ウェブページ「アメリカ合衆国のこどもの定期予防接種について 」をご参照ください。2回の定期予防接種(1989年に勧告)になってから、ムンプスの定期予防接種を受けた生徒たちの中でのムンプスの集団発生もほとんど見られなくなり、1989年には年間5,712人あったムンプスの報告も2003年には年間231人と史上最低の値まで下がりました。ところが、2006年には年間6,584人と再び流行が見られました。2007年には、年間800人と再び減少しました。その後は、2008年454人、2009年1,991人、2010年2,612人、2011年404人、2012年229人、2013年584人となっています。
 2006年のアメリカ合衆国におけるムンプスの流行は、2005年12月にアイオワ州から始まり、2006年4月末をピークとして、2006年10月に終息しました。2005年12月にアイオワ州東部の大学で耳下腺が腫脹した学生数人を検査したところ、内二人がムンプスに特異的なIgM抗体が陽性となり、ムンプス患者の発生が確認されました。2006年1月1日から10月7日までのアメリカ合衆国におけるムンプス患者発生報告のまとめによれば、この間に報告された計5783人のムンプス患者の内、報告の多い州から列挙すると、アイオワ州1968人、カンサス州904人、ウィスコンシン州750人、イリノイ州591人、ネブラスカ州357人、サウスダコタ州288人でした。この中西部の6州で全体の84%をしめます。この6州の内ではアイオワ州でのムンプス患者発生が多く、アイオワ州以外の5州はいずれもアイオワ州の周辺の州でした。アイオワ州では、大学生でのムンプス患者発生が多く、ムンプスの2回の予防接種を受けている大学生からもムンプス患者発生が多く見られました。ムンプスの2回の定期予防接種が標準となっている集団でも、集団発生が起こる可能性があります。患者を見逃すことなく早期に発見して、学校への出席停止などの対策を行うことが大切です。
 ムンプスの2回の定期予防接種が標準となっている集団でも、集団発生が起こる可能性がありますが、ムンプスの1回あるいは0回の定期予防接種が標準となっている集団に比較すると、集団発生におけるムンプス罹患率(集団に対するムンプス患者発生の割合)は低いです。アメリカ合衆国において、ムンプスワクチンを受けていないのが標準的であった1982年の中学校における集団発生では、ムンプス罹患率は25-49%でした。ムンプスワクチンを1回受けているのが標準的であった1986-1990年の中学校・高校における集団発生では、ムンプス罹患率は2-18%(大部分は6%より高い)でした。ムンプスの2回の定期予防接種が標準となっている2006年のアイオワ州の二つの大学における集団発生では、ムンプス罹患率は2.0%と3.8%でした。ムンプスの2回の定期予防接種を受けている率が高い大学の方が、ムンプス罹患率は低かったです。2006年のアメリカ合衆国での集団発生が学校の中でも大学中心となったのは、大学生の大部分が、最後のムンプスワクチンをMMRワクチンとして受けてから6-17年経過して、ムンプスに対する免疫が低下してきていた可能性も要因として考えられます。
 2009年から2010年にかけては、アメリカ合衆国において二つの流行がありました。一つはアメリカ合衆国の北東部の伝統順守のユダヤ教正統派の地域社会における流行で3,502人のムンプス患者発生報告がありました(参考文献1, 15, 16)。もう一つは太平洋上のグアムにおける流行で505人のムンプス患者発生報告がありました(参考文献1)。伝統順守のユダヤ教正統派の地域社会におけるムンプスの流行の第一例は、11歳の少年で2009年6月17日に英国旅行から米国に帰国しました。ムンプスが流行していた英国滞在中に感染し、ニューヨークの伝統順守のユダヤ教正統派の少年たちのための夏のキャンプに参加中の6月28日にムンプスを発病しました。この夏のキャンプにおいて参加者やスタッフが感染し、多数の帰宅先でも感染が広がることとなりました。

グラフ(1968-2007年の米国の流行性耳下腺炎患者年間発生報告数推移)

 2011年9月29日、カリフォルニア州公衆衛生局は、州内のある大学の保健部で把握した3人のムンプス疑いの大学生について、PCR検査により、ムンプスと確定しました。2011年9月29日、大学保健部と当地の衛生部では、最終的には29人の患者発生となった大学でのムンプスの集団発生への対応を開始しました(参考文献10)。
 ムンプスの集団発生の第一例の患者は、ムンプスが流行している西ヨーロッパの国に最近、旅行したムンプスワクチン未接種の21歳の男子大学生でした。この大学生は、2011年8月25日、発熱及び、片側の顔と顎(あご)の腫れとで、大学保健部の診療所を受診しました。腫れた部分の皮下組織の炎症を疑って抗生物質が処方されました。その後、発病から6日までに睾丸の腫れを訴えたため、ムンプスが疑われました。そこで、診断確定のための血液検査が案内されましたがこの大学生は従わず、疑い段階での公衆衛生当局への届出も行われませんでした。
 ムンプスの集団発生の第二例の患者は、21歳の男子大学生で、第一例の患者の同室者でした。第一例の患者の受診の約三週間後、疲労感及び、片側の首と顎(あご)の腫れと痛みとで、大学保健部の診療所を受診しました。この大学生は、二回のMMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)の接種歴がありました。医師は耳下腺炎を考えて、ムンプスの血清学的診断のための血液を採取し、大学生には、自室に五日間閉じこもり他の人と接触しないよう指導しました。ムンプスに対する、IgM抗体陰性、IgG抗体陽性でした。このような、ムンプスワクチン接種歴がある場合には、IgM抗体陰性でもムンプスを否定できません。この段階でも公衆衛生当局への届出は行われませんでした。
 その後も大学ではムンプス疑いの患者発生があり、2011年9月29日、カリフォルニア州公衆衛生局は、3人のムンプス疑いの大学生について、PCR検査により、ムンプスと確定しました。第一例の患者発生からムンプスの患者発生の確定までに一ヶ月以上の経過があり、ムンプスの患者発生の確定後の公衆衛生的な対応となったため、最終的には29人の患者発生となる大きな集団発生に至ったものと思われます。
 大学には約36,000人の学生が在籍します。29人の患者の内、27人(93%)が学生でした。残りの二人(7%)の患者の内、一人(3.7%)は学生の濃厚接触者、一人(3.7%)は公衆衛生当局に属し大学のムンプスワクチン接種のための臨時診療所の従事者でした。29人の患者のムンプスワクチンの接種歴については、MMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)の接種を二回受けた者22人(76%)、三回受けた者2人(7%)、一回受けた者2人(7%)、受けていない者1人(3.7%)、不明2人(7%)でした。
 大学のムンプスワクチン接種のための臨時診療所は2011年10月の初旬からの四週間に五回開設され、3,631人が一回のムンプスワクチン接種を受けました。この大学では、入学生にMMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)の接種を二回受けていることを推奨していますが、入学時に二回接種済みの証明書の提出を求めていませんでした。そのため、学生のムンプスワクチンの接種歴を知るのは難しく、臨時診療所では学生のムンプスワクチンの接種歴に関わらず、主に感染の広がる場となった(食堂・娯楽室等共用の)半共同住宅に住む学生を中心にムンプスワクチン接種を行いました。2011年11月の3-9日の週に一人(28番目)、17-23日の週に一人(29番目)、患者が発生して以降は新たな患者発生は見られず、大学のムンプス集団発生は終息しました。

 日本においては、流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)は、感染症法での5類の小児科定点把握疾患であり、全国約3000の小児科定点医療機関で患者発生が把握されています。届出基準はこちら(PDF版) [pdf:185KB] です。2000-2006年の全国の小児科定点医療機関あたり流行性耳下腺炎患者年間年齢別発生報告数は、下のグラフのとおりです。年齢別では4歳が最も多いです。0歳から発生は見られますが、母親からの免疫が残っている可能性もあり、発生は少ないです。0歳では生後6か月以降の発生が比較的に多いです。0歳以降4歳まで、小児では年齢を重ねるとともに発生は増加します。5歳以降、小児では年齢を重ねるとともに発生は減少します。一方、少ないですが20歳以上の発生報告もあります。ムンプスの免疫を持っていない大人が、家族がムンプスにかかった際などに、ムンプスにかかってしまうことがあります。

グラフ(2000-2006年の全国の小児科定点医療機関あたり流行性耳下腺炎患者年間年齢別発生報告数)

 横浜市では、年間を通してムンプス患者発生の報告が見られますが、春から夏にかけて発生の増加が見られることが多いです

どんな病気?

 ムンプス(流行性耳下腺炎、おたふくかぜ)は、ムンプスウイルスによる感染症です。患者の呼吸器の飛沫を吸い込んで、あるいは患者の唾液で汚染されたものと接触して、鼻や口を通して鼻・咽頭部からウイルスを取り込むことによりウイルスに感染します。体内に侵入したウイルスは、鼻・咽頭部及びその部のリンパ節で増殖し、侵入してから12-25日後に3-5日間のウイルス血症(血液中にウイルスが存在する状態)を起こします。ウイルス血症の間に、ウイルスがいろいろな身体組織に広がります。唾液腺(耳下腺等)・すい臓・睾丸・卵巣といった腺組織および髄膜です。そのような組織での炎症が、耳下腺炎や無菌性髄膜炎といったムンプスに特徴的な症候なのです。潜伏期は通常16-18日(12-25日のこともあります)です。最初の症状は、筋肉痛、食欲不振、気分不快、頭痛、寒気、微熱あるいは中等度の発熱などです。これらの症状が12-24時間続いてから、耳下腺の症状が出てきます。ただし、これらの症状は全くない場合もあります。耳下腺炎は、もっとも典型的な症状で、感染した人の30-40%に出現します。飲食物を噛んだり飲み込むとき、特に酢やレモンジュースのような酸味のある液体を飲み込むとき痛みを感じるのが、最初の症状です。炎症を起こした耳下腺は触れると痛いです。耳下腺炎の進行とともに、しばしば39.5-40度に達する発熱が見られます。この24-72時間の発熱の間は、圧痛が強いです。耳下腺の腫れは、2日目にピークを迎え、耳の前や下の部分が腫れます。両側が腫れる場合が多いですが、片側のみ腫れる場合もあります。片側しか腫れなかった場合でも、ちゃんとした免疫がつきます。両側が腫れた様子から、「おたふくかぜ」の別名もあります。唾液腺の内、顎下腺や舌下腺が腫れる場合もあり、そのような場合には、顎の下の腫れが見られます。耳下腺の腫脹は5-9日間続きます。食物は、あまり噛まなくて良い消化の良いものにしましょう。酸っぱいものは、避けましょう。

 先ほど、「耳下腺炎が感染した人の30-40%に出現します。」と書きましたが、実はムンプスウイルスに感染しても、20-30%は無症状です。不顕性感染と言い、子どもたちに多いですが、ちゃんと免疫はつきます(2歳未満の感染の大部分は不顕性感染です)。残りの40-50%は、ムンプスに特徴的な症状以外の症状だけか、呼吸器症状にとどまります。
 なお、不顕性感染の人の場合でも、ウイルスを排出し、周囲の人を感染させる可能性があります。

 思春期後の男性で、最も多い合併症は、睾丸炎です。20-30%で起きます。20-30%は両側とも腫れます。通常、睾丸の腫れ、圧痛、嘔気、嘔吐、発熱が急に出現します。歩き回っているとさらに睾丸の腫れと痛みがひどくなるので、ベッド上安静が必要です。睾丸の痛みと腫れは1週間で良くなりますが、圧痛は数週間続くことがあります。患者の50%に睾丸の部分的な萎縮を認めますが、不妊はまれです。紀元前5世紀にヒポクラテスがすでにムンプスを耳下腺と睾丸とが腫れる病気として記述しています。昔から、動員された兵士たちがかかる病気としてムンプスは知られていました。

 思春期後の女性のムンプス患者の5%に、卵巣炎が起こります。虫垂炎と似た腹痛を起こすことがあります。不妊とは関係ないと考えられています。

 膵炎は患者の3.5%で見られることがありますが、耳下腺炎なしに起こることもあります。強い嘔気、嘔吐、腹痛を起こしますが、1週間で症状は消え、完全に回復します。糖尿病も合併症として報告されていますが、因果関係はまだはっきりしません。ムンプスの流行から数ヶ月あるいは数年たってからの糖尿病の発生増加が報告されています。

 頭痛や首の固さといった症状がある無菌性髄膜炎が、ムンプス患者の1-15%に見られますが、通常は続発症もなく3-10日で良くなります。ムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎の患者の30-50%には、耳下腺炎は見られません。

 ムンプスは、子供時代に聴力を失う主要原因の一つとされています。ムンプス20000例中、約1例で聴力を失います。約80%が片側のみです。突然発症します。

 心筋炎と合致する心電図の変化が、3-15%のムンプス患者に見られますが、心筋炎の症状が見られることはまれです。完全に治る場合がほとんどですが、死亡例もあります。

 少ない合併症としては、脳炎・関節炎・腎炎があります。ムンプス脳炎は、患者の0.02-0.3%で報告されています。

 ムンプスでの死亡例は、10000例あたり1-3例とされています。

 妊娠中のムンプスの罹患は、先天性奇形と関係ないとされています。しかし、妊娠初期の場合には、流産の確率が高まります。ムンプスは、健康な妊娠・出産のために注意したい感染症の一つです。

 ムンプスに対する特効薬はありません。症状に応じた対症療法が治療の中心となります。

 一度ムンプスを発病すると生涯に亘る免疫を獲得するとされていますが、再度ムンプスを発病する場合もあることが報告されています。

病原体は?

 病原体はムンプスウイルスです。1945年に初めて分離されました。ムンプスウイルスは、パラインフルエンザやニューカッスル病のウイルスと同じグループのパラミキソウイルス(paramyxovirus)の一つです。パラインフルエンザやニューカッスル病のウイルスはムンプスウイルスに近く、パラインフルエンザやニューカッスル病では、ムンプスウイルスと交叉反応のある抗体が産生されます。ムンプスウイルスは、患者の唾液・髄液・尿・血液・母乳等から分離されます。ムンプスウイルスは、耳下腺炎の発症の7日前から11-14日後まで唾液から分離されることがあります。ムンプスウイルスが分離される率は、耳下腺炎の発症日に近いほど高いです。いくつかの調査研究のデータを結合すると、ムンプスウイルスが分離される率は、耳下腺炎の発症日の6-7日前が17%(1/6)、2-3日前が40%(4/10)、1日前が86%(6/7)、当日が78%(7/9)、1日後が81%(29/36)、2-3日後が49%(18/37)、4-5日後が40%(6/15)、6-7日後が17%(1/6)となっています(参考文献11)。
 また、患者の大部分がMMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)の二回接種を受けていた2006年のアメリカ合衆国のある大学でのムンプス患者の集団発生において、RT-PCR(reverse transcription-polymerase chain reaction)法によるムンプスウイルスの遺伝子(RNA)の検出を行った調査研究(参考文献12)があります。耳下腺炎の発症日後、3日以内では20人中7人(35%)で ムンプスウイルスの遺伝子(RNA)が検出されました。耳下腺炎の発症日後、4-22日では14人検査しましたが ムンプスウイルスの遺伝子(RNA)は検出されませんでした。

 なお、耳下腺炎は、ムンプスウイルスだけでなく、パラインフルエンザウイルス(1型および3型)、コクサッキーウイルスA群、エコーウイルスA型インフルエンザウイルスEBウイルスアデノウイルス等といったウイルスが原因となることがあります。

予防のためには・・・

 ムンプスと診断された患者は会社や学校を休み、通院以外は外出を控えましょう。合併症によっては、入院治療が必要な場合もあります。学校保健安全法では、第二種の学校感染症に分類されていて、出席停止の対象となり、登校基準は「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が発現した後五日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで出席停止とする。ただし、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。」となっています。

 予防のためには、家庭では、患者も周囲の人もよく手を洗いましょう。唾液が着く可能性があるので、タオル等は別にしましょう。

 ムンプスにはワクチン(予防接種)があります。任意接種ですので、主治医によく相談しましょう。日本では、MMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)は、現在は使用されていません。ムンプス単独のムンプスワクチン(おたふくかぜワクチン)が使用されています。接種対象者は、「接種対象は、生後 12月以上のおたふくかぜ既往歴のない者であれば性、年齢に関係なく使用できる。ただし、生後24月から生後60月の間に接種することが望ましい。」(おたふくかぜワクチンの医薬品添付文書)となっています。
 日本では、MMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)は、麻疹の定期予防接種にあたって、同時に風疹、おたふくかぜの予防接種を希望する旨の申し出があったときに使用できるという形で、1989年4月から接種が開始されました。ところが、MMRワクチンの接種後に、数百人から数千人に一人、ほとんどがワクチン由来のムンプスウイルスによると疑われる無菌性髄膜炎が発生することが明らかになり、1993年4月末にMMRワクチン接種の見合わせに至りました。
 英国でも、以前使われていたMMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)において、ムンプスワクチンウイルスのUrabe(占部)株が接種を受けた者の無菌性髄膜炎となる危険性を増すとされました。英国では、このMMRワクチンは1992年に使われなくなり、認可も取り消されました。このMMRワクチンに替わって、接種を受けた者の無菌性髄膜炎となる危険性を増さないとされるムンプスワクチンウイルスの株を使ったMMRワクチンが英国では使用されるようになりました(参考文献14)。
 なお、2005年12月までにWHO(世界保健機関)加入国193か国中110か国(57%)が、ムンプスワクチンを国の予防接種プログラムに含めていて、その大部分でMMRワクチンが使用されています。また、アメリカ合衆国では、MMRVワクチン(麻疹[measles]・ムンプス[mumps]・風疹[rubella]・水痘[varicella]の四種混合ワクチン)も認可されて使用されています。
 ムンプスのワクチン(予防接種)を受けていても、ムンプスを発病することがあります。アメリカ合衆国でのムンプスの集団発生での観察によれば、MMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)の1回接種ではムンプスの予防効果は80%程度、2回接種ではムンプスの予防効果は90%程度と考えられています。
 2005年6月28日から8月18日まで開催の、アメリカ合衆国ニューヨーク州のあるサマー・キャンプで、ムンプスの集団発生がありました。参加者とスタッフとの計541人中、6月30日から8月9日にかけて、31人が発病しました(罹患率5.7%)。2004-2005年、英国ではこれまでムンプスの定期予防接種の対象となったことがない人が大部分を占める15-24歳を中心とした、主として高等教育機関におけるムンプスの大流行が見られました(英国では、1988年10月に麻疹ワクチンをMMRワクチンに置き換える形でムンプスの予防接種は生後12-15か月での一回の定期予防接種となりました。さらに、1996年からは、2回目のMMRワクチンを3歳半から5歳までに接種する二回の定期予防接種となりました。最近の英国のこどもの定期予防接種スケジュールについては、当・横浜市衛生研究所ウェブページ「英国のこどもの定期予防接種について 」をご参照ください )。英国のイングランドとウェールズにおけるムンプス患者発生報告数のピークは、2005年3-5月でした。アメリカ合衆国ニューヨーク州のサマー・キャンプでのムンプスの集団発生の発端となった第一号患者は、サマー・キャンプでカウンセラーとして働くためにこの英国から2005年6月19日に渡米しました。第一号患者は、20歳の英国人でムンプスの予防接種は受けたことがありません。6月30日、この英国人は、左側の耳下腺の腫れ、咽頭痛、微熱とでムンプスを発病しました。しかし、受診した病院ではムンプスと診断されず、隔離されることもなくキャンプでそのまま働き続けました。サマー・キャンプでは、7月15日から7月24日までに27人、8月2日に1人、8月4日に1人、8月9日に1人、ムンプスを発病しました。31人のムンプス患者の内、参加者12人、スタッフ19人でした。参加者のムンプス患者12人については、10-15歳の米国人で1歳以降に2回のMMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)を受けていました。スタッフのムンプス患者19人は、9人が英国人、5人が米国人、3人がオーストラリア人、2人がドイツ人で、19-41歳(中央値21歳)でした。スタッフのムンプス患者19人の内、予防接種歴がはっきりしているのは17人で、ムンプスのワクチン接種歴については、2回が4人、1回が4人、0回が9人でした。ムンプスのワクチン接種歴が2回あっても、ムンプス発病の可能性があることに注意する必要があります。
 2005年7月26日に当地を管轄するニューヨーク州Sullivan郡保健部およびニューヨーク州保健部はサマー・キャンプでのムンプス患者の多数発生の報告を受け、集団発生対策が行われました。ムンプスを発病している患者については、発病から9日間の隔離をしました。そのときまでにサマー・キャンプで発病した患者を除く513人については、検疫状態に置かれ、ムンプスに対する免疫がはっきりするまで、キャンプへの出入りを禁じました。なお、「隔離」も「検疫」も周囲との接触を絶つ点については同じですが、患者については隔離(isolation)、患者以外の接触者等についは検疫(quarantine)と言葉が使い分けられています。ムンプスに対する免疫については、以下の当時の米国予防接種勧告委員会(ACIP)の判断基準を用いました。
1) 1957年より前の出生。
2) 以前に医者にムンプスを診断されたことがある。
3) ムンプスに対する免疫が検査で証明されている(ムンプスに特異的なIgG抗体陽性)。
4) 1歳以後にムンプスを含んだ予防接種を1回以上受けたことが医療機関で証明される。
 1歳以後にムンプスを含んだ予防接種を1回以上受けたことの医療機関での証明がなく、ムンプスに対する免疫状態がはっきりしない20人については、ムンプスに特異的なIgG抗体の測定が行われました。ムンプスに対する免疫がない、あるいは、1歳以後にムンプスを含んだ予防接種を1回以上受けたことの医療機関での証明がない人、計73人については、MMRワクチン(麻疹・風疹・ムンプスの三種混合ワクチン)が接種されました。
  2005年8月9日の1人のムンプス患者発生を最後として、サマー・キャンプにおいて新たなムンプス患者は発生せず、サマー・キャンプにおけるムンプスの集団発生は終息しました。

 上述のように、アメリカ合衆国では、2005年当時、ムンプスの集団発生対策において、ムンプスを発病している患者については、耳下腺炎の発病から9日間の隔離をしていました。ムンプスを発病している患者の耳下腺炎の発病からの隔離日数については、その後、米国CDC(疾病管理センター)による見直しがなされ、2008年以降は、5日間の隔離とされています(参考文献11)。日本の学校でのムンプスによる出席停止の基準における唾液腺腫脹発現後五日の部分も、この米国CDC(疾病管理センター)の勧告と一致しています。耳下腺炎の発病から五日以上経っても患者の唾液や呼吸器の分泌物からムンプスウイルスが分離されることがありえますが、排出されたとしても、そのムンプスウイルスの量は少なく、そのムンプスウイルスで感染する危険性は低いと考えられています。また、隔離の期間が長いほど隔離の指示に従う患者は少なくなってしまうということもあり、9日間の隔離から5日間の隔離へと見直されました。
  また、患者の接触者として感染の可能性を疑うのは、唾液腺腫脹発現の二日前から五日後までの間の接触者となります(参考文献13)。

 感染を起こすような麻疹患者との接触から72時間以内に麻疹ワクチンを接種すれば、麻疹の発病を防ぐことが期待できます。水痘についても、感染を起こすような水痘患者との接触から72時間以内に水痘ワクチンを接種すれば、水痘の発病を防ぐことが期待できます。ところが、ムンプスについては、感染を起こすようなムンプス患者との接触後のムンプスワクチンの接種は、ムンプスの発病を防ぐことが期待できません。風疹についても、感染を起こすような風疹患者との接触後の風疹ワクチンの接種は、風疹の発病を防ぐことが期待できません。
 ムンプスの集団発生の場合等に、感染を起こすようなムンプス患者との接触後にムンプスワクチンを接種することがあります。ムンプス患者との接触によって感染していたときには、ムンプスの発病を防ぐことが期待できませんが、ムンプス患者との接触によって感染していなかったときには、ムンプスワクチンによってムンプスに対する免疫がつくことが期待できます。全体的には、集団発生の終息も早くなると期待できます。

 効果的なこどもの予防接種のスケジュールが、確立していて、しっかり実行されていて、麻疹の予防接種と風疹の予防接種については80%以上の接種率を維持することができる、ムンプスの減少が公衆衛生の優先課題となっている国においては、ムンプスの予防接種を定期予防接種とすることを世界保健機関(WHO)は推奨しています(参考文献9)。麻疹の減少・排除や先天性風疹症候群の予防の方がムンプスの減少・排除よりも、より優先される課題であると世界保健機関(WHO)は判断しています。ムンプスワクチンを接種することを決断した国では、麻疹、風疹との混合ワクチンが推奨されます。
 ムンプスワクチンを定期予防接種とした場合でも、ムンプスワクチンの接種率が低いと、ムンプスの流行を防ぐことができず、ムンプスの罹患年齢を上昇させることになり、かえって、ムンプスの重症化や合併症の増加という好ましくない結果となってしまう可能性があります。

 ムンプスワクチンの接種後にまれに見られることがあるワクチンウイルスによる無菌性髄膜炎については、接種後18-34日(中位数23日)で発症することがあります。

パンフレット

  • おたふくかぜはワクチンで予防!(A4版1枚) [pdf:73KB]
    おたふくかぜ(ムンプス)のワクチンについて説明した資料です。啓発等にご利用ください。
  • 上記以外にも、種々の話題について説明した電子パンフレット(PDF版)があります。当・横浜市衛生研究所ホームページ「電子パンフレット」をご覧下さい(下線部をクリックして下さい)。

参考文献

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    http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/index.html
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  13. Centers for Disease Control and Prevention. Manual for the surveillance of vaccine-preventable diseases.5th Edition. Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta, GA, 2012.
  14. Immunisation against infectious disease - 'The Green Book'(英国の予防接種の解説書)
    https://www.gov.uk/government/collections/immunisation-against-infectious-disease-the-green-book
    Chapter 23 : Mumps : updated 4 April 2013.
  15. CDC. Mumps outbreak-New York, New Jersey, Quebec, 2009. MMWR: November 20, 2009;Vol. 58/No. 45:p. 1270-1274.
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2000年8月25日初掲載
2005年7月27日改訂増補
2008年9月2日改訂増補
2012年5月1日改訂
2013年1月10日改訂増補
2015年9月2日改訂増補

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成
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