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牛海綿状脳症(BSE)と(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病について

流行は?

 いわゆる狂牛病 ( Mad - Cow Disease ) は俗称で、正式な名称は、牛海綿状脳症( bovine spongiform encephalopathy : BSE )と言います。牛海綿状脳症は、牛の進行性の神経系統の疾患で、伝達因子によって感染します。この伝達因子は、細菌でもウイルスでもない、異常なプリオン蛋白であるとされています。

 2004年末までで、牛海綿状脳症の報告の累計数は、英国環境・食品・農事省 ( defra ) の統計によれば、全世界で189,158頭、その内、英国が184109頭(97.3%)、その他の国の合計が5049頭(2.7%)となっています。その他の国の中では、アイルランド1455頭、フランス945頭、ポルトガル916頭、スペイン502頭、スイス455頭、ドイツ363頭などが多いです。日本は14頭でした。これまでの累計報告の大部分は英国からのものでしたが、年間報告については英国からの報告の占める割合は近年低下して来ていて、英国環境・食品・農事省(defra)の統計によれば、2004年には、全世界で792頭に対して英国321頭(40.5%)でした。2004年については、OIE ( the Office International Des Epizooties : world organization for animal health : 国際獣疫事務局 )の統計によれば、英国に次いで、スペイン131頭、アイルランド126頭、ポルトガル92頭、ドイツ59頭、フランス54頭などが多く、日本は5頭でした。

 英国における牛海綿状脳症の流行のピークは、1993年の1月で一週間に約1000頭の牛海綿状脳症の発生が見られました。英国では、当初、牛海綿状脳症に汚染した牛がエサの一部として子牛に与えられた結果、ますます多くの牛が牛海綿状脳症に感染していったと考えられています。

 2001年9月22日には、アジアで初めて、日本の牛が1頭、牛海綿状脳症と確認されています。OIE(国際獣疫事務局)によれば、日本における牛海綿状脳症(BSE)の報告は、2001年3頭、2002年2頭、2003年4頭、2004年5頭であり、2004年末までの累計で14頭となっています。

図1. 英国における(新)変異型クロイツフェルト・ヤコブ病患者年間報告数(死亡患者分)推移

 また、2005年2月4日の時点で、英国での(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の患者発生報告数の累計は、154例です。その内訳は、下の表1のとおりです。その内の死亡患者分の年間報告数の推移は上の図1のとおりです。最新の英国での(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の患者発生報告数の累計は、毎月、英国の保健省 ( DH : Department of Health )のホームページで見ることができます(Creuzfeld-Jakob Disease(CJD))。

表1. 英国における(新)変異型CJD患者数(2005年2月4日現在)
  患者数
死亡患者数 確定例 106
可能性例(神経病理学的確定なし) 41
可能性例(神経病理学的確定待ち) 1
小計 148
生存患者数 確定例・可能性例 6

154
(資料):英国保健省ホームページ

 英国以外の国でも(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の患者発生報告があります。EUROCJDの1996年から2004年末までの統計では、フランスで8人、イタリアで1人、カナダで1人の報告があります。NEUROCJDの1997年から2004年9月30日までの統計では、1999年にアイルランドで1人の報告があります。EUROCJDもNEUROCJDもクロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)に関する欧州を中心とした国際的な疫学的調査グループです。EUROCJDには、オーストラリア・オーストリア・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・オランダ・スロバキア・スペイン・スイス・英国が参加しています。NEUROCJDには、ベルギー・デンマーク・フィンランド・ギリシア・アイスランド・アイルランド・イスラエル・ノルウェー・ポルトガルが参加しています。

 8人の報告があるフランスには、英国から牛肉が比較的大量に輸入されていました。アイルランドの患者は、英国に住んでいました。カナダの患者も、英国に住んでいました。イタリアの患者は、英国に住んだことがありません。

 2001年にはアジアで初めて中国(香港)において(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の患者発生報告がありました。患者は34歳の女性です。香港の住民でしたが1983年に英国に渡り1992年まで中華料理店で働いていました。1992-1997年には香港に戻り女性販売員として働きました。1997年に再び英国に渡り中華料理店で働いていました。1996年に乳房の腫瘍を切除した以外は健康でした。輸血を受けたことも献血をしたこともありません。偏食もなく、牛肉が大好きだったということもありません。英国で、2000年10月、胸や背中に焼ける感じが出現しさらに手や足にも出現しました。それから忘れっぽくなり、電話番号や日課も覚えれなくなりました。話すのも遅く動きもぎこちなくなりました。2001年1月に親類により香港に連れ帰られ医療機関を受診しました。精神科医の指示で2001年5月に行われた脳のMRI検査で所見が見られたことがきっかけとなり、専門医療機関で精密検査が進められ診断に至ったものです(文献1)。

 2002年には米国において(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の患者発生報告がありました。2002年4月18日フロリダ州衛生局とCDC(疾病管理予防センター)が22歳のフロリダ州住民について発表しました。この患者は英国で1979年に生まれ米国フロリダ州に1992年に移住しました。英国では牛海綿状脳症の流行が見られた地域で暮らしていたことがありました。2001年11月、抑うつと記憶喪失とで発病しています。2002年1月には英国在住の母親が患者を英国に連れ帰り、英国の専門医療機関で診断されました(文献2)。

 2005年(平成17年)2月4日、日本国内における変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の発生について、厚生労働省から発表がありました。2001年(平成13年)12月に40歳代で発症し2004年(平成16年)12月死亡した男性患者について、2005年2月4日、CJDサーベイランス委員会及び厚生科学審議会疾病対策部会クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会が開催され、国内における最初のvCJD症例として確定されたとのことでした。当該患者(男性)は、平成元年頃、英国渡航歴1ヶ月間という情報があります。発症原因としては、輸血歴がなく、平成元年頃の海外渡航歴から見て、短期間ではあるが、英国滞在時の曝露の可能性が有力と考えられるました。

 さらに、厚生科学審議会疾病対策部会クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会での国内のvCJD第1症例の確認を受けて、同委員会の北本哲之(東北大学医学部教授)委員長の出席の下、同日(2005年2月4日)、薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会を開催し、現在の献血時の問診による英国滞在者等の献血制限(1980年以降英国滞在6ヶ月以上)に係る議論を行ったとのことです。英国滞在歴のある献血者に対する制限については、当面、現状の措置を維持することは適当であるが、クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会での調査の進展や、国際的な議論を踏まえて、同部会安全技術調査会において検討を行うとの結論になったとのことでした。厚生労働省は、この運営委員会での審議を踏まえ、より予防的な対応として、今回のvCJD患者の渡航歴等が判明し、同部会安全技術調査会での検討を行うまでの間、暫定的に、英国滞在歴1ヶ月以上の献血者の献血を制限することとし、日本赤十字社に対して指導するとのことでした(下の表2参照)。

表2.献血時の制限に関する2005年2月4日の暫定措置
滞在国 通算滞在歴 滞在期間
英国 1ヶ月以上 1980年以降
アイルランド、イタリア、オランダ、スイス、スペイン、ドイツ、フランス、ベルギー、ポルトガル 6ヶ月以上 1980年以降
アイスランド、アルバニア、アンドラ、オーストリア、ギリシャ、クロアチア、サンマリノ、スウェーデン、スロバキア、スロベニア、セルビア・モンテネグロ、チェコ、デンマーク、ノルウェー、バチカン、ハンガリー、フィンランド、ブルガリア、ポーランド、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、マルタ、モナコ、リヒテンシュタイン、ルーマニア、ルクセンブルグ 5年以上 1980年以降

 これらの厚生労働省の対応に合わせ、厚生労働省ホームページの「クロイツフェルト・ヤコブ病に関するQ&A」が掲載されていますので、参考にして下さい。

 さて、平成17年3月7日、 国内における最初のvCJD症例に係る感染経路について厚生科学審議会疾病対策部会クロイツフェルト・ヤコブ病等委員会がとりまとめていました。患者は、1990年前半に、vCJD患者発生国である英国に24日間程度、フランスに3日間程度、vCJD患者非発生国に2週間程度滞在しました。英国では、朝食は、日本食が多く、昼食・夕食は主に現地食を食べました。地方の庶民料理を好み、キドニーパイ、ローストビーフ、ブラックプディング、カレー、ソーセージ(豚又は羊)、ハンバーガー、グレイビーソースを喫食しました。なお、キドニーパイ以外の内臓を用いた料理を喫食したか否かは、不明です。手術歴、輸血歴、歯科治療歴、鍼治療歴、ピアス、刺青等はありません。海外渡航中の医療機関受診歴もありません。vCJDの発生原因である可能性が指摘されている頭肉( head meat )及びせき柱などを用いたMRM( mechanically recovered meat:機械的回収肉;肉の付着した骨を粉砕した後、骨くずを除いて回収された挽肉)を含有している可能性がある食品であるハンバーガー、グレイビーソース等が、英国において摂取したとされる食品の中に含まれていました。他の可能性を完全に否定するものではないものの、英国滞在時の曝露の可能性が有力、との判断に到りました。

 さらに、この調査結果を踏まえ、 平成17年3月7日に開催された薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会において、献血の対応等について検討されました 。2月4日の暫定的な措置(1980年以降1ヶ月以上の英国滞在歴がある者の献血を制限した暫定措置。上の表2参照)を次のように変更する案について同部会安全技術調査会において専門家による検討を行うこととされました。

 (1) 1996年までに英国あるいはフランスに1日以上滞在歴がある者の献血を制限する。なお、1997年以降はこれまでの6ヶ月以上の滞在歴の制限を継続する。

(2) EU諸国(ただし、2004年5月の拡大前の15カ国。つまり、英国、フランス、アイルランド、イタリア、オランダ、スペイン、ドイツ、ベルギー、ポルトガル、オーストリア、ギリシャ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルグ)において、2005年1月以降の滞在者については献血における滞在歴の制限は行わないこととする。

 さて、平成17年3月31日に開催された薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会・安全技術調査会合同委員会による検討の結果、平成17年4月1日付けで日本赤十字社に対して、今後の献血の受け入れに当たっては、下の表3に掲げる欧州滞在歴を有する者からの採血を見合わせることを、可及的速やかに実施するようにとの厚生労働省医薬食品局長通知(薬食発第0401016号)が出されました。

表3 献血時の制限に関して2005年4月1日に可及的速やかに実施するようにとされた措置(2010年1月26日まで)
    滞在国 通算滞在歴 滞在期間
1 英国、(フランス**) 1日以上
(1996年まで)
6ヶ月以上
(1997年から)
1980−2004年
2 アイルランド、イタリア、オランダ、スペイン、ドイツ、ベルギー、ポルトガル 6ヶ月以上 1980−2004年
3 スイス 6ヶ月以上 1980年−
1 オーストリア、ギリシャ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルグ 5年以上 1980−2004年
2 アイスランド、アルバニア、アンドラ、クロアチア、サンマリノ、スロバキア、スロベニア、セルビア・モンテネグロ、チェコ、ノルウェー、バチカン、ハンガリー、ブルガリア、ポーランド、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、マルタ、モナコ、リヒテンシュタイン、ルーマニア 5年以上 1980年−
* Bに掲げる国の滞在歴を計算する際には、Aに掲げる国の滞在歴を加算するものとする。
** フランス滞在歴を有する者については、今後の献血推進策の実施による在庫水準の変動状況を見つつ、慎重に本措置を実施することとし、当分の間は、本表に掲げる時期に通算6ヶ月以上の滞在歴を有する者からの採血を見合わせることとする。

 さて、この献血時の制限に関して可及的速やかに実施するようにとの日本赤十字社に対しての厚生労働省の平成17年4月1日付けの通知に基づき、平成17年6月1日より、1980年から1996年の間に英国に1日以上滞在された方等からの献血見合わせ措置が実施されました。また、当面は、1980年から1996年の間に1日以上6ヶ月未満のフランス滞在歴のある方の献血は制限しないこととされました。

 なお、平成21年12月10日に行われました薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会において改めて輸血用血液製剤の安全性や安定供給等に及ぼす影響について検討された結果、1980年から1996年の英国滞在歴の献血制限を「1日以上」(1泊以上)から「通算1か月以上」(31日以上)に緩和することが決定されました。平成22年1月27日より、英国滞在歴に関する献血制限が緩和されることとなりました。献血時の制限に関しての平成22年1月27日からの措置は、下の表4のようになります。  このことに関して、「英国滞在歴に係る献血制限の見直しについてのQ&A」が厚生労働省ホームページに平成22年1月27日付けで掲載されました。

表4 献血時の制限に関しての2010年1月27日からの措置
    滞在国 通算滞在歴 滞在期間
1 英国 1ヶ月以上
(1996年まで)
6ヶ月以上
(1997年から)
1980−2004年
2 アイルランド、イタリア、オランダ、スペイン、ドイツ、フランス、ベルギー、ポルトガル、サウジアラビア 6ヶ月以上
3 スイス 6ヶ月以上 1980年−
1 オーストリア、ギリシャ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルグ 5年以上 1980−2004年
2 アイスランド、アルバニア、アンドラ、クロアチア、サンマリノ、スロバキア、スロベニア、セルビア、モンテネグロ、チェコ、ノルウェー、バチカン、ハンガリー、ブルガリア、ポーランド、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、マルタ、モナコ、リヒテンシュタイン、ルーマニア 5年以上 1980年−
* Bに掲げる国の滞在歴を計算する際には、Aに掲げる国の滞在歴を加算するものとする。

どんな病気?

 牛海綿状脳症は、伝達性海綿状脳症 ( Trancsmissible Spongiform Encephalopathies : TSEs )あるいはプリオン病( Prion Diseases ) と呼ばれる病気のグループの一員です。伝達性海綿状脳症 ( Trancsmissible Spongiform Encephalopathies : TSEs )あるいはプリオン病 ( Prion Diseases ) はいろいろな哺乳類の動物で見られます。異常なプリオン蛋白が、脳や神経に蓄積する結果起こります。伝達性海綿状脳症 ( Trancsmissible Spongiform Encephalopathies : TSEs )あるいはプリオン病 ( Prion Diseases ) は、動物から動物へと感染し、脳組織を破壊する結果、脳は海綿(スポンジ)状になり死に至ることがあります。

 よく知られているプリオン病に、スクレイピー(scrapie)があります。スクレイピーは、ヒツジ(羊)やヤギの病気で多くの国で見られます。日本でも見られることがあります。スクレイピーの症状は、牛海綿状脳症(BSE)の症状に近く、ヒツジ(羊)やヤギの神経系統を破壊し、死に至ることもあります。

 牛海綿状脳症(BSE)の潜伏期は長いです。牛海綿状脳症(BSE)に感染してから症状が現れるまでに、通常、4-6年かかります。

 牛海綿状脳症( bovine spongiform encephalopathy : BSE )が、最初に牛で見られたのは1986年のことです。牛は、草食動物で通常は肉は食べないはずです。ところが、牛海綿状脳症( bovine spongiform encephalopathy : BSE )に感染した牛の体の一部を含む Meat-and-Bone Meal ( MBM:肉骨粉 ) が、牛のエサとして与えられるようになってから、牛海綿状脳症はよく見られるようになりました。実験では、感染した牛の脳をエサに混ぜてやると、そのエサを食べた牛が、牛海綿状脳症にかかることがあることがわかりました。

 牛海綿状脳症は、牛の病気ですが、プリオン病の中には、人間で見られるものもあります。人間で見られるプリオン病の中でよく知られているものが、クロイツフェルト-ヤコブ病 ( Creutzfeldt-Jakob Disease : CJD )です。クロイツフェルト-ヤコブ病にはいくつかの型があります [pdf:185KB]  。例えば孤発性や家族性のクロイツフェルト-ヤコブ病は、まれですが致命的な病気で、主として40-80歳の人々で見られ、急速に進行する痴呆が特徴的です。このような従来のクロイツフェルト-ヤコブ病とは異なって、主としてもっと若い人々で見られる新種のクロイツフェルト-ヤコブ病が、1996年に認められ、新変異型クロイツフェルト-ヤコブ病 ( new variant Creutzfeldt-Jakob Disease : nvCJD )と呼ばれるようになりました。この新変異型クロイツフェルト-ヤコブ病は、最初は、抑うつ、不安、無感動、引きこもり、妄想などの精神症状で発病することが多く、痴呆などの症状の進行は、孤発性や家族性のクロイツフェルト-ヤコブ病に比べると遅いです。末期には多くが無動性無言となります。また、英国での統計によれば、新変異型クロイツフェルト-ヤコブ病で亡くなった患者の半数以上が30歳未満で亡くなっていました。なお、最近では、新変異型クロイツフェルト-ヤコブ病 ( new variant Creutzfeldt-Jakob Disease : nvCJD )のことを、単に変異型クロイツフェルト-ヤコブ病(  variant Creutzfeldt-Jakob Disease : vCJD )と言う場合もありますが、両者は同義語です。

 英国では、牛海綿状脳症の発生が多い地域で、(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の発生が多いことが明らかになっています。以前に牛海綿状脳症に感染した牛の肉を食べたことが明らかになつている(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の患者もいます。(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病は人間が牛海綿状脳症の伝達因子(異常なプリオン蛋白)を口に入れるなどして感染して起こる可能性がある病気だと考えられています。

 英国では、最初に人々が牛海綿状脳症の異常なプリオン蛋白で汚染された牛を食べた可能性があるのが1984-1986年頃、最初の(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の患者たちに症状が出現し始めたのが1994-1996年頃ということから、(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の潜伏期は10年程度以上と考えられています。

病原体は?

 異常なプリオン蛋白が病原体です。正常なプリオン蛋白は、脳細胞の細胞膜の構成要素の一つです。蛋白分解酵素により分解されますし、溶けやすいです。これに対し、異常なプリオン蛋白は蛋白分解酵素により分解されにくく、溶けにくく、病原性があります。異常なプリオン蛋白は、正常なプリオン蛋白を異常なプリオン蛋白に変えてしまう働きも持っています。一度異常なプリオン蛋白ができると、連鎖反応で大量の異常なプリオン蛋白を生じることになります。この大量の異常なプリオン蛋白の蓄積が、脳細胞を死に導くことになります。

 プリオン( prion )は、1980年代に造られた単語です。proteinaceous in fectious particle (たんぱく質の感染性の粒子)の綴りのアルファベットを並べ直して造られました。また、プリオン蛋白( prion protein )のことを頭文字を用いてPrPというように表示することもあります。

 プリオン蛋白を産生する遺伝子は、人間では第20番染色体に存在します。

予防のためには・・・

 英国では、牛海綿状脳症となる牛を減らすために次の三つの方策を採用しています。

1. 30か月以上( OTM : Over Thirty Month )の原則 月齢30ヶ月以下では、牛が牛海綿状脳症を発病するのは極めてまれです。1996年から、英国では月齢30ヶ月を超える牛については人間の食料としての売買が禁止されています。また、1996年から、英国内では月齢30ヶ月以下の牛海綿状脳症の報告はありません。月齢30ヶ月以下では、万一、牛が牛海綿状脳症に感染しているとしても、まだ病気の初期の段階で他の動物を感染させる可能性は少ないと考えられています。

2. 危険性がある特定の部位( SRM : Specified Risk Material :特定危険部位)牛海綿状脳症によってもっとも汚染される可能性がある牛やヒツジの部位は、英国では法律によってとりのぞかれることが定められています。それらの部位は、「危険性がある特定の部位( SRM : Specified Risk Material :特定危険部位)」と呼ばれ、脳や脊髄が含まれます。

3. エサの禁止事項 哺乳動物を原材料とした肉骨粉 ( MBM ) を牛、ヒツジ、ブタ、ニワトリなどの家畜のエサとすることを英国では、1996年の8月から禁止しています。また、牛のエサにブタやニワトリのエサが混じってしまうことも禁止されています。

 以上のような方策などの効果も見られ、英国の牛海綿状脳症の年間報告数は、1992年の37280頭をピークに減少を続け、2004年には321頭になっています。

 ヨーロッパを旅行するにあたって、食事で(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病になる確率を少しでも減らしたい人は、牛肉や牛肉製品を控えましょう。肉の形態としては、バーガーやソーセージの肉よりは、肉(筋肉)のかたまりの方が、牛海綿状脳症によって汚染されている可能性が少ないと考えられます。また、調理時や食前の通常の加熱では、異常なプリオン蛋白を破壊することはできず、(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病を予防することはできません。

 牛乳・乳製品の摂取によって(新)変異型クロイツフェルト-ヤコブ病に感染することはないと考えられています。

 牛海綿状脳症となった牛のミルク(牛乳)をネズミに与えた研究があります( Taylor DM, Ferguson CE, Bostock CJ, and Dawson M, Absence of disease in mice receiving milk from cows with bovine spongiform encephalopathy. Veterinary Record 136 , 592 ,1995年)。牛海綿状脳症となった牛のミルク(牛乳)のネズミへの脳内への接種と経口的投与が行われました。経口的投与では、1日あたり10ミリリットルのミルクを40日にわたって与えたところ、ネズミは一匹あたり総量で平均300ミリリットルのミルクを摂取しました。その後、ネズミにおける潜伏期を超えると考えられる650-700日の観察が行われましたが、脳内への接種でも経口的投与でも、ネズミへの感染は認められませんでした。

参考文献

  1. R kay, WY Lau, HK Ng, YL Chan, Donald J Lyon, and CA van Hasselt ; Variant Creutzfeldt-Jakob disease in Hong Kong (香港的一宗非典型克雅二氏症); Hong Kong Medical Journal (HKMJ : 香港醫學雑誌) Volume 7, Issue 3, September 2001,p.296-298.
  2. CDC. ; Probable Variant Creutzfeldt-Jakob Disease in a U.S. Resident --- Florida, 2002 ; MMWR October 18, 2002 / 51(41);p. 927-929.
  3. クロイツフェルト-ヤコブ病の届出基準 [pdf:185KB]  (PDF版 ; 横浜市衛生研究所ホームページ)。
  4. OIE ( the Office International Des Epizooties : world organization for animal health : 国際獣疫事務局 ) のホームページ中の「世界におけるBSE発生状況 」。
  5. 英国環境・食品・農事省( defra : Department for Environment, Food and Rural Affairs.)のホームページ中のBSEのページ
  6. 英国の保健省 ( DH : Department of Health )のホームページ中の「Creuzfeld-Jakob Disease(CJD)」のページ。
  7. The European and Allied Countries Collaborative Study Group of CJD ( EUROCJD )
    plus the Extended European Collaborative Study Group of CJD ( NEUROCJD )
    : クロイツフェルト-ヤコブ病に関する欧州を中心とした国際的な疫学的調査グループ。オーストラリア・オーストリア・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア・オランダ・スロバキア・スペイン・スイス・イギリスが参加するEUROCJDと、ベルギー・デンマーク・フィンランド・ギリシア・アイスランド・アイルランド・イスラエル・ノルウェー・ポルトガルが参加するNEUROCJDとがあります。
  8. 厚生労働省ホームページ
     「牛海綿状脳症(BSE)について
  9. 農林水産省ホームページ
     「牛海綿状脳症(BSE)関係
  10. 日本赤十字社ホームページ
     「英国滞在歴に関する献血制限について」、
     「献血をご遠慮いただく場合  >  海外旅行者及び海外で生活した方

 

横浜市以外の地方自治体

  1. 牛海綿状脳症(BSE)について (北海道が開設)
    ( URL )http://www.agri.pref.hokkaido.jp/center/sakkyo/kairyou/einou/koutei/prion.html
  2. 牛海綿状脳症(BSE)に関する情報  (千葉県が開設)
    ( URL )http://www.pref.chiba.lg.jp/dailylife/news/01/top_index.html
  3. BSE(牛海綿状脳症)関連情報  (神奈川県が開設)
    ( URL )http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/seikatueisei/anzen/usi/

  4. 牛海綿状脳症(BSE)に関する情報  (群馬県が開設)
    ( URL )http://www.pref.gunma.jp/cts/contents?CONTENTS_ID=42081

  5. 牛海綿状脳症(BSE)に関するホームページ (東京都が開設)
    ( URL )http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/bse/bse.html
  6. 牛海綿状脳症(BSE)について  (大阪府が開設)
    ( URL )http://www.pref.osaka.jp/shokuhin/bse/index.html
  7. 牛海綿状脳症(BSE)情報(熊本県家畜保健衛生所)
    ( URL )http://www.pref.kumamoto.jp/site/kaho/bse-top.html
  8. BSE(牛海綿状脳症)スクリーニング検査状況  (栃木県が開設)
    (URL)http://www.pref.tochigi.lg.jp/life/shokuseikatsu/eisei/bsescreening.html
  9. 牛海綿状脳症(BSE)について  (茨城県食肉衛生検査所)
    ( URL )http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/hoken/seiei/seieisyokunikujyouhou/

2001年6月12日初掲載
2001年9月28日増補
2005年2月21日改訂増補
2005年3月9日増補
2005年5月9日増補
2005年6月2日増補
2010年2月3日改訂増補

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成
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