ページの先頭

本文へジャンプ - トップメニュー|検索

レジオネラ症について

レジオネラ( Legionella )とは?

 米国在郷軍人会( American Legion )の会員のことを米国ではLegionnaire (在郷軍人)と言います。1976年、米国フィラデルフィアにおける米国在郷軍人会の州総会の参加者に原因不明の肺炎が多発したため、この原因不明の肺炎が在郷軍人病(Legionnaires' disease:LD)と名付けられました。このときには、最終的な集計では221人の患者が発生し、34人が死亡しました。

 米国CDC(疾病管理・予防センター)のMMWR(罹患・死亡週報)における、この原因不明の肺炎を報告する第1報は、1976年8月6日付けで「呼吸器感染症 --- ペンシルバニア州」と題され、次のような内容でした(参考文献9)。

 「フィラデルフィアにおいて7月21-24日に開催された州の在郷軍人会の総会に関係する人たち総計152人が呼吸器感染症で入院しました。発病は7月22日から8月3日にわたっていますが、大部分は7月25-31日です。患者の内、22人が死亡しました。先週までに報告された死者について、主たる死因は肺炎です。この疾患やその疫学について、まだ詳細ははっきりしていませんが、発熱、悪寒、気分不快、頭痛で突然に発病し、乾いた咳や筋肉痛が続きます。高熱を伴う重症例では、広範な肺炎となりショックで死亡する人もいます。病原体あるいは原因物質はまだ明らかになっていません。軽い症状の在郷軍人に関する情報は得られていません。フィラデルフィアに滞在中、総会の参加者数千人とともに患者たちは少なくとも3-4のホテルに宿泊していました。フィラデルフィアの住民において呼吸器疾患の増加は証明されていません。また、家族や他の接触者への二次的な広がり(二次感染)も証明されていません。総会参加者以外の人たちで、総会と同時期にフィラデルフィアにいて同様の疾患となった人の報告がいくつかあります。」

 その後、米国CDCの調査により、死亡患者の肺組織からこの在郷軍人病( Legionnaires' disease )の病原体の細菌が発見され、 Legionella (レジオネラ)と名付けられました。在郷軍人病(Legionnaires' disease)の病原体の発見については、MMWRの1977年1月18日付け特別号(号外:通常は木曜日の発行ですが火曜日に発行されました。)で「呼吸器疾患の追究 --- フィラデルフィア」の題名で報告されました(参考文献9)。在郷軍人病(Legionnaires' disease)の病原体は判明しましたが、患者の集団発生の感染源は不明でした。また、この報告では、1966年にコロンビア特別区の大精神病院で起きた患者94人・死者16人の急性肺炎の集団発生についてこの病原体が関与していることも示しています。

 レジオネラ( Legionella )によって引き起こされる感染症を、レジオネラ症( Legionellosis )と言います。レジオネラ症( Legionellosis )には、在郷軍人病( Legionnaires' disease )とポンティアック熱( Pontiac fever )との二つの型があります。在郷軍人病( Legionnaires' disease )は、肺炎を含む重症の型であり、ポンティアック熱( Pontiac fever )は軽症の型です。在郷軍人病の患者の致死率は、約5-30%です。在郷軍人病で見られる肺炎は、レジオネラ肺炎と呼ばれることもあります。

 ポンティアック熱( Pontiac fever )については、米国ミシガン州オークランド郡( Oakland County )のポンティアック( Pontiac )で1968年7月から8月始めにかけてオークランド郡の保健部の建物に入った人たちで144人の患者の集団発生がみられたことで名付けられました(参考文献2、4)。保健部の建物で働いていた人100人中95人、保健部の建物に訪れた人170人中49人が患者となりました。オークランド郡はミシガン州南東部のデトロイトの北に位置します。ポンティアックはオークランド郡に属する人口約84,000人(1965年米国人口静態調査)の市です。1968年当時はポンティアック熱の病原体は不明でしたが、当時採取され保存されていた空調システム内の水における Legionella pneumophila の存在が1977年に明らかになりました。また、37人の患者の急性期と回復期の血液検体では、 Legionella pneumophila (血清グループ 1)に対する抗体価の上昇が84%で認められました。現在では、Legionella pneumophila (血清グループ 1)を含むエアロゾルを吸い込んだ人たちで集団発生がみられたものと考えられています。

 オークランド郡の保健部の建物の空調システムを図1に示しました。保健部の建物には、空気が流れるダクトが2系統あります。空調機系統と蒸発型凝縮機系統です。蒸発型凝縮機の底部の水には、Legionella pneumophila (血清グループ 1)が存在したと考えられています。冷房の稼動とともに、蒸発型凝縮機系統内に Legionella pneumophila (血清グループ 1)を含むエアロゾルが発生し、屋上の蒸発型凝縮機系統の排気口から空調機系統の吸気口経由で、あるいは、ダクトの調査で発見された両系統間をつなぐ穴経由で、エアロゾルが空調機系統に入り込んだと考えられます。さらに、空調機系統によって保健部の建物の各部屋にLegionella pneumophila (血清グループ 1)を含むエアロゾルが広がり、患者の集団発生となったと考えられます。

流行は?

 米国では、毎年8,000-18,000人の在郷軍人病の患者が発生していると推計されています。実際に報告されているのは、この一部分にすぎないと考えられています。また、レジオネラに感染しても、軽い症状であったり、まったく症状がない人もいると考えられています。
 近年、日本において、感染症発生動向調査の4類感染症であるレジオネラ症(届出基準はこちら(PDF版) [pdf:169KB]  )の年間患者発生届出数は、増加してきています。下のグラフのとおりです。2005年から増加が見られますが、これは、2005年に日本呼吸器学会が「成人市中肺炎診療ガイドライン」を発表し、そのガイドラインでは重症度が中等症以上で入院治療・ICU(集中治療室)治療を要するような肺炎の場合の検査にレジオネラ尿中抗原検査が含まれたこと、その後、レジオネラ尿中抗原検査が検査法として普及してレジオネラが病原体として検知される機会が増えていったことも、年間患者発生届出数の増加の理由として考えられています。また、下のグラフのとおり、性別では、男性患者が多いです。2000-2007年の八年間の総計2181人中、1851人(84.9%)が男性でした。なお、1990年から2005年までに米国CDC(疾病管理・予防センター)に報告があった23076人のレジオネラ症患者について分析した研究があります(参考文献12)。性別のデータがある22763人のレジオネラ症患者について、61%が男性でした。

 女性患者の発生が多い集団発生もあります。米国のルイジアナ州のBogalusaで、1989年10月10日から11月13日までに33人の患者が在郷軍人病で入院しました(参考文献20)。患者の年齢は36-88歳で中位数は64歳でしたが、患者の性別は76%(25人)が女性でした。ある食料雑貨店の超音波式加湿器が Legionella pneumophila (血清グループ 1)で汚染されていたのが原因でしたが、その食料雑貨店の利用客は男性に比較して女性がかなり多く、従って、超音波式加湿器で発生した Legionella pneumophila (血清グループ 1)のエアロゾルを吸い込んだ人も女性がかなり多くなったためと考えられます。

 患者の発生は年間を通してみられますが、集団発生については、夏から初秋にかけてが多いです。
 2003-2007年の日本における感染症発生動向調査のレジオネラ症患者発生届出数を初診日の月別で集計して見ると、年間のピーク月は、2003年、2005年、2006年、2007年が7月、2004年が10月となっていて7月が多いです(参考文献10)。暑くてじめじめと湿度が高い梅雨のシーズンが、レジオネラ症の発生に関与しているのではないかとも考えられています。なお、1990年から2005年までに米国CDC(疾病管理・予防センター)に報告があった23076人のレジオネラ症患者について分析した研究があります(参考文献12)。季節的には秋と夏に報告された患者数が多かったです。秋(9-11月)が30%、夏(6-8月)が29%、冬が23%(12、1、2月)、春(3-5月)が18%でした。月別では、一番多かったのは8月(11.2%)で、一番少なかったのは2月(5.6%)でした。

 どの年齢層の人でも在郷軍人病になりますが、患者は中年や老年の人が多いです。特に喫煙者や慢性肺疾患の患者に多いです。また、透析を必要とする腎不全患者、糖尿病患者、癌患者、エイズ患者など免疫が抑制されている患者、免疫抑制剤を服用している患者の方がかかりやすいです。

 ポンティアック熱の患者については、健康な人がかかることが多いです。

 レジオネラを含んだエアロゾルの曝露を受けた人たちから、0.1%-5%が在郷軍人病を発病することがあるのに対し、ポンティアック熱の集団発生が見られる場合にはレジオネラを含んだエアロゾルの曝露を受けた人たちの約90%がポンティアック熱を発病しています。

 英国のロンドン南西部のキングストン病院( Kingston Hospital )で1979年の12月から1980年の7月にかけて発病した院内感染と考えられる在郷軍人病の11人の患者の集団発生の報告があります(参考文献6)。当時のキングストン病院は毎月1000人程度の入院がある総合病院で三つの建物に病室がありました。内二つはビクトリア様式の伝統的な古い建物で、残りの一つは1976年にオープンした8階建ての新館でした。11人はいずれとも新館でレジオネラに曝露したものと考えられました。新館屋上の冷却塔の水から Legionella pneumophila (血清グループ 1)が分離されました。患者には、新館の最上階に入院していた者が多く、新館で働いていた清掃員1人とポーター1人も含まれていました。新館屋上の冷却塔の水から生じた Legionella pneumophila (血清グループ 1)を含んだエアロゾルを吸い込んだことが一つの原因と考えられました。

 1988年のロンドンにおける在郷軍人病の集団発生に最初に気づいた Rush Green 病院の Zumla らの報告があります(参考文献7)。1988年4月27日21時30分、BBC放送局で働いている63歳の喫煙男性が Rush Green 病院の感染症病棟に入院しました。嘔吐・下痢を主症状として地域の診療所では食中毒として治療されていましたが、Rush Green 病院入院後の検査では肺炎が見られ在郷軍人病も疑われました。同じく1988年4月27日の17時00分、BBC放送局の建物の6階で働いている46歳の喫煙男性が Rush Green 病院の内科病棟に入院していました。肺炎としてアンピシリンとセフォタキシムによる治療を開始しましたが改善が見られませんでした。感染症専門医の助言を求めて、在郷軍人病を疑ってのエリスロマイシンによる治療に切り替えられました。2人の患者とも Legionella pneumophila に対する抗体価が高かったことから、同じ場所で働いている2人の在郷軍人病が確定され感染症サーベランス・センターに報告され、衛生当局が動き出すきっかけの一つとなりました。Rush Green 病院の Zumla らは、医師から患者への「どこで働いていますか?」という質問の大切さを強調しています。

 1988年のロンドンにおける在郷軍人病の集団発生については、ロンドン中心部の Portland Place にあるBBC( British Broadcasting Corporation )放送局の建物の屋上にある冷却塔の水から生じた Legionella pneumophila を含んだエアロゾルが原因と考えられました。1988年5月27日の時点では、43人の在郷軍人病の集団発生が把握されました。

 2006年の7月、オランダのアムステルダムで起こった在郷軍人病の患者の集団発生の報告があります(参考文献11)。オランダでは、在郷軍人病を診断した医師は24時間以内に管轄の保健所に届け出ることになっています。2006年7月6日木曜日、オランダのアムステルダムの保健所に3人の在郷軍人病の患者の発生の届出がありました。いずれも同日に Legionella pneumophila (血清グループ 1)のレジオネラ尿中抗原検査によって診断されたものでした。翌日の2006年7月7日金曜日にも5人の在郷軍人病の患者の発生の届出がありました。在郷軍人病の集団発生に対して、アムステルダム保健所は、感染源の探索を開始し、また、週末(7月8、9日)に診療に当たることになっているすべての一般医にeメールでこの在郷軍人病患者の集団発生について通知しました。アムステルダム内の全病院(6病院)に注意喚起し、検査室にも情報提供しました。オランダ内の他の保健所には、国の感染症管理センターを通じ情報提供し、在郷軍人病患者の発生の増加がないか、最近アムステルダムを訪れた在郷軍人病患者がいないかについて問い合わせました。週末(7月8、9日)には、9人の在郷軍人病の患者の発生の届出がありました。患者への聞き取りでは、共通の感染源を特定できませんでした。いずれの患者も最近の旅行はありませんでした。患者の大部分は7月1日の発病でした。患者の大部分はアムステルダム市の中心部の、鉄道の中央駅から東に500メートル程度離れた地域に住んでいました。その地域内の噴水については、停止して検体(水)の採取が行われました。7月10日月曜日には、アムステルダム市及び周辺地区の全病院に在郷軍人病患者の入院について電話での問い合わせが行われ、アムステルダム市内のすべての一般医、感染症医、検査室に対して情報提供しました。また、オランダ国民への注意喚起のため、アムステルダムでの在郷軍人病患者の集団発生について7月10日月曜日、報道発表を行いました。
 集団発生の発生前10日間について風向きは主として西や北西の風でした。このため、感染源の探索は、患者の発生が多い地域の北西方向に行われました。噴水・冷却塔の調査が行われました。噴水については、停止して検体(水)の採取が行われました。冷却塔については、レジオネラの研究のため作成された2003年のリストがあるだけで、その後に設置された冷却塔についての情報はありませんでした。2003年のリストにない冷却塔を見つけるために、インターネットで都市の映像を見ることができるGoogle Earthも活用されました。地域内の冷却塔を一つ一つ観察し検体(水)を採取して行きました。
 7月10日月曜日の遅い時間に中央駅から数メートル東の位置に2003年のリストにない一つの冷却塔を見つけました。2006年6月10日に設置されたもので、見たところ管理は不良でした。検体(水)が採取され、7月11日火曜日早朝、冷却塔の運転は停止されました。採取された検体(水)からは、500万CFU(コロニー形成単位)/l(リットル)の濃度で Legionella pneumophila (血清グループ 1)が検出されました。患者から分離された Legionella pneumophila (血清グループ 1)と遺伝子的にも一致しました。在郷軍人病の患者は、この冷却塔の近くに住んでいる人か働きに来ている人でした。この冷却塔の水から生じた Legionella pneumophila (血清グループ 1)を含んだエアロゾルを吸い込んだことが在郷軍人病の患者の集団発生の原因と考えられました。
 2006年の7月、オランダのアムステルダムで起こった在郷軍人病の患者の集団発生では、結局、31人の在郷軍人病の患者が発生し、その内3人が死亡しました(致死率10%)。男性患者23人(74%)、女性患者8人(26%)でした。患者の年齢は、32歳から81歳までで、平均年齢は56歳でした。患者の内、糖尿病(2型)5人(16%)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)3人(10%)、免疫不全2人(6%)でした。

 2009年10月、横浜市保健所にレジオネラ症患者発生の届出がありました。患者は横浜市内在住60代の女性で、2009年9月30日から10月1日にかけて岐阜県高山市内のXホテルの入浴施設を利用していました。この入浴施設での感染の可能性も疑われたため、10月19日、横浜市から岐阜県に情報提供を行いました。
 横浜市からの連絡により、10月20日、岐阜県飛騨保健所がXホテルに立ち入り、設備の洗浄、塩素消毒を指導するとともに、女性用入浴施設の浴槽水を採取、検査しました。10月27日、同保健所は10月20日に採取した浴槽水からレジオネラ属菌が検出されたことから、同ホテルに対して循環ろ過システムの使用自粛及びろ材の交換など必要な措置について指導しました。10月28日、ホテルは、すべての入浴施設について同日の使用を休止するとともに、同日以降の循環ろ過システムの使用を自粛し、ろ材の交換、設備の洗浄消毒を実施しました。 10月29日、ホテルは、浴槽の使用水を水道水の掛け流し方式に変更し、一部入浴施設の使用を再開しました。11月3日、Xホテルの浴槽水から検出されたレジオネラ属菌と、横浜市の患者から検出されたレジオネラ属菌とについて岐阜県保健環境研究所でDNA解析検査を実施した結果、一致することが判明しました。これにより、X ホテルが原因施設であると断定されました。
 11月4日、岐阜県飛騨保健所はXホテルに対して文書により次の指導を行いました。
(1)飛騨保健所の浴槽水の検査において、レジオネラ属菌が検出されなくなり、安全が確認されるまでの間、循環ろ過装置の使用は停止すること。
(2)衛生管理の強化を図ること
・自主衛生管理マニュアルを作成し、衛生管理体制の強化を図ること。マニュアルは、1週間を目途に飛騨保健所に提出すること
・当分の間、月1回以上レジオネラ属菌検査を実施すること
・消毒の記録、水質検査結果等は、当分の間月1回保健所に報告すること等。
 なお、横浜市の患者の他にも、埼玉県60歳代女性(2009年10月9日〜10月10日に入浴施設利用)、滋賀県70歳代男性(2009年10月12日〜10月13日に入浴施設利用)、愛知県60歳代男性(2009年10月13日に入浴施設利用)、富山県50歳代男性(2009年10月15日〜10月16日に入浴施設利用)のレジオネラ症の患者発生が確認され、計5人の集団感染事例となりました。11月4日の時点では、患者は5人とも入院中ですが、全員快方に向かっているとのことです。

 2010年10月、横浜市保健所にレジオネラ症患者発生の届出がありました。 Legionella pneumophila (血清グループ 1)のレジオネラ尿中抗原検査によって診断されたものでした。患者は糖尿病・血小板減少性紫斑病の持病がある70代の女性で、発病前の2週間は外出せず自宅で過ごしていて、自宅での感染が考えられました。患者宅では、加湿器やネブライザーの使用はありませんでした。風呂は入替式(追い焚き機能なし)でジェットバス機能が付属していましたが、このジェットバス機能は過去1年間ほど使用していませんでした。患者宅には、1980(昭和55)年頃から太陽熱温水器が屋根上に設置されていました。太陽熱温水器で水道水を加温した後、適度の高温の湯とならなければ灯油ボイラーで再加熱できるシステムがあり、この湯を浴室(浴槽)、洗面および台所で使用していました。夏期については灯油ボイラーを運転せず太陽熱温水器で得られた湯をそのまま加熱せずに給湯していました。発病前の2週間について、灯油ボイラーで再加熱していたかどうかは、はっきりしませんでした。また、太陽熱温水器およびその給湯配管はその設置以来、清掃されたことはありませんでした。
 患者の入院当日の喀痰の培養検査により、 Legionella pneumophila (血清グループ 1)を分離しました。また、灯油ボイラーで加温される前の太陽熱温水器で加温された給湯水の培養検査により、 Legionella pneumophila (血清グループ 1)を分離しました。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法による分子疫学的な解析の結果、患者の痰から分離された株と太陽熱温水器で加温された給湯水から分離された株が同一と認められました。横浜市保健所では、本事例は太陽熱温水器で加温された給湯水が感染源であると推定し、患者の家族に伝え注意を喚起しました。患者宅では、太陽熱温水器を撤去し、水道水を直接ボイラーで給湯するシステムに組み替えました。その後、給湯配管は高温消毒、浴槽およびジェットバス内配管は高濃度塩素消毒が実施されました。検査によりレジオネラ属菌が検出されなくなったことが確認されました(参考文献18)。

どんな病気?

 在郷軍人病の潜伏期(病原体に接触してから発病するまでの期間)は、2-10日間です。主な症状は、発熱、悪寒、咳、息切れです。痰は少ないことが多いです。筋肉痛、頭痛、疲労感、食欲減退や、ときには嘔気・嘔吐・下痢・腹痛などの消化器症状が見られる場合もあります。腎機能の低下が見られる場合もあります。胸部X線写真では肺炎がしばしば認められます。
 但し、在郷軍人病の潜伏期については、10日間を超えることもあります。1999年2月のオランダのフラワー・ショーにおける在郷軍人病の集団発生の調査研究(参考文献15)によれば、潜伏期は1-18日で中位数は7日でした。16%が10日を超えたとのことです(参考文献16)。

 レジオネラ症の検査としては、痰の中のレジオネラを検出する検査、尿の中のレジオネラ抗原を検出する検査、3-6週間の間隔で採血してレジオネラに対する抗体価の上昇を確認する検査などがあります。

 尿の中のレジオネラ抗原を検出する検査では、病中あるいは病後においてレジオネラの菌あるいは菌の一部を検出します。病後も数ヶ月にわたって反応が陽性となることもあります。レジオネラのすべての種を検出するわけではなく、 Legionella pneumophila という一つの種の血清グループ1型を主に検出する検査です。

 レジオネラ症の治療では、エリスロマイシン( erythromycin )という抗生物質が使われることがあります。重症例では、リファンピシン( rifampin )が追加併用されることがあります。

 ポンティアック熱の潜伏期(病原体に接触してから発病するまでの期間)は、数時間から3日間です。ポンティアック熱では、発熱や筋肉痛が見られますが、肺炎は見られません。特別な治療は必要とせず、治療なしでも2-5日間で回復するのが通常です。

病原体は?

 レジオネラ症( Legionellosis )の病原体は、 Legionella (レジオネラ)という細菌です。レジオネラで汚染された水から、空調等の冷却塔、泡立つ風呂、打たせ湯、加湿器、噴水、散水器、シャワーなどでレジオネラを含んだエアロゾルが発生し、このエアロゾルを吸い込んだ人たちで、レジオネラ症の集団発生が起こることがあります。

 Legionella (レジオネラ)は、酸性に強く、pH2.7-8.3の環境中から分離されています。

 レジオネラ症は、人から人へは感染しません。

 レジオネラ属( genus Legionella )には、50の種が属していますが、20の種が人間の病気に関係していると考えられています。種によっては、血清グループによってさらに細かく分類されています。 Legionella pneumophila には、16の血清グループがあります。また、Legionella bozemanii 、 Legionella longbeachae 、 Legionella hackeliae 、Legionella feeleii 、 Legionella sainthelensi 、Legionella erythra 、 Legionella quinlivanii 、Legionella spiritensis には、おのおの二つの血清グループがあります。アメリカ合衆国では、在郷軍人病の80-90%が Legionella pneumophila という一つの種の血清グループ1型によって起こされていると考えられています。この Legionella pneumophila は、摂氏25度から45度程度の温かい、停滞した水(お湯)で増殖します。摂氏20度未満ではほとんど増殖しません。 Legionella pneumophila は、肺炎を起こすことがよく知られていますが、肺炎を起こさずに創傷の感染や、心嚢炎、心内膜炎を起こすこともあります。

 なお、 Legionella micdadei という種による軽症のレジオネラ症については、Lochgoilhead 熱( Lochgoilhead fever )が例としてあげられることがあります。Lochgoilhead 熱と呼ばれるのは、英国スコットランド西岸の Lochgoilhead 村にある宿泊レジャー施設で頭痛、疲労感、関節痛、筋肉痛、咳、息切れ等の症状を示す170人の患者の集団発生があったことによります。施設のスパ(温泉)から Legionella micdadei が分離され、患者の血液でも抗体価の上昇が認められました(参考文献1)。

 また、1987年5月から1989年6月までの間に、オーストラリアの南オーストラリア州で、 Legionella longbeachae (血清グループ1) という種によるレジオネラ症の30人の患者発生がみられました(参考文献5)。特に、1988年の10-12月では23人の患者発生がみられました。疫学的調査では鉢植え用培養土(pottingmix )の使用との関係が明らかになりました。当地で売られていた鉢植え用培養土を検査したところ、約70%で Legionella longbeachae が見つかりました。鉢植え用培養土は、主に松(pine)の樹皮等から作られたものでした。なお、 Legionella longbeachae という菌名については、アメリカ合衆国カリフォルニア州のLong Beachで、1980年に肺炎の患者から最初に分離されたことに由来します。
 オーストラリアでは、1987年以来、 Legionella longbeachae による感染症の発生が報告されています。春の発生が多いです。オーストラリアでは、 Legionella pneumophila の発生と並んで多いです。特に、南オーストラリア州・西オーストラリア州では発生が多く、レジオネラ症の80%以上が Legionella longbeachae による感染症です(参考文献17)。

図2:オーストラリアの南オーストラリア州の地図

 集団発生でなく市中で発生したレジオネラ肺炎患者の気道からの検体より分離されたレジオネラについての国際的な調査の報告があります(参考文献8)。米国、イタリア、スイス、オーストラリア、ニュージーランドから総計10の病院が参加しての調査です。集められたレジオネラ肺炎患者の508症例の統計です。分離されたレジオネラは Legionella pneumophila が91.5%、Legionella longbeachae が3.9%、 Legionella bozemanii が2.4%、その他が2.2%でした。 Legionella pneumophila については、血清グループ1が84.2%、血清グループ1以外が7.4%でした。 Legionella pneumophila の血清グループ1が欧米では88.2%を占めるのに対して、オーストラリア・ニュージーランドでは45.7%を占めるのに留まり Legionella longbeachae が30.4%を占めました。 Legionella longbeachae については、20症例中の14症例がオーストラリア、ニュージーランドの報告でした。

予防のためには・・・

 集団発生予防のためには空調等の冷却塔、気泡発生装置付き浴槽、打たせ湯、加湿器、噴水、散水器、シャワーなどで使われる水(お湯)がレジオネラで汚染されないようにすることが大切です。電子パンフレットの「レジオネラ症を防止するために」 [pdf:403KB]  を参考にして下さい(下線部をクリックしてください)。

 集団発生が起こった場合には、保健所、衛生部局、衛生研究所等が協力して対応し、感染源の発見、集団発生の拡大・再発の予防に努めます。

 庭の手入れをする人は、鉢植え用培養土の扱いには注意しましょう。中身が飛散して吸い込むことのないように、鉢植え用培養土の袋は慎重に開けましょう。鉢植え用培養土は、手袋をして取り扱い、取り扱った後には手をよく洗いましょう。鉢植え用培養土が飛散するような勢いで水をかけるのは止めましょう。

 厚生労働省ホームページ内に、「旅館・公衆浴場等におけるレジオネラ症防止対策についてのホームページ」が設けられています。「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」等についても紹介されています。参考になりますので、下記をクリックしてください。

 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/legionella/index.html

[増補]レジオネラのエアロゾルが飛散する距離はどこまで?

2003-2004年のフランスの事例:6km
 2003年11月28日、フランス北部のPas-de-Calais区の公衆衛生部局に2人のレジオネラ症患者の発生の届け出がありました。2人とも14000人ほどの人口のHarnesという町の居住者でした。また、同日、Harnesにある石油化学工場の定期検査において冷却塔でレジオネラが検出されていることを環境部局が明らかにしました。Harnesという町の中で2人のレジオネラ症患者が発生し、しかも、そのHarnesという町の中にレジオネラに汚染された冷却塔が存在することから当局がただちに動き出しました。2003年11月1日から2004年1月31日までで86人のレジオネラ症患者の報告がありました。患者の年齢は、32-92歳で、中位数は76歳でした。52人(60%)が男性でした。84人(98%)が入院し、18人(21%)が死亡しました。Legionella pneumophila の血清グループ1のLens株が、冷却塔や患者の検体から分離されました。Harnesの石油化学工場の冷却塔からレジオネラを含んだエアロゾルが飛散して、感染が広がったと考えられました。
 レジオネラを含んだエアロゾルに曝露したと考えられる期間中、家から離れなかった患者12人中で、最も冷却塔から離れた患者の家までは、冷却塔から6kmありました。レジオネラを含んだエアロゾルが6kmの距離を飛散して感染を起こしたと考えられました(参考文献14)。
 この集団発生事例では、Harnesの石油化学工場の冷却塔の稼働停止により、一時、新たな患者発生はなくなります。しかし、その後、冷却塔の高圧洗浄によるレジオネラを含んだエアロゾルの飛散。また不十分な洗浄によりレジオネラが生き残ってしまい冷却塔の稼働再開によるレジオネラを含んだエアロゾルの飛散へと続き、レジオネラ症のより大きな集団発生となってしまいました。

参考文献

  1. Goldberg DJ, Wrench JG, Collier PW, Emslie JA, Fallon RJ, Forbes GI, McKay TM, Macpherson AC, Markwick TA, Reid D. ; Lochgoilhead fever: outbreak of non-pneumonic legionellosis due to Legionella micdadei . ; Lancet. 1989 Feb 11;1(8633), p.316-318. 
  2. Kaufmann AF, McDade JE, Patton CM, Bennett JV, Skaliy P, Feeley JC, Anderson DC, Potter ME, Newhouse VF, Gregg MB, Brachman PS.; Pontiac fever: isolation of the etiologic agent (Legionella pneumophilia) and demonstration of its mode of transmission.; Am J Epidemiol. 1981 Sep;114(3):p.337-347. 
  3. Barry S. Fields, Robert F. Benson, and Richard E. Besser ; Legionella and Legionnaires' Disease: 25 Years of Investigation ; Clinical Microbiology Reviews, Vol. 15, No. 3, July 2002, p. 506-526.
  4. Glick TH, Gregg MB, Berman B, et al. ; Pontiac fever. An epidemic of unknown etiology in a health department: I. Clinical and epidemiologic aspects. ; Am J Epidemiol. 1978 Feb;107(2):p.149-160. 
  5. TREVOR W. STEELE, JANICE LANSER, AND NORMA SANGSTER ; Isolation of Legionella longbeachae Serogroup 1 from Potting Mixes. ; Applied and Environmental Microbiology, Jan. 1990, Vol. 56, No. 1, p. 49-53.
  6. S. P. FISHER-HOCH, C. L. R. BARTLETT, J. O'H. TOBIN, M. B. GILLETT, A. M. NELSON, J. E. PRITCHARD, M. G. SMITH, R. A. SWANN, J. M. TALBOT, and J. A. THOMAS ; INVESTIGATION AND CONTROL OF AN OUTBREAK OF LEGIONNAIRES' DISEASE IN A DISTRICT GENERAL HOSPITAL. ; Lancet. 1981 APRIL 25;1(8226), p.932-936. 
  7. A. ZUMLA, R. WEYELL, and R. E. TETTMAR ; LEGIONNAIRES' DISEASE: EARLY LESSONS FROM 1988 LONDON OUTBREAK ;  Lancet. 1988 JUN 4;1(8597), p.1275.
  8. Victor L. Yu, Joseph F. Plouffe, Maddalena Castellani Pastoris, Janet E. Stout, Mona Schousboe, Andreas Widmer, James Summersgill, Thomas File, Christopher M. Heath, David L. Paterson, and Annette Chereshsky ; Distribution of Legionella Species and Serogroups Isolated by Culture in Patients with Sporadic Community-Acquired Legionellosis: An International Collaborative Survey ; The Journal of Infectious Diseases(JID) 2002; 186(1 July):p.127-128.
  9. CDC. Respiratory Infection --- Pennsylvania ; MMWR January 24, 1997/Vol. 46/No. 3, p.49-56.
  10. <特集>レジオネラ症 2003.1〜2008.9. ; 病原微生物検出情報月報 2008年12月発行/Vol. 29/No. 12(No. 346), 国立感染症研究所, p.1-2(327-328).
  11. Sonder GJ, van den Hoek JA, et al. , Changes in prevention and outbreak management of Legionnaires' disease in the Netherlands between two large outbreaks in 1999 and 2006. Euro Surveill. 18 September 2008;vol. 13(Issue 38):pii=18983. Available online: http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=18983.
  12. Karen Neil and Ruth Berkelman ; Increasing Incidence of Legionellosis in the United States, 1990-2005: Changing Epidemiologic Trends. ; Clinical Infectious Diseases(CID) 2008; 47(1 September):p.591-599.
  13. 岐阜県生活衛生課、「高山市内のホテルで発生したレジオネラ症について」、記者公表資料、2009年11月4日。
  14. Tran Minh Nhu Nguyen, Daniele Ilef, Sophie Jarraud, Laurence Rouil, Christine Campese, Didier Che, Sylvie Haeghebaert, Francois Ganiayre, Frederic Marcel, Jerome Etienne, and Jean-Claude Desenclos, A Community-Wide Outbreak of Legionnaires Disease Linked to Industrial Cooling Towers- How Far Can Contaminated Aerosols Spread? , The Journal of Infectious Diseases(JID), 1 January 2006; 193:p. 102-111.
  15. Kamilla D. Lettinga, Annelies Verbon, Gerrit-Jan Weverling, Joop F.P. Schellekens, Jeroen W. Den Boer, Ed P.F. Yzerman, Jacobus Prins, Wim G. Boersma, Ruud J. van Ketel, Jan M. Prins, and Peter Speelman, Legionnaires’ Disease at a Dutch Flower Show: Prognostic Factors and Impact of Therapy, Emerging Infectious Diseases, Vol. 8, No. 12, December 2002, p. 1448-1454.
  16. Bartram J, Chartier Y, Lee JV, Pond K, Surman-Lee S. Legionella and the prevention of legionellosis. Geneva: World Health Organization; 2007.
  17. B. A. O’CONNOR, J. CARMAN, K. ECKERT, G. TUCKER, R. GIVNEY AND S. CAMERON, Does using potting mix make you sick? Results from a Legionella longbeachae case-control study in South Australia, Epidemiol. Infect. (2007), 135, p. 34-39.
  18. 吉田匡史、牛頭文雄、三橋徹、五十嵐悠、平林桂、亀井昭夫、修理淳、荒井桂子、松本裕子:病原微生物検出情報月報(IASR)、太陽熱温水器で加温された給湯水によるレジオネラ感染事例―横浜市: Vol. 32、2011年4月号、p. 113-115.  (ウェブ上では :)
    http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/374/kj3747.html.
  19. Harriet Whiley and Richard Bentham; Legionella longbeachae and Legionellosis; Emerging Infectious Diseases, Vol. 17, No. 4, April 2011, p. 579-583.
  20. Francis J. Mahoney, Charles W. Hoge, Thomas A. Farley, James M. Barbaree, Robert F. Breiman, Robert F. Benson, and Louise M. McFarland; Communitywide Outbreak of Legionnaires' Disease Associated with a Grocery Store Mist Machine; The Journal of Infectious Diseases(JID) 1992;165(April):p. 736-739.
  21. JANET E. STOUT, PH.D., AND VICTOR L. YU, M.D.; LEGIONELLOSIS; The New England Journal of Medicine, Volume 337, Number 10, September 4, 1997, p. 682-687.

2004年10月15日掲載
2005年1月24日増補改訂
2009年1月20日増補改訂
2009年11月18日増補改訂
2011年5月2日増補改訂

先頭へ戻る

横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成
ご意見・問合せ:kf-eiken@city.yokohama.jp - 電話:045-370-9237 - FAX:045-370-8462
©City of Yokohama. All rights reserved.