横浜市トップページ > 健康福祉局 > 横浜市衛生研究所 > 横浜市感染症情報センター > 疾患別情報 > ケニアのこどもの定期予防接種について
本稿では、ケニア共和国のこどもの定期予防接種について触れます。まず、ケニアのこどもの定期予防接種と日本のこどもの定期予防接種との違いを見てみましょう。
両国で定期予防接種として実施している予防接種もありますが、一方の国でしか定期予防接種として実施していない予防接種もあります。表にまとめると、下の表1のとおりです。
表1. こどもの定期予防接種のケニアと日本との違い | |||
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ケニアのこどもの定期予防接種 | |||
実施 | 実施せず | ||
日本のこどもの定期予防接種 | 実施 | ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)感染症、 結核(BCG)、 ジフテリア・破傷風・百日咳、 ポリオ、 麻疹、 肺炎球菌感染症、 ヒトパピローマウイルス16型・18型による子宮頸部癌、外陰癌、膣癌、肛門癌および 6型・11型による尖圭コンジローマ(*) |
日本脳炎、 風疹 |
実施せず | B型肝炎、 ロタウイルスによる感染性胃腸炎 |
流行性耳下腺炎(ムンプス)、 髄膜炎菌感染症、 水痘、 A型肝炎、 インフルエンザ、 腸チフス、 コレラ |
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*: HPVワクチンについて、日本、ケニアとも女子のみ対象。 |
こどもの定期予防接種として、ケニアで実施されず日本で実施されているものとしては、日本脳炎、風疹があります。反対に、こどもの定期予防接種として、日本で実施されずケニアで実施されているものとしては、B型肝炎、ロタウイルスによる感染性胃腸炎があります。
日本国外務省では、日本からのケニアへの赴任者に対して、黄熱(必須)、髄膜炎菌(4価)、A型肝炎、B型肝炎、破傷風、狂犬病、腸チフスの免疫の保持を勧めています(参考文献1)。
多数のワクチンを混合したワクチン製剤がケニアでは見られます。たとえば、ジフテリア・破傷風・百日咳のワクチン(DTwP)、B型肝炎のワクチン(HepB)、ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)のワクチン(Hib)を混合したワクチン(DTwP-HepB-Hib)があります。このような三つのワクチンが混合されたワクチンがあれば、個々のワクチンではそれぞれ1回ずつだと3回の接種が必要なところ、三つのワクチンが混合されたワクチンでは1回の接種で済むことになります。接種回数が少なくなれば、こどもが注射で痛い思いをする回数も少なくなります。また、接種スケジュールの設定も容易になります。
日本でも混合ワクチンが使われてきました。ジフテリア・破傷風・百日咳の三種混合ワクチン(DTaP)、麻疹・風疹のMRワクチンなどです。ポリオの不活化ワクチン(IPV)についても、ジフテリア・破傷風・百日咳・ポリオの、四種混合ワクチン(DTaP-IPV)が2012年11月から日本でも新たに使われるようになりました。
ケニアのこどもの定期予防接種の標準的なスケジュール(2014年)は、下の表2のとおりです。なお、ワクチンではありませんが、ビタミンAが、乳幼児のビタミンA欠乏症対策としてワクチンに準じて乳幼児に投与されることがあります。また、回虫・十二指腸虫・鞭虫などによる蠕虫症対策として駆虫剤(de-worming drug)も投与されることがあります。
表2. ケニアのこどもの定期予防接種の標準的なスケジュール(2014年) | ||
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接種時期 | 予防する感染症 | 接種するワクチン(英字略語表記等) |
出生時 | 結核 | BCG(1回接種) |
ポリオ経口生ワクチン | OPV(1回目) | |
生後6週 | ジフテリア・破傷風・百日咳 | DTwP(1回目)* |
B型肝炎 | HepB(1回目)* | |
ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib) | Hib(1回目)* | |
10価肺炎球菌結合型ワクチン | PCV10(1回目) | |
ポリオ経口生ワクチン | OPV(2回目) | |
1価ロタウイルスワクチン | RV1(1回目) | |
生後10週 | ジフテリア・破傷風・百日咳 | DTwP(2回目)* |
B型肝炎 | HepB(2回目)* | |
ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib) | Hib(2回目)* | |
10価肺炎球菌結合型ワクチン | PCV10(2回目) | |
ポリオ経口生ワクチン | OPV(3回目) | |
1価ロタウイルスワクチン | RV1(2回目) | |
生後14週 | ジフテリア・破傷風・百日咳 | DTwP(3回目)* |
B型肝炎 | HepB(3回目)* | |
ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib) | Hib(3回目)* | |
10価肺炎球菌結合型ワクチン | PCV10(3回目) | |
ポリオ経口生ワクチン | OPV(4回目) | |
生後6ヶ月 | ビタミンA | Vitamin A(1回目:後は6ヶ月間隔で生後60ヶ月[5歳]まで経口投与繰り返し。また、出産後6週未満の母親にも投与) |
生後9ヶ月 | 麻疹 | Measles(1回接種) |
(生後9ヶ月) | 黄熱 | YFV(1回接種:黄熱の流行地のBaringo, Keiyo, Koibatek, Marakwetの四地区で接種) |
(小学4年生[あるいは10歳]の女子)** | ヒトパピローマウイルス 16型・18型による子宮頸部癌、外陰癌、膣癌、肛門癌および 6型・11型による尖圭コンジローマ |
HPV(1回目:女子のみ。GAVIの援助により、Kitui Countyで接種) |
HPV(2回目:1回目の1-2ヶ月後) | ||
HPV(3回目:1回目の6ヶ月後) | ||
妊婦、15-45歳の女性 | 破傷風トキソイド | TT(3回接種。1回目の4週間後に2回目。2回目の6ヶ月後に3回目。こども時代に未接種であれば、さらに2回接種[3回目の1年後に4回目。4回目の1年後に5回目]) |
*:ケニアでは、DTwP-HepB-Hibという5種混合ワクチンで接種されます。 **:GAVI(参考文献7)の援助により、Kitui Countyで接種。 |
ヒトパピローマウイルスワクチンは近年開発された高価なワクチンで、発展途上国での導入は経済的に難しいです。しかしながら、GAVI(参考文献7)の援助により、ケニア(Kitui County)、ガーナ(南部のDangme West、及び、北部の Tamale Metro)、マダガスカル(Soavinandriana田園地区、及び、Toamasina 1都市地区)、マラウイ(Zomba, Rumphi)、ニジェール(Niamey II, Madarounfa)、シエラレオネ(Bo state)、タンザニア(Moshi都市, Moshi田園, Hai & Siha, Rombo[キリマンジャロ地区])、ラオス(ビエンチャン市、ビエンチャン県)等の発展途上国でも地域限定で導入されています。
複数のワクチン製剤を同じ日に接種する場合には、複数のワクチン製剤を同じ注射器に吸い上げて混合して用いるようなことをしては、いけません。それぞれのワクチン製剤を別々の注射器に吸い上げて、できるだけ離れた部位に接種します。たとえば、一方のワクチンを右腕に接種したら、もう一方のワクチンを左腕に接種するというように接種します。限られた部位に接種しなければならない場合でも、接種部位は2.5cm以上離します。複数のワクチン製剤を同じ日に接種する場合には、接種部位が区別できるように、それぞれの接種部位について、接種の記録に、より詳細な記述が必要です。
ケニアは、アフリカの東部に位置し、東をソマリア、南東をインド洋、南をタンザニア、西をウガンダ、北西を南スーダン、北をエチオピアに囲まれた国です。このケニアにおける公用語は、スワヒリ語(Swahili)及び英語です。ケニアのこどもの定期予防接種のワクチン等のスワヒリ語表記は、下の表3 、表4のとおりです。なお、ケニア政府のウェブページには、英語表示のページがあります。
2014年8月1日初掲載