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HIV感染症とは、ヒト免疫不全ウイルス(Human immunodeficiency virus;HIV)に感染した状態のことを言います。
一方で、後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome;AIDS,エイズ)は、HIVの感染によって免疫力が低下し、日和見感染症や悪性腫瘍を合併した状態をいいます。
HIVに感染しても、すぐにエイズを発症するわけではなく、免疫機能が低下して、厚生労働省の指定する23の合併症がみられたときに、初めてエイズと診断されます。
HIVは直径110nmのRNA型エンベロープウイルスで、レトロウイルス科のレンチウイルス(lente=遅い)に属します。抗原性や遺伝子の違いによりHIV-1とHIV-2の2型に分類されます。
同じ属に、ネコ免疫不全ウイルスFeline immunodeficiency virus(FIV)、サル免疫不全ウイルスSimian immunodeficiency virus(SIV)等がありますが、これらはヒトに感染することはありません。
1981年米国で患者が発見されて以来、ほとんどすべての国で患者が発生しています。UNAIDS(国連合同エイズ計画)の報告では、2009年には、180万人が命を落とし、260万人が新たにHIVに感染し、その結果、2009年末の時点で世界のHIV感染者の総数は、3330万人と推計されています。2009年の新規感染者は、HIV感染の流行が世界全体としてピークに達したと考えられる1999年と比べると、19%減少したとされています。この要因として、アフリカなどの国では予防対策の成果と、抗レトロウイルス療法(抗レトロウイルス薬を用いた治療)の普及などがあげられています。
HIV感染症は感染症発生動向調査の対象疾患で、五類感染症(全数)の「後天性免疫不全症候群」として報告されます。HIVに感染している者は、エイズと診断された「患者」と、エイズを発症していない「無症状病原体保有者」、後天性免疫不全症候群として届出されていない者がエイズによって死亡した場合の「感染症死亡者の死体」に分類され、報告されます。(届出基準はこちら)
HIVは皮膚の傷口や、口・性器などの粘膜から侵入し、免疫の司令塔であるCD4陽性リンパ球(ヘルパーT細胞)に感染し、破壊することで、免疫力を低下させます。
感染して1〜2週間後に、かぜに似た急性感染症状が出ることもありますが、無症状の人がほとんどです。この時期、HIVは急激に増殖していますが、まだ抗体ができていないので、検査をしても陽性反応は出ません。
感染後6〜8週間たつと、血液中にHIVに対する抗体ができます。しかし、ほとんどが無症状で、抗体検査をしないと感染しているかどうかはわかりません。活発に増殖するHIVとそれを抑え込もうとする免疫系が拮抗し、血中ウイルス量は比較的安定した値に保たれている状態です。
無症状ですが、他人にウイルスをうつす危険性があるこの時期を、「無症候期」といい、平均10年くらいといわれています。この期間にある感染者を「無症候キャリア」といいます。無症候期でも、HIVは毎日100億個前後の速度で増殖しており、CD4陽性リンパ球は次々とHIVに感染して、平均2.2日で死滅していきます。
長い無症候期の後、「エイズ関連症候群(AIDS-Related Complex;ARC)」といわれる状態になり、リンパ節の腫脹、発熱、下痢、体重減少、倦怠感や寝汗等が、1か月以上続きます。
さらに免疫力が低下し、血中のCD4陽性リンパ球数が200/μl以下になると、健康な時には抑え込まれていた体内の細菌やカビ、寄生虫、ウイルスなどが病気を起こしたり(日和見感染症)、悪性腫瘍(カポジ肉腫など)、神経症状(HIV脳症など)が見られるようになります。この状態、すなわち23の指定された疾患(感染症法における届出基準を参照)を発症してはじめてエイズ発病と診断されます。
※HIV感染者(キャリア)≠エイズ患者
日和見感染症の代表的なものとして、ニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)、カンジダ症、クリプトコッカス髄膜炎、サイトメガロウイルス感染症などがあります。
HIVの感染初期において、HIVに感染しても検査結果が陰性になる時期があり、これを「ウインドウ期」といいます(図)。ウインドウ期はさらに、ウイルスが血液中に入る(ウイルス血症)までの期間と、ウイルス血症になってからHIV検査で陽性となる期間(感染性ウインドウ期)に分けられます。検査法によって、感染性ウインドウ期の長さは異なります。
HIV検査は、HIVや抗HIV抗体が含まれる血液を用いて検査を行います。
HIVの遺伝子であるRNAを抽出し、逆転写酵素でDNAを合成した後、増幅させる方法です。ウイルスが血液中に入って(ウイルス血症)から、NATでHIVのRNA遺伝子が検出できるようになるまで(感染性ウインドウ期)には11日間かかります(図)。この11日間より前に、ウイルスに感染してからウイルスが血液中に入る(ウイルス血症になる)までの期間があり、この期間は感染経路や曝露量によって異なります。性感染などの粘膜感染では、この期間はおおよそ1週間前後とされていることから、1週間プラス11日、つまり感染後約18日からNATでの検出が可能となります。
NATは、スクリーニング検査に用いられる抗体検査で陽性になった場合に、確認検査として必要に応じて実施されます。当所で行っているNATは現在、HIV-1のみに対応しています。
抗HIV抗体を検出する方法で、スクリーニング検査では、PA法(ゼラチン凝集法)、EIA法(酵素免疫測定法)、IC法(イムノクロマト法:迅速検査法)が用いられます。即日検査を導入しているHIV検査相談の会場などでは、特別な機器が不要で検査時間が15分と短いIC法が用いられています。
また、スクリーニング検査で陽性になった場合に、確認検査としてWB法(ウエスタンブロット法)やIFA(蛍光抗体法)といった抗体検査が実施されます。現在では、主にWB法が用いられます。スクリーニング検査では1種類または2種類のHIV構成たんぱくに対する抗HIV抗体を検出するのに対し、確認検査ではHIVのすべての構成たんぱくに対する抗HIV抗体の有無を調べる点が異なります。
ウイルスが血液中に入って(ウイルス血症)から、抗体検査でHIVのRNA遺伝子が検出できるようになるまで(感染性ウインドウ期)には22日間かかります(図)。この22日間より前に、ウイルスに感染してからウイルスが血液中に入る(ウイルス血症になる)までの期間があり、この期間は感染経路や曝露量によって異なります。性感染などの粘膜感染では、この期間はおおよそ1週間前後とされていることから、1週間プラス22日、つまり感染後約1か月から抗体検査での検出が可能となります。
全国の保健所では、無料・匿名のHIV検査(抗体検査)を実施しています。また、最近は、利便性の高い夜間、休日、迅速検査を導入する所が増えてきて、検査を受け易くなってきています。HIV迅速診断キットを用いて検査を行う「HIV即日検査」では、検査・相談の当日にスクリーニング検査の結果がわかります。
検査技術の向上により、抗体検査では最短で感染の機会から約1か月(ウイルス血症になるまでの1週間+感染性ウインドウ期22日)で検出が可能になりました。しかし、感染経路や曝露量によって、ウイルス血症になるまでに要する期間は異なるため、より確定的な診断をするには、感染の機会から3か月以上たって検査を受けることが勧められます。
※感染の機会から3か月以内にHIV検査をした場合には、3か月以降の再検査が勧められます。
HIVに感染するには、ある程度の「ウイルス量」が必要です。 HIV感染者の身体の中で、感染に必要なだけのウイルス量を含むのは血液、精液、膣分泌液、母乳のみです。涙、汗、唾液、鼻汁、便に含まれるウイルス量はごくわずかで、感染源にはなりません。
HIVはとても弱いウイルスで、空気中・水中ではすぐに死んでしまいます。HIVを含む体液が身体に侵入する経路は主に「粘膜」で、正常な皮膚からHIVが侵入することはありません。
これらのことからわかるように、HIVは咳やくしゃみ、握手、洋式トイレ、一緒の食事、プール、虫さされなどといった日常生活で感染することはなく、主な感染経路である以下の3つに注意することで予防できます。
※検査目的での献血はやめましょう!!
(献血ではHIVについての検査結果は知らせないことになっています。心配がある場合は、保健所の無料匿名検査を受けることが勧められます。)
※たった1回の無防備なセックスでも、HIVに感染する可能性があります!
セックスをするときは、コンドームを性行為の始めから終わりまで正しく使いましょう。
場合によってはセックスをしないという選択肢も考えましょう。
後天性免疫不全症候群(HIV感染症を含む)は、5類感染症全数把握疾患に定められており、診断した医師は7日以内に最寄の保健所に届け出る必要があります。(届出基準はこちら)
何も治療が行われない場合、エイズ発症後死亡にいたるまでの期間は約2年程度とされています。現在標準的に行われる強力な抗レトロウイルス療法(HAART:Highly Active Anti-retroviral Therapy)は、HIVの増殖と免疫細胞(CD4陽性リンパ球)の破壊を抑制することで、患者の免疫能を回復させることが出来るので、HIV感染者の生命予後は、かなり改善されています。しかし、現在の抗HIV治療は、HIVの増殖を抑制するだけで、感染者の体内から排除することは出来ません。その主な理由は、HIVの一部がメモリーTリンパ球と呼ばれる寿命の長い細胞に潜伏感染しているためです。HIVを駆逐するには、この感染細胞が消滅するまでHAARTを継続するしなければならず、必要な期間は70年以上と推定されており、事実上生涯治療を継続する必要があります。
以前のガイドラインでは、強力な多剤併用療法(HAART)を早期に開始してHIVを可能な限り抑制するよう奨励されていました。
しかしその後、HAART施行に伴う副作用の出現、服薬の煩雑さとそれに伴うアドヒアランス維持の難しさ、早期開始による薬剤耐性ウイルス出現等の問題点が認識されてきました。一方で、早期に治療を開始してもHIVを完全には除去できないことや、免疫機能がある程度(CD4 200〜350)低下してから治療を開始しても免疫機能の改善が得られることが明らかになってきました。
現在では、日和見感染を発症する手前(CD4 200〜350の範囲)に治療を開始するのが適切であると考えられるようになっています。
2006年4月13日掲載
2010年4月7日更新
2011年4月1日更新