ページの先頭

本文へジャンプ - トップメニュー|検索

エンテロウイルスについて

はじめに

 エンテロウイルスは、ポリオウイルス、コクサッキーウイルスA群、コクサッキーウイルスB群、エコーウイルス、その他のエンテロウイルスで構成されるウイルスのグループに属するウイルスの総称です。ここでは、主として、ポリオウイルス以外のエンテロウイルスについて触れます。ポリオ(急性灰白髄炎あるいは小児麻痺とも)を引き起こすポリオウイルスについては、当・横浜市衛生研究所ホームページ「ポリオについて」をご覧ください(下線部をクリックしてください)。

流行は?

 「(鼻)かぜ」ウイルスとして知られるライノウイルス(rhinovirus)についで、エンテロウイルスはよく見られます。エンテロウイルスは、アメリカ合衆国では年間1000万-1500万件の感染症を起こしていると推測されています。また、エンテロウイルスは、アメリカ合衆国では少なくとも年間3万-5万人の入院を起こし、その多くは無菌性髄膜炎であると推測されています。ただし、エンテロウイルスの中でポリオウイルスについては、WHO(世界保健機関)が推進している世界的なポリオワクチン接種の成果として、近い将来地球上から消滅するかもしれません。なお、近年まで、当・横浜市衛生研究所でもポリオウイルスが検出されることがありましたが、たとえば、それは、ポリオの経口生ワクチンを接種してしばらくの間のこどもの咽頭ぬぐい液からのもので、ワクチン株のポリオウイルスでした。
 エンテロウイルスによる感染症は、夏から秋にかけて多く発生します。こどもの夏のカゼの代表としてよくあげられる手足口病ヘルパンギーナを起こすウイルスは、エンテロウイルスに属します。1970-2005年に米国CDC(疾病管理・予防センター)に報告されたエンテロウイルス検出情報をまとめた研究報告(参考文献1)がありますが、エンテロウイルスが検出された検体が採取された月は、採取された月が分かっているものの中で、6月-10月が77.9%を占めます。8月が22.3%を占め一番多いです。年齢については、年齢が分かっているものの中で、0歳が44.2%と一番多いです。1-4歳が15.0%、5-9歳が11.6%、10-19歳が11.9%、20歳以上が17.3%と、乳幼児が多いです。性別については、性別が分かっているものの中で、男性が57.0%と多いです。この男性が女性より多いことが明らかなのは20歳未満に限られます。20歳以上になると、女性の方が家庭等で乳幼児に関わることが多いことでエンテロウイルスへの曝露が多くなり、この男性が女性より多いことが明らかでなくなると考えられます。
 ときとして、エンテロウイルスによる髄膜炎が、地域的あるいは全国的に流行を見せることがあります。1989年から1992年の間および2003年に、アメリカ合衆国では、エコーウイルス30型による髄膜炎の流行が見られました。2001年には、アメリカ合衆国で、エコーウイルス13型およびエコーウイルス18型による髄膜炎の流行が見られました。

日本の感染症発生動向調査における基幹病院定点あたり無菌性髄膜炎患者年間発生報告数推移

 無菌性髄膜炎(ウイルス性髄膜炎)は、日本の感染症発生動向調査においては、5類の基幹病院定点の報告疾患となっています。届出基準はこちら(PDF版)です。日本の感染症発生動向調査では、上のグラフのように2002年(平成14年)に無菌性髄膜炎(ウイルス性髄膜炎) の発生報告が多く、エコーウイルス13型が多数分離されています(参考文献2)。また、日本では、1983年、1989-1991年、1997-1998年にエコーウイルス30型による髄膜炎の流行が見られました。無菌性髄膜炎患者から検出されたウイルスにおいて年間で一番報告が多いウイルスは、2003年がエコーウイルス30型(E30)、2004年がエコーウイルス6型(E6)、2005年がムンプスウイルス、2006年がエコーウイルス18型(E18)、2007年がコクサッキーウイルスB5型(CB5)と、一定ではありません。通常、エンテロウイルス属に属する血清型のウイルスが優勢ですが、エンテロウイルス属に属する血清型のウイルスが少なかった2005年(平成17年)には、エンテロウイルス属に属さないムンプスウイルスが無菌性髄膜炎患者から検出されたウイルスにおいて年間で一番報告が多いウイルスとなりました。

日本の感染症発生動向調査における年齢階層別の基幹病院定点あたり無菌性髄膜炎患者年間発生報告数(2006年)

 上のグラフのように、無菌性髄膜炎の発生は通常、14歳以下の小児で多く、女子より男子で多いです。しかし、15歳以上の年齢層で無菌性髄膜炎の集団発生が起こることもあります。
 2008年夏には、大分県の高校でエコーウイルス30型による髄膜炎の流行が見られました(参考文献3)。高校の生徒数は782人で大半が男子です。2008年8月20日以降、夏風邪が流行し、高校の生徒30数人が感染、その内11人が髄膜炎を発症して入院しました。主症状は、激しい頭痛と38-39度の発熱で、他に項部硬直、嘔吐、下痢も見られました。入院患者は11人全員が男子で運動部(サッカー部7人・バレー部3人・弓道部1人)に所属しています。夏休みの強化練習の時期でした。運動部のクラブハウスのトイレ等が感染源の可能性が高いと判断されました。うがい・手洗いを励行する、タオル・ハンカチ等を共用しない、同じ飲料を口をつけて飲まない、等を学校は指導しました。流行は重症者が出ることもなく終息しました。
 なお、1970-2005年に米国CDC(疾病管理・予防センター)に報告されたエンテロウイルス検出情報をまとめた研究報告(参考文献1)がありますが、エコーウイルス30型については、5歳未満での検出が33.2%に対して、5歳以上での検出が66.8%と、5歳以上の年長児や成人でも多く検出されています。また、これに対して、コクサッキーウイルスB群については、0歳での検出が、B1型で67.9%、B2型で63.4%、B3型で63.7%、B4型で62.5%、B5型で49.2%と、多いです。コクサッキーウイルスB群については、手足口病やヘルパンギーナの病原体として認められることもありますが、重篤な全身症状を新生児に起こすこともあります。
 ウイルス性髄膜炎(ウイルスによって引き起こされる髄膜炎。無菌性髄膜炎とも呼ばれます。)については、コクサッキーウイルス、エコーウイルスなどのエンテロウイルスによるものが、約90%を占めます。エンテロウイルスによる髄膜炎は夏や秋に多いです。また、エンテロウイルス以外では、ムンプスウイルス(当・横浜市衛生研究所ホームページ「流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)について」参照)や単純ヘルペスウイルス2型(HSV‐2)(当・横浜市衛生研究所ホームページ「性器ヘルペス感染症について」参照)も髄膜炎を起こすことがあります。ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)については、頭痛や首のこわばりといった症状のある髄膜炎が患者の15%以下で見られますが、3-10日の経過で軽快するのが通常です。ムンプスウイルスによる髄膜炎については、こどもよりも大人で見られやすく、男子の方が女子より3倍見られやすいです。ムンプスウイルスによる髄膜炎患者の50%以下で耳下腺の腫れは見られません。ムンプスウイルスによる脳炎は、まれです(参考文献4)。

 アメリカ合衆国内の検査施設で2006年から2008年までに検出されCDC(米国疾病管理予防センター)に報告された(ポリオウイルス以外の)エンテロウイルスとヒトparechovirus(HPeV : human parechovirus)とを調査した研究報告(参考文献5)があります。月別の検出数では、7-10月で多く検出され、全体の67.6%を占めます。血清型が把握されたものの中では、コクサッキーウイルスB1型(16.5%:1位)、エコーウイルス6型(10.7%:2位)、エコーウイルス9型(10.7%:2位)、エコーウイルス18型(8.8%:4位)、コクサッキーウイルスA9型(7.5%:5位)といった主要な五つの血清型が全体の54%を占めます。患者の平均年齢は、9歳、患者の年齢の中央値は、2歳です。1歳以下が46.6%でした。検出された検体は、脳脊髄液が50.6%、鼻咽頭部からの検体が22.1%、便あるいは直腸部からの検体が18.3%、組織の検体が9.1%でした。
 コクサッキーウイルスB1型(CVB1 : coxsackievirus B1)は、無菌性髄膜炎、心筋炎、手足口病、ボルンホルム病(Bornholm disease. 流行性筋痛症[epidemic myalgia]あるいは流行性胸膜痛[epidemic pleurodynia]。主にコクサッキーウイルスB群によります。日本では、1993年3-10月に愛知県でのコクサッキーウイルスB2型による流行が報告されています[参考文献9]。この愛知県での流行時には、患者の年齢階層は3歳〜8歳が最も多く、主な症状は、発熱、胸痛、咽頭発赤などでした。なお、Bornholmは初期に患者が報告されたデンマークの東端の島の名に因みます。Bornholm島はバルト海の島でスウェーデンの南、ポーランドの北に位置します。)等を起こすことがあります。アメリカ合衆国では、コクサッキーウイルスB1型は不規則な間隔で2-3年続く流行を起こすことがあります。1970-2005年に米国CDC(疾病管理・予防センター)に報告されたエンテロウイルス検出情報をまとめた研究報告(参考文献1)では全体の2.3%を占めますが、1990年台初めや2000年台初めに発生の増加が見られました。しかし、1970-2005年に10%以上を占めた年はありませんでした。2006年から2008年までにおいては、2006年に3.7%(9位)、2007年に23.6%(1位)、2008年に18.6%(1位)と2007年に特に発生が多かったです。アメリカ合衆国では、2007年においては、コクサッキーウイルスB1型による新生児の重篤な感染が増加しました(参考文献6、7、8)。
 また、アメリカ合衆国では、エコーウイルス30型については、2006年に2.8%(11位)、2007年に0.9%(15位)、2008年に17.0%(2位)と、2008年に特に発生が多かったです(参考文献5)。2006年から2008年まででは、4.5%(9位)でした。

 2014年8月4日、米国ロサンゼルス郡公衆衛生局急性感染症管理部門は、郡立高校のアメリカンフットボール選手3人で無菌性髄膜炎の発生が見られたとの報告を受けました(参考文献10)。報告を受けて当局は調査を進めました。エコーウイルス30型による無菌性髄膜炎でした。アメリカンフットボールチームの選手等やその家族で、7月28日から8月11日までに発症し、脳脊髄液検査で細菌培養陰性・細胞数増加、あるいは頭痛・発熱・項部硬直で救急部を受診した者は、10人でした。この10人の患者について、年齢は13-17歳で、すべて、救急部を受診し、内5人が入院しました。入院日数の総計は12日でした。全員回復しています。9人が男子、1人が女子でした。8人がフットボール選手で、2人がその兄弟でした。「中学代表チーム」での発生が多く、57選手中7人の患者発生でした(罹患率12.3%)。チームのアメリカンフットボール選手が共有していた水筒が、主要な感染経路と考えられました。水筒はよく洗浄されておらず、扱う手も清潔ではありませんでした。手をよく洗うことや、水筒を共有しないようにすること等が学校チーム関係者に指示されました。
 アメリカンフットボールチームにおける無菌性髄膜炎の集団発生は、この他、エコーウイルスの5型、9型、16型、24型によるものが米国では報告されています(参考文献10)。

どんな病気?

 エンテロウイルスに感染しても、不顕性感染と言って、何の症状もない人が多いです。症状が出る場合、「かぜ」のような上気道炎症状(「夏かぜ」)、あるいは、発熱と筋肉痛を伴ったインフルエンザのような症状、あるいは、発疹が出る場合があります。多くはありませんが、ウイルス性髄膜炎を起こす場合もあります。毎年、アメリカ合衆国では、ウイルス性髄膜炎により25000-50000件の入院があるとされています。まれに心筋炎や脳炎を起こし麻痺をきたすこともあります。若年性の糖尿病(1型糖尿病)の発症に関与しているとの説もあります(コクサッキーウイルスB5型)。新生児がエンテロウイルスに感染した場合、まれに、肝臓・心臓を含む多くの臓器に感染を起こし死亡する場合もあります。
 誰でもエンテロウイルスに感染する可能性があります。小さなこどもの方が感染しやすいですが、おとなもそのエンテロウイルスに対する免疫を持っていなければ、こどもと同様に感染する可能性があります。
 エンテロウイルスは、感染した人の気道の分泌物(例えば、唾液、痰、鼻の粘液)の中に出てきます。この分泌物が付着したものをなめたり、触れた手をなめたりして、ウイルスを自分の口やのどの粘膜に運ぶことによって、周囲の人が感染することがあります。また、エンテロウイルスは便の中にも存在するので、患児のおしめを替えるときなどに、手に便が付着しよく手を洗わないで食事などでウイルスを自分の口に運ぶことによって、周囲の人が感染することがあります。
 通常、ウイルス性髄膜炎を起こした場合でも、7-10日で、長期に残る後遺症もなく回復することが多いです。細菌性髄膜炎に比べると軽症です。しかし、脳炎や麻痺を起こした場合には、十分には回復しないことがあります。拡張性心筋症や糖尿病を起こした人は、その疾患に対する長期の治療を必要とします。
 エンテロウイルスが体の中に入ってから(感染してから)発病するまでの期間(潜伏期)は、通常、3-7日間です。エンテロウイルスが体の中に入って(感染後)約3日後から、発病して10日後までの間が、通常、他の人にウイルスを広げる恐れがあります。
 エンテロウイルスはたいへんありふれたウイルスであり、特に夏や秋には、妊婦も接触する機会が多いと考えられます。免疫を持っていないエンテロウイルスに接触すれば、妊婦は、そのエンテロウイルスに感染する恐れがあります。妊娠中にエンテロウイルスに感染しても、たいていの場合は、軽い症状を起こすか、あるいは何の症状もありません。しかし、出産の直前の時期に妊婦が感染すると、新生児がエンテロウイルスに感染する恐れがあります。分娩前後で母親にエンテロウイルス感染症の症状が出ているとエンテロウイルスに新生児は感染しやすいです。感染した新生児は、通常は軽い症状を起こすだけですが、まれに、肝臓・心臓を含む多くの臓器に感染を起こし死亡する場合もあります。生まれてから二週間の間に感染した新生児で重症化する率が一番高いです。エンテロウイルス感染症は、健康な妊娠・出産のために注意したい感染症の一つです。
 エンテロウイルスの内、コクサッキーウイルスB群やエコーウイルス11型、エコーウイルス19型が、命に関わるような重篤な症状を新生児に起こすことがあります。特に母親が抗体を持っていない場合には重症となる確率が高まります。死亡したり、神経発達の遅滞につながる可能性もあります。新生児の命に関わるような重篤な症状としては、脳心筋炎(脳脊髄炎と重篤な心筋炎、しばしば心不全となる)や出血肝炎症候群(肝不全と播種性[はしゅせい]血管内凝固[DIC]とを伴った劇症肝炎)が見られることがあります(参考文献6、7、8)。

 エンテロウイルスの内、エンテロウイルス70型やコクサッキーウイルスA24型変異株は、急性結膜炎や急性出血性結膜炎を起こします。急性出血性結膜炎(acute hemorrhagic conjunctivitis ; AHC)については、アポロ結膜炎(Apollo conjunctivitis)とも呼ばれます。1969年、アフリカのガーナから流行が始まり、当時アポロ11号が月面着陸し人類初めて月に立つという大ニュースと重なって付けられた呼び名です。1969年7月20日午後4時17分40秒(米国東部夏時間)に月面着陸し、さらに、1969年7月20日午後10時56分15秒(米国東部夏時間)、アポロ11号のニール・アームストロング船長が人類で初めて月面に足跡を残しました。アジアでも流行し、日本では1981年に流行が見られました。 急性出血性結膜炎は、日本の感染症発生動向調査においては、5類の眼科定点医療機関の報告疾患となっています。届出基準はこちら(PDF版)です。
  また、エンテロウイルス以外で結膜炎を起こすウイルスとしては、アデノウイルスがあります。咽頭結膜熱(プール熱)や流行性角結膜炎( EKC : epidemic keratoconjunctivitis )を引き起こすアデノウイルスについては、当・横浜市衛生研究所ホームページ「アデノウイルスについて」をご覧ください(下線部をクリックしてください)。

 エンテロウイルスの内、コクサッキーウイルスA16型(CA16)あるいは他の種類のコクサッキーウイルスA群(CA10など)、あるいはエンテロウイルス71型(EV71)が、手足口病の病原体です。詳しくは、当・横浜市衛生研究所ホームページ「手足口病について」をご覧ください(下線部をクリックしてください)。

 エンテロウイルスの内、主にコクサッキーウイルスA群の2、3、4、5、6、8、10、22型、他にもエンテロウイルス71(EV71)やコクサッキーウイルスB群、エコーウイルスなどが、ヘルパンギーナの病原体です。詳しくは、当・横浜市衛生研究所ホームページ「ヘルパンギーナについて」をご覧ください(下線部をクリックしてください)。

 2014年には、米国において、エンテロウイルス(D群)68型(EV-D68またはEV68)による重症呼吸器疾患の増加が見られました(参考文献11)。2014年の8月中旬から2015年1月15日まででは、米国CDCあるいは米国各州の公衆衛生検査所において1153人の呼吸器疾患患者のエンテロウイルス(D群)68型(EV-D68)感染を確認しました。2014年については、米国でエンテロウイルスの型が確定されたものとしては、EV-D68が最多の型となりました。2014年に米国において把握されたEV-D68感染例の大部分はこどもです。このこどもたちの多くは喘息であるか、喘鳴の既往があります。14人の死亡患者の検体からEV-D68が検出されています。
 2014年には、カナダにおいても、エンテロウイルス(D群)68型(EV-D68またはEV68)による重症呼吸器疾患の増加が見られました(参考文献13)。カナダのBritish Columbia州での観察では、2014年9月1日から12月31日までで221人の患者が確認され、その内、少なくとも140人が入院しました。10月16日には、EV-D68の感染に関連してカナダでの最初の死亡がありました。この患者は重症の喘息の既往があり、呼吸不全で入院していました。結局、カナダのBritish Columbia州では、EV-D68の感染に関連して三人(こども、成人、老人が一人ずつ)が死亡しています。また、カナダのBritish Columbia州では、EV-D68の感染に関連して急性の筋力低下や弛緩性麻痺などの神経症状が見られた者が五人(こども三人、成人二人)いました。
 国立感染症研究所によれば、2005年から2014年9月までに、日本国内では、31都府県から272例のEV-D68検出の報告がありました(参考文献12)。年別では、2005年2例、2006年2例、2007年8例、2008年報告なし、2009年4例、2010年129例、2011年2例、2012年2例、2013年122例、2014年1例(2014年11月4日現在)と、2010年と2013年の報告が多かったです。検体採取月別にみると9月をピークに夏から秋にかけての検出が多かったです。性別については、不明7例を除き、男性54%(143例)、女性46%(122例)でした。0-5歳が77%を占めて多く、年齢の中央値は3.0歳でした。患者の診断名の内訳は、下気道炎が107例(39%)と最も多く、次いで上気道炎53例(19%)、気管支喘息31例(11%)などで、約4分の3が呼吸器疾患と診断されていました。急性脳炎(急性脳症を含む)からの検出は4例でした。患者の臨床症状の内訳は、発熱が209例(77%)、下気道炎症状(肺炎、気管支炎を含む)が131例(48%)、上気道炎症状が68例(25%)、喘息・喘鳴が33例(12%)、胃腸炎症状が23例(8%)でした(重複する症状を含む)。

病原体は?

 エンテロウイルス属(genus Enterovirus)は、ピコルナウイルス科(family Picornaviridae )に属します。ピコルナウイルス(Picornaviridae )は、小さな(ピコ:pico [スペイン語])、遺伝子がRNA(ルナ:rna)であるウイルスです。また、ピコルナウイルス(Picornavirus)は、英語でPolio(ポリオ)、Insensitive to ether(エーテルで消毒できない)、Coxsackie(コクサッキー)、Orphan(関わりのある病気がない、つまり身寄りのない孤児のような)、Rhino(ライノ)、RNA genome(RNA遺伝子)-viruses(−ウイルス) の頭文字ともされます。ピコルナウイルス科は、ライノウイルス属、エンテロウイルス属、Apthovirus属(口蹄疫ウイルス等が属します)、カルディオウイルス属、ヘパトウイルス属(A型肝炎ウイルス等が属します)、Parechovirus(パレコウイルス)属からなります。ヒトに感染症を起こすエンテロウイルス(enterovirus)は64種類以上あります。3種類のポリオウイルス(poliovirus : 急性灰白髄炎、ポリオあるいは小児麻痺とも呼ばれる感染症の原因となり1型・2型・3型があります。)、23種類のコクサッキーウイルスA群(group A coxsackieviruses : ヘルパンギーナ・手足口病の原因となるものがあります。1型-22型・24型があります。)、6種類のコクサッキーウイルスB群(group B coxsackieviruses : 1型-6型があります。)、28種類のエコーウイルス(echovirus : 1型-7型・9型・11型-21型・24型-27型・29型-33型があります。)、そして4種類以上のその他のエンテロウイルス(手足口病の原因となるものがあります。 68型-71型、その他があります。)です。エンテロウイルス(enterovirus)のエンテロ(entero)とは、「腸」の意味です。

 エンテロウイルス属で最初に分離されたのは、ポリオウイルスで1919年のことです。ポリオウイルスには、後に3つの型(1型・2型・3型)があることが明らかになっています。ポリオウイルスについで、アメリカ合衆国のニューヨーク州の東部の町Coxsackieでポリオのような症状のこどもの便から1948年の夏、ポリオの流行時に新しいウイルスが分離されました。このウイルスはポリオウイルスでは見られないことですが乳のみマウスで急性の弛緩性麻痺を起こしました。検体の採取地から名をとってコクサッキーウイルス(coxsackievirus)とされました。後にコクサッキーウイルスA群(group A coxsackieviruses)と改められました。コクサッキーウイルスA群は、1型から24型まで名付けられましたが、23型については先にエコーウイルス9型として記述されていたことが後に明らかになり削除されました。コクサッキーウイルスB群(group B coxsackieviruses)は、乳のみマウスで中枢神経系だけでなく肝臓・脂肪組織等全身的な感染を起こすこと、サルの腎臓の細胞で培養されることなどで、コクサッキーウイルスA群とは異なり、6つの型(1型-6型)があります。
 1950年代になって、健康な人たちの便から、エコーウイルス(echovirus)が分離されました。エコーウイルス(echovirus)は、Enteric(腸の), Cytopathogenic(細胞に病原性がある), Human(人間の), Orphan(関わりのある病気がない、つまり身寄りのない孤児のような) viruses(ウイルス)の頭文字から名付けられました。エコーウイルスに分類されたウイルスについては、特定の病気との関係が明らかになればエコーウイルスから削除して新しい分類に移すという考え方でしたが、特定の病気を起こすというよりはさまざまな病気と関係するウイルスということで多くの型のエコーウイルス(echovirus)が認められるようになったため、Orphan(関わりのある病気がない、つまり身寄りのない孤児のような)という表現もふさわしくなくなって来ました。エコーウイルスは、髄膜炎や脳炎等の病原体でもありました。そこで、1970年以降は、新しくウイルスが見つかっても、どのグループに分類するかの困難さから、エンテロウイルスに単に番号を付けるだけになり、エンテロウイルス68型から名付けられ始めました。
 エコーウイルスは、1型から34型まで名付けられました。しかし、後に、8型はエコーウイルス1型、10型はReovirus(1959年)、22型はParechovirus1型(1998年)、23型はParechovirus2型(1998年)、28型はライノウイルス1型、34型はコクサッキーウイルスA24型とされて、削除されました。ピコルナウイルス科ライノウイルス属については、およそ百の型が認められています。Parechovirus1型・2型が属するParechovirus(パレコウイルス)属もピコルナウイルス科に属してします。ヒトパレコウイルス[Human parechovirus(HPeV)]には、1型から6型まであります。日本では1型(HPeV-1)と3型(HPeV-3)とが多く、胃腸炎や気道炎症状の患者から検出されることがあります。parechovirus(パレコウイルス)の名称は、para(似た、準じた) + echovirus(エコーウイルス)であり、もともとechovirus(エコーウイルス)に分類されていたことに由来します。
 1970年以降、エンテロウイルス68型から72型まで認められましたが、後に72型はA型肝炎ウイルスとしてピコルナウイルス科ヘパトウイルス属に分類されて(1991年)、削除されました。分子レベルの研究により新しいウイルスが発見され、エンテロウイルス73型以降の多くの型が提案されています。

 近年の分子レベルの研究により、下記の表のように、ヒトのエンテロウイルスは六つのグループに分けられています。

表1. ヒトのエンテロウイルス属の分類
血清型
ポリオウイルス ポリオウイルス1-3
エンテロウイルスA コクサッキーウイルスA 2,3,5,7,8,10,12,14,16,
エンテロウイルス71
エンテロウイルスB コクサッキーウイルスA 9,
コクサッキーウイルスB 1-6,
エコーウイルス 1-7,9,11-21,24-27,29-33,
エンテロウイルス69
エンテロウイルスC コクサッキーウイルスA 1,11,13,15,17-22,24
エンテロウイルスD エンテロウイルス68,70
上記の種に分類されず コクサッキーウイルスA 4,6

 新しい人のエンテロウイルスについては、宿主のヒト(人)を付けてのヒト(人)エンテロウイルス(Human enterovirus: HEV)のような呼称は使わないようになっています。A,B,C,Dの群と数字の型を後につけて、例えば、「エンテロウイルスD68」(EV-D68)のように表記します。エンテロウイルスについては、エンテロウイルスEエンテロウイルスFもありますが、エンテロウイルスEはウシ(牛)エンテロウイルスA(Bovine enterovirus A: BEV-A)の呼称、エンテロウイルスFはウシ(牛)エンテロウイルスB(BEV-B)の呼称として提案されたものです。

 2000-2008年の日本の感染症発生動向調査においてエンテロウイルス検出報告があった無菌性髄膜炎患者6199人の内、100人以上の検出報告があった血清型は、コクサッキーウイルスA 9型、コクサッキーウイルスB 1-5型、エコーウイルス 6,9,11,13,18,25,30型、エンテロウイルス71型です(参考文献2)。

 エンテロウイルス68型(EV-D68)は、「(鼻)かぜ」ウイルスとして知られるライノウイルス(rhinovirus)の性質とエンテロウイルスの性質とを併せ持つウイルスです。別個に発見されライノウイルス87型と名付けられたウイルスと同一のものであることが明らかになっています。呼吸器系からの検出が多いですが、急性弛緩性麻痺を起こした若い成人の脳脊髄液から検出された例が報告されています。2014年には、米国において、エンテロウイルス(D群)68型(EV-D68)による重症呼吸器疾患の増加が見られました(参考文献11)。

 エンテロウイルス71型は、手足口病の病原体の一つです。神経系に重篤な症状を起こすこともあります。1990年代の終わりから2000年代の初めにかけて、東南アジアで手足口病の流行時に死亡例も報告されています。詳しくは、当・横浜市衛生研究所ホームページ「手足口病について」をご覧ください(下線部をクリックしてください)。

 アメリカ合衆国では、pleconaril、 pocapavir や vapendavir という抗ウイルス剤がライノウイルス・エンテロウイルスを含むピコルナウイルスによる呼吸器感染症に対する薬として研究開発中です。残念ながら、いずれの薬も、エンテロウイルス68型(EV-D68)による感染症には今のところ効果が認められていません。

予防のためには・・・

 ポリオに対するワクチン(予防接種)以外には、エンテロウイルスに対するワクチンは、今のところ、ありません。手を良く洗うことがエンテロウイルス感染症の予防に有効です。また、塩素系の消毒剤が物品の消毒に有効です。摂氏100度で1分間の加熱で殺菌できます。

参考文献

  1. Centers for Disease Control and Prevention. Enterovirus Surveillance - United States, 1970-2005 . Surveillance Summaries, September 15, 2006. MMWR 2006;55(No. SS-8), p.1-20.
  2. <特集> 無菌性髄膜炎関連エンテロウイルスの動向 2008年12月現在 ; 病原微生物検出情報月報 2009年1月発行/Vol. 30/No. 1(No. 347), 国立感染症研究所, p.1-3(1-3).
  3. 長岡健朗、加藤聖紀、本田顕子、小河正雄;<特集関連情報> エコーウイルス30型による無菌性髄膜炎の高校での集団発生事例 --- 大分県 ; 病原微生物検出情報月報 2009年1月発行/Vol. 30/No. 1(No. 347), 国立感染症研究所, p.8-9(8-9).
  4. Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases ( The Pink Book ) : NIP(National Immunization Programs)'s "Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases" course textbook.  12th Edition Second Printing, May 2012, CDC.
    http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/index.html
  5. Centers for Disease Control and Prevention. Nonpolio Enterovirus and Human Parechovirus Surveillance - United States, 2006-2008. December 10, 2010. MMWR 2010; Vol. 59(No. 48), p.1577-1580.
  6. Centers for Disease Control and Prevention. Increased Detections and Severe Neonatal Disease Associated with Coxsackievirus B1 Infection - United States, 2007. May 23, 2008. MMWR 2008; Vol. 57(No. 20), p.553-556.
  7. Mary E. Wikswo, Nino Khetsuriani, Ashley L. Fowlkes, Xiaotian Zheng, Silvia Penaranda, Natasha Verma, Stanford T. Shulman, Kanta Sircar, Christine C. Robinson, Terry Schmidt, David Schnurr, and M. Steven Oberste. Increased Activity of Coxsackievirus B1 Strains Associated with Severe Disease among Young Infants in the United States, 2007-2008. Clinical Infectious Diseases(CID) 2009; 49(1 September):e44-51.
  8. Natasha A. Verma, Xiaotian T. Zheng, Michelle U. Harris, Sandra B. Cadichon, Hector Melin-Aldana, Nino Khetsuriani, M. Steven Oberste, and Stanford T. Shulman. Outbreak of Life-Threatening Coxsackievirus B1 Myocarditis in Neonates. Clinical Infectious Diseases(CID) 2009; 49(1 September): p.759-763.
  9. 志水哲也、山下照夫、杉山雅、都築秀明、榮賢司、鈴木康元、[国内情報]ボルンホルム病の流行−愛知県、病原微生物検出情報月報(IASR), Vol. 21, No. 2, February 2000.
  10. Curtis Croker, MPH, Rachel Civen, MD, Kathleen Keough, Van Ngo, MPH, Amy Marutani, Benjamin Schwartz, MD. Notes from the Field: Aseptic Meningitis Outbreak Associated with Echovirus 30 Among High School Football Players --- Los Angeles County, California, 2014. Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR), January 2, 2015 / Vol. 63 / Nos. 51 & 52, p. 1228.
  11. 米国CDCホームページ:"Enterovirus D68 (EV-D68)".
  12. (日本)国立感染症研究所ホームページ: <速報>エンテロウイルス68型に関する主な知見と国内の疫学状況のまとめ(2014年11月4日現在), IASR(病原微生物検出情報).
  13. (カナダ)国立感染症協働センター(National Collaborating Centre for Infectious Diseases: NCCID)
    : 感染症報告「EV-D68

2001年1月23日掲載
2009年2月20日増補改訂
2011年2月14日増補改訂
2015年1月9日増補改訂
2015年5月15日増補改訂

先頭へ戻る

横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成
ご意見・問合せ:kf-eiken@city.yokohama.jp - 電話:045-370-9237 - FAX:045-370-8462
©City of Yokohama. All rights reserved.