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アメーバ症、主にアメーバ赤痢について

流行は?

 アメーバ赤痢(amebic dysentery)の病原体は、 Entamoeba histolytica というアメーバです。一般には、赤痢アメーバと呼ばれることが多いです。赤痢アメーバが起こす病気を赤痢以外のものも含めてアメーバ症(amebiasis)と言います。赤痢アメーバによる感染は、世界中で起こっています。赤痢アメーバ感染症による死者は、全世界で毎年約10万人に上ると見られ、原虫による感染症の死亡者数では、マラリアに次いで多いと考えられています(参考文献3)。なお、2001年の一年間では、マラリアによる全世界の死亡者は、WHOによれば、約1124000人と推計されています(参考文献4)。赤痢アメーバによって感染して症状が出現した患者の80-98%は、腸粘膜の病変に伴う症状が見られます。残りの2-20%の患者では、赤痢アメーバが腸粘膜のバリア(障壁)を突破し、主に肝臓などで膿瘍を形成することもあります。患者は発展途上国でよく見られますが、発展途上国への旅行者、発展途上国から来た人たち、便失禁がよく見られるような施設で生活している人たち、性的に活発な男性同性愛の人たち、免疫が抑制されている人たちなどでも見られることがあります。
 メキシコへの旅行者がアメーバ赤痢(amebic dysentery)など、赤痢あるいは下痢症状を起こしたときには、俗に「モンテスマの復讐(ふくしゅう)(Montezuma's revenge)」と言われることがあります。モンテスマ(MontezumaあるいはMotecuzoma)はアステカ族最後の皇帝(1502−20年)です。スペイン軍によって若くして殺され、メキシコに栄華を誇っていたアステカ帝国は滅亡しました。海外からメキシコに渡って来た人が命にかかわりかねないひどい赤痢あるいは下痢症状を起こしたとき「モンテスマの復讐(ふくしゅう)だ。」と考えた人たちもいたのでしょう。
 感染症法ではアメーバ赤痢は、5類の全数把握疾患となっています。アメーバ赤痢の診断から7日以内に医師は保健所(横浜市の場合は福祉保健センター)への届け出が必要です。日本における2000年のアメーバ赤痢の年間届出患者数は377人でしたが、2006年には747人と増加してきています。 感染症法で言うアメーバ赤痢は、アメーバ赤痢のみならず、腸管外アメーバ症であるアメーバ性肝臓膿瘍等をも含んだ赤痢アメーバ感染症(アメーバ症:amebiasis)を意味するので注意が必要です。なお、無症状病原体保有者(シストキャリア)の届け出は不要です。
 日本の感染症発生動向調査で、2003年1月から2006年12月までに届け出られたアメーバ赤痢2574例について見ると、男性2280例(88.6%)、女性294例(11.4%)と男性が多いです。感染地については、国内1802例(70.0%)、国外394例(15.3%)、不明378例(14.7%)と国内が多いです。感染経路としては、性的接触による感染が646例(25.1%)、飲食物からの経口感染593例(23.0%)となっています。性的接触による感染の男性560例については、同性間が326例(*)(58.2%)、異性間が219例(*)(39.1%)、不明が26例(4.6%)と同性間が多いです(*:同性間かつ異性間を含む)。性的接触による感染の女性86例については、同性間が1例(1.2%)、異性間が81例(94.2%)、不明が4例(4.7%)と異性間が大部分です(参考文献5)。
グラフ1. アメーバ赤痢年間届出患者数推移(2000-06年)

どんな病気?

 赤痢アメーバという原虫は、大きさについては細胞レベルの小さな生物ですが、虫で言えば卵に相当するシスト(cyst:嚢子)が人間に感染する力を持っています。赤痢アメーバのシストは、直径10-16ミクロンで、卵の殻に相当する外壁に守られて水や食物の中でも数日から数週間は生き延びることができます。水や食物などと一緒に赤痢アメーバのシストが、摂取されます。胃酸によって酸性となっている胃の中では、赤痢アメーバのシストには何の変化も起きません。胃から腸に達し、中性・弱アルカリ性の環境となると、小腸でシストから飛び出して小さなメタシスティク-トロフォゾイト(metacystic trophozoite)が出現します。赤痢アメーバのメタシスティク-トロフォゾイトは大腸で成虫に相当するトロフォゾイト(栄養型:trophozoite)となります。トロフォゾイト(栄養型:trophozoite)は、大腸で分裂して数を増やし、一部はシストへと変化します。シストは、大便と一緒に人間の体外へと出てきます。トロフォゾイト(trophozoite:栄養型)は、直径20-40ミクロンの単細胞です。トロフォゾイト(trophozoite)は、腸粘膜を侵し赤痢を起こすことがあります。また、トロフォゾイト(trophozoite)は、腸粘膜のバリア(障壁)を突破し血流に乗って肝臓などにたどり着き主として肝臓に膿瘍を作ることがあります。赤痢アメーバが侵す部位によってアメーバ症の症状も違ってきます。アメーバ症は、赤痢アメーバが侵す部位によって、腸管アメーバ症(intestinal amebiasis)と腸管外アメーバ症(extraintestinal amebiasis)に分類されます。腸管アメーバ症は、主にアメーバ赤痢であり、腸管外アメーバ症の主なものがアメーバ性肝臓膿瘍です。
 水や食物などと一緒に赤痢アメーバのシストが摂取されてから発病に至るまでの潜伏期間は、数日から4ヶ月、通常2-4週間です。感染しても何の症状も見られない人もいれば、病巣が体中に広がって死に至る人もいます。感染しても何の症状も見られない人では、腸の中に赤痢アメーバが住み着いているのだけれども、無症状の保虫者となることがあります。感染した人自身は無症状だけれども、便中に出てきたシストが感染源となる可能性があります。
 感染した人たちで、腸の症状が出現する場合については、以下の四つのタイプのいずれかになるのが多いです。
#1. 赤痢あるいは下痢症状: 赤痢症状の患者の場合には、一日平均3-5回の粘血便が見られます。渋り腹(テネスムス:tenesmus)や排便に先行する腹痛が見られます。下痢症状の患者の場合には、排便回数は同様に少ないですが、液状の便となり、血液で染まることがあります。腹痛がありますが、渋り腹はありません。発熱や全身症状は通常見られません。アメーバ赤痢は、歩行可能な軽症な赤痢が多いとされ、細菌性赤痢は寝たきりとなるような重症の赤痢が多いとされます。赤痢菌による細菌性赤痢では、発熱、悪寒、頭痛、食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛、渋り腹が見られることが多いです。
#2. 劇症大腸炎: 腹痛、発熱、血液を混じた大量の下痢が見られます。
#3. アメーバ性虫垂炎
#4. アメーバ性肉芽腫(アメーバ腫:ameboma): 無症状あるいは赤痢を伴った触ると痛みのある仮性腫瘍を大腸に生じることがあります。
 赤痢アメーバによる肝臓の膿瘍(肝膿瘍)については、赤痢アメーバのトロフォゾイト(栄養型)が、腸粘膜のバリア(障壁)を突破し門脈の血流に乗って肝臓にたどり着き起こすと考えられます。腸管以外のアメーバ症(amebiasis)として一番多いのが、このアメーバ性肝臓膿瘍(amebic liver abscess)です。赤痢アメーバによる肝膿瘍の発生頻度については、大人はこどもの10倍です。また、男性は女性の3倍です。つまり、男性の大人に多いです。発症は突然のことが多いです。右の肩や肩甲骨へと放射する右季肋部の痛みが生じます。この痛みは深呼吸時や咳をした時に強まります。また、歩行時には右足で踏みしめた時に痛みは強まります。肝臓における膿瘍の所在部位によって症状が異なります。しばしば痰を伴う咳や胸膜性の胸痛が、肝臓の右葉の膿瘍では見られることがあります。肝臓の左上葉の膿瘍では、上腹部からしばしば首の付け根や肩へと広がる痛みで息苦しくなる場合もあります。腹部CT検査や腹部超音波(エコー)検査などが肝臓における膿瘍の存在を確認するために役立ちます。38-40度の発熱が赤痢アメーバによる肝膿瘍患者の85-90%で見られます。悪寒や発汗がよく見られます。黄疸が見られることがあります。黄疸が強いときには多発性の肝膿瘍が疑われます。下痢や赤痢の症状が見られるのは、赤痢アメーバによる肝膿瘍患者の三分の一未満です。他には、食欲不振や嘔気・嘔吐が見られることもあります。
 アメリカ合衆国では、EIA(enzyme immunoassay)法による Entamoeba histolytica 特異抗体の血液検査が多く行われています。腸管外アメーバ症患者の約95%、腸管アメーバ症患者の約70%、無症状でシストを排出している保虫者の約10%が陽性( )です。特異性(specificity)は95%以上で、偽陽性(false-positive)は、まれだとされています。
 治療薬としてはメトロニダゾール(Metronidazole)等が使われます。

病原体は?

 病原体は、 Entamoeba histolytica というアメーバです。一般には、赤痢アメーバと呼ばれることが多いです。慢性的な赤痢の患者に見られた微生物として赤痢アメーバのトロフォゾイト(trophozoite)がLoeschによって1875年に記述されています。赤痢の病原体としては、1891年にCouncilmanとLaFleurによって記述されました。赤痢アメーバのシスト(cyst:嚢子)は、1893年に記述されました。 Entamoeba histolytica とSchaudinnが名付けたのは、1903年のことでした。 Entamoeba は、Ent(腸)+amoeba(アメーバ)、 histolytica は、histo(組織)+lytica(分解)です。 Entamoeba histolytica のシストは、病原性のない Entamoeba dispar のシストとは、光学顕微鏡下では判別困難であるため、検査室からの報告の際には、両方の可能性を考えて「Entamoeba histolytica / Entamoeba dispar」と両者を併記して記述するべきだとされています(参考文献3)。今まで光学顕微鏡での便検査だけでEntamoeba histolyticaによる無症状の感染と考えられていたもののかなりの部分は、実は病原性のない Entamoeba dispar であった可能性があります。腸内にこの Entamoeba dispar が定住していても、通常は治療の必要がないとされています。
 赤痢アメーバのトロフォゾイト(trophozoite)は、下痢便の中に、赤痢アメーバのシスト(cyst:嚢子)は、固形便の中に、主に見られます。しかし、下痢便の中に出てきたトロフォゾイト(trophozoite)は、体外の環境下では、すぐに死んで破壊されてしまいます。新鮮で温かい下痢便では、トロフォゾイト(trophozoite)のアメーバ活動を観察できるかもしれません。トロフォゾイト(trophozoite)が生きたまま人に飲み込まれたとしても、酸性の胃の中では、すぐに死んで破壊されることが多いと考えられます。トロフォゾイト(trophozoite)は、内視鏡時や手術時の生検検体や吸引物などにも認められることがあります。
 症状の有無にかかわらず、無症状の保虫者の場合でも、1日あたり1500万個のシストを便中に排出する場合もありえます。理論上は、一個のシストによっても、感染する可能性があります。

予防のためには・・・

 発展途上国では人糞に汚染された水による感染がよく見られます。また、人糞が肥料として使われていると、農作物を介しての感染の可能性もあります。発展途上国では飲食物に注意しましょう。赤痢アメーバのシストは、乾燥に弱く、水については1分間以上の煮沸により殺すことができます。赤痢アメーバに対する予防接種(ワクチン)はありません。1%次亜塩素酸ナトリウム(30分間以上の接触時間が必要。)や、2%グルタルアルデヒドが消毒に有効です。

参考文献

  1. Marilyn M. Marshall, Donna Naumovitz, Ynes Ortega, and Charles R.Sterling ; Waterborne Protozoan Pathogens ; Clinical Microbiological Reviews, Vol. 10, No. 1, Jan. 1997, p.67-85.
  2. Martha Espinosa-Cantellano and Adolfo Martinez-Palomo ; Pathogenesis of intestinal amebiasis: from molecules to disease ; Clinical Microbiological Reviews, Vol. 13, No. 2, Apr. 2000, p.318-331.
  3. Amoebiasis; Weekly Epidemiological Record, No. 14, 4 APRIL 1997, 72, p. 97-99.
  4. The World health report : 2002 : Reducing risks, promoting healthy life. ; World Health Organization 2002.
  5. <特集>アメーバ赤痢 2003-2006, 病原微生物検出情報(月報), Vol.28 No.4(No.326), 2007年4月発行, p.1-2(103-104).

2002年12月27日初掲載
2007年6月4日増補改訂
2008年3月4日増補改訂

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成 - 2008年4月15日更新
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