横浜市トップページ > 健康福祉局 > 横浜市衛生研究所 > 横浜市感染症情報センター > 疾患別情報 > デング熱・デング出血熱について
デング熱(dengue)は、蚊が媒介する感染症でインフルエンザのような高熱を起こします。さらに、死に至る可能性のあるデング出血熱(dengue haemorrhagic fever : DHF)という状態になることもあります。
デング熱は、熱帯・亜熱帯の地域で世界的に見られます。熱帯・亜熱帯で見られるAedes aegypti (ネッタイシマカ)が主として媒介しますが、温帯でも見られるAedes albopictus (ヒトスジシマカ)も媒介する可能性があります。
近年、デング熱の発生が世界的に増えています。世界人口の約5分の2(約25億人)が感染の脅威にさらされています。全世界では、毎年、5000万人が感染していると世界保健機関(WHO)は推計しています。
毎年、50万人がデング出血熱で入院を必要としていると推計されていますが、大部分はこどもたちです。その内、2.5%が死亡するとされています。
アジアには、デング熱・デング出血熱がこどもたちにおける入院や死亡の主要な原因の一つになっている国もあります。インドネシア・ミャンマー・スリランカ・タイ・東ティモールなどです。
アメリカ大陸においては、2007年一年間で、89万人以上のデング熱患者発生が報告されていて、その内、2万6千人がデング出血熱でした。ベネズエラでは、8万人以上のデング熱患者発生があり、その内、6千人以上がデング出血熱でした。
デング熱の流行時には、感染したことのない人々において感染する率はしばしば40-50%です。しかし、80-90%に達することもありえます。
日本の感染症法では、4類の感染症とされています。届出基準は、こちら(PDF版)です。
2000年から2009年までの日本におけるデング熱患者年間発生数の推移は下のグラフ1のとおりです。2003年の減少は、SARSの影響で海外渡航者が減少したためと考えられています。近年、日本では年間発生数が増加傾向にありますが、すべて日本国外での感染です。タイ、インド、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、ラオス、カンボジアなどでの感染が多いです。
2010年は8月22日時点ですでに112例が報告されていて、さらに増加しています。8月26日時点で渡航先が明らかになっている患者68人中、40人がインドネシアに渡航していて、その内、インドネシアのバリ島への渡航が明らかになっている患者が27人と多いです。最近の発生状況の動向については、国立感染症研究所ホームページ「デングウイルス感染症情報」をご覧ください。
主な媒介蚊であるAedes aegypti (ネッタイシマカ)については、日本では、南西諸島で昔生息していましたが、現在は生息が確認されていません。なお、米国や日本でも生息しているAedes albopictus (ヒトスジシマカ)については、日本で患者が発生すれば媒介する可能性があると考えられています。1942-1945年に西日本でデング熱の流行がありましたが、このときはAedes albopictus (ヒトスジシマカ)が媒介したと考えられています。
主な媒介蚊であるAedes aegypti (ネッタイシマカ)については、熱帯・亜熱帯の地域で世界的に見られます。緯度では、だいたい北緯35度と南緯35度との間です。北半球で冬季の1月の月間平均気温が10度となるのがだいたい北緯35度です。南半球で冬季の7月の月間平均気温が10度となるのがだいたい南緯35度です。夏季だけ、北緯45度程度でも見られることもあります。高度については、高くなると気温は低下するため高度1000m以上では通常見られません。地球温暖化により主な媒介蚊であるAedes aegypti (ネッタイシマカ)の生息範囲が広がるのではないかと懸念されています。
Aedes aegypti (ネッタイシマカ)は、屋内・屋外で水が溜まっている場所で増えます。遠距離を飛ぶことはなく。100メートル以内に活動範囲は留まります。屋内・屋外で日中に(特に早朝の夜明けから2-3時間、及び、午後の暗くなる前の数時間に)ほとんど専ら人間から吸血します。じっと止まっている場所は主に屋内で棚や家具の裏側などです。
媒介蚊となる可能性がある、日本でも生息しているAedes albopictus (ヒトスジシマカ)については、近年、アジアからアフリカ・アメリカ・ヨーロッパへと生息範囲が広がりました。日本などで中古タイヤの内側に卵が産みつけられていて、国際間で取引されて、海外で雨などで戸外に置かれた中古タイヤに水がたまって卵がかえることで、国際的に生息範囲が広がっていったと考えられています。卵は水がない状態でそのまま何か月も生き延びることができ、水につかる事で孵化(ふか)します。
デング熱について、人間が感染している蚊に刺されてから発病するまでの潜伏期は3-14日(平均的には4-7日)です。症状が見られない感染も多いと考えられています。
デング熱はインフルエンザのような発熱を起こす感染症です。発熱は2-10日続きます。赤ちゃんや小さなこどもたちでは発疹も見られます。大きなこどもたちや大人たちでは、軽い発熱だけのこともありますが、高熱に頭痛、目の後ろの痛み、筋肉痛、関節痛、悪心・嘔吐、発疹などを伴うこともあります。発疹については熱が下がってから出現することが多いです。デング熱はデング出血熱と呼ばれる重症の状態にならない限り、死因となることはまれです。
デング出血熱は、突然の発熱で始まり、発熱は2-7日続き、41度に達することがあります。点状出血(皮膚の溢血点など)や鼻粘膜・口腔粘膜(歯茎など)からの出血が見られることがあります。消化管出血や婦人の性器出血が見られることもあります。発熱がおさまって軽快する場合もありますが、発熱がおさまるとともに循環不全・ショックとなり12-24時間で死に至る場合もあります。血管内の血漿の漏出から胸水・腹水の貯留や循環血液量の減少が起こり、ショックに至る場合もあると考えられます。
なお、デング出血熱では、出血傾向が認められますが、出血傾向に加えショック症状が認められるデング出血熱をデングショック症候群(dengue shock syndrome : DSS)と呼ぶことがあります。
デング熱に対する特効薬はありません。しかし、重症のデング出血熱でも、適切な医療がなされれば、救命される場合が多いです。適切な医療がなければ、デング出血熱による致命率(致死率)は、20%を超えることもあります。デング出血熱について熟知した医療従事者による適切な医療がなされる環境があれば、デング出血熱による致命率(致死率)は、1%未満に下げることもできます。
なお、解熱鎮痛剤としては、サリチル酸系は出血傾向を強めるため適さず、アセトアミノフェンが勧められます。
デング熱は英語では単に"dengue(デング)"あるいは"dengue fever"ですが、この"dengue"はスワヒリ語(東アフリカで使われている言語。ケニア・タンザニア・ウガンダで公用語となっています)での呼称"kidingapopo"(dinga)に由来するようです。
デング熱・デング出血熱の病原体はフラビウイルス科フラビウイルス属に属するデングウイルス(dengue virus : DEN)です。他には、黄熱ウイルス(yellow fever virus: YFV)、ウエストナイルウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルスなどがフラビウイルス属に属します。デングウイルス(dengue virus : DEN)には4種類の血清型(1型[DEN-1]・2型[DEN-2]・3型[DEN-3]・4型[DEN-4])があります。
初めてデング熱に感染すると、感染した血清型のデングウイルスに対する終生の免疫を獲得します。感染した血清型以外の血清型のデングウイルスの免疫も一過性に2-3か月程度の間獲得しますが長続きしませず、消失してしまいます。こうして、今度は、終生免疫を獲得した血清型以外の血清型のデングウイルスに感染すると、重症のデング出血熱となる確率が高くなるとされています。
病原体のデングウイルス(dengue virus : DEN)は患者体内で増えます。突然の発熱による発病から発熱している4-5日間は、患者は血液からウイルスが検出されるウイルス血症の状態にあります。このウイルス血症を起こしている患者をメスの蚊が吸血することで蚊の中腸で感染を起こします。この感染が蚊の全身に広がることで、吸血に伴って感染を起こすようになります。蚊がウイルス血症を起こしている患者を吸血してから吸血による感染力を持つようになるまで8-12日と考えられています。感染力を持つようになった蚊は終生感染力を持ち続けます。主な媒介蚊であるAedes aegypti (ネッタイシマカ)については、人間の真近にいて卵を産むまでに何回も人間から吸血して、感染者・患者を増やします。卵経由で蚊の次の世代にデングウイルス(dengue virus : DEN)が引き継がれることがありえることが実験室内では明らかになっていますが、実験室外で現実におこることはまれなようです。
デングウイルス(dengue virus : DEN)に感染すると、患者の体は抗体を産生しますが、初めての感染であるか、二度目の感染であるかによって、抗体産生の状況は違います。
デングウイルスの初めての感染である場合(デングウイルス以外の黄熱ウイルス・日本脳炎ウイルス等のフラビウイルスに感染したことがない場合で、なおかつ、黄熱・日本脳炎などのフラビウイルスのワクチンを接種したことがない場合に限る)、IgM抗体がまず産生されます。突然の発熱による発病から3-5日で患者の50%からIgM抗体が検出されます。5日までで80%から、10日までで99%からIgM抗体が検出されます。IgM抗体は発病後約二週間でピークに達します。IgM抗体はその後2-3か月で低下して検出されないようになって行きます。IgG抗体は発病後7日で低値ながら検出されるようになりだんだん増加します。IgG抗体は発病後数か月たっても検出され、長期にわたって検出されるものと思われます。
デングウイルスの二度目の感染である場合(ときには、デングウイルスの初めての感染であっても、、以前にデングウイルス以外の黄熱ウイルス・日本脳炎ウイルス等のフラビウイルスに感染したことがある場合や、以前に黄熱・日本脳炎などのフラビウイルスのワクチンを接種したことがある場合にも)、IgG抗体がまず高値で検出されるようになり10か月後も検出されます。IgM抗体の産生は、デングウイルスの初めての感染である場合に比較して明らかに少ないです。検査法によってはIgM抗体が検出されない場合もあります。IgM/IgG抗体比がデングウイルスの初めての感染であるか、二度目の感染であるかの判断の参考にされます。
デング熱の予防接種(ワクチン)はありません。予防接種(ワクチン)は研究開発の途上にあります。デング熱を媒介する蚊の駆除が予防に役立ちます。
デング熱・デング出血熱が発生している国々では、蚊に刺されないように注意が必要です。長袖・長ズボンを着用しましょう。せっかく肌をおおっても、薄手の肌にピッチリな服だと、服の上から刺されてしまう可能性があるので、肌にピッチリではない、厚手のゆとりのある服を着ましょう。また、虫よけスプレーやローションなどを使用しましょう。国内で販売されているものは、虫よけの有効成分DEET(ディート)の濃度が低めです。海外で販売されている有効成分DEET(ディート)が高濃度の製品の方が虫よけの効果が強く持続時間も長いと思われます。
2010年9月9日初掲載