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コレラは、コレラ菌( Vibrio cholera )のO-1型あるいはO-139型によって起こされる下痢を主症状とする病気です。コレラ菌( Vibrio cholera )のO-1型あるいはO-139型に感染しても、必ずしも生命に関わるような重症となるわけではありません。軽い症状である場合もあれば、全く症状が出ない場合もあります。重症となるのは、感染した人のうち、20人に1人程度とされています。コレラ菌( Vibrio cholera )のO-1型あるいはO-139型に汚染された飲食物の飲食により主として感染します。原因となる飲食物としては、生や加熱不十分な海産物、生の野菜や果物、あるいは貯蔵や調理の過程でコレラ菌( Vibrio cholera )のO-1型あるいはO-139型に汚染された飲食物などが考えられます。
2005年の世界保健機関(WHO)の統計によれば、年間、52ヶ国から131,943人のコレラ患者発生の報告がありました。コレラ患者発生の実数は、この報告数よりずっと多いと考えられています。アフリカ(125,082人 : 全体の94.80%)、アジア(6,824人 : 全体の5.17%)からのコレラ患者発生報告が多いです。アフリカでは、セネガル(31,719人)、ギニアビサウ共和国(25,111人)、コンゴ民主共和国(13,430人)、赤道ギニア共和国(6,391人)、ウガンダ(4,924人)、ナイジェリア(4,477人)、モーリタニア(4,132人)からの報告が多かったです。アジアでは、インド(3,155人)、インドネシア(1,338人)、イラン(1133人)、中国(980人)、フィリビン(139人)からの報告が多かったです。2005年の総計131,943人のコレラ患者の内、2,272人が死亡していて、致死率は1.72%です。
2006年の世界保健機関(WHO)の統計によれば、年間、52ヶ国から236,896人のコレラ患者発生の報告がありました。2005年に比較すると、79%の増加です。1996-2006年の11年間で見ると、1998年、1999年に次ぐ3番目の発生の多さです。総計236,896人のコレラ患者の内、6311人が死亡していて、致死率は2.66%です。2005年に比較すると、コレラ患者の死亡者は、約3倍に増加し、致死率も上昇しています。アフリカ(234,349人 : 全体の98.92%)、アジア(2,472人 : 全体の1.04%)からのコレラ患者発生報告が多いです。2005年に比較すると、アジアからのコレラ患者発生報告は減少しましたが、アフリカからのコレラ患者発生報告は流行の多発により87%増加し世界全体の99%を占めています。アフリカでは、アンゴラ(67,257人)、エチオピア(54,070人)、スーダン(30,662人)、コンゴ民主共和国(20,642人)、タンザニア(14,297人)からの報告が多かったです。この5か国でアフリカ全体の85.9%を占めます。アジアでは、インド(1,939人)、マレーシア(237人)、中国(161人)、フィリビン(66人)、タイ(35人)からの報告が多かったです。
2007年の世界保健機関(WHO)の統計によれば、年間、53ヶ国から177,963人のコレラ患者発生の報告がありました。2006年に比較すると25%の減少ですが、コレラ患者発生の報告数が少なかった2002-2005年の年間報告数の平均と比較すると、46%増加しています。総計177,963人のコレラ患者の内、4,031人が死亡していて、致死率は2.27%です。2006年に比較すると、コレラ患者の死亡者は、36%減少し、致死率はやや低下しています。死亡患者の報告のほとんどはアフリカからです。アフリカ(166,583人 : 全体の93.6%)、アジア(11,325人 : 全体の6.4%)からのコレラ患者発生報告が多いです。2007年には、アフリカ東部のアフリカの角と呼ばれる地域、中東、東南アジアのメコン・デルタでコレラの大きな流行がありました。アフリカからのコレラ患者発生報告は29%減少し166,583人となりました。アフリカでは、ソマリア(41,643人)、コンゴ民主共和国(28,269人)、エチオピア(24,121人)、アンゴラ(18,422人)、スーダン(13,731人)からの報告が多かったです。この5か国でアフリカ全体の75.7%を占めます。アジアでは、イラク(4,696人)、インド(2,635人)、ベトナム(1,946人)、タイ(1,428人)からの報告が多かったです。
コレラの流行地では夏季にコレラ患者発生が多いです。上水道で水の塩素処理が行われている先進国ではコレラ患者発生の報告は少なく、先進国の患者発生報告の大部分は、発展途上国への旅行者、あるいは発展途上国から持ち込まれた飲食物によって感染した者です。わが国でもインドネシア産ロブスター、インド産エビ等からコレラ菌( Vibrio cholera )が検出されたことがあります。平成10年(1998年)の伝染病統計によれば、日本の年間のコレラ患者数は総数61人、そのうち56人が海外で感染した人たちでした。アジアが54人と大部分を占め、タイ15人、インド11人、フィリピン11人、インドネシア9人、中国3人等でした。また、平成元-10年(1989-1998年)の伝染病統計によれば、306人の平成7年(1995年)を除き、日本の年間のコレラ患者数は40-95人の範囲内でした。平成7年(1995年)は、バリ島への観光ツアーの帰国者にコレラ患者が多発した年でした。横浜市内のコレラ患者の届け出・通報状況は、平成11年度が1人、平成12年度が3人で、いずれも、海外(アジア)で感染した人たちでした。
コレラ菌( Vibrio cholera )のO-1型あるいはO-139型が生物兵器としてテロで使われる場合を考えると、テロリストが飲食物をコレラ菌( Vibrio cholera )のO-1型あるいはO-139型で汚染するようなことが心配されます。また、中国の満州に存在した旧日本軍の731部隊では、炭そ(炭疽)、ボツリヌス症、ブルセラ症、コレラ、赤痢、ガス壊疽、髄膜炎菌感染症、ペストを起こす病原体やフグ毒のテトロドトキシンが研究されていて、コレラ菌も生物兵器としての研究対象の一つでした。
コレラ患者の便の中に20日間以内はコレラ菌が出てくる可能性があります。このコレラ患者の便が感染源となります。下水や飲用水の適切な処理をする施設が整備されていない地域では、コレラが急速に流行を広げる可能性があります。コレラに感染しても全く症状が出ない場合もありますが、そのような場合でも便中にしばらく10日間以内はコレラ菌が出ていて感染源となる可能性があります。
コレラ菌の発見より約30年前、1854年のロンドンにおいて、汚染された飲用水とコレラ患者発生との関係を疫学的研究によりJohn Snowが明らかにしています。
また、コレラ菌( Vibrio cholera )は、塩水が入り込む川の水や沿岸の海水中に生息していることがあります。アメリカ合衆国では、メキシコ湾産の貝を生あるいは加熱不十分で食べてコレラに感染する人もいます。ビブリオ( Vibrio )は、一般に海水や2-3%の食塩水を環境として好みます。
コレラは、コレラ菌( Vibrio cholera )によって起こされる下痢の病気です。コレラ菌で汚染された飲食物を飲食することによってヒトは、コレラ菌に感染します。潜伏期間は、数時間から5日です。コレラ菌は、ヒトの小腸で増殖し、腸毒素(コレラ毒素)を放出します。この腸毒素が下痢を起こします。コレラで見られる下痢は軽い下痢の場合もあれば、ひどい下痢の場合もあります。ひどい下痢の場合には、多量の水のような下痢となり、一日あたり5-10リットルを超える体内からの水分の流出をきたす場合もあります。のどがかわき、尿量が少なくなり、目が落ちくぼみ、頬がこけ、脚などに痛みを伴う筋肉の痙攣を起こす場合もあります。重症の脱水状態となり、体内を循環する血液の量が減少し、ショック状態となる人もいます。適切な治療を行わなければ、死亡することもあります。嘔吐もしばしば見られ、脱水を促進します。発熱や腹痛は、少し見られることもあれば、ないこともあります。コレラの流行地でひどい下痢になったら、水分をよく摂りながらすぐに医療機関を受診するのがよいでしょう。コレラの場合には、ロペラミド(loperamide)のような下痢止めは使うべきではありません。コレラは、治療をしなくても3-6日で自然に軽快する場合もありますが、治療をしないと死亡する場合もあるので、コレラが疑わしいときには、すぐに医療機関を受診して治療を受けるべきです。
多量の便により体内からカリウムが失われ、低カリウム血症となります。ひどい脱水となると、アシドーシスや腎不全が見られることもあります。水のような下痢は、コレラ菌以外のビブリオ、病原性大腸菌、ロタウイルス・ノロウイルス等のウイルスなどによる感染症、あるいは、ウエルシュ菌(Clostridium perfringens )、セレウス菌、黄色ブドウ球菌などによる食中毒でも見られることがあります。
治療としては、水のような下痢によって体内から失われた水分と電解質の補充が主となります。1リットルの水に2.6グラムの塩化ナトリウム、2.9グラムのクエン酸三ナトリウム、1.5グラムの塩化カリウム、13.5グラムのグルコースを溶かした「世界保健機関溶液(WHO solution)」を飲む治療法が行われている国もあります。しかし、嘔吐がひどい場合、一日あたり排便量が7リットルを超える場合、ショックを起こすようなひどい脱水の場合などには、点滴による治療が必要になります。抗生物質による治療は、感染した地域で分離されたコレラ菌の感受性に基づいての早期からの抗生物質使用により、下痢の期間を短縮することで、脱水を軽減します。抗生物質としては、欧米では、テトラサイクリンやドキシサイクリンやノルフロキサシンが用いられることがあります。
感染症法では、コレラは第3類の感染症とされていて、診断した医師はただちに最寄りの保健所(横浜市では福祉保健センター)に届け出る必要があります。届け出にあたっては、当横浜市衛生研究所ホームページの「感染症情報」の「感染症法に基づく医師からの届出のための基準(コレラ)」(PDF版)を参考にして下さい。届け出の書式(PDF版)も掲載しています。コレラの症状が出た患者ばかりでなく、無症状でも便中にコレラ菌が検出された者についても届け出る必要があります。
病原体は、コレラ菌( Vibrio cholerae )です。コレラ菌( Vibrio cholerae )の血清型でO-1あるいはO-139がコレラ毒素を産生し、コレラ特有の症状を示します。ただし、血清型でO-1あるいはO-139であっても、コレラ毒素を産生しない菌もあります。そのため、コレラ毒素を産生する菌であることを検査で確認して、コレラの診断を確定することになります。横浜市の場合、コレラ菌の検査は、検体を受けつけた各区の福祉保健センターでは行わず、検体は各区の福祉保健センターから横浜市衛生研究所に搬入されて、横浜市衛生研究所でコレラ菌の検査を行うことになっています。患者がコレラの疑いが強く、検査でコレラの診断を確定するまでにかかる時間だけ公衆衛生的な対応が遅れることでコレラ感染が広がってしまうことが懸念される場合には、コレラの診断を確定する前に疑似コレラとして公衆衛生的な対応を福祉保健センター等が進める場合もあります。患者がコレラの疑いが強い場合には、早急に各区の福祉保健センターまでご連絡・ご相談下さい。
コレラ菌( Vibrio cholerae )は酸に弱く、胃で分泌される胃酸はコレラ菌( Vibrio cholerae )に対して殺菌的に働くとされています。そのため、胃を切除している人や胃酸の分泌が少ない老人等では、コレラの発病や重症化が多いとされています。また、コレラ菌( Vibrio cholerae )は酸に弱いですが、アルカリ性の環境には強いことが知られています。コレラ菌( Vibrio cholerae )は、アルカリ性に傾く小腸で増殖し、まれに胆道系に長期に保菌する人もいるとされています。
コレラ菌( Vibrio cholerae )の血清型でO-1型のコレラには、古典型(アジア型)とエルトール型があります。古典型(アジア型)コレラ菌は、1883年、コッホによりエジプトで分離されました。エルトール型のコレラ菌は、1905年、エジプトの北東部のエルトール(ElTor)村の検疫所でインドネシア人のメッカへの巡礼者から発見されたものです。しかし、このエルトール型のコレラ菌の病原性は、発見当時気づかれませんでした。このエルトール型のコレラ菌の病原性が気づかれたのは、1937年、インドネシアのセレベスにおいてでした。O-1型のコレラ菌は、さらに、A、B、Cの抗原の有無の組み合わせにより、A・Bを持つ小川型、A・Cを持つ稲葉型、A・B・Cを持つまれな彦島(Hikojima)型があります。A抗原は、O-1型に共通の抗原であり、このA抗原を指標に、A抗原を持たない、つまりO-1型以外の Vibrio cholerae を非凝集(ナグ:NAG:non-agglutinable)型と言うことがあります。このO-2型、O-3型、O-4型等のナグ-ビブリオの中には、食中毒の原因となる菌も含まれています。なお、コレラ菌( Vibrio cholerae )の血清型でO-139型のものによるコレラは、近年になって1992年にインドで流行を起こし、以来、インド・バングラデシュ・タイ等で患者の発生を見ています。
O型の血液型の人は、他の血液型の人に比較して、エルトール型のコレラ菌によって、重症のコレラになりやすいことが知られています。コレラの流行地として知られたガンジスのデルタ地帯の住民は、O型の血液型の人の割合が少ないとされています。
注射用の不活化ワクチンがありますが、50%でしか予防できないとされ、予防効果も6ヶ月以上は持続しません。短くとも1週間以上間隔を空けて2回注射します。さらに、その後は、6ヶ月毎に注射して行きます。
現在では、不活化したコレラ菌(killed whole-cell Vibrio cholerae O1 )とコレラ毒素の一部分(Bサブユニット)のリコンビナント(purified recombinant B-subunit of cholera toxoid)から構成される経口用の不活化ワクチン(WC/rBS)が開発されて世界保健機関(WHO)でも認められスウェーデン、ノルウェイ、ペルー、アルゼンチン、グアテマラ、サルバドール、ホンジュラス、ニカラグアといった実際に認可されている国もあって、注射用の不活化ワクチンよりは予防効果が良いです。1週間間隔での2回投与により85-90%で予防効果が見られ、その予防効果は全年齢層で6ヶ月持続します。バングラデシュでの調査では、小さなこどもでの免疫は、6ヶ月を経過すると急速に低下するのに対して、大きなこどもと大人では2年後に約60%で免疫が保持されました。注射用の不活化ワクチンも経口用の不活化ワクチンも、血清型でO-1のコレラ菌( Vibrio cholerae )に対するものです。残念ながら、血清型でO-1のコレラ菌( Vibrio cholerae )に対する免疫は、血清型でO-139のコレラ菌( Vibrio cholerae )に対しては、免疫として役に立ちません。血清型でO-139のコレラ菌( Vibrio cholerae )に対しても効く多価のワクチンは、今のところ、ありません。
なお、血清型でO-1のコレラ菌のCVD 103-HgR 株を使った経口用の弱毒生ワクチンを認可した国があり、実際に使用もされましたが、製造者が2004年に生産を中止したため、入手できなくなっています。
実際にコレラにかかっても、不完全な免疫しか獲得できません。しばらくはコレラにかからないかもしれませんが、一生の間に何度もコレラにかかる可能性があります。
日本では、海外に行ってコレラにかかる場合が多いです。海外に行く場合には、コレラなどの流行地でないか、旅行会社や厚生労働省の検疫所などでよく確認し助言を得ましょう。また、外務省のホームページでは、トップページから渡航関連情報を選択し、在外公館医務官情報を見ることができます。各国の衛生状況やかかりやすい病気、健康上気をつけるべきことなどを医務官が解説しています。さて、コレラの流行地に行く場合には、コレラ菌( Vibrio cholerae )に汚染された飲食物を飲食してコレラに感染することが多いわけですから、飲食物の安全には気をつけましょう。例えば、次のようなことなどに気をつけましょう。
1. 加熱できる食物を徹底的に加熱して食べましょう。水や牛乳は、一度沸騰させてから、やけどしないようにさまして飲みましょう。
2. 安全な水から作ったと確認できる氷以外の氷は避けましょう。コレラ菌は、冷凍しても死にません。
3. 外食する際は、徹底的に加熱されたものを食べましょう。食卓にでてきたときまだ熱いものを食べましょう。調理時に加熱されたものでも、室温に長時間放置され、再加熱されることもなく食卓に出てくるものは、コレラ菌で汚染している可能性があります。
4. 海産物などの生の食物は、避けましょう。野菜や果物は、自分で皮をむいたものを食べましょう。
5. 安全が確認できない材料で作られたアイスクリームは、避けましょう。
6. 調理や食事の前、トイレの後などには、よく手を洗いましょう。
2002年1月7日初掲載
2006年8月9日改訂増補
2007年8月21日改訂増補
2008年12月12日改訂増補