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ボツリヌス症について

流行は?

 ボツリヌス症は、ボツリヌス菌によって作られた毒素によって起こる筋肉が麻痺してしまう病気(中毒)です。呼吸に使う筋肉も麻痺して動かなくなってしまうので、人工呼吸器による呼吸の補助がなければ、死が避けがたい病気(中毒)です。人工呼吸器による呼吸の補助をすることにより、多くの患者は、数週間から数ヶ月で回復します。

 ボツリヌス菌は、食中毒 を起こす細菌である食中毒菌の一つに数えられています。食中毒菌は感染型の食中毒菌と毒素型の食中毒菌とに大別されますが、ボツリヌス菌は、ブドウ球菌とともに毒素型の食中毒菌の代表です。感染型の食中毒では、食物中の感染型の食中毒菌が、食物と一緒に口の中に入り、ヒトに感染を起こします。これに対し、 毒素型の食中毒では、食品中で毒素型の食中毒菌が増殖し、増殖に伴って毒素を作ります。この毒素が食品とともに口の中に入って吸収され、ヒトに中毒を起こします。ボツリヌス菌による食中毒では死者が出る場合もあります。このボツリヌス菌の毒素の毒性の強さから、ボツリヌス菌の毒素が、テロリストによって生物兵器として使われるのではないかと心配されています。

 日本においては、ボツリヌス菌による食中毒は、食品衛生法に基づく届け出が義務付けられています。厚生労働省「食中毒事件発生状況」によれば、ボツリヌス菌による食中毒は、平成8-11年(1996-1999年)の4年間で7件発生し、総計26人の患者と0人の死者でした。平成12-17年(2000-2005年)の6年間では、0件の発生でした。2006年以後の日本におけるボツリヌス菌による食中毒の食品衛生法に基づく届け出状況は、下の表1のとおりです。

表1. 日本におけるボツリヌス菌による食中毒の食品衛生法に基づく届け出状況(2006年以後)
発生年月発生県発生施設原因食品摂取者数患者数死者数
2006年9月 宮城県 家庭 井戸水 9 1 0
2007年4月 岩手県 家庭 自家製のアユのいずし 1 1 0
2010年12月 千葉県 不明 不明 1 1 0
2012年3月 鳥取県 家庭 「あずきばっとう」 2 2 0

 また、日本において、ボツリヌス症は、感染症法上の四類感染症の一つです(届出基準[PDF版])。診断した医師はただちに最寄の保健所(横浜市では福祉保健センター)に届け出ます。2004-2010年の7年間での届け出ボツリヌス症患者数は、食餌性ボツリヌス症が1人、乳児ボツリヌス症が9人、創傷ボツリヌス症が0人、成人腸管定着ボツリヌス症が0人、不明のボツリヌス症が1人で、総計11人でした。

 アメリカ合衆国では、毎年、平均で110人の患者の発生が報告されています。そのうち、25%がボツリヌス菌による食中毒、72%が乳児ボツリヌス症、3%が傷によるボツリヌス症です。アメリカ合衆国では、1999年にCDC(疾病管理センター)に報告された統計では、174人の患者発生があり、そのうち、26人(14.9%)がボツリヌス菌による食中毒、107人(61.5%)が乳児ボツリヌス症、41人(23.6%)が傷によるボツリヌス症でした。アメリカ合衆国では、ボツリヌス菌による食中毒は、ボツリヌス菌に汚染された食物の 自家製の缶詰・びん詰を食べた場合が多いです。また、傷によるボツリヌス症では、カリフォルニア州でヘロインといった麻薬などの注射がきっかけとなっているものが目立ちます。
 なお、アメリカ合衆国では、ボツリヌス菌による食中毒は、アラスカ州で多いです。アラスカ州で、1950-2000年に114件のボツリヌス菌による食中毒が発生し、226人の患者が発生しています。この患者のすべてが、アラスカ原住民です。判明した原因食品のすべては、アラスカ原住民に伝統的な発酵食品です。ボツリヌス菌による食中毒の患者数では、アメリカ合衆国全体の27%をアラスカ州が占めます。

 アメリカ合衆国では、生物兵器としてのボツリヌス菌毒素の生産は、第二次世界大戦中に開始されました。ドイツによる生物兵器としてのボツリヌス菌毒素の使用の可能性を考えて、連合国の反撃の起点となるノルマンジー上陸に備えて、100万人以上分のボツリヌス菌トキソイド(毒素に対する抗体である抗毒素を作るためのワクチン)を準備しました。アメリカ合衆国では、生物兵器の研究開発は、1969-1970年のRichard M. Nixon 大統領の指令で中止されました。1995年に国連は、イラクが大量のボツリヌス菌毒素を持っていたことを明らかにしました。また、日本のオウム真理教は、1995年の東京の地下鉄サリン事件に先立って、ボツリヌス菌毒素の生物兵器としての使用を東京で試みていました。

 生物兵器としては、ある一地点からボツリヌス菌毒素を噴霧した場合、風下500メートル以内の人口の10%を殺傷するだろうという推測があります。また、テロリスト によるボツリヌス菌毒素の食物への混入の恐れも指摘されています。水源地でテロリストによるボツリヌス菌毒素の飲用水への混入が心配されますが、水道水で用いられる塩素殺菌等の処理でボツリヌス菌毒素は大部分が不活化すると考えられていて、水道水で用いられる塩素殺菌等の処理がきちんとなされていれば、被害は起こりにくいと思われます。そのような処理がなされていない水については、特に要注意です。

 微量でもボツリヌス菌毒素が吸入されたり、目に入ったり、口に入ったりすると、ボツリヌス症となってしまう可能性が高いです。ボツリヌス菌毒素の疑いがある検体を扱う場合には、ボツリヌス菌トキソイド(毒素に対する抗体である抗毒素を作るためのワクチン)で免疫を持った人が検査にあたることが望まれます。アメリカ合衆国では、A・B・C・D・E型に対する5価のボツリヌス菌トキソイドが開発されていて、1回目の接種後、2週間後、12週間後、さらに1年後に接種します。

どんな病気?

 ボツリヌス症には、いくつかの型があります。まず、第一の型がボツリヌス菌による食中毒です。ボツリヌス菌の毒素を含んだ 食物を食べてから、4時間から10日の間(大部分は12−36時間)に症状が出現します。ボツリヌス症の症状は、モノが二重に見え、まぶたが下がり、発音がうまくできなくなり、モノが飲み込みにくくなり、のどが乾き、力が入らなくなります。運動を行う筋肉が動かなくなってしまう運動神経の麻痺が目立ちますが、主に頭部に分布する脳神経の領域から運動神経の麻痺は出現します。これらの症状の前に、嘔吐・嘔気・腹痛・下痢などの胃腸症状がしばしば見られます。四肢で力が入らなくなるのは、右も左も同様に対称に出現します。四肢で力が入らなくなるのは、肩から始まり、肩からひじの間、ひじから手まで、腰から膝の間、膝から足までと、体を下降するように進行し、増強します。呼吸に使われるのは、肋骨の間を張っている肋間筋や胸部と腹部とを仕切っている膜状の筋肉である横隔膜や腹筋などですが、これらの筋肉が麻痺して動かなくと、呼吸が止まることになり、人工呼吸器による呼吸の補助がなければ、死が避けがたいです。 アメリカ合衆国では、致死率は5%です。人工呼吸器による呼吸の補助をすることにより、多くの患者は、数週間から数ヶ月で回復します。生き残った人たちでは、数年間、息切れや疲れやすさが残ることがあります。

 ボツリヌス症の第二の型は、傷によるボツリヌス症です。傷にボツリヌス菌が感染し毒素を産生することによって起こります。症状は、ボツリヌス菌による食中毒と同じですが、胃腸症状は見られません。潜伏期は、受傷後4-21日でした。

 ボツリヌス症の第三の型は、乳児ボツリヌス症です。生後1週間から12ヶ月の乳児に見られることがあります。ボツリヌス菌の芽胞が口から入り、ボツリヌス菌が大腸で増殖して毒素を産生して起こります。乳児に蜂蜜を食べさせることが原因となることがあります。最初に、三日間以上排便がない便秘が見られる場合が多く、後はボツリヌス菌による食中毒と同様な症状が見られます。ミルクの吸い付きや飲み込みが弱くなります。まぶたが下がり、泣き声が弱くなり、口の中は唾液であふれます。筋肉の力は弱く、首がすわらなくなりグラグラとして、全身が、ぐにゃっとした感じ(floppy)になります。軽症から死にいたる可能性のある重篤なものまで幅があります。潜伏期は3-30日間とされています。A型あるいは、B型のボツリヌス菌によるものが多いですが、A型の方が重症の場合が多いです。

 ボツリヌス症の第四の型は、腸管集落性ボツリヌス 症( child and adult botulism from intestinal colonization あるいは adult intestinal toxemia botulism )です。ボツリヌス菌に汚染された食品を摂取した1歳以上のヒトの腸管に数ヶ月間菌が定着し毒素を産生し、乳児ボツリヌス症と類似の症状が長期にわたって持続するものです。抗生物質の使用や腸管の外科手術等がきっかけとなることがありますが、発生は少ないです。

 ボツリヌス症の第五の型は、バイオテロなどで生物兵器としてのボツリヌス菌毒素の噴霧を吸入した場合の吸入ボツリヌス症です。吸入されたボツリヌス菌毒素は吸収され血流に乗り、ボツリヌス症の神経症状を示すこ とになります。純粋なボツリヌス菌毒素を吸収した場合には、ボツリヌス菌による食中毒で見られるような胃腸症状は見られません。吸入ボツリヌス症の潜伏期はよくわかっていません。サルの実験では潜伏期は吸入してから12-80時間でした。1962年に西ドイツで事故で少量のボツリヌス菌毒素を吸入してし まったと考えられる3人の場合には、潜伏期は曝露後約72時間でした。

 アメリカ合衆国では、乳児ボツリヌス症以外のボツリヌス症に対しては抗毒素(毒素に対する抗体)が治療に使われます。早期に投与されれば、症状がひどくなるのを防ぐことができます。抗毒素は、吸収されて血液中にあるボツリヌス菌毒素に結合して、不活化します。神経細胞にボツリヌス菌毒素が入り込んでしまった段階では、抗毒素はボツリヌス菌毒素の不活化はできないのです。抗毒素については、毒素の型と抗毒素の型が一致しないと有効ではありません。アメリカ陸軍は、A・B・C・D・E・F・G型に対する7価の抗毒素を持っています。また、抗毒素(毒素に対する抗体)は、ウマの抗体であり、アナフィラキシーなど のアレルギーの問題を生じる恐れがあります。なお、ボツリヌス菌毒素に曝露後にボツリヌス菌トキソイド(毒素に対する抗体である抗毒素を作るためのワクチン)を投与しても無効です。

病原体は?

 ボツリヌス症の病原体は、Clostridium botulinumという細菌です。この細菌は、一般には、ボツリヌス菌と呼ばれます。ボツリヌス菌は、土の中でよく見られる菌です。酸素が少ない環境下でよく生育する嫌気性菌です。不利な環境下では、芽胞を形成して生き残ります。ボツリヌス菌の芽胞は、100度で数時間加熱しても生き残ることがあります。ただし、高湿の 120度の30分の加熱では死滅します。ボツリヌス菌には、A型からG型までの七種類あります。このうち、A、B、C、E、F型がヒトに病気を起こしています。なお、C、D、E型は哺乳類、鳥類、魚類に病気を起こしています。また、A型からG型までの七種類いずれも神経に対して毒性を発揮する毒素である神経毒を産生します。ボツリヌス菌のA型、B型、C型、D型、E型、F型、G型は、それぞれ、A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型の毒素を産生します。まれに、主要な毒素のほかに少量の他の型の毒素も産生する株も知られていて、主要な毒素を大文字で、少量の他の型の毒素を小文字で示して、Ab型、 Af型、Ba型、Bf型のように表記されることがあります。
 ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)以外の菌がボツリヌス毒素を産生する場合が知られています。Clostridium butyricum がE型ボツリヌス毒素を、Clostridium baratii がF型ボツリヌス毒素を産生する場合が知られています。
 増殖状態のボツリヌス菌に対しては、70%エタノールや0.1%次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒が有効です。しかしながら、これらの消毒剤はボツリヌス菌の芽胞に対しては無効です。

 ボツリヌス菌毒素は、最も毒性の高い毒素の一つとされています。純粋な1グラムの分量は、100万人以上のヒトを殺す分量であるとされています。ボツリヌス菌毒素の致死量はよくわかっていません。ただし、サルの研究から、体重70kgのヒトの純粋なA型毒素の致死量は、静脈注射あるいは筋肉注射で0.09 -0.15マイクログラム、吸入で0.70-0.90マイクログラム、経口摂取で70マイクログラムと推測されています。ボツリヌス菌毒素は、傷口は別として、皮膚からは侵入しません。ボツリヌス菌毒素の溶液は、無色でにおいも無く、知られるかぎりでは味もないとのことです。ボツリヌス菌毒素は、85度以上で5分間の加熱で不活化します。80度で30分間の加熱で不活化します。
 B型毒素・E型毒素と比較してA型毒素は毒性が強く、症状の持続も長いとされます。

 運動神経の末端は、筋肉に密着していますが、筋肉細胞と神経細胞との間にはわずかな間隙があります。この間隙に神経細胞からアセチルコリンが放出されることにより、アセチルコリンが筋肉細胞の受容体に結びつき、筋肉の収縮を起こします。ボツリヌス菌毒素は、神経細胞からのアセチルコリンの放出を止めることにより、筋肉の収縮を起こらなくしてしまいます。この結果、運動神経のコントロールを受ける筋肉の弛緩が起こります。神経細胞の中には、アセチルコリンが詰まった小胞が多数浮かんでいます。この小胞は、Synaptobrevinという手を出しています。一方、神経細胞の細胞膜は、細胞内に向かってSNAP-25とSyntaxinとから構成される手を出しています。この両方の手が握手することで、アセチルコリンが詰まった小胞は細胞膜まで引き寄せられて、中身のアセチルコリンが神経細胞から放出されることになります。ボツリヌス菌毒素は、一種の酵素で、神経細胞に入り込み、これらの手を破壊するこ とで握手をできなくし、アセチルコリンの神経細胞からの放出を止めてしまいます。ボツリヌス菌毒素のB・D・F・G型がSynaptobrevinを分解し、A・C・E型がSNAP-25を分解し、C型がSyntaxinを分解します。なお、ボツリヌス菌毒素は、脳血液関門(脳血管と脳細胞との間には、血液中から脳細胞まで到達する物質を制限する構造があり、この構造を関所にたとえて脳血液関門といいます。)を通過しないため、直接の中枢神経系の症状はでませんが、長期にわたって体を自由に動かせないことによるボツリヌス症の患者本人への心理的な影響は大きく、考慮が必要です。

 天候にも左右されますが、噴霧されたボツリヌス菌毒素は、毎分4%以下の割合で崩壊すると推測されています。毎分1%の崩壊とすれば、実質的なボツリヌス菌毒素の不活化には、噴霧後2日かかります。また、日光下では、ボツリヌス菌毒素は、1-3時間で不活化します。また、空中では、12時間以内にボツリヌス菌毒素は、不活化します。一般の場で、汚染されたモノの表面の消毒には、次亜塩素酸ナトリウムが使われることがあります。

 A型ボツリヌス毒素製剤であるボトックス(Botox)が、日本では、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸、上肢痙縮、下肢痙縮の治療に使われることがあります。痙攣筋あるいは緊張筋に筋肉内注射をします。また、同じくA型ボツリヌス毒素製剤であるボトックスビスタ(Botox Vista)が、日本では、65歳未満の成人における眉間の表情皺(しわ)の治療に使われることがあります。左右の皺眉筋と鼻根筋に筋肉内注射をします。なお、B型ボツリヌス毒素製剤であるナーブロック(製品名:ナーブロック筋注2500単位)が、日本では、痙性斜頸を効能・効果として2011年1月21日に製造販売承認されました(エーザイ株式会社)。緊張筋に筋肉内注射をします。

 ボツリヌス菌は、pH が 4.6未満の強い酸性のもとでは、増殖しません。しかし、pH が 4.6未満の強い酸性は、ボツリヌス菌毒素を不活化しません。ボツリヌス菌による食中毒を防ぐために、食品の製造時に酸を加えて食品を強い酸性とする場合があります。当・横浜市衛生研究所ウェブページ「米国におけるボツリヌス菌による食中毒の事例」中の「事例1・・・刻みにんにくの油漬け」をご覧ください(下線部をクリックしてください)。

 ボツリヌス症( botulism)の名は、ラテン語でソーセージ(腸詰)を意味する botulus に由来します。19世紀末に、ボツリヌス症が最初にヨーロッパで認識されたころには、自家製のソーセージ(腸詰)で食中毒となるヒトが多かったことによります。

予防のためには・・・

 アメリカ合衆国では、ボツリヌス菌による食中毒は、ボツリヌス菌に汚染された食物の自家製の缶詰・びん詰を食べた場合が多 いです。缶詰・びん詰にしようとする食物は、衛生的に扱い、ボツリヌス菌に汚染されないように注意する必要があります。万一ボツリヌス菌に汚染していると、酸素が少ない缶詰・びん詰中でもボツリヌス菌は増殖し毒素を産生する恐れがあります。また、食物の自家製の缶詰・びん詰を食べるときには、念のため、 食前に加熱して10分間は沸騰させましょう。100度で10分間加熱することで、ボツリヌス菌毒素は不活化します。

 ハチミツ(蜂蜜)は、ボツリヌス菌の芽胞を含んでいることがあります。1歳未満の乳児では、乳児ボツリヌス症を起こすことがあるので、ハチミツ(蜂蜜)を与えるのは控えましょう。

 2006(平成18)年9月、乳児1名が乳児ボツリヌス症を発症した旨、感染症法に基づき届け出られました(届出基準[PDF])。その後の調査により、2006年11月、井戸水を原因とする食中毒と、厚生労働省に報告がありました。患者便からは、A型ボツリヌス毒素、A型ボツリヌス菌等が検出されました。自家用飲料井戸水からはA型ボツリヌス毒素等が検出されました。このため、患者宅に井戸を閉鎖するよう指導がなされました。当該地域は水道給水区域であり、患者宅では自家用井戸と上水道を併用していましたが、飲用・炊事や乳児への哺乳に井戸水を使用していました。井戸には亀裂が見られ、雨天時には水が濁るとのことでした。井戸水の調 査では、一般細菌及び大腸菌が水道法に基づく水質基準に適合しておらず、 このほか、ウエルシュ菌(ヒトや動物の大腸内の常在菌で、食中毒の原因となることがある)を検出しました(参考文献4)。
 乳児ボツリヌス症等を予防するために、1歳未満の乳児の調製粉乳の調製及び水分補給には、
* 水道水、又は
* 水道法に基づく水質基準に適合することが確認されている自家用飲用井戸や湧水等の水、又は
* 調製粉乳の調製用として推奨される容器包装に充填し、密栓又は密封した水
のいずれかを念のため一度沸騰させ50℃程度に冷ましたものを使用しましょう。

 2007(平成19)年4月18日午前9時30分頃、岩手県盛岡市内の医療機関から「ボツリヌス食中毒様症状が見られる一関市内の住民を治療している」旨の通報が岩手県盛岡保健所にありました。患者は岩手県一関市内在住の58歳男性で、発病は前日の4月17日の午前6時頃でした。嘔気、嘔吐、眼症状、呼吸困難が出現し、夕方になってから一関市内の医療機関を受診し、救急車で盛岡市内の岩手県高度救急救命センターに搬送されました。抗毒素投与前の患者の血清からE型ボツリヌス毒素が検出され、E型ボツリヌス菌による食中毒と考えられました。家族5名の中で自家製アユいずしを喫食しているのは患者のみで、他の食品は共通していることから、自家製アユいずしが原因食品と推定されました。自家製アユいずしを、患者は発病前日の4月16日の昼と夜の2回喫食していました。自家製アユいずしの製造工程で、アユの内臓除去後の洗浄を十分に行っていなかったため、また、七か月間という長期にわたって常温保存されていたため、原材料に付着したボツリヌス菌から毒素が産生されたものと考えられました。
 魚の腸からは、主にE型のボツリヌス菌が検出されることがあります。当・横浜市衛生研究所ウェブページ「米国におけるボツリヌス菌による食中毒の事例」中の「事例6・・・焼き魚」をご覧ください(下線部をクリックしてください)。

 2012(平成24)年3月24日(土)午前3時頃、鳥取県米子市在住の夫婦2人(60代の男女)が、しびれ、眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がる)、言語不明瞭等の症状で米子市内の病院に救急搬送されました。3月24日(土)午前7時頃、夫婦2人とも意識不明の重体となり入院となりました。3月24日(土)午前9時30分頃、夫婦2人ともボツリヌス菌による食中毒が疑われるとして、病院から鳥取県米子保健所に連絡が入り、米子保健所による調査が始められました。米子保健所は、夫婦2人の自宅に残っていた食品について、ボツリヌス毒素の調査を国立医薬品食品衛生研究所に依頼しました。ぜんざいの餅の替わりに平打ちのうどんが入った食品である「あずきばっとう」(真空加熱殺菌食品、合成樹脂性袋詰め、要冷蔵)からボツリヌス菌A型毒素が検出されました。この気密性のある容器包装詰めの要冷蔵食品がボツリヌス菌による食中毒の原因と疑われました。この食品の入手の経路や時期は不明であり、賞味期限、 保存状況も調査中ですが、一方、当該食品の表示について、一括表示欄には要冷蔵の記 載があるものの、容器包装 のおもて面への冷蔵を要する食品である旨の表示はないとのことです。冷蔵しないことでボツリヌス菌が増殖した可能性もあります。気密性のある容器包装詰めの要 冷蔵食品については、要冷蔵食品であることが消費者等に明確に分かるように、容器 包装のおもて面に冷蔵を要する食品である旨の文字をわかりやすい大きさ(概ね20 ポイント以上)で、色彩、場所等を工夫して表示することが、求められます。
 食品における「要冷蔵」の表示に関しては、下記の当・横浜市衛生研究所ウェブページ「米国におけるボツリヌス菌による食中毒の事例」中の「事例3・・・冷蔵されなかった要冷蔵のイモのスープ」も参照してください。

 ・米国におけるボツリヌス菌による食中毒の事例(事例3)

 さて、2012年3月に鳥取県で発生した「あずきばっとう」(真空加熱殺菌食品、合成樹脂性袋詰め、要冷蔵)による食中毒ですが、ボツリヌス症を疑ってボツリヌス毒素抗血清が2012年3月24日(土)夕方に投与されました。2012年6月26日現在、夫婦二人とも人工呼吸管理中であるとのことです。夫婦は3月23日に昼食(14時頃)に「あずきばっとう」を加温して2人で食べました。味に異変はなく、賞味期限は見ていなかったとのことです。「あずきばっとう」は岩手県宮古市の業者で製造され、700g入りのものは、2012年2月から3月にかけて約400個販売されています。この商品はあずき餡とうどんを混ぜ、真空包装し1時間煮沸して製造されます。患者自宅を調査した時、賞味期限は表面がはがれており読み取れない状態でした。一括表示として要冷蔵(5℃以下)の表示がなされていました。事件後、当該商品について、同様の事例や苦情は寄せられていないとのことです。煮沸1時間の工程により毒素は失活しますが、芽胞菌を完全に死滅させることはできません。製品内に残存したボツリヌス菌芽胞が飲食に供されるまでに発芽増殖し、生成された毒素によって食中毒が起こったものと推察されました。この事件では患者2名以外に被害が確認されなかったことから、製造流通時ではなく、購入後の保存中にボツリヌス菌芽胞が発芽増殖した可能性が考えられました(参考文献6)。また、食前の加温も不十分だったものと思われます。

参考文献

  1. Stephen S. Arnon , et al. ; Botulinum Toxin as a Biological Weapon . ; JAMA, February 28, 2001 ; Vol 286, No. 8 ; pp1059-1070.
  2. Botulism in the United States, 1899-1996. : Handbook for epidemiologists, clinicians, and laboratory workers. ; CDC , National Center for Infectious Diseases , Division of Bacterial and Mycotic Diseases . 1998.
  3. WHO ; "Botulism" ; Fact sheet No. 270, Reviced August 2002.
  4. 厚生労働省 ; "井戸水を原因食品とする乳児ボツリヌス症の報告について" ; 報道提供資料, 平成18 年12 月8 日.
    http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/hourei/jimuren/h14/dl/061208-2.pdf
  5. THADDEUS F. MIDURA ; Update: Infant Botulism ; CLINICAL MICROBIOLOGY REVIEWS, Vol. 9, No. 2, Apr. 1996, p. 119-125.
  6. 上田 豊、花原悠太郎、阪本智宏、松村 毅、北村 勝、百瀬愛佳、朝倉 宏、岡田由美子、五十君靜信、岩城正昭、加藤はる、柴山恵吾; 鳥取県で発生した国内5年ぶりとなる食餌性ボツリヌス症; IASR Vol. 33, 2012年8月号, p. 218-219.
  7. 岩渕香織、松舘宏樹、高橋雅輝、高橋朱実、藤井伸一郎、蛇口哲夫、八柳 潤、齊藤志保子、高橋元秀、見理 剛; 岩手県で発生したボツリヌス食中毒事例について; IASR Vol. 29, 2008年2月号, p. 38.

2001年10月29日掲載
2006年12月15日増補改訂
2007年1月4日増補改訂
2012年4月16日増補改訂
2012年9月5日増補
2012年11月30日増補改訂

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成 - 2012年11月30日更新
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