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炭そ(炭疽)について

流行は?

  炭そ(炭疽)は、 Bacillus anthracis という細菌(炭そ菌)によって起こる感染症です。元気だった動物が急に死んだようなときに、疑うことがある病気の一つです。ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラクダ、カバ、ゾウ、アフリカスイギュウなどの草食の哺乳動物で見られますが、ヒト(人間)でも見られることがあります。ヒト(人間)が感染する場合には、感染した動物から感染する場合があります。あるいは、感染した動物から作られた製品から感染する場合があります。また、感染した動物の肉を食べて感染する場合もあります。しかし、最近、この Bacillus anthracis (炭そ菌)という細菌が注目されているのは、感染して発病した場合の致死率の高さから、この Bacillus anthracis という細菌(炭そ菌)が生物兵器として使われる可能性があるからです。炭そ(炭疽)の予防接種について、アメリカ合衆国の国防総省(DoD:the Department of Defence : Pentagon)は戦闘に係わる兵士の義務的な予防接種の一つとしての扱いを始めています。
  炭そ(炭疽)は、通常、農業が行われる地方の動物たちで見られます。世界的には、南アメリカ、中央アメリカ、ヨーロッパの南部・東部、アジア、アフリカ、中東、カリブ海などです。日本では、まれな病気になっています。平成7年から平成11年の人口動態調査で見ると、この間の日本における炭そ(炭疽)による死者はありません。しかし、日本でも、バイオテロ(生物兵器によるテロ)でこの Bacillus anthracis という細菌(炭そ菌)が使われる可能性が懸念されています。
  死んだ動物に接触する機会がある人たちが炭そ(炭疽)になることがあります。炭そ(炭疽)がありふれた病気である国から持ち込まれた毛皮などの動物製品から炭そ(炭疽)に感染することがあります。

どんな病気?

  炭そ(炭疽)の感染経路は、三つあります。皮膚から、吸い込んで呼吸器から、そして、飲食して胃腸からです。感染経路により症状は違いますが、炭そ菌が体内に入ってから、通常は、7日以内に症状が出現します。しかし、最長で60日後に症状が出現する場合もあります。
  感染経路が皮膚からの場合(皮膚炭疽)  :  皮膚の切り傷や擦り傷から炭そ菌が体内に入り込みます。炭そ(炭疽)に感染した動物の毛や皮を扱っているような時に起こります。まず、炭そ菌が体内に入り込んだ場所に、虫刺されに似た、かゆい盛り上がったこぶができます。それは、1-2日以内に、嚢状になり、やがて破れて1-3cmの径の痛みのない潰瘍になります。中央部が壊死を起こして黒くなっているのが特徴です。付近のリンパ節が腫れます。治療をしない皮膚炭疽の患者の20パーセントが死亡します。適切な抗生物質による治療を早めにすれば、死亡することは少ないです。
  感染経路が吸い込んで呼吸器からの場合(吸入炭疽あるいは肺炭疽)  :  最初の症状はカゼと似ています。発熱・筋肉痛・倦怠感があります。呼吸器に炎症を起こしている人の方が感染しやすいとも言われています。カゼかと思っていると数日後、呼吸困難とショックへと悪化します。吸入炭疽が発病すると死亡する場合が多いです(90-100%)。吸入炭疽では、縦隔(左右の肺に囲まれた部分)のリンパ節において、急速に炭そ菌が増殖し出血性壊死を起こします。肺の浮腫が起こり、胸水がたまります。胸部X線写真では縦隔(左右の肺に囲まれた部分)の拡大が認められます。労働保健の分野では、動物の毛を処理する職場で、処理中に動物の毛に付着していた炭そ菌の芽胞が飛び、これを吸いこんで吸入炭疽となる例が、知られています(昔、ヤギの毛を扱う人たちで見られたことからwoolsorter's diseaseの別名もあります)。また、以前はもっぱら肺炭疽と呼ばれていましたが、主病変が肺よりは縦隔(左右の肺に囲まれた部分)であることから、最近では肺炭疽という病名を避け吸入炭疽と呼ばれることもあります。吸入炭そのヒトからヒトへの直接の感染は、ないとされています。
  感染経路が飲食して胃腸からの場合(腸炭疽)  :  炭そ菌で汚染された肉を食べることによって起こります。腸管の急性の炎症が起こります。最初の症状は、吐き気、食欲不振、嘔吐、発熱です。次いで、腹痛、吐血、血便、ひどい下痢です。腸炭疽では、患者の25-75パーセントで死亡が見られます。腸炭疽では、炭そ菌から放出された毒素が出血性壊死を起こします。
  炭そのヒトからヒトへの直接の感染は、たいへん起こりにくいとされています。皮膚炭疽での報告があるだけです。皮膚炭疽の皮膚病変からの浸出物については感染源としての注意が必要です。
  炭そには通常は、ペニシリンなどの抗生物質が有効です。但し、抗生物質はできるだけ早期に投与する必要があります。投与開始が遅れれば遅れるほど、抗生物質の効果は期待できなくなり致死率が高くなります。抗生物質の投与開始が遅れると、抗生物質が炭そ菌を殺しきる前に、炭そ菌が致死量以上の毒素を体内で産生してしまう可能性があります。また、耐性菌も報告されています。

病原体は?

  炭そ(炭疽)の病原体は、 Bacillus anthracis という細菌(炭そ菌)です。炭そ菌は、熱・化学物質・紫外線に強い芽胞を形成します。芽胞は、土の中や、動物製品に付着して、数十年以上、そのまま生きていることがあります。
  草食の哺乳動物が炭そ(炭疽)にかかることがあるのは、草を食べているうちに、土の中の炭そ菌の芽胞も食べることもありえることによるようです。   Bacillus anthracis の名前は、ギリシァ語で石炭を意味する anthracis に由来します。皮膚炭疽で病変部が石炭のように黒く見えることがあることによります。
  1876年に Robert Koch が始めてこの炭そ菌の純粋な培養に成功しました。炭そ菌が炭そ(炭疽)の病原体であることを確定したのは、Louis Pasteur です。Louis Pasteur は、ヒツジとウシの炭そ(炭疽)に対する免疫法も開発しました。このような動物の予防接種の普及及び動物からの皮・毛の消毒により、先進国では、炭そ(炭疽)は珍しい病気になっています。炭そ菌の生物兵器としての使用を考える国がいくつかありましたが、そのような生物兵器としての使用は国際条約で禁止されています。旧ソビエト連邦では、ロシアの Sverdlovsk で1979年に軍の実験室から炭そ菌がもれた事故で、79人が吸入炭疽になり68人が死亡しています。
  炭そ菌は、テロリストによる生物兵器としての使用が危惧される細菌の一つです。天候と風の状態によっては、テロリストが飛行機を使って、2キロメートルにわたって50キログラムの炭そ菌をまくことで、風下20キロメートルにわたって炭そ菌が広がる可能性があります。炭そ菌が広がった中にいても、炭そ菌の何も見えず、においもしません。バイオテロの攻撃があったことは、吸入炭疽の患者が出現して初めて気づくことになるかもしれません。
  消毒液としては次亜塩素酸ナトリウム溶液が、通常の場所で汚染されたもの表面の消毒に使われることがあります。

予防のためには・・・

  日本では販売されていませんが、炭そにはヒト用の予防接種(ワクチン)があります。アメリカ合衆国で販売されている不活化ワクチンについては、炭その予防について93パーセントで効果があるとされています。2週間間隔で3回皮下注射をします。その後、6、12、18か月後に追加の皮下注射をします。さらに毎年皮下注射をします。注射部位の発赤や腫れが30パーセントのヒトで見られます。なお、動物用のワクチンは、ヒトに用いることはできません。
  平成13年(2001年)10月初旬、アメリカ合衆国のフロリダで吸入炭そ(肺炭疽)により1人が死亡しました。この人(63歳の男性)の職場の建物が炭そ菌に汚染されていることが明らかになりました。バイオテロ(生物兵器によるテロ)の可能性があるとのことで、公衆衛生当局とFBIが一緒に調査・観察しています。この患者の発病から60日以上さかのぼった2001年8月1日以降にこの患者の職場の建物で働いたことがある人たちに対して公衆衛生当局は、炭そ(炭疽)に有効な抗生物質の投与をしています。症状が出現する前に抗生物質の投与をすることで、炭そ(炭疽)を予防することができると期待されています。アメリカ合衆国のCDC(疾病管理センター)は、このような緊急時には、すぐに有効な抗生物質を提供する準備が常にできています。このような抗生物質の予防的投与は60日間が推奨されています。このような抗生物質の予防的投与では、アメリカ合衆国ではニューキノロン系化学療法剤の Ciprofloxacin (シプロフロキサシン)あるいは Doxycycline が第一選択の薬となっています。また、合わせて不活化ワクチンを使用した場合は、予防的投与の期間も短縮できるとされています。
  さて、その後、アメリカ合衆国では、ニューヨーク等でもバイオテロによると思われる炭そ患者が出現し、郵便物で炭そ菌が送られてきたことが明らかになっています。そして、炭そ菌に曝露した人たちは、抗生物質の予防的投与を受けています。この抗生物質の予防的投与について、2001年12月18日米国保健省は声明を出しました。動物実験で肺に吸い込まれた炭そ菌の芽胞が60日を越えて100日まで生存している可能性が示されたとのことです。そこで、抗生物質の予防的投与について、米国保健省は三つの選択肢を示しています。第一の選択肢は、これまでどおり抗生物質の予防的投与は60日間として、病気のチェックをきちんとして行く。第二の選択肢は、抗生物質の予防的投与は100日間として、病気と副作用のチェックをきちんとして行く。第三の選択肢は、抗生物質の予防的投与は100日間として、さらに、不活化ワクチンを使用して炭そ菌に対する免疫をつけ、病気と副作用のチェックをきちんとして行く。個人の曝露状況に応じ、医師と個人とが相談の上、選択肢が選ばれることになります。

参考文献

  1. Thomas V. Inglesby , et al. ; Anthrax as a Biological Weapon ;JAMA, May 12, 1999; Vol 281, No. 18 :pp1735-1745.

2001年10月12日掲載
2001年12月21日増補

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横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課 - 2008年4月1日作成 - 2008年4月1日更新
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