ここから本文です。
2023年12月号 荻野アンナさん寄稿「来て、見て、買った! 横浜橋通商店街」
海、港、緑、歴史、地域、人々、さまざまな魅力を持つ横浜。この街の彩りを「よこはま彩発見」としてお届けします。今回は作家の荻野アンナさんが横浜橋通商店街(南区)を訪ねた模様を寄稿していただきました。
最終更新日 2024年1月5日
横浜橋を歩いていると、かなりの確率で中国語を耳にします。近くの南吉田小学校は外国人児童の割合が高く、その親御さんがこちらで買い物をするというわけです。中国人が店主の店も増えました。
ひとつの店舗で魚、肉、乾物、野菜の別なく扱っていたら中国系のお店です。魚を生で食べる伝統がないため、刺身はありません。奥の冷凍庫に「豚の顔」が入っていたりします。
「共存共栄ですよ」
と商店街協同組合理事長の石塚安太郎さん。ただし街のルールは守ってもらう、と付け加えました。石塚さんは創業70年を超える蕎麦の「安楽」のご主人です。街のお目付役は、現役バリバリの82歳でした。
「やさいの店さとう」で目が釘付けになったのは、松茸千円。横にはビニール袋一杯のミョウガの茎、二百円。店主の佐藤稔さんは二代目で、父の代からなるべく新鮮なものを、と心がけてきました。季節によって旬の産地を選ぶのだそうです。大根なら夏は北海道や青森、冬は三浦や千葉。
「パパイヤもありますね」
食用ヘチマやパパイヤは、アジア系のお客さんを意識しているそうです。 松茸かミョウガの茎か、悩む私に佐藤さんは言いました。ミョウガの茎は今年から流通しており、旬の「今だけ」のもの。聞くなりビニール袋に手を伸ばしました。
肉の「山梨屋瀬尾商店」には70年を超える歴史があります。親戚から父が受け継いだ、と二代目の山梨武さん。ショーウィンドウの横の箱には、紅の塊がタレに浮かんでいます。人気商品のチャーシューでした。
「1日20本ぐらい出ます」
遠方からのお客さんもあるとのことで、専用の窯で毎日焼き上げています。優しい甘みが肉の充実感を引き立てて、噛み締めるほどに滋味が溢れます。独特の味付けも好評ですが、肉にもこだわりがあります。「はまポーク」と言われて首を傾げる私に、山梨さんはショーウィンドウを指してみせました。豚にはもれなく「はまポーク」のシールが貼られています。横浜の誇るブランド肉でした。
牛は全部和牛で、北海道、熊本、沖縄と多彩な産地が並びます。どこのどの部位が良いか、問屋さんから報告を受けて買い付けるそうです。並んでいるのは薄切りですが、ステーキ用に切ってもらうことも可能。そうとわかるなり、ひと切れお願いしました。「あまり高くないの」と小声で付け加えました。
「魚範」の店先のケースには、刺身がずらりと並んでいます。淡路島の真鯛、青森のヒラメ、三重のシマアジ。すべて「天然」の文字が踊っています。
「どれがおすすめ?」
若き三代目の渡辺健太さんに聞いてみました。ヒラマサか戻りガツオ。悩んでから気仙沼のカツオを選びました。
三代目のこだわりは味と鮮度。
「良いものを買いに来るお客さんが多いんで」
奥のほうで、金魚を巨大にしたような赤い魚が目を惹きます。五島列島の赤ハタです。
「珍しいですね」
「中国の人に人気なんです」
客の半分は外国人だそうです。日本人用の刺身と外国人用の魚がひとつの軒先で平和共存していました。
呉服の「あさひや」では、派手なマネキンがお出迎えしてくれます。赤と黒のトランプ柄の着物は、袖と裾にレースが付いています。こんな着物を日常に着る仕事が、実は存在します。横浜橋の隣りの三吉演芸場は大衆演劇の箱ですが、「ひょんなことから」そこの役者さん達に衣装を提供するようになりました。
「今三代目ですが、先代の女将さんの時のことです」と店員の柏原莉乃さん。
デザイン、生地の染めから仕上げまで、一貫して請け負っているそうです。
柏原さんがパンフレットを持ってきました。この10月から新宿で着物のレンタルを始めたのですが、ドレスっぽい着物も扱っています。役者さんが使わなくなった着物のリフォームが役に立っています。横浜の下町で花咲く大衆文化が、新宿の最先端の若者や外国人に愛される。日常レベルの国際化を、横浜橋で体験した1日となりました。
作者プロフィール
荻野 アンナ
作家、慶應義塾大学名誉教授。1956年横浜生まれ。慶應義塾大学博士課程修了。ソルボンヌ大学博士号取得。1991年『背負い水』で芥川賞受賞。2001年『ホラ吹きアンリの冒険』で読売文学賞受賞。2008年『蟹と彼と私』で伊藤整文学賞受賞。近著は『老婦人マリアンヌ鈴木の部屋』。
【受付終了】読者プレゼント
応募受付は終了し、当選者に1月5日(金曜日)に賞品を発送しました。ご応募ありがとうございました。
いつも『広報よこはま』・「よこはま彩発見」をご覧いただき、ありがとうございます。感想をお寄せいただいた方の中から抽選で、荻野アンナさんご本人のサイン入り著書『老婦人マリアンヌ鈴木の部屋』を5名様にプレゼントします。ご希望の方は、次の6項目※を明記し、郵便はがき(〒231-0005 横浜市中区本町6-50-10 横浜市役所政策局広報課 あて)又は電子メール(ss-saihakken@city.yokohama.jp)でご応募ください。締切は2024年1月4日(木曜日) 必着です。
※ 1.郵便番号、2.住所、3.氏名、4.感想、5.読んでみたい記事、6.「12月号プレゼント希望」
なお、当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。また、いただいた個人情報は、賞品の発送以外の目的には使用しません。
読者プレゼント問合せ先横浜市役所政策局広報課 TEL:045‐671-2331 FAX:045‐661-2351
このページへのお問合せ
政策経営局シティプロモーション推進室広報課
電話:045-671-2331
電話:045-671-2331
ファクス:045-661-2351
メールアドレス:ss-koho@city.yokohama.lg.jp
ページID:265-180-647